第14話 ドキドキわくわくヒーローショーです!
あー、どうしてこうなるかなぁ……。
遊園地の入り口の前でぼーっと立つ私の頭の中では、その言葉がグルグルと回っていた。
その理由は、私の隣でニヤニヤと笑みを浮かべている幼馴染の存在である。
結局私は翔くんに押し切られる形で彼と共にバスに乗り、遊園地の入り口まで来てしまったのだ。
私ってば本当に押しに弱い。特に少しばかり強引なところがあるこの幼馴染にはどうしても逆らえないのである。まあ、別に嫌ってわけじゃないんだけどさぁ……。
そんなことを考えているうちにも時間は過ぎていくわけで、気がつけば私たちは入場ゲートをくぐって園内に入っていたのだ。
「ところでみう、お前どうして一人で遊園地なんて来ようとしてたんだ?」
尋ねてくる翔くんにどう答えるべきか私は少しばかり思案する。
もちろん、来たかった本当の理由、ルビィの報告で怪人の存在の有無を確認に来たなんてこと言えるわけがないので適当に誤魔化すことにするしかないのだけど!
「えっとね、そのぉ……」
言い淀みつつも私の頭は回転をする。そして、上手い言い訳を思いついた。この言い訳なら私のキャラクターの関係上不自然ではないはず!
「ここでやってる仮面ファイターショーを見たかったのよ」
そう、ヒーロー好きな私だもの、一人でヒーローショーを見ようとするのは何もおかしなことはない。
実際いつか機会があればここの仮面ファイターショーを見てみたかったし、これは嘘じゃないのだ。
だけどこの言い訳は、少しだけ失敗だった。翔くんを誤魔化すことには成功したけど、別の問題が発生してしまったのだ……! それは……
「仮面ファイターショーねぇ。相変わらずお前はお子様趣味だな」
ああ、やっぱり! 言われると思った!! 翔くんと来たら隙あらば私を子供扱いしてくるんだから! もう! 私だって立派なレディなんだからね! そんな気持ちを込めて私は彼を睨みつける! そんな私の視線を受けても彼はニヤニヤと笑うだけだった! くぅっ! ムカつくぅ!
「まあいいか。来ちまった以上付き合ってやるよ。じゃあその会場まで行こうぜ」
そう言って歩き出そうとする翔くんに向けて、私は皮肉を込めて言ってやる。
「大人な翔くんはお子様向けのヒーローショーなんて見ても楽しくないでしょ。今からでも帰っていいんだよ?」
「なんだよ、怒ったのか?」
「怒るよ、そりゃ。好きなもの馬鹿にされてにこにこしてられるほど私は心広くないもの!」
ふんっだ、もう知らないもん! そんな風にそっぽを向いて拗ねてみせる私を見て、彼はぽりぽりと自分の頬を搔くのだった。
そんな感じで険悪な雰囲気になりかけた私たちだったけど、ヒーローショーの会場に着くころにはなんだかんだその険悪さは和らぎ元の微妙な距離間の関係に戻っていた。
いつもこうなんだ、翔くんのからかいに不機嫌にさせられるけど、時間が経つと仕方ないなぁって気持ちになっちゃうんだよね……なんでだろ? そんなことを考えつつ私たちは会場内へと足を踏み入れるのであった。
会場内は大勢のお客さんたちで賑わっていた。そのほとんどが親子連れのようで、子供たちの楽しそうな声があちこちから聞こえてくる。
傍から見ればカップルっぽく見えるだろう(実際は違うと声を大にして言いたいけど!)私たちはハッキリ言ってかなり浮いていたと思う。
なんか恥ずかしいなぁ。こういう理由でも翔くんとは来たくなかったんだよねぇ。
ともかく私たちは、なるべく人が近くにいない席を選びそこへと移動する。
「後10分ぐらいで開演だな、オレ、なんか買ってくるよ」
時計に目をやりそう言うと、翔くんは立ち上がりその場を後にする。私はその背中を見送りつつ、大きくため息を吐く。
(はぁ、なんでこうなっちゃうのかなぁ、翔くんとヒーローショーを見ることになるなんて……)
怪人の調査をしたかったはずなのに何をやっているのかと私は頭を抱えつつ考えていた。
って、あれそう言えば……何かを忘れてると思ったけど、ここに怪人がいると通信を送ってきたルビィは一体どこにいるんだろう?
そう思った瞬間タイミング良く(?)私の目の前に茶色い羽毛の小鳥が舞い降りてきた。
「ルビィ」と私が呟くように名を呼ぶと、彼は私の肩へと静かに止まり、小声で尋ねてくる。
「みうちゃん、どうしてあのいじめっ子と一緒に来たの?」
いじめっ子? ああそうか、ルビィにとって翔くんは私のスカートを捲ってくれやがったとんでもない奴だもんね、まあ私にとってもとんでもない奴ではあるんだけど、翔くんは別にいじめっ子というわけじゃない。
散々意地悪されてる立場でこんなことを言うのもなんだけど、翔くんはちょっと素直じゃなくて不器用なだけで悪い人じゃないんだよね。
「ルビィには言ってなかったけど、翔くんは私の幼馴染なのよ。意地悪とかよくされるけど、あれで優しいところもあるんだよ」
「幼馴染……そうなんだ……」
私の言葉にルビィは翼を顎に当てて何やら思案顔だ。まあ私と翔くんの関係は他人から見たら奇妙極まりないので仕方ない。
しかし、自分の中で納得できたのか、ルビィは一つ頷くと続ける。
「まあそれはわかったけど、どうして彼と一緒に来たの?」
「私だって翔くんなんかと一緒に来たくなかったよ。だけど、付いて来るって言って聞かないんだもん、あまり断りすぎるのも不自然だし、そもそも私押されると弱いし……」
そこまで言って私は、「そんな事より!」と強引に話題を変える。
「あなたが見た怪人ってどこにいるの?」
今は翔くんの話はどうでもいいのだ、怪人が本当にいるならそっちの方が大事だよね! そんな私の言葉にルビィはハッとした顔をした後で申し訳なさそうに言う。
「ごめん……見失っちゃった……」
「ええっ!? 何よそれは、しっかりしてよ……」
やっぱり抜けてる相棒くんである。呆れた視線を向ける私にルビィは慌てたように言う。
「だ、だからさ、これから一緒に探して欲しいんだけど……」
「今は無理、翔くんとこのショー見ることになっちゃってるから。終わるまで私自由に動けそうにないの」
翔くん引き連れて怪人探しをするわけにもいかないので、なんとか彼にはお帰り頂かないといけない。けれど翔くんの事だから最低限このショーが終わるまでは帰らないだろう。
とりあえず今は怪しまれないよう大人しくして、彼が帰ってくれるのを待つしかないのだ。
「む、むぅ……。ま、まあしょうがないか……。じゃあショーが終わったらボクとい……」
唐突に、ルビィは言葉を切って空へと舞い上がった。私がいきなりのことに驚いていると、背後から声がかかる。
「おいみう、お前今誰かと話してなかったか?」
バッと振り向くと、そこには二人分のポップコーンとジュースを持った翔くんの姿があった。
ああ、そっか。翔くんの接近を感知して離れたんだね。鳥の姿したルビィが喋ってるのなんて見たら驚くもんね、そりゃ離れるよね! 私は慌てて誤魔化すように言う。
「えっ? そう? 気のせいじゃない、もしくはついつい独り言が漏れちゃったとか」
我ながら苦しい言い訳だとは思うけれど、とりあえず誤魔化せたみたいだ。翔くんは訝しげにしながらもそれ以上追及してくることはなかったのでホッと胸を撫で下ろす。
翔くんが差し出してくるポップコーンを受け取りながら私が少し目線を上げると、ルビィはショーのステージの屋根の端に止まりこちらに小さく翼を振ってきた。
どうやら翔くんがいなくなるまであの位置で待機するつもりらしい。
まあ、仮に怪人がどこかにいたとして、今は何も起こってないわけだし、ルビィがあそこで周囲を警戒している以上何か起こればすぐにわかるだろう。
今はとりあえず、ヒーローショーを楽しむとしよう! 怪人の事が気がかりなのと、翔くんが隣にいるというのが非常に不本意だけどね。
そんな事を考えつつ私は再び視線をステージへと戻したのだった。
『ただいまより、仮面ファイターショー、開演いたします』
アナウンスが流れブザーの音が鳴る。これから始まるショーに私の胸はドキドキだ。
ワクワクしながら待っていると、舞台袖からショーの司会と思しき一人の女性が姿を現した。彼女はステージの中央まで来るとマイクを片手に口を開く。
「みんなー、こんにちはー!!」
「「こんにちはー!」」
お姉さんの挨拶に答え会場の子供たちが声を上げる。私もその中の一人として元気よく返事をした。そしてまたすぐに沈黙が訪れる。皆これから何が起こるのか期待しているのだ。
やがてスピーカーから音楽が流れ始め、それに合わせてステージの奥から一体の怪人が歩いて出てきた。
その怪人は全身は青く服は纏っていない、身体はつるんとしており背中には巨大な翼を持っていた。
「うおっ、リアルだなぁ、とても着ぐるみとは思えないぞ、まるで本物みたいだ」
唸る翔くんに私は確かにと頷く。
普通こういうショーで使われるのはアトラクション用の着ぐるみであり、本編での撮影に使われるものより少ししょぼい。
だけど、現れた怪人の着ぐるみは本編に出てくるものとまったく遜色がないどころか、まるで本物の怪人、そういう生物であるかのように見えるのだ。
それに、こんな怪人仮面ファイター本編では見たことがない。つまり、わざわざこのショーのために新造されたものだということだ。
(なんか、気合入りすぎてない……?)
私は少しだけ違和感を覚えるけど、まあそういうこともあるかなと自分を納得させる。
その時、翔くんが私の肩を肘でちょんちょんと小突きながら小声で言ってきた。
「なあ、みう。あの怪人ってさ、どっかで見た覚えないか?」
私は「え?」と翔くんの顔を一瞬見てから、もう一度怪人に目を向ける。
う~ん、言われてみればそんな気も……。でも、どこだったけかなぁ?
むぅ、ヒーロー物好きの私が思い出せないなんて、ちょっとプライドが傷つくなぁ……。
あれ? でも、ヒーロー物なんてそんなに見てないはずの翔くんが見覚えあるってことは……。
「わあっ、怪人が出てきちゃったわ~。それに戦闘員も~!」
私の思考を遮り司会のお姉さんが実にわざとらしく驚いて見せる。
怪人は言葉を発することなくステージの中央までやってくると、客席の方を指差し、ステージの袖から次々出てくる戦闘員に向けて言った。
「攫え……」
ショーの悪役とは思えないほどのぞっとさせるような低い声だ。その声を聞いた途端子供たちが一斉に悲鳴を上げたのだった。
「へぇ、なかなか真に迫ってるな」
翔くんが横でそんなことを言っている間にも、客席の方へとやってきた戦闘員たちが子供たちを捕まえようと手を伸ばす。
子供たちはわーわーきゃーきゃー騒ぎながら、ある子はひたすら逃げまどい、ある子はその場で泣き叫び、またある子は勇敢にも戦闘員に立ち向かう。
あ、戦闘員の人子供に脛蹴られた……。でも流石プロだね、まったく動じることなくその子をあっさりと抱え上げる。
会場は大パニック! といった感じだけど、もちろんこれはショーなので、それがわかってる保護者や私と翔くんみたいなある程度の年齢の人たちはむしろ微笑まし気に状況を見守っている。
「ちょっとかわいそうだけど、これでこそヒーローの登場が盛り上がるってもんだよね」
私は横を通り過ぎていく戦闘員をチラリと見つつ、翔くんに向かって言う。すると翔くんは少し驚いた顔を見せた。
「お前意外と冷静なんだな」
「なぁに、まさか翔くんは私がショーと現実の区別がついてないとでも思っていたの?」
「いや、流石にもうそう言うことはないだろうと思ってたけどよ。昔のことを思い出して、な」
昔? ああ、あの時の事か……。
私は目を閉じて思い出す。その昔私の家族と翔くんの家族で訪れた遊園地でのヒーローショーでの出来事。
怪人の人質にされた私は怖くて泣き叫んでいたっけ。あの時はそれがショーだなんて知らなかったから本当に怖かったんだよね。
「そう言えばよ」
私の回想を遮るような形で口を開いた翔くんに私はもう一度顔を向ける。
「あの時――10年前の、ヒーローショーの時からだったよな。お前が大のヒーロー好きになったのは」
彼の言葉に私は頷く。そう、あの出来事がきっかけで私はすっかりヒーローに夢中になってしまったんだ。
あの時、私を助けてくれたヒーローは本当にカッコよかった……。
成長するにしたがってあれはただのショーだとわかってきたけど……でも、あのヒーローさんが私に見せてくれた優しさと強さは間違いなく本物だった、そしてそれは今でも私の心の中に残っている……。
だから……私もあんな風になりたい……って……そう思うようになった……。
「それで、分かったのか? あの時のヒーローの正体」
翔くんの言葉に私は静かに首を振った。
私はあの時助けてくれたヒーローさんが何の番組のヒーローで何て名前なのかがずっと気になっていた。
だけど、不思議なことにあのヒーローに関する情報はどこにもなかったのだ。
遊園地に問い合わせたところ、その当時やってたショーのヒーローは見つかったんだけど、その姿は私の記憶と全然違っていた。
記憶違い説が一番濃厚なんだけど、それを考えた時、バカバカしい話だけど私の中にある想像が浮かんできたんだ。
(もしかしてあれは、ショーじゃ無くて本当に本物の正義の味方だったんじゃ……?)
それなら辻褄が合うんじゃないかって。本物のヒーローだったのなら、フィクションのヒーローをいくら調べたところで情報が出てくるわけがない。
本物のヒーローだったら、多分素性は徹底的に隠されてるはずだろうしね……。
シュナイダーさんと初めて会った時、私はシュナイダーさんこそ実はその人だったんじゃないかなんて妄想したりしたけど、実は最近思い出のヒーローさんについて一つだけ思い出したことがある。それは、思い出のヒーローさんは赤かったということだ。
シュナイダーさんのプロテクターは全体的に青くて赤いイメージはどこにもない、だからシュナイダーさんは思い出のヒーローとはきっと別人。
もっとも、私はそれを残念なことだとは思ってない。だって、それはつまり私には尊敬するヒーローが二人もいるってことだもの!
思い出のヒーローさんと、シュナイダーさん。その二人がいたから今のヒーロー好きの香取みうが、そして正義のスーパーヒロインシャイニーフェニックスがここに居るんだって思うんだ……!
そして、もし、私の推測(妄想?)が正しくて、あの思い出のヒーローさんが本物だったのなら、シャイニーフェニックスとして活動を続けていれば、いつかまた会えるかもしれないよね……?
「それにしても、いつまで子供を追いかけ回してんだ? まさか、会場中の子供を攫うつもりなのかぁ?」
翔くんの呆れたような言葉に私は自分の思考の海から引き戻される。
私が考えこんでいる間にも、戦闘員たちは子供たちを追いかけ回していたようだけど、確かに少し気になった。
普通こういうショーで攫われる子供は一人か二人のはず、理由は簡単でショーの邪魔にしかならないからだ。
怖がって盛り上げてくれそうな子供だけを攫えばそれでいいはずなのに、このショーの戦闘員と来たら、まるで根こそぎ全部攫っていくかのような勢いだ。
うーん、でも、まあ、そういう演出なのかもしれないし……あんまり深く考えても仕方ないのかな……。
多少の違和感はあるとはいえ、今のところ子供たちを捕まえてる戦闘員たちに怪しげなところがあるわけじゃない。
その時、戦闘員の一人が私に近寄りガシッと腕を掴んできた。
「あ、あの。私、子供じゃないんですけど……」
「ギガ?」
ギガ? 仮面ファイターの戦闘員ってそんな鳴き声上げたっけ?
戦闘員はステージ上の怪人に顔を向ける、すると怪人は小さく首を振り、戦闘員は私の腕を離すとステージへと戻って行った。
「ははっ、戦闘員の目から見ても、やっぱお前は子供みたいだなぁ」
そうニヤリと笑う翔くん。私はギロリと睨むも彼はどこ吹く風といった様子で全く気にも留めていないようだった。
おのれぇ、戦闘員!! よくもこの私を辱めてくれたな! 絶対に許さないんだからっ!! 私は怒り心頭になりつつも、何とか気持ちを落ち着けて再びショーに集中することにしたのだった。
そして、しばらく後、ようやく子供たちを捕まえ終えたのか、ステージ上に戦闘員たちが戻っていく。
「本当に会場中の子供全員捕まえやがった。どういう意図があるんだこれは?」
ステージ上では子供たちの泣き声がこだまし、実にカオスな雰囲気になっていた。
「あれってどう考えても、これから始まるヒーローと怪人の対決の邪魔になるよね……」
関係者でもないのに、ステージの進行が滞りなく進むのか心配になってきた私だったけれどそんな私の不安をよそに、司会のお姉さんは相変わらずの大根演技でわざとらしく言う。
「どうしよう、みんなを助けなきゃ、そーだ、みんなでヒーローを呼びましょう!」
あっ、これは!!
ショーに対する違和感とかが私の頭の中から吹っ飛んでしまう。
「せーの……」
続けて言う司会のお姉さんに合わせて、ステージ上の子供たち、客席の大人たちが声を合わせて叫ぶ。
そして、一番の大声で叫んだのは……。
「「仮面ファイター!!」」
もちろん、この私! だって、やっぱり一番楽しみにしてたんだもんっ!!! 私はワクワクしながらその時を待った……
一瞬静寂が会場を包む。まさか、出てこないのか、と、思わせたところで……!
プシュー!! と、ステージの床から白い煙が噴き出してくる! そしてその煙の中から現れたのは……!!
「とうっ、仮面ファイター参上!」
シュタッっと着地しポーズを決める一人の戦士だった! その姿を見て観客席と捕らわれの子供たちから歓声が上がる!
うきゃああああああああ!!! キターーーーーー!!!!! 待ちに待った登場シーンだよぉ!!! もうテンション上がりまくりだよぉ!!!!
「キャーーー!! カッコいいーーーーー!!!」
思わず黄色い声援を上げた私に、仮面ファイターは少し驚いた様子を見せるけど、グッと親指を立ててくれる!!
「オレはヒーローショーを見に来てるんだよな? アイドルのライブを見に来たわけじゃないんだよな……?」
横では翔くんが引きつりまくった顔でそう呟いていたけれど気にしないことにする……だってだってだってぇ……だってだってだって……大好きな仮面ファイターが目の前にいるんだもんっ!!!
そして、仮面ファイターは子供たちを抱える戦闘員たちにビシッと指を突き付けて叫ぶ!
「子供たちを放せ!!」
ああ、カッコいい……。さあ、ここからは仮面ファイターの大活躍の時間だ!
私は姿勢を正しステージ上を凝視する。
仮面ファイターは言葉に従う気がない戦闘員に向かって再び叫ぶ。
「聞く耳を持たないか……。仕方ない、ならば、力づくでも子供たちを放してもらうぞ!!」
そのまま仮面ファイターは手近な戦闘員に殴りかかる!
パンチ一発、戦闘員はあっさり倒され子供は解放される。そんな光景が私の頭の中に浮かぶけど、実際に私の目に映っているものは全然違うものだった。
仮面ファイターのパンチを受けた戦闘員は倒れるどころか、よろめきすらしなかった。
仮面ファイターが驚いた様子を見せる。
「なっ……」
声を上げた仮面ファイターのお腹に、戦闘員の繰り出したパンチがめり込む。
「ぐぼっ!」
演技とは思えないほどリアルなうめき声を上げて、仮面ファイターは膝を折った……。
「すげぇな、まるで本当に殴られて苦しんでるみたいな声だぜ」
翔くんがあからさまに引いた様子で言う。
た、確かに、リアリティは必要だけど、普通はもう少しこれはあくまでも演技ですってわかるようにするよね……? 特にこのショーは完全に子供向けなんだからさ!
そんなことを考えていると、ステージ上では戦闘員がお腹を押さえて呻く仮面ファイターを蹴り飛ばし、さらに攻撃を加える……!
「ぐはっ、げほっ、がはっ……」
殴打音が響き、仮面ファイターが苦悶の声を上げる、思わず目をそむけたくなるような光景が繰り広げられていた……。
「お、おいおい、いくらピンチの演出だって言ってもやりすぎだ、こんなの子供に見せらんねぇだろ」
翔くんが腰を浮かし、小声で呟くように言う。私も同感だ……逆転劇はヒーロー物のお約束……だけど、やっぱり何かおかしい、こんなシーンを見せるなんてどうかしてるよ……。
観客席からも戸惑いの声が上がり出す。だけどまだギリギリ過激な演出と解釈することもできるので、誰も文句を言ったりはしなかった。それでも子供たちの中には再び泣き始める子もいるし、親御さんたちも動揺を隠しきれない様子だった。
そんな間にも仮面ファイターはうつぶせに倒れ、動かなくなってしまった。怪人は彼に歩み寄りその頭を踏みつけると両手を広げて言う。
「正義は悪に滅ぼされる。それがこの世の真理だ! 会場に集まる者たちよよく聞け、これが現実なのだ!」
その言葉に観客たちは静まり返る。
「あ、あの……」
司会のお姉さんが困惑の表情を浮かべて怪人に話しかけるが、怪人はそれを無視してさらに言葉を続ける。
「それでは子供たちは貰っていくぞ。さあ戦闘員ども撤収だ!」
そう言ってステージを後にしようとする怪人たち、お姉さんも観客席の私たちも呆然とした表情でそれを見守るしかなかった……。
え、演出だよね……? この後仮面ファイターが立ち上がって、怪人にビシッと指を突き付けて「正義は負けない!」って宣言するんだよね……?
だけど、仮面ファイターが立ち上がる気配は全くない。その時……。
『みうちゃん、あれは本物の怪人だ!』
私の頭の中にルビィの声が響いてきた!
えっ、ルビィ!? SPチェンジャーの通信モードをオンにしてないのに??
思った瞬間、SPチェンジャーから私の頭にこの機能についての知識が流れ込んでくる――
サイキック・コミュニケーションモード――有効範囲は狭いけど、この機能で私とルビィは声を出さずに直接会話することができるみたい……!
けど、今はそれよりも……。
『本物の怪人って、あれがルビィの言ってた……!?』
私は悠然と会場を後にしようとする怪人に目を向ける。
『ハッキリと姿を見てなかったから確証が持てなかったけど、間違いないよ! これが単なるショーの演出だったら、あのヒーロー役の人に大怪我負わせたりはしなかったでしょ?』
今度は私は倒れたままの仮面ファイターに目を向けた。大怪我!? 着ぐるみのせいで分からなかったけど、さっきの攻撃でそんな酷いことになっていたなんて!
『みうちゃん、とりあえずあいつらを止めないと! まだ観客も子供も、これはショーの演出の一環だと信じてる!』
確かにこのままじゃいけないよね……! 私は観客席から立ち上がり怪人を指差し叫ぶ。
「待ちなさい!!」
「お、おい、みう?」
横では翔くんがいきなり立ち上がった私に目を丸くするけど構ってる暇はない!
「何かな、お嬢ちゃん?」
小ばかにしたような視線を向けてくる怪人に私は怯むことなく続ける。
「子供たちを連れて行こうなんて許さないわよ!」
勇ましく言う私に、しかし、周囲からは失笑が浴びせかけられる。
隣では翔くんが顔を赤くして私のスカートの端をちょんちょんと引っ張りつつ小声で注意してくる。
「……お前なあ……これはショーなんだぞ。何マジになってんだよ……」
「違う! これはショーじゃない! あれは本物の怪人なの! このままじゃ子供たちが攫われて大変なことになるわ……!」
呆れた様子の翔くんだったけど、私の必死の訴えに少し真剣な表情を浮かべると、怪人と倒れたままの仮面ファイターを交互に見比べて呟くように言う。
「確かに、演出にしちゃあおかしいところが多いが、だけど本物の怪人なんて……」
「ギーガーク帝国の怪人見たことのある翔くんならわかるよね!! あいつは……」
そこまで言って私はやっと気づいた、そうだあの怪人どっかで見覚えがあると思ったら……。
翔くんもそのことに気づいたのか目を見開く、そして怪人に顔を向けると私と同時に叫んだ。
「「ロリコン怪人アグダプトス!!」」
「誰がロリコン怪人だ! 栄光あるギーガーク帝国の一員の俺様をロリコン呼ばわりとは……」
言って、ハッと自らの失言に気づいたように口を押さえるけどもう遅いよ! 自分の口からギーガーク帝国の一員つまり本物の悪人って言っちゃったし! 会場もざわつき始める!
「おい、今あいつギーガーク帝国の一員だって言ったぞ!」
「マジで本物なのか!?」
「まさかそんな! 何かの間違いだろ?」
「で、でも、そう言えば明らかに様子が変だし……もしかして本当に……?」
ざわめく観客たちの言葉を遮るように、怪人――アグダプトスが叫ぶ。
「ふんっ、もうこうなったら正体を隠す必要もない! そこの小娘たちの言うとおりだ、俺たちはギーガーク帝国の一員よ! ショーに紛れ込み秘密裏に子供たちを拉致する予定だったがバレちゃあ仕方がない。どちらにしろもう子供たちは我らの手にある、このまま連れて行かせてもらうぜ!!」
宣言し、会場を後にしようとするアグダプトス、その前に警備員の人が立ちはだかるけど、あっさりと倒されてしまう。
「きゃああああ、誰か、私の子供を助けてぇ!!」
「うちの子を返してくれ!!」
「くっそおおお、子供を解放しろ!!」
会場はパニックに包まれていた、子供たちを抱えた戦闘員――おそらくこいつらもギーガーク兵の変装なのだろう――に飛び掛かっていく人たちもいるけど、あっさり振り払われて倒されてしまう……どうしよう……このままじゃ……みんな連れ去られちゃう……!
もちろん、私がやるべきことは変身してあいつらを倒すことなのだけど、こんな人が大勢いる場所で変身するわけには行かない……!
人気のない場所に行きたいところだけど、会場はギーガーク兵に取り囲まれ外へと出ることも出来そうにない……。
これは、絶体絶命の大ピンチだよ……場合によっては正体バレるの覚悟で変身しないと……!
その時、私の腕が誰かに掴まれる。
翔くん? と思って顔を向けると、ギーガーク兵ののっぺりとした仮面顔が目に入ったので、「きゃああああっ!」と悲鳴を上げてしまう。
こいつ、私も攫うつもり……!? さっきまではショーを装ってたから私みたいにショーの人質としては不適格な年齢の子は無視してたようだけど、正体を明かしたからには、年齢関係なく攫えそうな相手は逃さないってことか!
なんて冷静に分析してる場合じゃない! シャイニーフェニックスにとっては雑魚でも香取みうにとってはこいつらは強敵だ、このままじゃ攫われちゃう!!
「おらあっ!」
こんな時私のピンチを救ってくれるのは、意地悪野郎、だけど本当は優しい翔くんだ! 私を掴んでいたギーガーク兵に飛び蹴りをかますと、「みうを攫わせるかよ!」と啖呵を切る。
解放された私は、慌ててギーガーク兵から距離を取るけど、すぐに「ぐあっ」という声が響く。
振り返ると、翔くんが地面に倒れ伏していた。
スポーツマンで下手な大人よりずっと強いはずのあの翔くんがああも簡単に倒されるだなんて……! ギーガーク兵ってやっぱり恐ろしい相手なんだ……。
「ぐう……みう、逃げろ……」
呻きながらも私を気遣ってくれる翔くん、そして、会場に響く子供たちとその親御さんたちの泣き声を聞きながら私は思う。
(何やってんの、私……? 正体がバレるから何? 今ここでみんなを助けられるのは私だけなんだよ!?)
ここでやらなくちゃ、ヒーローじゃないでしょ! 正体がバレたなら、その時はその時だよ!!
覚悟を決めて私は腕を掲げ変身ポーズの体勢に入る、その時!
「うわっ、なんだ!?」
「演出用のスモークが噴出したのか!?」
そんな言葉と共に、会場全体が白い煙に包まれる!
えっ、なにこれ!?
急に自分の鼻先すら見えなくなるほどの濃い煙に覆われた私はパニックに陥りそうになるけど、次の瞬間頭の中に声が響いて来る。
『この煙の中なら誰にも変身見咎められないでしょ? さあ、みうちゃん、みんなが君の助けを待っているよ!』
ルビィ……! ありがとう! お間抜けとか思っちゃってごめんね、あなたは最高の、サポートアニマルだよ!
「Start Up! シャイニーフェニックス!!」
心の中でルビィに感謝しながら、私は変身コールを叫ぶのだった。




