第24話 不穏な空気、私、翔くんに監視されてるみたいです!
週の始まり月曜日、憂鬱になる人が多いと言われるこの日、私もご多分に漏れず少しだけ暗い気持ちで学校へとやってきた。
学校そのものはどちらかと言えば好き寄りだし友達と会えるのとかは楽しみなのだけど、授業といつも私にちょっかいを掛けてくる翔くんの事を考えると頭が痛くなるのだ。
校門を抜けて教室に向かう道すがら、私はその頭痛の種、翔くんの姿を見かけてしまった。
参ったな~と思うものの、見かけてしまった以上挨拶の一つでもしてやろうかと彼に近づいて行く。
「おはよう」
私が声を掛けると、彼は何故かビクッとした様子でおずおずとこちらに目を向けると。
「よ、よう」なんて言ってきた。
なに? この反応は……? 人がせっかく挨拶してあげたっていうのに! ちょっとムッとするも、ここで喧嘩しても仕方ないので我慢することにする。
「まったく何なのよあれは……」
さっきの翔くんの態度に私が頬を膨らませつつそんな事を呟きながら席へと座るととなりの席から智子が声を掛けてくる。
「おはよ、どうしたの朝かえらく不機嫌じゃない?」
「あ、智子おはよ~。あはは、別に何でもないんだけどね」
そう言ってごまかす私に智子は「ははーん」と片目をつぶるとニヤッと笑いながら言ってくる。
「また氷川くんにちょっかい掛けられたんでしょ? 彼もなんていうか懲りないからねぇ」
そんな智子の言葉に私は「うーん」と唸る。
「ちょっと違うかな……むしろちょっかい掛けてくれた方がすっきりしたというかなんというか……」
そんな私の返答に智子は「どういうことよ?」と首を傾げる。私がさっきのやり取りについて話すと智子は少し目を細めてこんなことを言ってきた。
「みう、もしかして氷川くんを怒らせるようなことした?」
「ん? んん? うーん、心当たり無いなぁ……」
私が翔くんに対して怒る心当たりはいくらでもあるけれど、私は翔くんを怒らせるようなことをした覚えは全くない。
翔くんに対して暴言ぶつけることもあるけど、それは彼のちょっかいが先にあるからだし、それで逆切れして怒るような翔くんじゃあるまいし……。
「それに、怒ってるって言うのとは、ちょっと違うんだよね……なんて言うの? 怯えてる……?」
さっきの様子を思い出しつつ言う私だったけど、それこそあり得ないことだった。
翔くんが私に怯える理由なんて何一つないからだ、私と翔くんがお互いを怖がるなんて状態はありえないのだ! そんな私の様子を見て、智子も首を傾げる。
「気になるわね、何か良からぬことでも考えてたりするのかしら?」
智子の言葉に私は翔くんならあり得るかもしれないと思った。
私へのちょっかいに関して余念がない彼のことだから、何か新しいいたずらのアイデアを練っていたのかもしれない。
むぅ……その可能性が高い気がしてきたぞ……! 負けるもんか! 私は後ろを振り向き翔くんの席へと視線を向ける。
(え……)
ドキッと心臓が跳ね上がるのを感じた。バッチリと目が合ってしまったのだ。
そして彼は少し気まずそうに私から視線を逸らすとそのまま俯いてしまった。
(な、な、な、な……!)
私は慌てて身体を戻し前の方に目を向ける。顔が熱くなるのを感じていた。
(私が振り向いた瞬間に目が合ったってことは、つまり翔くんはずっと私の事を見てたってことだよね……? なんで? どうして? いや、そもそもなんで私の事見てるのよ!?)
そんな疑問が次々と湧いてくるも答えは出ないままだ。それどころかどんどん頭の中が混乱してくる始末だった。
翔くんの席は私の後ろ斜めの位置にある。そのまま正面を向いていれば私が振り返ったところで視線が合うわけないのだ。
極々たまに彼からの視線を感じることはあるけど、それはほんの一瞬のことですぐに逸らされてしまうのであまり気にしていなかったんだけど……。
さっきのは明らかに私の事を熱心に見つめていたような気がする……。いや、きっと気のせいだ! うん! そうに違いない!……でも……もし本当にそうだったとしたら……一体どんな理由があって……ってダメよ! 余計なこと考えちゃ!
「みう~、どうしたのぉ、後ろ向いたと思ったら急に顔を赤くしてぇ?」
「え……あ、ううん! なんでもない!」
ニヤニヤ笑いながら言ってくる智子に私は何とかそう答えた。
……ううう、智子ってば、私が翔くんと目が合って赤くなったことに気づいてわざとからかったな……! もう……! そんなやり取りをしている内に教室のドアが開き担任の先生が入ってきたことで私たちは慌てて姿勢を正すのだった。
(はぁ、まったく……朝から無意味に疲れた……)
心の中でため息を吐く私だったけど、一つだけ気になることがあった。
さっきは目が合ってしまったせいで恥ずかしさが先に立って気づかなかったけど、翔くんの私を見ていた視線……あれは、普段とはどこか違う気がした。
いつも感じる私の保護者気取り、兄貴分気取りの温かさではなく、どこか私の事を見定めるような冷たい視線に感じたのだ。
(観察……されてる? まさかね……)
私は頭を軽く振ってその考えを打ち消すことにした。だってそんな事あるわけないもんね! そもそも翔くんが私の観察をする意味がない。彼とは幼馴染なんだから今更私に何か新しい発見があるとも思えないし、仮にあったとしてもそれは既に知っていることだろうしね! よし、この話はこれで終わりにしようっと! 私はそう決めて気持ちを切り替えたのだった。
「あああ、疲れたぁ足が痛いぃぃ! なんでこんなことしなきゃならないの~!!」
校庭の片隅で頭を抱える私に智子が「まあまあ」と肩を叩きながら慰めてくれる。
さて、何故こんな状況になっているのかというと、今日の二時限目が体育だった事が原因である。
運動オンチな私は当然体育が苦手なのだけど、悪いことに今日は体力測定の日だったのだ……!
しかもシャトルランとかいう地獄の種目まであったりしてもう最悪だよ~!
「智子はいいよね、運動得意だからさ……。私なんて50メートル走も10秒台だし……」
「あはは……まあね……でも、みうだってもうちょっと頑張れば速く走れるようになるよ! あんた昔は運動に関しても天才だったらしいじゃない?」
智子の言う通り、確かに私は昔は運動に関しても天才とか言われていた。だけど、元気さあればなんとかなるようなちっちゃいころの話である! もう今となってはそんな昔の話など何の役にも立たないのだ!
「だけど、私って発育悪いんだよねぇ、ご飯もりもり食べてるのにこれってことはきっと遺伝だと思うんだけどさ、ママも背が低いし」
「それがどうしたの?」
「つまりね、そんな私だから体力がなくて体育の成績が悪いのはもう仕方ないってことなんだよ!」
「ああ、そういうことか。なるほどね」
納得したように頷く智子を見て私もうんうんと頷いたのだった。
って自分で言ってて悲しくなってくるし正義のヒーローとしてはこれではいけないとも思うけど、自分の限界を超えた能力を発揮するのなんて無理なんだからしょうがないよね……。
だけど、そんな私でもスーパーパワーを発揮できるんだから本当にSPスーツって凄いなと改めて思ったりするのだった。
そんなやりとりもありつつ、まだ続いている体力測定の様子をぼんやり眺めていた私だったけど、ふと視線を感じそちらに目を向ける。
(また……!)
まただ、翔くんと目が合ってしまった……!
朝に続いて二度目なので、少しだけ慣れたものの私の心臓はまたドキリと音を立てた。
当の翔くんは目が合った瞬間、慌てたように視線を外すと何事もなかったかのように友達の方へと歩いて行くと会話を始めた。
(もう……なによ、あれは……!)
朝から一体何なんだろう? こんなことは初めてだ。
(やっぱり、観察……されてるのかな……)
私はもう一度、ちらりと翔くんのいる方へと視線を向けた。
しかし彼は既に友人との会話に戻っていて、こちらを見てはいなかったのだった。
(まさかね……?)
そんなわけないよね、と思いながら私は授業に集中するのだった。
*
その日、オレは朝から妙な緊張感を覚えていた。その理由は自分でもよく分かっている。あの幼馴染、香取みうの事だ。
昨日からオレはずっと考えていた。果たしてみうは本当にシャイニーフェニックスなのだろうかということを……。
しかし、結論は未だに出ていない。まあそれは当然だ、シャイニーフェニックスだろうがなかろうが、オレがあれこれ考えていて分かるような事じゃない。
結局のところそれを知るのはみう本人だけなのだ。
とはいえ……
(みう本人に直接聞くってのはな……)
オレは心の中で呟く。本人に聞くのを躊躇してしまう理由はいくつかある。
大きな理由は、聞いたところでみうが素直に答えてくれるのかということだ。もし仮に正直に話してくれたとしても、それが真実とは限らない。いやむしろ嘘を言う可能性だってあるだろう。
(だけど……オレが本当に恐れているのは……)
小さくため息を吐きつつオレは考える。オレが恐れているのはみうに肯定されること、シャイニーフェニックスであることを……彼女がオレの知る香取みうではなくシャイニーフェニックスという別人に変わってしまっているということを認めてしまうことだ。
そうなったら、オレはもうみうとは今までみたいな関係でいられなくなるかもしれない。そう思うと怖いのだ。だからなかなか一歩を踏み出せないでいるのだった。
「おはよう」
突然かけられた声にドキンとオレの心臓が跳ね上がる。顔を上げてそちらを見るとみうがニコニコと笑顔を向けてきていた。
こ、こいつ……なんでこんなタイミングで……!
普段オレの方から話しかけると(オレがちょっかいばかり掛けてるせいもあり)露骨に嫌な顔をするくせに、よりによってこんな時に話しかけてくるなんて……! 心の中で文句を言いつつも、それを表に出すわけにはいかないので平静を装って返事をすることにする。
「よ、よう」
しかし、どこか怯えを含んだような声色になってしまった。そんなオレにみうは“私の方から話しかけてあげたのに何よその態度は”的な表情を浮かべるが、特にそれ以上は何も言うことなくさっさと教室に入って行ってしまった。
(ヤバイヤバイ、今のオレ明らかに挙動不審だったな……みうに変に思われたか?)
そんな事を思いながら、オレも教室へと入り自分の席へと座り斜め前に座るみうに視線を向ける。
みうは隣の席に座る彼女の親友森野智子と何やらおしゃべりをしているようである。
(……しかし、普通だ……。どこからどう見てもオレの知ってるみうそのものだ……)
そう思いつつオレはもう一度注意深く彼女を観察することにしたのだった。
その時である、オレの視線に気が付いたのかそれとも別の理由かみうがふと後ろを振り向きこちらに視線を向けてきた!
(ヤ、ヤバッ!)
オレは即座に顔を逸らし俯く。
心臓はバクバクと音を立てて鳴っていた。
冷や汗が流れるのを感じた……危なかった……もう少しでバレていたかもしれない……そう思うと背筋が凍るような思いだった。
(って、オレ何やってんだよ……慌てて視線逸らしたりして! これじゃやましい目的でみうの事を見てましたって言ってるようなもんじゃないか……! ああもう……最悪だ……絶対変に思われたよな……? いや待て……そもそもなんでオレこんなにビクビクしてんだ? なんでオレがこんな気を使わなきゃいけないんだよ……! )
心の中で悪態をつくオレだったが、これは致し方のない事なのだ。
何しろ幼馴染がいつの間にか別人にすり替わってしまっているかもしれないのだから、動揺するなと言う方が無理な話だろう。
そんなオレの気持ちなど知る由もなく、当の本人であるみうは普段と変わりのない様子で先生が来るまで森野とのおしゃべりに興じていたのだった。
(なあみう……お前はオレの知ってる、オレの幼馴染の香取みうなんだよな……? 別人……シャイニーフェニックスが擬態した姿とかじゃないんだよな……?)
心の中で問いかけてみるも、当然みうにそれが伝わることなどない。
そんなこんなで授業が始まり、そして終わった。
ハッキリ言って授業の内容なんて何一つ頭に入ってこなかった。オレの頭の中はもはやみうの事で一杯だった。
まるで恋でもしてるかのような状態だが、残念ながらこれはそんな色気のある話ではない。オレが今抱えているのはもっと深刻な問題なのだ。
何せ今のオレはその本人に対して疑心暗鬼になっているのだから。
そんなオレの耳にとある会話が聞こえてきた、それは次の授業についての話だ。
「二限目の体育、確か体力測定やるんだよねぇ。面倒臭いなあ、あたしサボっちゃおうかな~」
これだ! オレは心の中で叫び声を上げた。
体力測定……それでみうの事を見極められるんじゃなかろうか?
もしも、みうがオレの知ってるみうなら運動は超苦手、体力測定の結果は散々なものになるはずだ。
しかし、みうがシャイニーフェニックスだとするなら、絶対に凄まじい能力を発揮するはずだ。
仮に実力を隠していたとしても、少しぐらいはその片鱗が垣間見えるに違いないだろう。
(よし……二限目の体育、みうをよーく観察してみよう!)
そう決意すると、オレは早々に体操着に着替え授業の時間を待つのだった。
(う、う~ん、やっぱりみうがシャイニーフェニックスだっつーのは、オレの考え過ぎなのか……?)
体育の時間、女子と男子に別れ体力測定が始まったのだが、みうの結果を目の当たりにしたオレは思わずそんな疑念を抱いてしまっていた。
みうの測定結果は、オレの想像をはるかに上回るほど酷いものだった。
あいつが運動が苦手なのはよーく知っていたつもりだったが、それにしても酷過ぎる結果だった……
(なんか、あいつ年々酷くなってないか?)
幼稚園の頃は運動に関しても天才と呼ばれていたというのに、そのころの面影なんて一切ない。
おそらく生来の華奢な体格も関係しているのだろうが。みうの奴それを言い訳にでもして徹底的に運動から目を背けてきたんだろうなぁ……
あれでよくヒーローになりたいとか言ってるもんだ。
苦笑してしまうが、それはむしろみうらしさとも言えた。
やっぱりあいつはヒーロー・シャイニーフェニックスじゃない、ヒーローを目指しているだけの普通の女の子、それがオレのよく知る香取みうであり、この体力測定で見せたみうの姿はまさにオレの知るみうの物だった。
オレの中で少しだけみう=シャイニーフェニックスという図式が崩れていくのを感じた。
でもまだ完全に決まったわけじゃない、シャイニーフェニックスがみうになり切っているのならばそう簡単にボロを出すはずがないのだから。
最終結論を出すのはもう少し様子を見てからだな……そう思い直しオレは引き続きみうの様子を伺い続けることにしたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
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