第20話 ブーミの次なる一手
「うぐぐぐ、いだい……いだいよぉ……」
「全く、なんという情けない姿なのかしら……」
ここは地球の衛星軌道上に浮かぶギーガーク帝国要塞基地の内部の医務室。
ベッドの上でシャイニーフェニックスにやられた傷の痛みにのたうち回る俺――ギーガーク帝国第一部隊長ブーミ・ダインに医療班の<ヒィラー・ラヴィット>が呆れたような口調で言いながらその大きな赤い瞳を俺に向ける。
頭の上では大きな耳が揺れている。
こいつの見た目は一言で言うなら二足歩行する巨大なウサギ、アニマノイドタイプの宇宙人である。
ギーガーク帝国は多くの惑星を支配下に置いており、こいつはその支配下の惑星の一つの出身者なのである。
俺はこいつを色んな意味で苦手にしていた、こんな見た目だがこいつは俺より年上の女らしくどこか色を含んだような喋り方をしてくる。
ヒューマイノイドタイプである俺はアニマノイドタイプであるこいつに変な感情を抱くことはないのだが、こいつは自分の『色気』はヒューマイノイドタイプにも通用すると本気で信じている節があるのだ。
ちなみに服装も胸元が大きく開いた白衣姿なのだが、そこから覗いているのは真っ白い毛に覆われた巨大な膨らみである。
俺にはこんなものはただの毛の生えたボールにしか見えんのだ!
アニマノイドタイプの連中には人気があるようだが、その感覚で俺を『誘惑』しないでもらいたいものだな……全く!
そして、それだけじゃなく、こいつは俺の事をガキかのように扱ってくる。こいつより年下ではあるが俺だってもういい年の大人だっていうのによ! 本当に気に食わない奴だ。
そんな事もあり、出来るだけ関わり合いになりたくないというのに、治療のために訪れた医務室に待機していたのがよりによってコイツだったのであった。
ああ、もうっ、なんだってんだよ!? 俺のイライラ度ゲージは既にMAX状態だっつーの!!
「そんなこと言ったって……いてぇもんは痛いんだよ!」
俺は痛みに耐えながらそう反論する……。シャイニーフェニックスの前でカッコ悪いところを見せるのは嫌だったので余裕ぶって撤退した俺だったが、あいつの『ヴォルケーノクラッシュ』だの『シャイニーファイナルエクスプロージョン』だのの必殺技は本当にヤバかった、もう少しで死んでたところだ。
「まあ、痛いで済んでるあたりは流石部隊長ではあるんだけどね。全身重度の火傷で普通ならすでに死んでいるレベルよ? それでもまだ生きているんだから大したもんだわ」
ヒィラーは手に持ったデバイスに何やら入力しながら俺にそう言ってくる。
「だけど一応あなたも栄光あるギーガーク帝国の一員、部隊長を任されるほどの男でしょう? 子供みたいにピーピー泣き喚くなんてみっともないわよ?」
「うるさいな、分かってるよ。それより早く治療してくれ」
それこそ子供のように口を尖らす俺に対して、ヒィラーは相変わらず呆れたような口調で言うのだった。
「はいはい、でも今回は少し時間が掛かるわよ、何しろあまりにも重症だから……」
何でもいいから早くして欲しい。しかしここで余計なことを言えば話が進まない気がするので、俺は黙ってうなずいた。
彼女はその口を歪ませると(多分微笑んだんだろうが、このウサギ顔でやられても不気味なだけだ)デバイスを操作し始めるのだった。
「ところで、あなたにそれだけの重傷を負わせたシャイニーフェニックスという子だけど、そんなに強いの?」
ベッドの上から降り注がれる暖かい光(この光には対象の治癒能力を高めて傷の治りを促進する効果があるらしい……俺はよく知らないが)を浴びながら余りの気持ちよさにうっとりとした気分になっていた俺に、不意にそんなことを聞いてくるヒィラー。
「……ああ、かなりな……だが、真に恐るべきはその成長速度……」
俺の脳裏にシャイニーフェニックスとの戦いの光景が浮かぶ。
初めて彼女と遭遇したあの日、オドモンスターを倒された事には驚いたものの俺が本気で戦えば負けることはないと思っていた。
事実、次に対面――直接対決した時、ゲームキングとの戦いで消耗させた後ではあったもののもう少しで勝利できるところまで追いつめることが出来た。
あの時ヤーバン様が邪魔しなければなぁ……俺は今だに根に持ってるぞ! もちろん上司だから逆らえないんだけどさ……!
それはともかくとして、彼女の実力が俺に大きく劣っていたというのは間違いない事実だったはずなのだ。
それがあれからさほど時間は経っていないというのに先ほどの戦いはどうだ、俺は本気で戦ったというのに彼女はそれを凌ぎきったばかりか俺を圧倒したのだ。
それどころか、もう少しで殺されてしまうところだった。
一つだけ、俺は彼女を俺の嫁にすべく殺さないよう気を使っていたという部分はあるが、それを考えても彼女の実力は俺に匹敵していたと言っていいだろう。
「へぇ、なるほど、興味深いわねぇ。その子倒したら私にくれない? 解剖してみたいから」
俺の話を聞いたヒィラーはそう言ってくる。その大きな瞳はキラキラと輝いていてまるで新しい玩具を与えられた子供のようだった……いや、実際彼女にとってみればそうなのかもしれないが。
まあ確かにあの強さなら彼女としても興味を持つのも分かる気がするけどな……だが。
「誰がやるか! あれは俺のもんだ!!」
物騒な事をうっとりとした顔で語るウサギ顔を横目でキッと睨みつけながらそう言い放つ俺だったが、当の彼女はどこ吹く風といった様子で全く気にした様子もなくボソリと呟く。
「負けたくせに……」
その言葉に俺は思わずカッとなる。そしてそのままベッドから飛び降りると彼女の前に仁王立ちして叫んだのだった。
「負けてねぇ! 俺は戦略的撤退をしたんだ!」
そうだ、俺は決して負けてはいない……! 事実俺は死んでないんだからな……っ!! 死んでさえいなけりゃこうやって何度でも治療してもらえる。
あいつが不死鳥なら俺もまた不死鳥よ! いいじゃねえか、あいつとお揃いだぜ? そう考えるとなんかテンション上がってきたぜ……ッ!!
「あいつに勝って自分のモノにするまで俺は何度でも立ち上がるぞ……!」
そう宣言する俺に対してヒィラーは気持ちの悪いものを見るような目を向けてくる。
「あなたみたいな奴の事を何て言うか知ってる? ストーカーって言うのよ?」
「ハッ、どっちにしろシャイニーフェニックスの打倒は我らの優先事項! そこに多少の個人的感情があったとしても許されるだろう!」
俺がそう言うと彼女はやれやれといった様子で肩を竦めるのだった。
「まあその意気込みだけは褒めてあげるわ。欲しいモノは力づくで手に入れる。まさに我らのやり方ね」
そう言ってニヤリと笑う彼女だったが次の瞬間には真面目な顔になってこう続ける。
「ただ、あなたさっき言ったわよね。真に恐るべきは成長速度だって。なら、戦い続けることでシャイニーフェニックスの成長をより促してしまいあなたでは手も足も出せない存在へと進化してしまうかもしれないわよ……?」
その言葉に思わずドキリとした俺だったが、ヒィラーは構わず続ける。
「聞いた話ではシャイニーフェニックスはまだ幼いと言ってもいいほどの少女とか……つまり成長の余地は十分すぎるほど残されているのに対してあなたはどうかしらね? それに、あなた努力とかそういうの嫌いでしょう? 挑めば挑むほど彼女の力を上げるための踏み台にされるだけだと思うけど……」
ヒィラーの言葉に俺は何も言い返せなかった。確かに彼女の言う通りだと思ったのだ。
しかし俺はブーミ・ダイン! 踏み台なんかじゃ終わらないぜ……! 必ずシャイニーフェニックスを倒して俺の前に跪かせてやる……!!
「必殺作戦はいくつも用意してある! 現に今もその一つが進行中なのだ!!」
そう叫ぶ俺にヒィラーは興味深げに目を細める。
「へぇ、どんな作戦なの?」
半ば馬鹿にしたような口調でそう言うヒィラー。くそっ、この女俺の事をおつむの弱い力押しだけのバカだと思ってやがる……舐めんなよ、確かに俺は昔から勉強は苦手だ……
だが、俺だってギーガーク帝国の部隊長にまで上り詰めた男だぞ? そんな俺が考え抜いた秘策……それはこれだ!!
「シャイニーフェニックスの正体を探し出して変身前を狙う! そのために部下に地球を探らせていたのだ!」
そう、これこそが俺の作戦よ! シャイニーフェニックスの強さは変身によるものだ、つまり変身前なら間違いなく普通に戦うよりも楽に倒せるはずなのだ!
相手が弱いときに叩くのは当然のことだ! しかし俺の自信満々な態度とは対照的にヒィラーは瞳を閉じて何やら考え込んだ後、ゆっくりと瞼を開けて言ったのだった。
「果たしてそう上手くいくのかしらね?」
「俺の作戦に文句を付けるつもりか!?」
完璧な作戦を否定され思わず声を荒げてしまった俺だったが、そんな俺を宥めるように彼女は言う。
「あなたの作戦には懸念点があるわ。まずそう簡単にシャイニーフェニックスの変身者が見つかるとは思えないということ」
「はは、俺がその程度考えてないとでも思ってたのか? 確かに簡単には行かないだろうが、奴の出現パターンを分析し奴の潜伏場所に関してのアタリはすでに付けてあるぜ!」
俺は自信たっぷりにそう言ってみせる。これはハッタリではない、シャイニーフェニックスの変身者が紗印市にいることはほぼ間違いないのだ! 徹底的に調べ上げれば完全特定も時間の問題だろう!
「なるほど、それでも簡単に見つかるとは思えないけど、その点に関してはこれ以上突っ込まないであげるわ。だけどもう一つ懸念材料があるのよ」
「ほう、なんだそれは?」
そう聞き返す俺にヒィラーは幾分真剣な口調でこう返してきた。
「シャイニーフェニックスの変身者は変身前でも強いんじゃないかという事よ」
それは俺にとって意外な言葉だった……あの子が変身前でも強い可能性など考えてもいなかったからだ。だが言われてみれば確かにその可能性もあるのかもしれないな……
そんな俺の内心を見透かしたようにヒィラーは言葉を続ける。
「シャイニーフェニックスがS.P.Oの宇宙戦士である以上変身にはSPチェンジャーを使い、能力強化はSPスーツを纏うことによって行われるわ。あれは纏うものの精神力を力へと変えるものだけれど、私たちギーガーク帝国が採用していないのは何故だか分かるかしら? 」
そう言えば考えたことはなかったな。S.P.Oの宇宙戦士があれで強化されているのならば、我らがそれを取り入れないのは何故なのだろう……?
「さあね」俺は肩をすくめてみせる。するとヒィラーは小さくため息をついてからこう言った。
「答えは単純よ。SPスーツによる能力強化幅などたかが知れているから。あんなものを使うぐらいなら最初から強力な装備を使った方が手っ取り早いのよ」
なるほどそういう事か……つまりそれだけS.P.Oの強化技術は低いって事だな!
ん? だがそうなると疑問が出て来るぞ。
「だが、SPスーツを纏った宇宙戦士はとてつもない強さを発揮しているぞ、どうしてなんだ?」
「それは正確には分からないわね。奴らだけが知るSPスーツの能力を発揮できる秘訣でもあるのか……。ただ基本的には本人のスペックに依存した力しか出せないはずよ」
「そうなのか……」
俺は難しい顔で呻く。
しかし、この女の言いたいことが分かって来たぞ。
「つまり、シャイニーフェニックスは変身前でも無茶苦茶強い可能性があるって事か?」
「ええ、というよりほぼ間違いないと思うわ。素では運動も勉強も苦手なドジっ子少女がその精神力だけであなたに匹敵するほどの力を得られるなんてことあるわけ無いでしょ? もしそうだとしたらそれはもう魔法の領域だわ!」
「そうだな……」
俺は苦虫を噛みつぶしたような表情でそう言った。確かにその通りだと思うし、その可能性は高いだろうとも思う。だが、そうなると困ったことになる、シャイニーフェニックスの変身者を見つけ出したとしても俺が勝てる可能性が低くなるということだ……くぅぅぅ、変身前の弱い時を狙って楽勝! という俺の計画が……
「まあ、とはいえあなたの作戦は間違ってはいないと思うわよ。多少とはいえ変身後より変身前の方が弱いのは確実だし、正体を暴くことが出来ればシャイニーフェニックスの行動はかなり制限できるはずだしね」
肩を落とした俺の事を気にしてか、ヒィラーはフォローするように言ってくる。
くそ、こいつめ、人の作戦にダメ出しして落ち込ませておいて後からフォローするとかまるでマッチポンプじゃないかよ……!
「お前は俺をへこませたいのか慰めたいのかどっちなんだよ!」
「あら、決まってるわ。どっちもよ、あなたすぐ落ち込むんだもの面白いわ♪」
そう言ってクスクスと笑うヒィラーを見て俺は思うのだった……この女いつか絶対泣かせてやるからな!!
「ま、それはともかくとしていい加減ベッドの上に戻りなさいな。あなたまだ傷が完全に治ってないんだから」
あっ、そう言えば治療中なのをすっかり忘れてたぜ……というか思い出したらまた痛みがぶり返してきた……
俺はそそくさとベッドへと戻るとそのまま仰向けに寝転がった。
傷はじきに治るだろう……しかし、精神力の回復には時間かかりそうだなぁ。ヒィラーのせいで余計疲れたし……。
まあいい、とにかく今は眠るとしよう。目が覚めた時シャイニーフェニックスの変身者が判明していること、そして夢の中で彼女に会えることを祈りながら、俺は静かに目を閉じた……
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