小柄な男
クサブキが鬼に変わってしまったとき、俺たちは、「不死の盟約」を結んだーー。鬼を追う者と、その周辺の者達。結界の外側から見た、もうひとつの物語。
時間というのは不思議なものだ。1000年もの年月を経ると、絶対に変えようがないと思った事実でさえ、人々の記憶の中では、ずいぶんと変わった形に塗り替えられる。
それを俺ほど体現している者はいないだろう。
俺の名は、碓氷貞光。平安時代の妖狩り、頼光四天王の一員だ。
伝承によると、俺は、身長2mを超える大男だった、ということになっている。実際の俺は、ご覧の通り、4人の仲間の内では、一番背丈が低い。
どうしてここまで話が変わるのかはよく分からないが、まあ正直、それはどうでもいい。
俺が一番驚いたのは、俺たち頼光四天王の功績とされている、大江山の鬼退治の話だ。現代では勧善懲悪の鬼退治の成功物語となっているが、はっきり言って、あの討伐は、失敗だった。
確かに、毒酒を飲ませて寝首を掻き、大江山の鬼どもの頭領であった酒呑童子の首は落とした。だが、その直後、だまし討ちに怒った俺たちのもと仲間、茨――鬼としての名を茨木童子――が、完全に闇落ちし、奴によって討伐隊はほぼ壊滅状態まで殺しつくされた。
何とか逃げ帰った俺たちを待っていたのは、キツイお仕置きだった。
俺は、茨をうまくまるめ込めなかった咎により、有無を言わさず「不死の盟約」を結ばされた。失敗の後始末をつけるまで、その魂は漂い続けるか生まれ変わり続けるかして、その責務を逃れることが許されないという盟約だ。
魂での漂流と永遠の転生とどちらが良いかと究極の選択を迫られ、俺は、魂での漂流を選んだ。単純に、生まれ変わった身体を鍛えなおすのが、ダルかった。
もともと、俺は四天王の中で、特にお調子者で、逆に言えば柔軟でストレスに強い性格をしていると思っていた。その俺でも、まあ、1000年の流転はなかなかに堪えた。転生を繰り返して赤ん坊からやり直す方が、少なくともひと時は、初めの人生の記憶を忘れていられる。そちらを選んでおいた方が良かったかな、俺は時々後悔した。
唯一、良かったと思ったのは、霊体であることで、重力の縛りから抜け出ることができたことだ。少なくとも俺は、空を飛べることで、生前よりは強くなった。
1000年の時を経て、ようやく、俺たちには再集合がかかった。
それが楽しい仕事ではないであろうことは分かっていたが、それでも俺は、心底、ほっとした。
*
頼光四天王。
俺は、今まさに決戦の場に臨まんとする、仲間たちを眺める。
四天王筆頭は、渡辺綱。圧倒的な剣術の力を誇る。
現世での彼は、気取らないジーパン姿で、剣を持たせなければ、本当にどこにでもいそうな青年だった。4人の中で、一番遅く生まれており、自然に、見た目も一番若い。寡黙なところは、昔から変わらない。
弓の名手、卜部季武。
彼は、なぜか、ジャケパン姿に革靴という、この場には違和感しかないおしゃれな格好をしていた。とにかくマイペースで、空気を読まない合理的な発言を得意とする。
大柄な男、坂田金時。
重量級、力持ち。昔話の金太郎の、成人した姿だ。基本的に、いつもにこにこしている。現世では、常にジャージだ。
そして、俺こと、碓氷貞光。1000年前と同じ平安装束の、小柄な男。機動力が取り柄の、お調子者だ。
俺たちは、2021年11月19日、筑波山の山中に集結していた。1000年前に犯した失敗の、後始末をつけるために。




