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月ごよみ隠れ里奇譚  作者:
正伝 鬼と贄

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神無月 満月 暁の光

「あまね」


 クサブキさんが、そっと私を揺り起こす。私は、身の内の重怠さを引きずりながら、ようやっと瞼を開いた。


「……もうすぐ、夜が明ける。万一のために、衣を纏っておいた方がいい」


 クサブキさんが、私にそっと、服をかぶせる。私は必死に頭を振って、眠気を払おうとするが、瞼はすぐに落ちてくる。体がうまく、動かない。袖を通そうとしてもがく私の腕を、クサブキさんが優しく押さえた。


「すまない……昨夜は、無理をさせたな」

 つぶやくと、クサブキさんは掛け布で私をくるみ、かぶさるように私を抱き込んだ。


「……もう今更いまさら、衣のあるなしなど、些末さまつなことだな」

 少し苦い声で笑うと、そのまま、ゆっくりあやすように、私を揺らしてささやく。


「ゆっくりおやすみ」


 閉じかけた私の目に、暗い空に暁の光が差しはじめるのが見えた。

 クサブキさんの身体が固くなり、私を抱く腕の力が強くなる。

 彼の腕の感触が、変わらずそこにあるのを感じながら、私はゆっくりと、眠りに落ちて行く。

 まどろみの中、瞼を通して、光が増していく。私はまだ、彼の腕の中にいる。

 やがて、クサブキさんの腕の力が緩む。彼の、長い吐息が聞こえた。



 結界内は、太陽の光がある間は、外の世界と変わらないように見える。

 日の光からの熱の伝わり具合や風の強さ、雨のあるなしなどが、壁の内外でだいぶ違うようだが、風景の明るさや色調は、見た目にはほとんど、変わりがない。

 私にとっては、その光景はすがすがしくうれしいものなのだが、鬼になって千余年のクサブキさんは、昼間の明るい世界が苦手なようだった。


 それでも、今、彼は降り注ぐの光の下、私を抱き上げて、動物たちの住処すみかをゆっくりとめぐり、彼らと戯れる私を目を細めてじっと見つめている。


 契りを交わした夜から、クサブキさんは片時も私を離してくれなくなった。

 物のたとえではなく、常に私に触れていないと、気が済まないようなのだ。

 

 私が動こうとすると、あっという間に抱き上げられる。私は一歩も歩けない。

 食事をしようとすれば、私の箸を取り上げて、一口一口、口元に運んでくる。

 お風呂を沸かしてもらったら、私の体から髪から、洗おうとするのにはさすがに閉口した。

 彼は、私が眠っている間も、私から目を離さず、一睡もしていない様子だった。


「鬼は、数日眠らないなど、普通のことだ」

 何でもないように彼は言うが、その顔は、明らかに青白い。


 正直、私は困惑していた。

 ただ、彼がここまで執着するのは、私たちが離れ離れになっていた2か月半の、彼の心の傷みが原因なのは、明らかだった。


「こやつらがいなかったら、気が触れていただろうな」


 膝の上のうさぎをなでながら彼がつぶやいたとき、私は、なんとか彼の心を慰めようと決心した。


 恥ずかしさを押し殺して、私は、彼がしたがることは、何でも受け入れた。

 5日程して、彼が壁にもたれてうたたねをしたとき、私は心底、安心した。


 やがて飛び起きた彼の目の前で、私は彼の手を握り微笑んで見せる。

 彼は長く息を吐き、照れくさそうに微笑んだ。

 そして、それから彼は、ゆっくり、以前の彼に戻って行った。



 覚悟はしていたことだったけれど、この結界の中での、私たちの夫婦としての静かな生活は、ひと月足らずしか続かなかった。


 11月の満月の夜、私たちは、招かざる客人たちを迎えた。


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