第102話 愛の悩みも解決! 最後は花火で締めましょう!
七夕祭りの会場は、文字通りお祭り騒ぎとなっていた。
みんな興奮した様子で口々に今回の事件でのシャイニーフェニックスの活躍について語り褒めたたえている。
「あっ、みうに陽くん! あんたたちどこ行ってたのよ」
「あ、えーと、ちょっと用を足しに行ってたんだけど迷っちゃって……」
コロニーから戻り、変身を解除し駆け寄った私(と再び陽くんの姿に変身したルビィ)に智子が掛けてきた言葉に私はそう言って誤魔化す。
「相変わらずドジねあんたは。まあいいわ、ところであんたは見てた、シャイニーフェニックスの活躍ぶり! 正直あの映像じゃ何が起こってたのかあんまりよく分かんなかったけどさ、とにかく凄かったのよ、謎の敵を蹴散らしてコロニー救っちゃったりして!」
「うん、見てたよ、確かに凄かったね。私もドキドキしっぱなしだったよ」
捲し立ててくる智子に答える。
いや~、実際今回は本当に色んな意味でドキドキしっぱなしだった、初めて宇宙に行ったり新しい敵集団が出てきちゃったりロボットの軍団と戦ったり、あいつらのリーダーの――。
瞬間脳裏にディストがこちらに向かってウインクをしてくるイメージが思い浮かび私はぞわぞわと鳥肌を立てながら頭を振った。
「みう? どうかしたの?」
突然挙動不審になった私に智子が訝しげな視線を向けてくる、いけないいけない。私は慌てて笑顔を作り何でもないと首を振った。
「なんでもないなんでもない! とにかく、これで一件落着! 優姫さんも一彦さんが無事で安心――」
言いながら緊張から解放されたせいか気が抜けたようになっている優姫さんに視線をやったその時。
「さあてと、優姫。妙な事件のせいで中断させられちまったが、俺たちのデートの続きと行こうじゃないか」
そう言って廉也が優姫さんの肩を強引に抱き寄せたのだ!
ぐっ、この人は全く……!
「ちょ、ちょっと……」「あんたなぁ……」
文乃ちゃんと翔くんが慌てて制するも、廉也から睨まれてしまい口籠る。
「いい加減にしろっての、さっきも言っただろ? 大人の世界にガキが口突っ込むなってな。行くぜ優姫」
優姫さんは完全に諦めの境地なのかされるがままだ。そのままその場を後にしようとする二人だったけど――。
「待て!」
突如割って入る第三者の声。全員の視線がその出所に集まった。
信じられないものを見たと言わんばかりに優姫さんが大きく目を見開く。
私と陽くん以外の他のみんなも一様に驚きの表情を浮かべている。
「か、一彦……さん……!?」
優姫さんの口からその人物の名が呟かれた。そう、そこにいたのは誰あろう遠いコロニーにいるはずの有田一彦さんその人だったのだ!!
「ど、どうして、ここに……?」
「シャイニーフェニックスさんだよ」
訊ねる優姫さんに一彦さんは答える。
「シャイニーフェニックス……?」
「彼女から聞いたんだ、優姫のことをね。地球で寂しい思いをしてるって。そして、地球に連れてきてくれたんだ」
「つ、連れてきただって!? あのコロニーから地球までは片道でも半年はかかるのに……」
一彦さんの説明に翔くんが驚愕したように声を上げる。まあ、驚くのも無理はないよねぇ。実際私も出来るかどうかは未知数だったし……。
だけど、あのコロニーから帰るとき私は考えたの、このままじゃ優姫さんは廉也に……って。そしてそれをどうにか出来るのは一彦さんしかいないって。
だからルビィに聞いてみたんだ、一彦さんを地球まで連れてくることができるかって。そしたら、彼はこう答えてくれたんだ、小型ポッドに一彦さんを乗せてそれを私が発生させるバリアに包んで運んでくれば、10分も掛からずコロニーと地球を往復できるって。
そして一彦さんは今ここにいるというわけ。
さて、私に出来るのはここまで。後は一彦さんに任せるしかないんだけど……。
「ともかく優姫。寂しい思いをさせてごめん。僕は馬鹿だった、自分の夢にかまけ、君の優しさに甘えて、本当にごめん……」
そう言って優姫さんに向けて手を伸ばす一彦さん。しかし……。
「だ、ダメ……」
優姫さんはその手から逃れるように後ずさる。
「優姫? どうしたんだ?」
戸惑いの声を上げる一彦さん、そんな彼に対して優姫さんの口から衝撃の言葉が放たれた。
「もうダメなの、私、あなたを裏切ってしまった。私は、私は……廉也さんに体を預けてしまったのよ! 他の男性に抱かれてしまった私なんか、もうあなたに愛される資格なんてない……」
え、え、ええええええええええええ!? まさか、本当に……!? 騒動前に聞いた話からもしかしたらそうかも知れないとか思ったりもしてたけど、本当に……。
顔を両手で覆いながらポロポロと涙を零す優姫さんに私たちは言葉を失う。
「そ、そういうわけだぜ、《《元》》恋人さん。優姫は今は俺のものってわけだ、もうあんたの出る幕はねえんだよ」
勝ち誇ったような、しかしどこか焦ったような口調でそう言って廉也は優姫さんの肩を抱くと自分の方に引き寄せようとするがすぐに一彦さんによってその手が掴まれ押しとどめられ引きはがされる。
「えーと、廉也さんでしたっけ? すいませんけど、ちょっと黙っててくださいね。僕は優姫に確認したいことがあるんで」
有無を言わせぬ口調で一彦さんは廉也にそう言うと、今度は優姫さんの方に向き直り彼女に優しく語りかける。
「優姫、聞かせてくれないか? この人と一体何があったのか。ちゃんと、正確に、ね」
え……? ちょっと待って? これ私たちが聞いていい話なのかなぁ? このままじゃとんでもないこと聞いちゃいそうな気がするんだけど……。
私たちの戸惑いを他所に、優姫さんは小さくうなずくと語りだした。廉也と何があったのかを。基本的には私たちが聞いたのと同じ話だったんだけど、私たちには曖昧にされていた優姫さんが酔っ払ってしまい、一彦さんに会えない寂しさを廉也に吐露した夜へと話は移っていった。
「廉也さんは、優しかった、優しかったのよ……。だから、つい……彼の腕の中へ……そして、そして……彼は私をぎゅーっとしてくれて……。ああっ、なんてことをしてしまったの! 他の男の人に抱きしめられてしまうなんてぇ!! こんな汚れた私はもう一彦さんに愛される資格なんてないんだわ!!」
へ……?
ポカーンと私たち――一彦さん、優姫さん、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている廉也、そして多分何にも分かってないルビィこと陽くん以外の――全員の口が開いたままになる。
え? だ、抱かれたって、そういう……? いや、言葉としては間違ってないんだけど、ねぇ……。
「つまり、それだけだったってことかい?」
「それだけって何よ! 一彦さん以外の男の人に体を預けてしまったのよ! 私は!」
その返答にやれやれと一彦さんは頭を振る。
「まったく、優姫は相変わらずだなぁ。その様子だと、この人とはキスもしてないんだろ?」
「当たり前でしょ! キスなんてキスなんて……」
ポッと顔を赤くする優姫さん。
な、なるほど、読めたよ。優姫さんって、たぶんかなりの箱入り娘でめちゃくちゃ純粋なんだ、たぶん中一かつ子供っぽいと散々言われていた私よりもはるかに……。
一彦さんはそれを知っていたからこそ優姫さんの“廉也に抱かれた”発言にもあんまり動じずにいられたんだ。
「廉也さん、あなたも驚いたんじゃないですか? まあ、あなたにとっては都合がよかったのかもしれませんけど」
廉也に向けて小さく笑いながら訊ねる一彦さん、廉也は黙ったまま何も言おうとしない。
一彦さんは再び優姫さんに視線を戻し、諭すように優しく告げる。
「優姫、気にすることはないんだ。それは何もなかったのと同じことだからね。それに、仮に君が《《本当に彼に抱かれていたとしても》》僕はそんなことで君を嫌いになったりしはしない。だって君は僕の大切な人だから」
「一彦さん……」
優姫さんは目に涙を溜めながら何度も頷く。そんな彼女を優しく見つめる一彦さん。
あ、これって……。私は慌てて視線を逸らす。次の瞬間やけにはっきりと水分を含んだ音が耳に届いたのだった。
「んっんちゅっ、ぷはぁ。一彦さぁん♡」
って、ちょっとちょっとちょっと! 純粋な箱入り娘とはいったい何だったのよ! キス、しかも明らかにディープなやつかましてるし!
彷徨わせた視線の先では廉也ががっくりと肩を落としている、うん、まあ気持ちはわかるよ……。
「チッ、ゲットし損ねたか……まあいいや、俺も男だ、ここは潔く身を引くぜ。ヘッ、七夕祭りなんぞに来たのが運の尽きだったか、離れ離れの恋人が再会する日、か。まあいいさ、俺はまた新しい恋を探すぜ」
「廉也さん」
「何だよ?」
立ち去ろうとした廉也に一彦さんが声を掛ける。
「こんなこと言うのも変ですけど、ありがとうございます。あなたが優姫の寂しさを埋めていたのは事実ですから、それに、あなたは今まで強引に優姫に手を出すことはしなかった、そのことも……」
「はは、遊びだったらもっと早く手を出していたさ。でも、俺は本気で優姫に惚れていたんだ、だから彼女のことを大切にしたかった」
「そう……ですか……」
一彦さんはそう言って小さく頷く。そして、廉也さんは再び背を向けると片手をあげて最後に一言を告げる。
「じゃあな、もう二度と大事な彼女ほったらかしにすんじゃねーぞ」
そう言い残して廉也さんは去って行った。そして一彦さんと優姫さんも二人でどこかに向かっていく。
ふぅ、やれやれ、これで全てが丸く収まったって感じかな?
「ん? どうしたの、智子、文乃ちゃんも?」
息を吐く私だったけど、智子や文乃ちゃんがうっとりとした表情を私に向けていることに気付き首を傾げる。
「いや、あの二人いいなって思って。あたしも早くあんな関係になれる恋人が欲しいなぁ」
智子が羨ましそうに呟く。文乃ちゃんもコクコクと頷いている。そんな二人の様子に私は思わず苦笑する。
ドーン!
丁度その時、空に大きな花が咲いた。花火だ。なるほど、騒動で中断されていた花火の打ち上げが始まったんだ!
「わあ! 花火だ!」
「綺麗ね……」
智子と文乃ちゃんが目を輝かせながら空を見上げる。私も同じ気持ちだった、だって夏の夜空に咲く大輪の花はとても綺麗だったから。
「今年の七夕祭りは色々あったけど楽しかった、来年もまたみんなで来ようね! って、あれ? 翔くん、どしたの?」
言いながら翔くんの方に目を向けた私は、私の横で手を宙に彷徨わせている翔くんの姿を見て首を傾げる。
「あ、い、いや。なんでもないなんでもない! 気にしないでくれ。それはともかく、お前の言うとおりだ、来年もまた一緒に来ような」
「うん!」
翔くんの言葉に私は大きく頷く。そして再び空を見上げる。夜空に輝く花火はいつまでも私たちを魅了していた。
「くそっ、もう少しで肩を――」
ボソボソッと翔くんが何かを呟いたような気がしたけど、花火と歓声にかき消されそれは私の耳に届くことはなかった。
そして、祭りはお開きとなり私たちは各々家路についたのだった。
お読みいただきありがとうございました。
よろしければ、評価やブックマーク、感想お願いします。




