はじめてのダンジョン探索
ダンジョンの緩やかな坂道――既に大勢の冒険者たちに踏み固められていた――を下っていく。《灯火》が真っ暗な闇を照らしているし、歩くのには支障はない。僕の先を進むエンズの黒髪が魔法の光を浴びてキラキラ輝いて見えた。
「我が主よ」
「なに?」
エンズが肩越しにちらりと振り返ってくる。
「今更の話じゃがな、やはりあの眼鏡女も連れてきた方がよかったのではないか? アレの知識はなかなかのものじゃろ」
「ダンジョンは危険地帯なんだよ? 未帰還者続出で何がどうなってるかもわからないのに宮廷魔術師を連れてこれるわけないじゃないか」
そう思ったのでローザからはダンジョン探索のコツを聞き出している。
そう、僕とエンズは件の新規ダンジョンを訪れていた。
「いや、国王自らダンジョンに潜る方が遥かに駄目じゃろ」
半眼で睨んでくるエンズに僕は肩をすくめてみせた。
「そうかなあ? エンズだって僕が行くことが最善手だと思ってたでしょ?」
「思っとらんのじゃが? じゃが!?」
「えぇー……」
「なぁにが『えぇー』じゃ! 我は止めたであろうが!」
「でも最終的にはオーケーしたじゃないか」
「我が主が譲らんからじゃろ! 自分より適任はいないとか宣って! 我が主は宰相の小僧がどんな顔しておったか覚えておるか!?」
「あ、うん。ものすごい顔してたよね。呆れるのを通り越すとあんな顔になるんだな、って思った」
怒りと諦め、不快と妥協、それらに悲しみに似たナニかを混ぜ合わせたようなえもいわれぬザイードの表情を思い出し、そっと記憶の底に封印した。なんとなく申し訳ない気持ちになるのでなるべく忘れていたいのだ。
「僕にはほら、エンズがいるし、〈王の器〉もあるから、ダンジョン探索には一番向いていると思うんだよね」
「フン。我の名を先に出した点だけは評価してやらんでもない」
とかやっているうちに坂道が終わった。
ここからがダンジョンの地下第一層、というわけだ。
「で、本当に行くのじゃな。今ならまだ引き返せるが?」
僕は技能目録から「クラス:野伏」を有効化した。《灯火》が消え、闇が濃くなるのと同時に、
《暗視》
《罠感知》
《敵察知》
《忍び足》
スキルを連続で発動。
ダンジョン探索時にスキルを惜しむな、というのはローザの教えだった。
「エンズは視えてる?」
「ハッ」
当然、という顔をしているのが闇の中でも見通せる。
はじめてのダンジョン探索。不安よりは好奇心の方が勝っている。
「それじゃ、行ってみようか」




