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シャイニーフェニックス~落ちこぼれ少女のヒーロー奮闘記~  作者: 影野龍太郎
第5章【変身不可能!? 消えたSPチャンジャー!!】

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第16話 最悪! SPチェンジャー無くしました!!

「ねえねえ、みうちゃん、見たわよ昨日の放課後」

 その日、登校してきた私が席に着くと、一人の女の子が話しかけてきた。

 その子の名前は<中川(なかがわ) 好美(よしみ)>、彼女の発した言葉に隣の席からこちらに視線をやり、興味深そうに聞き耳を立てている智子ほどではないけど、私とは仲が良かったりする子だ。

「えっ? 何を見たの?」

 私は何のことか分からず首を傾げる。

 しかし、好美ちゃんはにやあっと笑みを浮かべると、「またまたぁ~とぼけちゃって~」と言って私の肩をぽんぽん叩くのだった。

「昨日の放課後、氷川くんとデートしてたでしょ!」

「はえ?」

 一瞬彼女が発したその言葉の意味が理解できず、ぽかんとしてしまう私だったが……すぐに意味を理解するとともに顔が熱くなっていくのを感じた。

「ななな何言ってるの好美ちゃん! そんなんじゃないよ!!」

 戸惑いながらも慌てて否定する私である。まるで言い訳をしているような感じだけど、実際私は翔くんとデートなんてしていない。

 確かに昨日の放課後一緒に帰り、ファストフード店にも行ったけど、あれはこの間の遊園地の一件の穴埋めでしばらくは食事を奢れと言われているから仕方なく付き合っただけで、別に私はそんなつもりは全くないのである!!

 だけど、好美ちゃんはそんな私の反応を照れ隠しとでも思ったのかニヤニヤしながら言うのだった。

「またまたぁ~隠さなくてもいいじゃん。ようやくみうちゃんもイケメン幼馴染の魅力に気付いたんだね~」

「だから違うってば!」

 必死になって言い返す私、その時黙って話を聞いていた智子が、隣の席から口を挟んできた。

「へぇ、みう。あんたいつの間にか氷川くんと放課後デートするような関係にまでなってたんだ?」

 好美ちゃんだけじゃなくて智子まで……!

 ああ、もう最悪! 食事奢らされて貴重なお小遣いを使わされるわ、友達には変な誤解をされるわで踏んだり蹴ったりだよ!

 ともかく、興味津々と言った感じで見てくる二人の誤解を解くべく、私は頭をフル回転させるのだった……。


「ふう、まったくひどい目に遭った……」

 休み時間、なんとか好美ちゃんと智子の誤解を解くことに成功した私はトイレで手を洗いながらそう呟いた。

 それにしても、まさか私が翔くんとデートしてたなんて噂になってるだなんて思わなかったよ~!!

 でも、考えてみればこうなることは必然だったのかもしれない……。

 私と翔くんが物心ついた時からの腐れ縁であるということは、クラスのみんなに知られている。

 いつも否定してるし、私としては一線を引いた態度を心がけてるつもりだけど、やっぱりそういう風に見られてしまうということは、仕方ない事なのだろう。

 そこへ来て私と翔くんが放課後に連れ立ってファストフード店に行ったのである、事情を知らない人からしたら香取みうと氷川翔平がいよいよ付き合い始めたと思われても不思議じゃない。

 だけど、私としては翔くんと仲がいいと思われるはいいとしても、付き合ってるとか、恋人同士だとか思われるのは勘弁してほしいと思っている。

 単純に恥ずかしいし、翔くんと恋人なんて思われていたら、これから沢山あるであろう他の男の子との出会いと恋の機会を失ってしまうかもしれないからだ。

 現に今の時点でも私はなんとなく、クラスの男子からは一線を引かれている気がするのだ。

 もちろん、それは私ヒーローオタクで他の女の子と比べて近寄りがたいとかの理由もあるのだろうけど、なんとなく私の周囲にいる男の子たちの間に、ある雰囲気が漂っているのを感じることがあるのだ。

 すなわち、“香取みうは氷川翔平のモノだから手を出すな”みたいな雰囲気が……。

 当の翔くんは、「誰がこんな色気も何もないドジ女なんかに興味持つかよ!」とか言ってるけど、それも周りから見ると照れ隠しにしか聞こえないらしい……。

 それどころか、お互いに否定し合う私と翔くんを見て、「ツンデレカップルw」だとか冷やかす者まで現れる始末だ! もう本当にやめて欲しい!!

 私には、翔くんなんかよりもっともっと相応しい素敵なヒーローがいて、その人がいつか私を迎えに来てくれるんだから……!!

 その人が来てくれた時に「あ、君付き合ってる男の子がいるんだ、じゃあ仕方ないな、僕は諦めるよ」なんて言われたら目も当てられないからね……!

 そんな未来を想像して思わず身震いしてしまうのだった……。

(とは言ってもね……)

 そんなに噂されるのが嫌なら、もっとお互いに距離を置けばいいじゃないかと思われるだろうけど、それは難しいのだ。

 確かに私は翔くんと恋人に見られるのは嫌だと思っている、だけど、彼のことが嫌いだとか、一緒にいたくないとか思ってるわけじゃないのだ。

 意地悪されても、周りからなんと言われようとも、そう思うことだけはどうしてもできない。それが私にとっての幼馴染、氷川翔平という男の子なのだ。

「はぁ……」

 私はため息を吐いて水を止めると、紙タオルで手を拭いトイレを後にした。


「あ、翔くん……」

 教室に戻る途中、私の悩みの種である翔くんが前方から歩いて来るのが見えた。

 彼はこちらにはまだ気づかずに呑気な顔で廊下を歩いている。

 それを見た私は無性に腹が立ってきて、ずかずかと彼へと歩み寄るとびしっと指を突き付け叫んだ。

「翔くん、あなたのせいで私変な噂立てられて迷惑してるんだけど!!」

 突然の事に驚いたのか、彼がビクッとして立ち止まる。そして恐る恐るといった感じでこちらを見たかと思うと、私の顔を見るなり“なんだお前かよ”とでも言いたげな表情を浮かべると首を傾げながら言った。

「なんだよ藪から棒に。てか何わけわかんねえ事言ってんだよ?」

 そう言って訝しげにこちらを見る彼に、ますます苛立ちを募らせながら言う私。

「翔くんが放課後私を連れ回すせいで、私たち、つ、付き合ってるとか思われてるんだよ? わかってる!?」

 それを聞いた彼は一瞬キョトンとした表情を浮かべた後、呆れたようにため息を吐いた後で言った。

「何かと思ったらそんなことか、言わせとけよ。別にいいだろ? 困ることはないし」

 その言い草に私は余計に腹が立ってきて声を荒げた。

「困るよ! 恥ずかしいでしょ!! 翔くんは恥ずかしいとか思ったりしないの!?」

「前は恥ずかしいと思ったけど、どうせ否定したってあいつら聞きやしねえんだからもう諦めたよ」

 そんな私の言葉に対し、面倒くさそうにそう返す彼を見て私は更にヒートアップしてしまうのだった……。

「何よそれは! 翔くんももっときっちり否定してよね! 噂される方の身にもなってよ!」

 私がそう言うと彼は面倒くさそうに肩をすくめると、「わかったわかった」と返してきた。

(もう、本当にわかってんのかなぁ……)

 心の中で呟きながら、私は再び彼へと指を突き付ける。

「ともかく、今後噂される可能性を少しでも減らすためにも、あの放課後に食事を奢るって言う約束はもうおしまい! 今日からはまたいつもみたいに私はさっさと帰るから!」

 そう言う私に、翔くんは憮然とした表情を浮かべて返す。

「おいおい、待てよ、それとこれとは話が別だろ? 約束破るつもりか?」

「もうあの時の穴埋めは十分にしたでしょ、そもそも噂されるとかの話はさておいても、もういい加減私お小遣いがピンチなの!! だからこれ以上お金を使う余裕なんてないの!!」

 そんな私の言葉に対し、彼は目を細める。

「ほーう、ヒーローの香取みうさんともあろうお方が一度決めた約束を反故にするんですかぁ……へぇー……」

(うっ……!)

 痛いところを突かれた私だったが、すぐに気を取り直すと反論する。

「そ、それは関係ないでしょ! ともかく、今後私は翔くんとは一緒に帰ったりはしませんからね!」

 そもそも私と翔くんの一緒に帰る約束の何がまずいのかと言えば、本来帰宅部の私と部活に入っている翔くんでは下校時間が違うので、一緒に帰るためには私が翔くんの部活が終わるまで待たなくてはいけないということである。

 この状況を客観的に見た場合、“幼馴染と一緒に帰りたい少女がわざわざ相手の部活が終わるのを待っている”という状況に見えるわけで、まるで私の方が翔くんのことが好きで帰りを待ちわびてるかのように思われてしまう可能性があるのだ。

 つまり色んな意味で私が損するだけの約束なのである。まあ、それを受け入れたのも、この間の遊園地の騒動で翔くんを死ぬほど心配させてしまったという負い目が私にもあったからなのだけど、もういい加減心配させた分以上の罰は受けただろうと思うし、そろそろこの約束も終わりにしても良い頃だと思うんだよね? そんな私の言葉に対し、彼はやれやれといった様子で肩をすくめると言った。

「……わかったよ、そこまで嫌ならそろそろ許してやるよ。まあ、オレの方としても変な噂が流れて冷やかされるのも面倒だからな」

 その言葉を聞き、私はホッと胸を撫でおろす、約束なんだから今後もオレに付き合えとか言われたらどうしようかと思ったよ……。

「あーあ、まったく面倒くせぇな。幼馴染の女と一緒に帰って飯食うだけで何でこんなに気を使わなくちゃいけないんだよ……」

 そうぼやきながら去っていく翔くんの背中を見送りつつ、私は心の中で呟く。

(そうだね……。昔は何も気にせず一緒にいたのにね……)

 だけど、もう私も翔くんも幼児じゃない……。昔とは、もう違うんだ……。

 私はその事に少し寂しさを覚えつつも、気持ちを切り替えて歩き出すのだった。


「あれ? みう、今日は愛しの氷川くんと一緒に帰らないの?」

 放課後、久しぶり(というほどでもないけど)に智子に声を掛けた私に、彼女は開口一番そんなことを言ってきた。

「智子~! あれだけ言ったでしょ、最近翔くんと一緒に帰ってたのは奢らせられる約束のせいだって!」

 頬を膨らませて言う私に智子はクスクスと笑うと、「ふふ、冗談よ、冗談」と言った。

「全く、翔くんを“愛しの”とか言っていい冗談と悪い冗談があるんだからね!?」

 私がそう抗議するも智子は楽しそうに笑うだけで反省の色は見られないようだった。まったくもう……。


「ただいま~」

 智子とおしゃべりしながらの帰り道は楽しかったけど、特に何かが起こるでもなく、家に帰ってきた私はそんな言葉を発しながら靴を脱ぎ、玄関を上がる。

「あれ? 今日は早かったね?」

 私の言葉に応えるようにそう言って私の前へと飛んでくるのは、しばらく前からうちで一緒に暮らしている、S.P.Oのサポートアニマル、ルビィである。

「ああ、うん。ようやく翔くんへの奢り生活に終止符を打つことができたからね」

「へぇ、よかったね。これで放課後はボクと遊べる時間が増えるわけだ!」

 私がそう言うと、嬉しそうに笑いながらそんなことを言うルビィに対し、私も笑顔で応えるのだった。

 そんな感じでルビィと二、三言言葉を交わしつつ、私は手洗いうがいをすべく(どう、私しっかりしてるでしょ?)洗面所へと歩いて行く。

「ところで、今日も昼間はパトロールしてくれてたんだよね? 町の様子はどうだった? 何か変わったこととかなかった?」

 歩きながら尋ねる私に、ルビィは「全然」と首を振る。

「町は平和なもんだよ。ギーガーク帝国の連中を見かけないのはもちろん、それ以外にも事件らしい事件すら起こってないからね」

「そっか……。まあ、何もないのが一番だよね……」

 そんな会話をしながら手を洗うために洗面台の前に立つ。そして、蛇口を捻って水を出しながら私は無意識に左手首に手をやった。

 もちろん、左手首に巻かれているSPチェンジャーを外すためだ、宇宙戦士の変身アイテムであるSPチェンジャーはたとえ深海であっても使える完全防水機能を備えているのだけど、なんとなく水に濡らすのが嫌だったのだ。だから手を洗う時はいつもこうして外してから洗っていたのだった。

「ん……?」

 しかし、いつもならあるべきSPチャンジャーのバンドの感触がそこにはなかった。あれ? なんで……?

 慌ててそちらに視線をやると、私の左手首にあるはずのSPチェンジャーがない! え!? なんでないの!? ど、どうしてっ?!

 突然のことにパニックになる私、そんな私の様子を不審に思ったのか、ルビィが肩越しに私の腕を覗き込んできた。

「え、みうちゃん、SPチェンジャー……着けてない……?」

 そして、驚いたようにそう呟くルビィに私は泣きそうな顔を向けた。

「や、やっぱり、どう見ても、ないよね……!?」

 そんな私に、ルビィは困ったような表情を見せるのだった……。

「……どうしようーー!!」

 私は思わず絶叫してしまった、そんなことしてもSPチェンジャーが出てくるわけじゃないとわかっているはずなのに! いや、そもそもなんでないんだろう!? なんで!? なんで!? どうして!? 再びパニックになりかける私だったけど、ルビィは私の上げた絶叫から耳を守るために自分の頭の横に当てていた翼を私の目の前にかざす。

「落ち着いて! 叫んでも何もならないでしょ!!」

「落ち着いてなんかいられないよ! SPチェンジャーが、大事な変身アイテムがなくなっちゃったんだよ! これじゃ私シャイニーフェニックに変身できないし、通信もできない……」

 それに、SPチェンジャーはシュナイダーさんと私を繋ぐ絆だ、それが無くなってしまったということは私とシュナイダーさんの繋がりも消えてしまったということになってしまうのだ……!

「うえっ、うえっ……どうしよう……。もう駄目だよ、私あれがなきゃまたただの落ちこぼれの香取みうに戻っちゃうんだ……!」

 ずっとなりたかった夢のヒーロー、それを叶えてくれたスーパーアイテムSPチェンジャー、シュナイダーさんがくれたあれは、今や私にとって心の支えとも言える大切な宝物なのだ。それを失った喪失感で泣き崩れそうになる私をルビィは慌てて慰めてくれる。

「泣かないで、大丈夫だよ、きっと見つかるって」

「で、でもぉ……」

 涙目で見つめる私に、ルビィはその翼で頭を撫でながら、落ち着いた声音で語り掛ける。

「みうちゃん、よーく思い出して考えてみるんだ。君は今朝確かにSPチェンジャーを身に着けて学校に行ったはずだ、そして、SPチェンジャーがないと気づいたのは今、学校から帰ってきた直後だ。つまり、SPチェンジャーを失くしたとしたら、それは学校でとしか考えられない」

「そ、そうなのかな、けどどっかで落とした可能性も……」

 しかし、私の言葉にルビィは首を振る。

「SPチェンジャーのバンドはそう簡単に切れないし、君と接続されている以上どこかに落とすということは考えられないんだ。それなのに君がSPチェンジャーを身に着けてないということは、考えられる理由はただ一つ、君が自分で外してどっかに置き忘れてきたって事だけだよ!」

「ええええ、いくら何でも私そこまでお間抜けじゃ……」

 少しばかり心外だと反論しようとした私だったけど、ふと思い出すことがあった。

 そう言えば、さっき私は、無意識のうちにSPチェンジャーを外そうとしたんだ、手を洗う時にSPチェンジャーが濡れちゃうのが嫌で……。

 それは全くの無意識の行動、それと同じことを学校でしていたような……。

「あっ!」

 私は思わず声を上げた。

 そうだ、休み時間にお手洗いに行ったとき、翔くんの事を考えながら手を洗ったんだっけ。

 あの時、SPチェンジャーを外した覚えはないけど、着けた覚えもない。

 もし、外すという行動を無意識に行ったまではよかったけど、考え事をしていたせいで着けるという行動をし忘れてたとしたら……。

 そうだ……。そうに違いない、というかそれ以外に考えられない!

 つまりSPチェンジャーは学校のトイレの洗面台の上に置きっぱなしになっている可能性が非常に高いということだ……!

 そうと決まれば善は急げである、急いで取りに行こう……!

「ルビィ、ありがとう。あなたのおかげで冷静になって考えられた。SPチェンジャーは多分学校、私今から取りに行ってくる!」

 言って私は洗面所を飛び出し、玄関へと向かうと急いで靴を履く。

「待ってよみうちゃん、ボクも行くよ」

「いいよ、すぐ行って戻ってくるだけだから、それに学校にあなた連れていけないでしょ?」

 鳥の姿をしたルビィを学校に入れたりしたら、私が後で怒られてしまう、そんなリスクを冒してまでルビィを連れていく必要はないと考えた私は彼からの申し出を断り、玄関から飛び出すのだった。


「あれ、みうじゃん、何やってんの?」

 家から学校に向けて全力疾走する私に横から声が掛けられた、見るとついさっき別れたばかりの智子がきょとんとした顔でこちらを見ていた。

 彼女は制服姿から私服姿へと装いを変えていた。

「智子!? あなたこそどうして?」

 尋ねる私に、智子は小さく肩をすくめる。

「帰ったのはいいけど、時間持て余してさ、せっかくだからいつものあそこに行こうかと思って」

 いつものあそこ……ああなるほど、ゲーセンね。智子ってば本当にゲーム好きなんだから……。

 おそらく私と別れて家に帰った後ですぐに着替えて出てきたというところだろう。

 納得する私に智子は、「で、あんたは制服のままどこへ行こうっての?」ともう一度尋ねてきたのだった。

「実は、学校に忘れ物しちゃって……、今から取りに行くところなの」

「なるほど、相変わらずドジねぇ」

 私の答えを聞きそう言って苦笑する智子に私は顔を赤らめる。

 ううう、返す言葉もございませんとはこのことだよ……。

「うん、自分でも呆れてる……。とにかく、私急いでるから、じゃあね!」

 言ってその場を後にしようとする私だったけど、智子は、「ちょっと待って」と呼び止める。

「何!?」

「あたしも行っていい? なんか、放課後の学校ってさ、ちょっと面白そうじゃない?」

 好奇心旺盛な子供のような瞳で言う彼女に、私は一瞬躊躇ったものの、結局彼女の同行を許すのだったのだった。

「ところで、何を忘れたの?」

 そんなに急がなくても、学校は逃げやしないってという智子の言葉と、早くも全力疾走に疲れたことで歩きながら学校に向かうことにした私たち。尋ねてくる智子に私は左腕を見せる。

「私がいつも着けてた腕時計あるでしょ。あれだよ」

 それがSPチェンジャーだとは知らない智子だけど、私が常に変わった形の腕時計らしきものを着けているのは知っていたのですぐに納得してくれたようだった。

 そうして歩き続けること数分、私たちはようやく学校の正門前に到着したのだった。

「なんでかしらね、いつも通ってるし、ほんの数十分前に後にしたばっかりなのに、一度家に帰ってから来ると全然違って見えるわね……」

 感慨深げに言う智子に私は同意するように頷く。

 放課後とはいってもまだ暗くなるには早いし、部活にいそしむ生徒はいる。何かの用事で残ってる生徒だっているし、もちろん先生もいるだろう。

 なのに、一度帰った後に来る学校と言うのはまるで別の場所のように感じられるのだ……不思議だよね? そんな感想を抱きつつ私は校門をくぐり校内へと足を踏み入れる。

 ちなみに制服姿の私はともかく、私服姿の智子は目立つんじゃないかと思われるかもしれないけど、うちの学校秋桜(コスモス)学園は制服はあっても着用義務はなかったりする。

 これはその昔制服廃止派と制服存続派が揉めに揉めた結果、着たい奴は着ればいいし、着たくない奴は着なければいいじゃない! という結論に至った結果らしい。

 私や智子はその“着たい奴”の中の一人(この学校の制服はデザインが可愛いから着たい派も多い)なので普段は制服を着ているのだけど、そういう事情なので、別に着てなくても注目を浴びるなんてことはないのだった。

 ともかく、校舎へと向かう途中私はふとグラウンドに目をやった、視線の先にあるのは野球部の練習場で、そこには練習に勤しむ生徒たちの姿があった。

 その中には見知った顔も何人かいて、その中にあのいつも私を悩ませる幼馴染の顔もあった。

 彼はどうやらバッターとの対戦形式の練習をしているらしく、マウンド上からバッターボックスへと鋭い視線を向けている。

 ドキッとその真剣な眼差しを見て私の心臓が大きく跳ねた気がした。

(……カッコいいなんて、思ったりはしてないもん……!)

 心の中でそう言い訳しつつ、でもやっぱり目が離せなくて……。

 しまったなぁ……あいつがちゃんと部活やってるかどうか気になってちょっと視線向けただけなのに、まさかこんなにドキドキさせられることになるだなんて思わなかったよ! もうっ!!

 翔くんは基本的に私の前ではおちゃらけた態度で、真剣な表情を見せることはあんまりない。

 だから、ついつい忘れがちなのだけど、彼は学園でも五本の指に入るくらいのイケメンなのだということを改めて思い知らされてしまった気分だった。

 そんな私の視線には(距離が離れてるのだから当然だけど)気づくこともなく、彼は大きく振りかぶるとそのまま勢いよくボールを投げ込んだ。

 ズバーン! という音が響き、彼の投げたボールがバッターの振ったバットをかわしキャッチャーミットに収まると、近くで練習を見物していた女の子の黄色い声援が飛ぶ。

 私の前では意地悪度が高い翔くんだけど、他の人の前では爽やかで優しい好青年なのだ。

 そんな彼だから当然のように女の子たちからも人気があるわけで、こうして固定ファン(?)みたいな子たちもいるのだ。

 翔くんはヘラッと笑うと、彼女たちへと手を振っていたのだった。

「相変わらず凄い人気ね、氷川くんは」

 私の視線の先にあるものに気づいたのか、智子がそう声を掛けてきた。

「……そうだね」

 私は短く答えると、グラウンドから視線を外し校舎へと歩いて行く。

「行こう。早く忘れ物見つけなきゃ」

「え? あ、ええ……」

 戸惑ったような声を上げる智子だったけど、気にしていられなかった。

 これ以上、翔くんが女の子に笑顔を見せている姿を視界に入れたくない、私の胸の内では何故かそんな思いが渦巻いていたのだった。

 ふん、何よ。硬派ぶってるくせにやっぱり女の子からチヤホヤされるのは嬉しいんじゃない……っ! 心の中でそう毒づきながら私は足早に校舎内へと向かうのだった。

お読みいただきありがとうございました。

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好きなキャラとかいたら、教えてください。もしかしたら、少しだけ出番増やすかも?

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