第17話 霊感少女、西条ゆうなちゃんとこっくりさんです!
「ない! ない! ない!! どうして、どうしてないのぉぉぉ!?」
静かなトイレの中に私の絶叫にも近い戸惑いの声が響き渡る。
校舎内に入った私たちは、さっそく私がいつも使っている1年B組(私のクラスね)近くのトイレにやってきたのだけど、いくら探してもここに置き忘れたはずのSPチェンジャーが見つからなかった。
おかしい、置き忘れてるとしたらここしかありえないはずなのに……。
念のために個室の一つ一つも開けて確認してみるけど同じ、どっか片隅に落ちてるんじゃないかとほとんど床に這いつくばる勢いで床を探してみるんだけどやっぱり見つからない……。
もうっ、なんで? なんで無いのよ!?
「うーん、誰かが持って行っちゃったのかしらねぇ」
頭を抱える私に、智子が顎に指を当てながら言う。
えええっ!? それは困る! SPチェンジャーは私以外の人にとってはちょっと変わった時計でしかないから、悪用される心配はないけど、自分の大切なものが誰かの手の中にあると考えるだけで泣きそうな気分になっちゃうよ! どうしよう、もしこのまま見つからなくて、持ち主である私の元に返ってこなかったら……。
そんなの嫌だよぉ……! 涙目になる私に智子は慌てたように言ってくる。
「持ってったって言っても、ネコババしたとは限らないわよ。もしかしたら、落し物として職員室に届けられているかもしれないわ」
そ、そっかぁ……そうだよね、盗まれたって決めつけるのは早いよね!
そうだ、それにこの秋桜学園は基本的に優等生が多い学校だから、忘れ物とか落とし物をしたらすぐに届けてくれるはずだもんね! うんっ、きっと大丈夫だよね!! 私は自分を元気付けるように言うのだった。
「じゃあ、職員室に行ってみよう!」
そう言って駆けだそうとする私に智子は言った――少し顔を赤らめながら――
「なんかさ……トイレにいたら、あたし、もよおしてきちゃったかも……」
「もう、智子ぉ~」
まあ、気持ちはわかるけどね……。
「ごめんごめん、ともかく、あたししてから行くから、あんた先に行ってて」
申し訳なさそうに言う智子の言葉に頷き、私は1人でトイレから出て行くのだった。
職員室に向かう廊下を歩きながら、私の心は不安でいっぱいだった。
もしも、職員室に行ってもSPチェンジャーが落し物として届けられてなかったらどうしよう……。
SPチェンジャーを持って行った誰かが、届けずにそのまま自分の物にしたらどうしよう……。
ううん、それならまだいいかも知れない、最悪なのはSPチェンジャーがゴミとして捨てられちゃうことだ……。
そんなことを考えていたらますます悲しくなってきちゃった……。
もうっ! なんでSPチェンジャー無くしちゃうのよ!? 私のバカ!! 心の中で自分を叱りながらも、それでも一縷の望みをかけて職員室へと急ぐ……。
――ふと、私の前方、視界の先にあるものが目に入った。
(な、なに……あれ……?)
それは真っ黒い人影だった、頭の先からつま先までを覆う黒いローブのようなものを纏った小柄(と行っても私と同じくらいの背丈)な人影。
まるで、中世の黒魔術師か死神を彷彿させるような姿だった。
その人影がゆっくりとこちらに近づいてくる……! 私は思わずその場に立ち竦んでしまうのだった……。
なんでこんなところにこんな怪しげなローブ姿がいるのぉ……!
まさか……これって、所謂、お、お化け!? いやいやいやいや! そんなわけないよねっ!! お、お化けなんてこの世に存在するわけがないよ……!! でも、この学校って結構歴史あるし、もしかしたら本当に幽霊とか出るのかも!? あうぅ~怖いよぉ~! 私が恐怖のあまりその場から動けずにいると、不意に背後から声がかかる。
「あれ~みう、あんたまだ職員室に行ってないの?」
智子! もうトイレから出てきたんだ、早いね。なんて呑気に考えてる場合じゃない!
このままじゃ智子がこの怪しい人影に鉢合わせしちゃうかも!
私は自分の身よりも智子がこいつに何かされることを心配していたのだった。
その時である――
「あれ、ゆうなじゃない。あんたこんなところで何してんの?」
智子が、極めて呑気かつ親し気にその人影に話しかけたのだ……!
へ? ど、どういうこと!? なんでこんな怪しげな人に平然と話しかけられるのっ!? もしかして……知り合い……? いやいやいやいや!! そんなわけないよねっ!? だってこんな見るからに不審者だもん……!! 私がそんなことを考えている間にも二人の会話は進んでいく。
「ああ、智子さん。いえ、何、いつものあれですよ、あれ。恒例のって奴です」
「ああ、なるほど、それでそんな格好のわけね、今のあんたどっからどう見ても怪しい人だよ」
「まあ、形から入るのが私の流儀ですので」
えええっ!? なにこれ?? なんか普通に会話してるし! フードの中から聞こえてくる声は明らかに私たちと同じ年くらいの可愛らしい女の子の声だし!
「ちょっと待って!」
思わず声を上げた私に智子が、そして黒ローブ姿のその子がこちらに顔を向ける。
私はローブ姿を指差しながら(ちょっと失礼?)、尋ねる。
「と、智子、この子って何者!? というか知り合いなの!?」
すると、智子は少し驚いたように目を見開く、そしてやや間を開けて「ああ、そっか、確かにあんたが知らないのは無理ないかもね」と言ったのだった。
ど、どういうことぉ? 困惑し、首を傾げる私に智子は言葉を続ける。
「この子は<西条 ゆうな>よ、名前ぐらいは聞いたことない? あたしやあんたとはちょっとした繋がりのある子だし思い出せば出て来るんじゃないかしら」
西条……ゆうな……。
うーん、確かにどこかで聞いたことがあるようなないような……。
なんだろう? 名前聞いただけでぞくっと来るというか、あまりお近づきになりたくない相手だって感じるというか……。
おかしいな、私人に対してそんな感情を抱くことなんてほとんどないのに……。
私や智子とちょっとした繋がりがあるって言うのも意味がわからない……。
私と智子は親友だけど、趣味とか好みとかは結構違っていて私と智子の繋がりと言えば学園内で……。
「あっ!」
そこまで考えてようやく私は思い出した、西条ゆうな、確かにその名前を私は知っている。
というかこの学園内ではかなりの有名人の一人だ!
――秋桜学園10大変人という称号がある、誰が呼んだか知らないけれど、密やかに与えられるその称号は限られた人間にしか与えられず、変人と付いてるにも関わらずある意味名誉称号でもある。
私と智子には、そんな10大変人に列せられているという共通点があるのだ。
『超ヒーローオタク』香取みう、『ゲームクイーン』森野智子。
そんな二つ名と共に私たちの名前は(一部では)有名なのである。
智子と親友になったのはただの偶然で、別に10大変人同士に面識があるわけじゃないけど、私は自分が属している(属させられている)その括りには興味があったので、一度メンバーを調べてみたことがあった。
その中でも、私が絶対に仲良くなれないだろうという人物が一人だけいたのだ。
性格的に問題があるから、というわけじゃない。その子は私が大の苦手なとある物に対する造詣が深く、たとえどんないい子だろうと私とは絶対に合わないだろうと確信を持って言える程だったからだ……。
『ゴーストガール』それが彼女――西条ゆうなに付けられた二つ名である。そう、嘘か真か、彼女は霊感というものを持っていて、幽霊が見えるらしいのだ……!
それだけじゃなくて、放課後クラスでこっくりさんに興じているとか、学園七不思議の研究にいそしんでるとか、とにかくオカルト関係の話題には事欠かない人物なのだ!
そんな子が、明らかに作り話っぽい怪談ですら聞くのが嫌で、泣き叫んで暴れまわるような私と合うわけがない、だから一生接点なんてないだろうと思っていたのだけれど……。
思い出した瞬間私の肌に鳥肌が立ち、ぶるっと震えた。
「思い当たったようね」
得意げに腕を組む智子。そっか、智子と西条さんは知り合い、というか友達だったんだ……。
考えてみればオカルト好き、かつ10大変人仲間の智子と西条さんが仲がいいのは当然の話だ。
たまに智子が一緒に遊ぶという『別のクラスのオカルト好きの友達』というのが、この西条さんのことだったのだろう。
そんな事を思っていると、その西条さんがすっと音もなく私に近寄り、被っていたフードを取り払う。
綺麗な黒髪をまっすぐ背中まで伸ばした、ハッとするほど可愛らしい美少女の顔がそこにはあった。
「香取みうさんですね。お噂は聞き及んでおりますし、智子さんからもよくあなたの話を聞かされますよ」
「あ、ど、どうも」
戸惑いながらも、私はそう返す。
「私は西条ゆうな、A組なので、香取さんとはクラスが違いますが、よろしければ仲良くしてくださると嬉しいです」
そう言ってにっこりと微笑む西条さんはとても可愛くて……思わず見とれてしまうほどだった。
(可愛い子だし、こうして接する限り性格もいいみたい。仲良くしたいけど……)
ああ、この子が霊感少女でさえなければなぁ……。超怖がりの私と西条さんじゃ、あまりにも相性が悪いよ!
「う、うん……。私お化けとか苦手だから、あんまり遊んだりはできないかもだけど……。こちらこそよろしく」
西条さんも無理やり私の前でオカルト関係の話とかするようなことはしないだろうし、学校で話すぐらいだったら大丈夫だろうと思ってそう答えると、彼女は嬉しそうに微笑んだのだった。
「ところで、智子さんは何をやってるのですか? 見たところ私服のようですけど、智子さんは普段は制服でしょう、一度家に帰ってからまた学校までやって来たのですか?」
西条さんは私から視線を外し、智子に目を向けるとそう尋ねる。
「ああ、このみうが学校に忘れ物してさ。取りに行くって言うから付き合ってんのよ」
「なるほど……」
そんな2人の会話を聞きながら、私は思い出す。
そうだ! SPチェンジャー!! 西条さんと遭遇したせいですっかり頭から飛んでたよ。
私は職員室に忘れ物として届けられてないかどうか確認しに行くところだったんだ!!
私はバッと顔を上げると、西条さんと智子に片手を上げて言う。
「ごめん、私行くよ、それじゃ」
駆けだす私、智子は西条さんに、「そんなわけで、あたしも行くわ」と告げると、駆け出しあたしの隣に並ぶ。
少しだけ気になり、ちらっと後ろを振り返ると、西条さんはきょとんとした顔をしていたが、小さく手を振ってくれたのだった。
「せんせーい! 落とし物が届いてませんか!! 私がいつも身に着けてる腕時計なんですけど!!」
職員室に入るなり、大声で叫ぶ私に、部屋の中で作業をしていた先生たちの視線が集中するのを感じたけど、私は構わず続けた。
「どうした香取慌てて……」
そう言いながら、のっそりと出てきたのは、私の担任の先生だった。
“くたびれた中年”を具現化したような先生だけど、優しくて私はこの先生のことは好きだった。
私は彼のそばに歩み寄ると、これまでの経緯を改めて説明する。
「……というわけで、職員室に落し物として届けられてるんじゃないかって思ってきたんですけど、どうでしたか?」
私が尋ねると、先生は少し考え込んだ後、首を横に振ったのだった。
「いや……、そんな話は聞いていないな。まあ、私が知らんだけかもしれんが……」とそこで言葉を切ると、先生は職員室の片隅を指差す。
「落し物はあそこにある箱に集められているから、あれに入ってる可能性もあるが、時計はなぁ……」
その言葉に私は「そうですか」と呟くように答え、とりあえずその落とし物箱を調べるべく近づいて行く。
智子も後ろからついて来るけど、遠目に見ただけでもわかってしまった。
どう見ても、箱の中にはSPチェンジャーは入っていない……。入ってるのは消しゴムとか鉛筆とかそんなものばかりだ。
一応近づき手で掻き分けて探してみたけれど、やっぱり見つからないのだった。
「職員室にもないとなると、誰かが持って行ってしまった可能性があるな。故意かうっかりかはわからんが、持っているのは生徒の可能性が高いな、今日はもう帰ってしまった可能性が高いが、明日に校内放送で持っている者がいたら名乗り出るよう呼び掛けてやろうか?」
肩を落とす私に、先生はそう声を掛けてくれた。
「ありがとうございます……。どうしても見つからなかったら明日お願いします」
私はそう先生に返すと、職員室を後にした……。
「智子、どうしよう……。うっかりで持って帰っちゃったならまだいいよ? だけど、自分の物にするために誰にも言わずに持ち帰ったんだとしたら……」
私は言葉を続けることが出来なかった。
――もし、持ち帰った誰かが自分の物にしたいと思ったとしたら……校内放送で呼びかけても、名乗り出てくる可能性は少ないだろう。
うう、なんでぇ、なんでこんな必死に探してるのに見つからないのぉ!?
私は思わず泣きそうになる、その時だった、智子がふと何かを思いついたように口を開く。
「一つ、いい手があるかも知んない……」
そう言ってニヤッと笑う智子の表情に、私は少しの期待と少しの不安を感じていたのだった……。
「エンジェル様エンジェル様、いらっしゃいましたらお答えください」
「お答えください」
「お、お答えください……」
学校でSPチェンジャーを探し始めてからもう結構な時間が経つ。
日が傾き、夕日が差し込む静かな教室の中に私たちの声が響く……。
(うう……なんでこんなことに……)
私は恐怖で叫び出したいのを必死に抑えながら心の中で呟いた……。
今私たちは1年A組の教室の中で、一つの机を囲むように座り、その中心にある『はい』『いいえ』『鳥居』『あ』から『ん』までの文字と1~0までの数字が書かれた紙の上に置かれた10円玉にそれぞれの指を乗せていた。
私の横に座るのは智子、そして、正面に座るのは、あの西条ゆうなさんであった。
智子が思いついた『いい手』、それは私にとっては驚くべき、そして恐怖を感じるものだったのだ!
そう、智子はこう言いだしたのだ、「ゆうなのこっくりさんならきっと見つかるよ!」と。
こっくりさん――オカルトには詳しくない私でもその存在は知っている。
浮遊霊を呼び寄せ、紙の上に書いた文字を指示させることで知りたいことを聞くことが出来るという降霊術の一種……だったはず……だよね?
本当は幽霊なんかの仕業じゃなくて、無意識で動かしてるだけだとか、参加者がいたずらしただけだとかいろんな説があるけど、ともかく怖がりの私にとっては恐怖の儀式であることに変わりはない……うう、SPチェンジャーを見つけるためとはいえなんでこんなことを……うぅ……。
私は泣きそうになりながらも必死に涙を堪えていたのだった……。
その時である、私は全く力を入れていないのに、紙の上の10円玉がすうっと動き、紙に書かれた『はい』の文字の上で止まる。
(いやああああああ、本当に動いたぁ!)
そんな恐怖を感じながらも私は指を動かすことが出来ずにいた……。
(ど、どうしよう!? なんで勝手に動くのぉ!)
私がパニックになりかけている中、西条さんは静かな声で言う。
「どうやらおいで下さったみたいですね」
うう、凄い……流石オカルトマニアのゴーストガール、よくこの状況で平然としてられると感心しちゃう。
「さて、それではさっそく質問してみましょう」
西条さんは私の方に顔を向けて言ってくる、わ、私が聞けって言うの……? こ、怖い……。
しかし、私が口を開くよりも早く、智子がこんなことを言う。
「ちょっと待って。本命の質問の前にまずは専門家のゆうなが軽く質問して見せてよ、みうもいきなりだと怖いでしょ?」
そう言ってくれる智子の言葉に私は思わず泣きそうになってしまう、やっぱり持つべきものは友達だよねぇ……!
(ありがとう! 智子!)
そんな思いで私は頷くのだった。
「そうですね、ではまず降りてきたこっくりさんについて聞いてみましょうか」
西条さんは、再び静かに言うと質問を飛ばす。
「あなたは人間ですか?」
『はい』
私は手に一切力は入れていない、なのに勝手に動く指……まるで自分の意思とは無関係に指を動かされているような感覚……恐怖で頭がおかしくなりそうだった……でも……西条さんが次に発した言葉に私は目を丸くする。
「YouTuber?」
『いいえ』
へ? これって……。
「男性?」
『いいえ』
「東方projectに関係ある?」
『いいえ』
この質問パターンって、やっぱり……。
「って、ちょっと待てーー!!」
智子が突然大声を上げる、そして、西条さんに呆れたような視線を向けた。
「あんたは、どっかのランプの魔人か!? 何よその質問は!?」
しかし、智子の言葉に西条さんは悪びれる様子もなくこう返す。
「いえ……香取さんの緊張を取り除いてあげたいと思いまして……。ちょっとしたお茶目のつもりだったのですが……」
そう言って苦笑する西条さんを見て私は思わず苦笑いを浮かべてしまうのだった……。
(うう……でも確かにちょっと落ち着いたかも……ありがとう! 西条さん!!)
そんなやり取りをしている間、10円玉は所在なさげにクルクルと円を描くように動いていた……。
だけど、西条さんのお茶目に付き合ってくれるなんて、もしこれが本物の幽霊だとするなら、幽霊って言うのも案外いい人(?)なのかもしれないなぁなんてことを思いながら、私は紙の上を見つめるのであった……。
「さて、余興はここまでにしましょう。では香取さん、そろそろ本当に聞きたい質問をしてみて下さい」
再び静かな口調で言う西条さんに私はハッとなり姿勢を正す。
よし……怖いけど、聞いてみよう……!
「わ、私の失くした物は、どこにありますか……?」
恐る恐る私が尋ねると、10円玉は静かに動き出した……。
『し』
『よ』
『う』
そして、次の文字へと動き出そうとした瞬間!
「こらー! お前ら何をやってるんだ!! こっくりさんは禁止だと言ってるだろ!!」
そんな怒鳴り声と共に突然教室のドアが勢いよく開かれて一人の先生が入ってきたのだった……。
「おや、先生。どうしたのですか、私たちがこっくりさんをしている? まさか、そんなわけありませんよ、いくら私がオカルト好きでも禁止されてるものをするわけがありません」
西条さんは動じることなく、しれっと言ってのける。
「なに……?」
先生は、訝し気な表情を浮かべつつ、こちらに近づいてきて机の上を覗き込むが、西条さんが素早く紙と10円玉を片付け机の中に隠したので、そこには何もなかった。
この手慣れた感じ、いつもこうやって先生をやり過ごしているんだろうなぁということが容易に想像できた。
「む、むぅ。確かに……。まあいい、それより、いつまでも校内に残ってないで、さっさと帰るんだぞ」
先生は、西条さんを『現行犯逮捕』出来なかったことに不満そうな表情を浮かべたものの、そう言って教室から出て行ったのだった……。
(ふぅ……助かった……のかな……?)
私は安堵の溜息をつく。
「ねえ、ゆうな……こっくりさんって途中で中断するとまずいんじゃないの……?」
しかし、恐る恐る言う智子の言葉で私は震え上がった。
そう言えば、そんな話を聞いたことがあるような……!
だけど、西条さんは、涼しい顔で智子に視線を向けると言う。
「問題ありませんよ。たとえ呪われても私がどうにか出来ますから。リスクがあるようなことに智子さんや香取さんを付き合わせたりはしませんって」
そう言って微笑む西条さんに私と智子は顔を見合わせると苦笑いを浮かべるしかなかったのだった……。
「さて、それはともかく、釘を刺されてしまった以上もう続けることは出来ませんね」
「そっか……。もう少しで答えを教えてもらえそうだったのになぁ……」
西条さんの言葉に肩を落とす私だったけど、智子が肩にポンと手を置く。
「けど、途中までとはいえ言葉が出来たじゃない、『し』『よ』『う』でしょ。あたしの推測するところ、これは『しょう』、商店街と答えようとしたんじゃないかと睨んでるわ!」
自信満々で言う智子。
「それはいい線かもしれませんね。もしかしたら、香取さんの時計を持ち去った『犯人』が、商店街にいるのかも……」
西条さんも、智子の推理に乗っかった。
しょうで商店街……。推理としてはありかもしれないけど、どうにもしっくりこないというかなんというか……。
ああ、せめて後一文字わかってから来てくれればよかったのに、あの先生ってば気が利かないんだから……。
理不尽な怒りを先生にぶつけつつも、私は椅子から立ち上がった。
「ともかく、私商店街に行ってみる。智子の推理が正解か間違ってるのか行ってみないことには何もわからないもん」
私が言うと、智子は、「そうね」と頷いた。
んんん、どうも智子はまだ付いてくるつもりみたい、いや別にありがたいことだしいいんだけどね。
私にとってSPチェンジャーが見つかるか見つからないかは死活問題なわけで、手伝ってくれる人がいるならそれに越したことはないんだけども……。
でもやっぱりちょっと申し訳ないなぁって気持ちもあるわけで……。
まあ、智子にとってはいい暇つぶし的感覚なんだろうけど……。
「私もお手伝いして差し上げたいところですが、今日は所用があるのでここで失礼します。こっくりさんの後始末もしておかなければいけませんし……」
西条さんはそう言って微笑む。
私は、彼女に向き直り、改めてお礼の言葉を述べる。
「ありがとう、西条さん。あなたのおかげで貴重な体験ができたし、もしかしたら探し物見つかるかもしれないよ」
「いえいえ、困ったときはお互いさまという奴です」
「これからも仲良くしてね……ゆうなちゃん!」
私の言葉に少しだけ目を見開くと、ゆうなちゃんは、「はい、みうさん」と返してくれたのだった……。
ゆうなちゃんに別れを告げて、私と智子は教室を後にする。
そして、校舎から出てきたところで、とある人物と出くわした。
「んげっ……」
思わずそんな声を上げてしまう私である。
そう、そこにいたのは誰あろう、あの私を苛立たせる幼馴染であったのだ……。
「『んげ』とはなんだ『んげ』とは、あからさまに嫌そうな声を上げやがって……」
そう言って、翔くんはジト目でこちらを見てくる……。
だって仕方ないじゃん……今は特に彼とは会いたくなかったんだもん……。
実は、校内でのSPチェンジャー探しの最中にも、私の頭の中ではさっき見た光景――翔くんがファン(?)の女の子たちにヘラヘラと笑顔を向けていたシーン――が引っかかっていたのだ……。
そして今こうして顔を合わせてしまったことで、そのモヤモヤとした気持ちがより一層強くなってしまったというわけなのである……。
「嫌な顔して欲しくなかったら、意地悪やめればぁ?」
そんな私の言葉に、彼はやれやれといった様子で首を振るのだった……。
「ったく、相変わらずだなお前は……まあいいけど。それよりどうした? まさか、オレの部活が終わるのを待ってたとか? ははは、あんなこと言っても、やっぱりオレと一緒に帰りたかったって事か。いやぁ、モテる男は辛いねぇ……」
そう言ってニヤニヤと笑う彼を見て、私は思わずムッとする。
「んなわけないでしょ! 用事があっただけよ!!」
ムカツク、本当にムカツク……!
思わず怒鳴り返す私に、翔くんは「用事?」と首を傾げる。怒鳴られたことは全く気にしていない様子である……。
くそぅ、こいつめ……!! 内心で歯噛みするも、私は一旦冷静になると、静かな口調で言う。
「翔くんには関係ないよ。ともかく、その関係で私これから商店街に行かなきゃならないの。だから翔くんに付き合ってる場合じゃないの、じゃあね」
そう言って手を振りその場を後にしようとする私だったけど、「待てよ」と翔くんに呼び止められる。
「何!?」
「少し待っててくれよ、部活ももう終わったしオレも帰るとこだから、お前の用事とやらに付き合ってやるよ」
はあああっ!? 冗談じゃないわよ!! 今のこの苛ついた気分のままで翔くんなんかといたくないっての!
「いいよ、翔くん待ってる時間がもったいないし! 智子、行こ!」
翔くんと私のやり取りに口を挟めないままぽかんとしている智子に声を掛けると、私は再び歩き出す。
「いや、ちょっと待てって、オレお前に渡さ……」
「おーい、氷川何やってんだ、後片付け手伝えよ」
再び私を呼び止めようとする翔くんを、野球部の仲間らしき少年が呼ぶ声が聞こえてくる……。
「え、ああ。ああっ、もう!」
翔くんのそんな言葉を聞きながら、私は学校を後にするのだった……。
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