流れ星が落ちたらね
「流れ星が落ちたらね、お願いごとをしたらいけないんだよ」
青いかさの女の子がいいました。赤いかさの女の子が首をひねりました。
「どうして?」
赤いかさの女の子の目は、きらきらと輝いています。青いかさの女の子は、その目をさけるようにうつむいてから、答えました。
「流れ星が落ちるのはね、だれかが泣いちゃったから、悲しんでいるからだよって、ママがいってたの。だから、お願いごとをしたらいけないんだよ」
青いかさの女の子は、今にも泣きそうな顔をしています。赤いかさの女の子は、きらきらする目をゆっくりと細めて、首を横にふりました。
「それは違うよ」
青いかさの女の子が顔をあげました。赤いかさの女の子が、まぶしい笑顔で続けました。
「流れ星が落ちたらね、お願いごとをしてもいいんだよ」
赤いかさの女の子がいいました。青いかさの女の子が首をぶんぶんとふりました。
「違うもん!」
「違わないよ。だって流れ星が落ちるのはね、お星さまが、わたしたちに幸せを届けにきてくれるからだって、ママがいってたの。だから、お願いごとをしていいんだよ。幸せを届けてくださいって、お願いしていいんだよ」
青いかさの子の足が止まりました。そこは、青いかさの子のおうちの前でした。今日で引っ越すのです。
「……さよなら」
「またね」
青いかさは閉じられて、赤いかさは開いたままでした。
それからどのくらい時間がたったのでしょうか。赤いかさの女の子も、青いかさの女の子も、かさは変えても、その色は変えずに大人になりました。ですが、赤いかさは閉じられて、青いかさはよく開くようになっていました。
そしてある雨の日に、久しぶりに赤いかさが開かれました。高いビルの屋上でした。
「……もう、疲れたわ」
赤いかさの女の子は、雨が降っているのに、かさを閉じました。そして屋上の柵に向かって歩き出すと、その手をだれかに捕まれたのです。
「えっ?」
「だめっ!」
赤いかさの女の子は、その女性が誰なのかわかりませんでした。ただ、手に持っていた青いかさと、びしょぬれになった事務服を見て、ハッと顔をあげました。
「あなたは……」
その女性、青いかさの女の子は、空を指さしました。赤いかさの女の子も、つられて空を見あげます。
「雲が、きれてる……」
雨が降っているはずなのに、指さしたところだけ、雲間から夜空が見えています。青いかさの女の子は、目をきらきらさせて赤いかさの女の子を見つめました。
「あの雲間から、流れ星がこのビルに落ちてきたの。本当よ。だからわたし、ずっと前にあなたと話したことを思い出したの。……あなたが、泣いていると思ったから、だから急いでここに来たの」
青いかさの女の子は、青いかさを置いて、両手で赤いかさの女の子の手を包みました。
「……泣かないで。わたし、お願いごとをするから。あなたが幸せになるって、お願いごとをするから。……だから、泣かないで」
赤いかさの女の子は、しばらく固まっていましたが、やがてふふっと笑いました。その目には、あのころと同じ、きらきらした光が戻っていました。
「やっぱり、ママは正しかったわ」
「わたしのママ?」
「ううん、わたしのママ。だって、流れ星が落ちたら、あなたが来てくれたもの。流れ星が落ちるのはね、お星さまが、わたしたちに幸せを届けにきてくれるからだって、ママがいっていたから。だから、あなたが幸せを届けてくれた。そうでしょう?」
青いかさの女の子は、にっこりと笑いました。ふと空を見あげると、いつの間にか空は晴れていて、たくさんの流れ星が夜空を踊っていたのです。二人は一緒にお願いごとをしました。二人とも同じお願いごとでした。
――あなたが、幸せになりますように――
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