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召喚円



 魔導書庫は片付けをしないと話をするのも覚束ないほどぐちゃぐちゃにとっ散らかっていた。そんなわけで僕らは崩れた本や紙束を隅の方に寄せてスペースの確保にいそしむことになった。


「おししょうさま、かたづけは毎日キチンとしましょう」

「いやー、没頭すると忘れてしまうんですよね」

「でしたら、どなたかそうじ係を入れますか?」

「それはやめとこーよ、シャルロットくん。貴重な文献を素人に触られて何かあっては困りますからね」

「きちょう……?」


 シャルロットが眉をひそめた。見渡す限り散らばる書物はどう控えめに評価しても貴重品としての扱いを受けてはいない。


「大切なものなのでしたらこんなめちゃくちゃに散らかさないでください」

「はぁーい」


 やりとりだけ聞いてると、どっちが年上かわかんないな。


 魔導書庫には応接用の椅子やテーブルなんて気の利いたものはなく、あるのは粗末なデスクだけ。そのデスクも本と書物で埋め尽くされていて書き物なんかは絶対にできそうになかった。


 僕たちは堆積した書物や本をどけて床面の発掘に成功し、辛うじて全員が座れるスペースを確保、そこに車座になった。順番は僕、エンズ、シャルロット、ローザでぐるりと一周する形。ローザの隣をエンズが頑なに拒否したのでこの並びになったのだ。


「さて、眼鏡女に頼みたい用件についてじゃが」

「ローザって呼んでいーですよ」

「眼鏡女に頼みたい用件はふたつあるのじゃ」


 あ、無視した。エンズは平坦な発音で用件のみを伝える。


「ひとつは“深き森”に召喚円(サークル)を設置しおった術者バカの特定。できるかの?」

「あんな森に召喚円(そんなの)があったんですか?」

「あったのじゃ。……それより、我が問いにさっさと答えよ。できるか否か」

「現物を見ないことにはどーとも言えないですねぇ」

「あの、現物は壊しちゃったんですけど」


 僕が手を挙げて申告すると、ローザは対面に位置するエンズから視線をこちらにぐいっと移した。眼鏡の奥の気だるげな瞳に僅かな光が灯ったような気がした。


「壊しちゃったってえらく簡単に言いますねー。誰が召喚円を破壊したんです?」

「僕が、ですけど……」

「どーやってですか?」

「《召喚円破砕(サークルクラッシュ)》を使って」

「サークラを使えるんですか、アルベルトくん」

「はい」


 変な略し方だなあ、と思いつつ僕は頷いた。


「――おい眼鏡女。我が主をくん付けで呼ぶのはやめよ」


 エンズがさっきまでとは打って変わって剣呑な声音でローザ噛みついた。こういうところにエンズはひどくこだわる。


 物理的な圧さえ感じさせる神剣の殺気を浴びせられてなお、宮廷魔術師の態度は全く変わらなかった。緩いのか、鈍いのか。


「僕は構わないけど」

「我が構うのじゃ」

「いーですねー。私もアルベルトくんみたいに魔剣ちゃんに慕われたいですねぇ」


 ローザが僕たちのやりとりを羨ましそうに指を咥えて見ている。


「誰が魔剣ちゃんじゃ、無礼者めが!!」

「エンズオブエデンちゃんじゃー長くないです?」

「エンズ様と呼べ」

「エンズちゃん様」

「このっ……!」


 エンズがいいように振り回されてる。これも新鮮な光景だ。


「エンズもおししょうさまもケンカなさらないでください。おはなしが逸れてしまっています」


 流石に見かねたシャルロットが軌道修正を図ってくれた。

 僕の天使は可愛いだけじゃなく賢いなあ。

 天使の仲裁でふたりは一時休戦。

 ローザは軽く咳ばらいをして、


「――話を戻すと、アルベルトくんはサークラで召喚円を破壊した、と」

「あ、はい」

「では、破壊された召喚円はもう原形留めてないですよね」

「あっ、召喚円自体は覚えてますよ」


 覚えているというか、汎用スキル《複製(コピー)》が自動発動している状態で《《視た》》からだ。〈王の器〉が便利すぎてヤバい。


「…………アルベルトくんの才能、見誤ってましたね」


 そう言ったローザの表情は好奇心が溢れ出してビカビカ光っているみたいだった。彼女興味はエンズから僕に移ったらしい。見誤ってるも何も〈王の器〉を継承する(ついこの前)まで才能なんてものに縁の無かった僕なのだ。ローザの眼力は確かだ。


「覚えているとゆー召喚円、書いてみてもらえます?」

「あっはい」


 ローザは書庫の隅に這いずるように移動してなにやらごそごそしはじめた。


 何をしてるのかわからないけど召喚円を書けと言われたので僕は「クラス:大召喚術師(グランドサモナー)」を有効化(アクティベート)。床に手をついて《狼召喚サモンウォルフ》を使用した。


 僕の手を中心にして光の線が水面に落ちた水滴のように拡散した。《複製》によって記憶されていたのとまったく同じ召喚円が瞬く間に完成する。


「ちょっと待たんか我が主よ!」


 エンズは目で追うのが不可能な速度で手刀を閃かせ、僕が書いた召喚円に傷を付けた。


「あっ、なにするんだよエンズ」

「それはこっちの台詞じゃ馬鹿者!」


 そこにローザが髪とペンとインクを抱えて戻ってきた。


「アルベルトくん、この紙に魔法陣を書いてもらってい……んんん!?」

「あ、もう書きましたよ」

「えっ? ……あぁっ!?」


 顎が外れんばかりに口を開けて召喚円と僕を交互に見ているローザに向かって、やれやれ顔のエンズが「陣が起動せんように傷を付けておいたので変なモノが召喚される(出てくる)ことはないじゃろ」とぼやいた。


「エンズちゃん、ありがとーございます」

「フン、まさか魔導書庫に狼を溢れさせるわけにもいかんじゃろ」

「一度見たきりの召喚円を瞬時に再現できるよーな逸材が王宮内にあったってゆーのに、この私が見落としていたなんて……」

「アル兄さま、さすがです!」

「おい、眼鏡女。よく聞け。我が主はな、魔法の腕前は最高峰だが知識がまるで足りとらん。いきなり魔法陣をそのまま書いて発動させようとする程度には粗忽者じゃ」

「……え? ちょっと意味わからないんですが」


 ローザが戸惑っている。


「魔法の力量はずば抜けているのに知識がすっぽり抜けているなんてこと、ありうるんですか?」

「ありうるじゃろ。実際、我が主がそうじゃし」


 エンズは理屈など知らんと言わんばかりに実例()を指し示した。

 ローザは両手を上げた。突きつけられた現実に降参するように。


「……受け入れろってゆーことですね」

「宮廷魔術師ならせいぜい王に尽くすがよい。この穴蔵(あなぐら)から顔を出してな」

「そーですね。アルベルトくんへの興味がモリモリ湧いてきたところです!」

「我が主に対する興味がどうとかぬかす前に、この召喚円の出所を探るがよい。話はそれからじゃ」

「承知しました。ところで、用件はふたつあるとゆー話でしたよね、エンズちゃん」

「だからエンズちゃん言うのやめんか!」

「はーい。わかりましたよ、エンズちゃん様」


 これはわかってない。全然わかってない。


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