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序2

 ウチが()()()で生きていた頃は、産廃系能力で異世界無双するようなお話が物凄く流行ってましてね。でも、実際にそんな状況に自分が置かれてみると、文字通り、身に染みて分かることがあります。


 あれね、物語の中だから都合のいいように行ってるだけ。いざ我が事となると、色々と混乱して、自分を俯瞰する余裕がなくなるんですよ。


 まず、この手の転生をした直ぐ後って、これまでの人生経験と相容れない新しい概念だったりが混じってくるので、それに慣れるようとしてアタフタしちゃう。例えば、元の世界には存在していなかった魔法だったり、生き物と面と向かって野蛮な戦闘を繰り広げることになったり。


 ウチみたいに不器用な人間だと、まずはそこに時間が掛かる。


 そうなってくると、転生の時にどれだけ便利そうな能力を貰っても、仕様把握に手を割いてる場合じゃなくなってくるわけで。というかウチの場合、『仕様把握するにしても、どこをどうやって確認すればいいのやら……』って感じで途方に暮れることになってしまった。

 天才的な発想力もないので、表面的な能力すらも持て余す次第。うーん。


 結局ね、異世界の現地人たちが強い強い言ってるような、『汎用』のスキルや魔法みたいなのがいっちゃん使いやすいですよ。使いやすいからこそ『汎用』なわけですから。いくら転生前の知識があると言っても、ウチみたいに余裕がないやつは結局、汎用に頼らざるを得ないわけで。



 開幕から愚痴たれちゃってすいませんね。


 アランと言います。


 生前はアラニシって名前だったんだけど、こっちの世界の人たちが何故か『ニシ』を上手く発音できずに『ン・イーシー』みたいな妙な区切り方してくるもんですから、今はアラン・E. C.と名乗ってます。


 何故、異世界にアルファベットがあるのか? 実際にはアルファベットが使われてるわけじゃないんですけど、地球言語の文章に書き起こすうえでの便宜上ってやつです。


 ちなみに、アラニシは漢字で『荒磯の()』に『巻貝を意味する()』と書きます。

 ご先祖様に海人(あま)さんがいたのが由来って聞いてますけど、この時代ですから両親ともに会社人。親戚にも漁師さんは居ないみたいです。

 ウチ自身もとりわけ海に愛着があるわけでもなく、進学先も海とは関係のない、文系に進むつもりでした。



 それはどうでもいいとして、華と汗と友情努力勝利な青春が終わり、戦争と名が付くほどに熾烈な受験に魂をかけた3年生の冬。


 視力が落ちるほど勉強したにもかかわらず、私の努力が報われることはなかった。


 これが『第一志望校の不合格』とかならまだ救いようがあったんですよ。そこそこの滑り止めに受かってたし。いや、両親への負担を考えると良くはないんだけど。


 問題はね、滑り止めにすら通えなくなっちゃったってことなのね。

 ええ、なんか死にました。


 死ぬ前の記憶がないのは当たり前だけど、死ぬような心当たりもなくて。

 健康診断だってちょっと血圧が低いぐらいで他はザ・健康体って感じだったし、持病と呼べる持病の類も持ってないはず。


 強いて言うなら……痔? 勉強のために座ってる時間が長くてケツがあんまりよろしくなかったということぐらい。


 なりかけの痔で死ぬことってある? よっぽど悪化しなければないと思いたいけど。


 まあ、苦痛を感じる間もなく死んだってことで、きっと眠るように死んだのだろうとは思うんですけどね。本人に苦しみが無かったならよかった。


 なんで他人事なんだというのはおいといて、問題はここからです。


 来世、ありました。


 厳密には来世と呼ぶべきじゃないかもしれないけど。というのも、転生担当みたいな女神さまは、ウチが神のサイコロか何かで偶然転生することに決まった、みたいな感じの事を仄めかしてまして。

 みんながみんな転生するわけじゃないのなら、宗教観的な『来世』とはまた別の話なのかもしれない……?


 その辺の事はよくわかんないのでスルーしますけど、ともかく、女神さまの粋な計らいにより、死ぬ前に生きてた世界とは別の世界線にある異世界へと転生することになったワケです。

しかも、この手の作品にありがちな、死ぬ前よりも優秀な体や能力のオマケ付き! なんかスキル的な能力(やつ)をこっちで選ばせてくれるそうで。大盤振る舞いですねー。


 というわけで、調子に乗って他の転生者たちにあんまり人気がないという『開花』なる能力を選んじゃって、サブウェポンに使い勝手が良さそうな『剣技の能力』も貰って、いざ新天地へ!

 一見すれば使いづらそうな『開花』も、場所が変わればチート級のうまい使い方を思いつくでしょ!


 そう思っていたのも束の間、結果は冒頭の愚痴に繋がるわけです。



 ウチは今、数ある地下迷宮の1つ、『ターバンシェル地下迷宮』の近くに建てられた迷宮都市で生活をしています。


 都市の総人口はだいたい4万人ぐらい。わりと新しめの都市ではありますけど、面積の割には栄えてる方だと思います。


 開発前の元々が密林の奥の方だったらしく、周囲の他都市とのアクセスに難があるのがネック。大都市の新商品が回って来るのが遅いし、生の海産物なんかはまずお目にかかれない。


 あと、住民の殆どが“探索者”とか、迷宮産の物資を扱う商人とかばっかり。つまり、迷宮に関する仕事をしている人たちとその家族のための都市。


 やっぱり探索者ってね、荒っぽい人が多くて怖いんですよ。


 かくいうウチも探索者なんだけど、女だからかめっちゃナメられるんですよね。だから、身の安全も考えて信用できる同業者の人たちと組んで行動するようにしてる。

 というか、たぶん女性探索者はみんなそうしてるでしょうね。


 あ。

 たぶん字面から想像が付くと思いますけど、“探索者”っていうのは迷宮に潜って物資やらを集める、いわばトレジャーハンターのことです。


 これでもけっこうちゃんとした仕事で、国から認定される資格なしに名乗ろうとすると詐称扱いで、軽くて罰金、重くて懲役刑が下るほどなんだとか。


 これまたご想像通りだと思うんですけど、この探索者って仕事、資格者の能力によって等級分けされてるんですよね。ほら、某ゲームの狩人にランクがあったりするような感じ。お約束ですね。

 9段階あるうち、一番下の研修生が第9等で、一番上が第1等。それぞれの等級で潜れる階層の深さが決められてます。


 例えば、ウチは今のところ第4等ですんで、単身(ソロ)なら15階層まで進むことが出来ます。

 もしもウチの他に3人以上の第4等探索者が同行するか、第3等以上の探索者が1人以上同行する場合は、安定性が高くなるのでそれよりもさらに5階層深くの20階層まで潜れるようになります。


 こんな感じですね。


 ちなみに余談ですが、一番人口が多いのは第5等級資格者だと聞いたことがあります。

 実力的な理由でこうなってるのもありますけど、第5等級まで取っておけば同行者次第で15階層まで潜れるというのがいっちゃん大事らしいです。というのも、15階層まで潜れたら、それなりに良い企業のサラリーマンぐらいの生活を送れるから。


 ウチはいちおう第4等なので平均よりは上なんですけど、チート能力で無双するつもりだったわりにはショボいと言われるような感じに落ち着きました。理由を言うと愚痴の続きになるので止めますけど。


 ともかく、ウチが第4等級探索者のアランだということだけ覚えていっていただければ問題はないです。


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