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月ごよみ隠れ里奇譚  作者:
正伝 鬼と贄

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皐月  満月 スーパームーン

『つぎのまんげつ そとへいずるつもりなり みじたく ねがう』


 今年の5月の満月は、「スーパームーン皆既月食」が見られるらしい。

 少し前に、クサブキさんにはそんな話をしていた。彼は何か考えている様子だったが、再度の結界破りを決行することにしたらしい。


 前回の逢瀬で、彼が結界内に留まっている理由を聞かされた私は、少し不安になる。

 こんなに度々外に出てしまって、その、昔の同僚たちに見つかったりしないのだろうか。

 でも、前回、結界を出た時の彼のテンションを考えると、止めても無駄なような気がする。



「月の蝕は、終わってしまったようです」


 出迎えてくれたクサブキさんのテンションが意外と低かったので、どうしたのかと思ったら、そういうことだった。

 今回の月食は、月の出から夜の10時ごろまで、だったらしい。

 しょんぼりしている様子に、胸が痛む。どちらかというと、私の調査不足だったのに。


「クサブキさん。私、一緒に見に行きたいものがあるんです」

 私はクサブキさんの手を取る。

 


「……夜の海は、不思議ですね」


 クサブキさんに手を取られて、海沿いをゆっくりと飛びながら、私はつぶやく。


「何ででしょう、ものすごく、怖いです」


 クサブキさんは黙って、少し強く私の手を握る。

 

 結界を抜けて、アジサイで有名な海沿いの街に来ていたが、少し時期が早かったようだ。ぽつぽつと咲いている株もあったが、私が憧れていた光景は見られなかった。

 それでも、クサブキさんと飛ぶ夜の空は気持ちがいい。


「……雲の上に行きましょう。『すーぱーむーん』が、見られるでしょう」


 クサブキさんが私を抱きかかえ、上昇を始める。

 空気が薄くなることを考えてか、ゆっくりと飛んでくれているようだ。

 しばらくして雲の中に入り、私には方向感覚も分からなくなる。



 雲を抜けた先には、息を飲むような光景が広がっていた。


 眼下に雲が海のように広がり、その上に、ぽっかりと月が浮かんでいる。

 普段よりも大きいというそれは、眼前に正面から迫り、冴えた光を放っている。


「……きれい」

 思わず、私はつぶやく。


「壁越しでない月は、何年ぶりかな」

 クサブキさんのつぶやき。


 そのまましばらく、私たちは黙って、その壮麗な眺めを堪能する。

 少し、強い風が吹いていた。私の髪が、弄ばれるように舞い上がる。


「アマネ殿、寒くはないですか」


 私を横抱きにしていたクサブキさんが、私の顔をのぞき込む。

 月明かりに浮かび上がるその美しい面差しに、私は思わず見惚れる。

 クサブキさんの瞳が、微かに細まる。

 わずかにひそめられた眉。少し苦し気なその表情に、私の胸も苦しくなる。


 やがてゆっくりと、彼の瞳が近づいてくる。

 

 私は目を閉じ、彼の優しい唇が、初めて私に触れるのを感じていた。


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