幼馴染を見る目
極大規模の《死者浄化》によって動屍体は一掃された。おまけに雨雲まで吹き飛ばして夜空には雲一つない。
エミリアは目の前で幼馴染が神聖魔法を発動させたのを見ていながら、信じられない思いだった。いつの間に、こんなすごいことができるようになったのか。彼女の知る彼はなんというか、もっとこう、頼りない感じだったはずなのに。
「じゃあ僕は村をぐるっと見回ってくるから」
「うん。気をつけてね。あ、あの、アル……!」
「ん? なぁに?」
振り返った幼馴染はエミリアの知っているそのままの雰囲気。無能ポンコツと揶揄されていた第三王子だった頃とまったく同じ顔。なのに違って見えるのは何故なのだろう。
「あの、ね」
僅かに目線を外して早口で告げた。
「来てくれてありがとう。ほんとに。死ぬと思ってたから」
「うん。僕も間に合ってよかった」
はにかむ笑顔を直視できず、とうとう目線はあさっての方を向いてしまう。
「……」
「エミリア、どうかしたの? ど、どこか具合悪いとか?」
「別に、どうもしないわ」
「そう? だったらいいんだけどさ」
「見回り、お願いね」
「うん。いってきます」
幼馴染の背中が夜の闇に溶けきるまで見送ってから、エミリアは深く吐息した。
「はー、なんなのよもう。アルってこんなに――」
「カッコよかろうが」
「きゃっ!?」
「可愛い悲鳴を上げるではないかデカ女」
エミリアの背後に、くつくつと笑うエンズの姿があった。
「ちびすけ! いつからそこにいたのよ!?」
「ずっとおったわデカ女め。易々と後ろを取らせるとは剣の巫女も程度が知れるの。気を抜きすぎじゃ馬鹿者め」
「うっさいわね、このちびすけは。……アンタ、アルと見回りに行ったんじゃないの?」
「我もそのつもりじゃったがの。我が主が念のためこの場を護れと仰せでな」
「アルが、ここを?」
この場の、守護を、王の剣であるべきエンズに命じた。
その意味を考え、すぐに自分に都合のいい答えに辿り着いた。
この場所を。それって、この私を?
「ふふん。惚れ直したじゃろ? ん?」
「うるさい。黙れ」
「くっくっく。そっぽを向いても赤い顔を隠しても、真っ赤なお耳が見えておるわ。貴様は短髪じゃからな、余計にはっきり見えておる」
「ちびすけ!」
両手を捕まえようとするエミリアの両腕をエンズはするりと躱す。
「元気があって結構結構。村は酷い有様じゃが、せめてデカ女が無事でよかった。我が主の沈んだ顔は見たくないのでな」
周囲に倒れた使者と村を眺めながらエンズは静かに言った。いつものからかい口調とは異なる声音。彼女なりに心配してくれていたのかもしれないと、エミリアは思った。
「……アンタも、ありがとね」
「デカ女にそう素直にされると怖いんじゃが? 槍が降るどころか動屍体でも降ってくるやもしれぬ」
「もう。やめてよそんなこと言うの」
動屍体は当分見たくもないエミリアだった。
エンズは不意に表情を改め、
「このゾンビ禍、自然発生したとは到底思えぬ有様じゃが……」
と冷たく鋭く、呟いたのだった。
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