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宝箱の中身



 小さな宝箱(チェスト)の中には更に小さな小瓶が収められていた。

 霊薬ポーションだ。

 

「ねえ、これって……!」


 リズが声を弾ませている。それもそのはず、一見しただけで上等なものだとわかるこの霊薬は、私たちがダンジョン探索をしている理由のひとつなのだった。


「シーラ、どうだ?」

「うん。このレベルの霊薬ならブルックも治癒すると思う」


 フィオナの短い問いに私は所感を述べた。フィオナの表情が明るくなる。いつも真一文字に引き締められた口元も微かにほころんでいた。


「ブルック? 他にも仲間がおったのじゃな」

「あ……」


 エンズの声を聞いて、私はふと我に返った。喜んでばかりもいられない。この霊薬の所有権についてエンズに相談しなければならない。ローパーを倒したのも宝箱を見つけたのもエンズなのだから。宝箱を開けたのはリズだけど、言ってしまえば開けただけ。


「あのー……、エンズさん」

「なんじゃな?」

「お察しの通り、私たちにはもうひとり仲間がいて、その子は重傷を負っているんです。治療のために私たちにはこの霊薬がどうしても必要なんです」


 事情を説明しながら頭の片隅でこんな与太話を聞いてはいそうですかと言うわけがないと、私は思っていた。


 上霊薬(ハイポーション)でも銀貨10枚以上の値段は付くんだ。この霊薬はたぶん高位霊薬(エクスポーション)だろうから最低でも金貨1枚の価値はある。金貨1枚といえば一般人が一年間普通に暮らせるくらいの金額。冒険者であってもそう簡単に得られる収入じゃない。それを譲ってほしいなんていうのは到底受け入れられる話じゃない。


「だから、その、私たちに――」

「構わぬ」

「――譲っていただけませんか……って、はい?」

「構わぬと言うた」


 私の聞き間違いかと思ったら聞き間違いではなかった。

 エンズはいともあっさりと私たちに霊薬を譲ってくれた。


「貴公らに必要なものなら貴公らが持ってゆくがよい。我には不要であるしな」


 なんのてらいもない態度にこっちの方が妙に焦ってしまう。


「い、いいんですか?」

「なんじゃ? 要らんのか?」

「いいい要りますけど! この霊薬、安くないんですよ!?」


 何を言ってるんだ私は。黙って受け取ればいいのに。

 私の馬鹿みたいな台詞に、エンズはクク、と笑った。とても、愉快そうに。


「我は銭金(ゼニカネ)には困っておらぬのでな」

「あ、ありがとうございます!」

「ございます!!」


 私とリズは思いきり頭を下げた。


「……本当にいいのか? 金なら、代金には足りないだろうが可能な限り払うぞ」

「揃いも揃って生真面目じゃな。金は要らぬよ」


 フィオナの申し出にもエンズは首を横に振った。この子は一体何の目的でダンジョンに潜っているんだろうか。お金に困ってないっていうし。武者修行、とか?


「しかし」

「では、次に剣が出たらそれを貰うとしようかの」


 まだ食い下がるフィオナにエンズは悪戯っぽく微笑んだ。フィオナも珍しく破顔した。ふたりしてはちゃめちゃに可愛い笑顔だったけど、一瞬後にはふたりともすんっ、と無表情になった。なんなのこの子たち。


 そんなふたりを見て私とリズもちょっと笑った。


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