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月ごよみ隠れ里奇譚  作者:
正伝 鬼と贄

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葉月  朔  ましろを作る

 人間の器用さというものには、足のはやさとか、歌のうまさとかと同じように、生まれつきの素質のようなものがあるのだろうか。


 私は、自分の前に積みあがっていく白い塊を眺めながら、らちもないことを考える。


「アマネ殿。あなたの腕前は、その、……なかなかですな」

 クサブキさんは、どうにも言い方に困った、という顔をしている。


 8月の新月の夜、私たちは、洗いあがったアルパカの毛を前に、チクチクと針作業をしていた。


 ニードルフェルトというのは、ふわふわの羊毛を専用の針で刺し固めて、動物などの形を自由に作れる、手芸の一種だ。

 私は、その基本の手技や見本などを情報収集し、二人分の基本的な道具をそろえて、この日を迎えていた。


 イメージは、完璧だったのだ。

 しかし。


 私の前に積みあがっていくのは、不格好な白い球体。

 基本のフェルトボール、なるものを、まともに丸く作ることができず、私は悪戦苦闘していた。


 隣で静かに作業を進めているクサブキさんの手元を見て、私は仰天する。

 アルパカがいる。

 確かに、ニードルフェルトでのアルパカの作り方のHPも、プリントアウトはしていた。可愛すぎて、スルー出来なかったのだ。

 しかし、これは、初心者がホイホイ作れる類のものなのだろうか。

 私は、彼がてのひらに乗せてしげしげと眺めているかわいらしすぎる作品を見て思う。


 あまりにも、天の与えた才のバランスが、不公平すぎるのではないだろうか。

 それとも、彼は、鬼である利点を生かして、人外の術でも使ったのだろうか。

 思考がどんどん卑屈になっていく。


「ましろの毛で、ましろを作る。いとおかし」

 クサブキさんは、何やらつぶやいている。

 彼が、アルパカにも、名前を付けていることは、初めて知った。ましろちゃん。可愛い名前だ。


「……アマネ殿。これは、お月見の時に、飾りましょう」

 いつの間にか、私の刺し損じのいびつな白い球たちをきれいに整え、月見団子のように積み上げて、クサブキさんは微笑む。

 

 その一つがちょいちょいと加工され、白うさぎが生み出され、私の掌に乗せられたとき、私は敗北を認めた。


 仕方がない。私は、鑑賞係に徹しよう。

 ひそかに、心に誓う。



 調べるまで知らなかったのだが、中秋の名月、とは、必ずしも満月を指すわけではないらしい。旧暦8月15日に見える月のことを言い、満月一歩手前の月のことが多いそうだ。

 しかし、今年の中秋の名月は、ちょうど満月なのだ。8年ぶりのことらしい。

 大げさだが、運命的なものすら感じ、私はワクワクする。

 これが『宴』を開かずに、いられようか。


「……越しでない月を、楽しみたいですか。どこかに船を、出しましょうか」

 

 クサブキさんの真剣な提案に、私は思わず笑ってしまう。

 平安時代のお月見は、船を出して水面に映った月を楽しむのが流儀だった、とはきくけれど。


「クサブキさん。……あんまり、無理を、しないでください」


 彼は軽く首をかしげた。あまり、自覚は、ないらしい。

 私と出会ってから、彼はすでに2回も、結界を抜け出ている。1000年間、1度も出なかった結界を。

 

 彼は、身を賭して、私に歓びを与えようとする。

 彼は、私に何も、尋ねない。


(クサブキさん。私は、あなたに、お話しなければならないことが、あるのです)


 私は、無心に毛の玉に針を刺す彼の背中に、胸の中でつぶやく。

 次の満月の夜に、私がここに留まれない理由を、彼に話そう。私はそう、決めていた。


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