第101話 勝ったけどこれからあいつに付け狙われそう
「な、何……」
呟きが漏れる、その発信源はディストの口元からだった。
ここまでずっと余裕の表情を崩すことのなかった彼の驚愕の表情は痛快だったし、それは同時に私の勝利を確信させるものだった。
「ど、どういう、こと……」
翼で両目を覆っていたルビィが恐る恐ると言った感じで口を開く、と同時に職員さんたちもざわざわと騒ぎ出す。
彼らが困惑するのも無理もない、爆弾は確かに爆発したはずなのにみんな――爆弾に密着していた私も含めて――無事、部屋にも傷一つついていないのだから。
「バ、バリアは、外からの攻撃を防ぐけど、中から外へのエネルギーを防ぐことも出来る……。私のバリアで、爆弾を包み込んだの、結果爆発のエネルギーはバリアの中で全部、留まり、消失した……」
激しい息切れの中、私は説明した。
「そ、そんなことを……。だが、そんなことをすれば爆発のエネルギーの中に晒された君だって無事じゃ済まなかったはずだ! なのに……」
私は生きて、両の足で立っている。あり得ない、ディストがそう思うのも無理はなかった。
「た、確かに危険すぎる賭けだった。だけど、二つの幸運が重なったの」
「幸運? それは一体?」
訊ねてくるルビィに横目で視線をやってから、息を整えつつ私は答える。
「一つは、エクシードモードの発動。あれって発動させたとき金色に光るでしょ? あれは迸る生命エネルギーが具現化したものなのだけど、あれにも私の体を守る効果があるの。それが第二のバリアとなって爆弾の爆発から私を守ってくれたのよ」
バリアで爆弾を包み込んで爆発のエネルギーを外に漏らさないことでみんなを救う、この方法を考えた時私は自分の命を捨てる覚悟でそれを実行したのだけど、ギリギリでエクシードモードが発動してくれたおかげで私自身も九死に一生を得たのだ!
……衝撃はかなりのものだったし、今も全身が痛いけど死んじゃうのと比べればね……。
「そしてもう一つ、それはディスト、あなたのミスよ!」
私はビシッと彼に指を突きつける。
「ミスだって!? 僕が何をミスしたというんだ!!」
「爆弾の威力を抑え過ぎたということ。爆発で怪我をすることを恐れたあなたは自分のバリアで確実に防げるように爆弾の威力を調整していたんでしょ? あなたのこだわりが、心の中の死への恐怖が、結果的に私を救い、みんなを救うことに繋がったのよ!」
「う、うぐぅ……」
私の指摘にディストは呻き、悔し気に顔を歪める。
まあそれはそうだろう、あと一歩というところで成功するはずだった計画が、自分のつまらないこだわりと恐怖のせいで失敗してしまったんだから。
「他人の恐怖を弄んだあなたが自分の恐怖のせいで最後の詰めを誤る、皮肉な話ね。ともかく、私は勝った。見事あなたのコロニー爆破を阻止して見せたわ、潔く負けを認めて降参しなさい!」
詰め寄る私に、しかしディストは表情を戻し口元を歪める。
やっぱり、降参なんかはしないか……。さっきの爆発を防ぐのにかなりのエネルギーを使っちゃったし、きついけど、ここで負けるわけにはいかない!
そう思いつつ身構える私だったけど、ディストが次に口にしたのは意外な言葉だった。
「ははっ、あはははははは! いやぁ、凄い、凄いねぇ、本当に凄い、君は僕の想像をはるかに超えていたよ。わかった、認めよう、僕の負けだよ」
「え……」
ディストの意外な言葉に私は一瞬呆気に取られる。
そんな私の隙を突くかのようにディストは素早く手を伸ばし私の顎を掴んだ。
「な、何を……」
「君は素敵だ、容姿もさることながらその気高い精神、自分の命を捨ててでも他人を守るという強い意志、そしてあの絶望的な状況でも冷静に対応策を見出すことのできる聡明さ、本当に素晴らしい、ますます気に入ったよ」
「同じことを言わせないで、あなたにそんなことを言われても嬉しく――」
言い返そうとする私の言葉を遮るように、彼はぐいっと私を引き寄せる、え? ちょ、ちょっと……!?
「君こそ僕の探し求めていた運命の女の子だ、君こそ僕の理想の花嫁だ、さあ、僕と一つになろう」
あまりの展開に思わず硬直してしまう私……その間にも彼の端正な顔はどんどん近づいてくる……。
あ、まつ毛、長いんだ……それに肌もすごくきれい……って違う違う違う違う! 何を考えてんの私は!!
「いやあああっ!!」
後僅か5mm、唇が触れ合うまさにその直前、私はあらん限りの力を込めて両手を突き出し彼の体を突き飛ばす。
「うわっとっと……!」
声を上げて彼は吹っ飛ぶ、その隙に私は彼から距離を取り大きく息をした。あ、危なかった……もう少しで唇を奪われちゃうところだった。いくら美形であってもこんな最低最悪の奴に唇、しかもファーストキスをくれてやるなんて冗談じゃない!
「なななな、何考えてんの!?」
「ははは、惜しかったなぁ、もうちょっとだったのに……。だけどいいよその反応、さらに好きになったよ。あそこで僕に簡単に唇を許してしまうような子じゃあつまらないからね。君にはまだまだ楽しませてもらえそうだ」
「ふざけないで! もう絶対に許さないから!!」
怒りに震える私を前にディストは小さく肩を竦めるとパチンと指を鳴らす、すると彼の全身が黒い影に包まれ徐々にその姿が薄らいでいく……。
「シャイニーフェニックス、さっき言った通り僕の負けだよ、今回は、ね。だけど僕は諦めたりはしない、地球を必ず破壊する。ついでと言っちゃあなんだけど君の心も頂くよ。束の間の勝利をせいぜい楽しんでおくといいさ」
「ま、待ちなさい!!」
私が手を伸ばすもディストは完全に影に飲み込まれてしまい、その次の瞬間には完全に消えてしまう。
「それじゃまた会おう、愛しい恋人よ……」
最後にディストのそんな声だけが響き、そしてその声も完全に消え去った……。
「に、逃げられた……。それにしても、何なのあいつ……色んな意味で今まで遭遇した敵とは異質すぎる……」
プラネットブレイカーズのディスト……。宣言した以上あいつらはきっとまた何かを仕掛けてくるのだろう。
だけど、今度こそは絶対に負けないんだから! 絶対にあいつを倒してみせる!!
固い決意を胸に、私は拳をぐっと握りしめた。
「あ、あの……」
静かに闘志を燃やす私の背後から、おずおずと声がかかる。振り返ると、ディストが去ったためか、はたまた時間経過で弱まる仕組みだったのか、拘束力が弱まったロープから解放された職員さんたちの中の一人がこちらに向かって声をかけてきていた。有田一彦さんだ。
よかった、彼にも怪我一つ負わせることなく今回の事件を解決できて……これで優姫さんも悲しい思いをせずに済むよ。
「あの、シャイニーフェニックスさん、本当にありがとうございました。あなたのおかげで我々も、コロニーも助かりました」
そう言って深々と頭を下げる一彦さん。私は慌ててそれを制す。
「い、いえ、そんな……私は当然のことをしたまでで……それに皆さんが無事で本当に良かったです!」
ヒーローとして救った人からの感謝の言葉を受けるのは物凄く嬉しいのだけど、こう改めて正面切ってお礼を言われると照れ臭くてしょうがない、私は頭の後ろに手をやりながら照れ笑いを浮かべた。
ところでこの人たちってディストが私に、あんなことをしようとしてたの見てたんだろうか? だとしたらそれもそれで恥ずかしい……。
けどそれは置いとくとして……。
「ただ、ちょっと……私、コロニーに潜入する時にここの防衛システム壊しちゃって……ごめんなさい」
これだけはちゃんと言っておかなければならないと思い私はちょこんと頭を下げるも、一彦さんはいやいやと手を振りながら、「なんだその程度、些細なことです。お気になさらないでください」と言ってくれた。他の職員さんたちもうんうんと頷いている。
「そう言ってもらえると助かります」
良かった、これで心残りはなくなったよ。
さてと、いつまでもここにいても仕方ないし、そろそろ地球に戻ろうかな。あいつらがここをまた襲う可能性は0じゃないけど低いだろうし、まあまた襲われたらその時はその時、助けに駆け付ければいいだけだもんね!
ルビィに呼びかけると、まだちょっと呆然としていた彼はハッとしたようにこちらに飛んできて私の肩にちょこんと止まる。
そして、そのまま職員さんたちに別れを告げようとしたのだけど、ふとあることを思いつき私はルビィに訊ねてみた。
「ねぇ、ルビィ――」
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