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最愛の妹



「アル兄さま、おかげんいかがですか?」


 ベッドに横たわる僕の顔を覗き込んでくるのが、王宮における唯一にして最高の癒し的存在――妹のシャルロットだ。シャルロットは僕が倒れて部屋に運び込まれたと知って、駆けつけてずっと看病してくれていたらしい。つまり天使。


「なんとか生きてるよー……」

「むりはなさいませんように」

「う、うん」


 自前の小治癒(ライトヒール)で回復をしつつ、シャルロットの柔らかな金髪をくしゃくしゃと撫でた。僕のただ硬いだけの茶髪とは全く違う感触。

 シャルロットはふたりの兄と同じ正室《母》の子だ。なのにどういうわけか僕に一番なついてくれている。


「アル兄さまはおひとよしすぎです!」


 そして何故か僕の代わりに怒ってくれたりもする。


「お兄さまたちのおうぼうにまいにち付き合うひつようなどないのです」

「僕が断ったら新兵あたりが付き合わされる羽目になっちゃうだろ?」


 兄たちには容赦というものがない。王族相手では兵たちも抵抗できないだろう。兄たちの相手をさせられてはかわいそうだ。そうなっては王家の評判に関わる問題でもある。


 僕の言葉にシャルロットはぷにぷにした頬を膨らませた。


「むぅ。おやさしいのはたいへんけっこうですけれど、アル兄様はごじぶんのことも大切になさいませ」

「はいはい。ありがとう、シャル」


 僕に頭を撫でられて目を細めるシャルロットも王位継承権は持っている。第四位な上にまだ年端もいかない少女であるから担ぎ上げようとする者はいないが、もしもシャルロットが男だったなら話は違ったかもしれない。僕はこの子こそ王に相応しいのではないか、とさえ思っている。誰にも言ったことはないけれど。


「どうかなさいまして?」

「え、ええとね、看病してくれた礼をしないとな、と思って」


 内心を見透かされそうな気がして、僕は全く違うことを口にした。

 するとシャルロットは綺麗な碧い双眸を輝かせて、


「まあ! うれしいですわ! アル兄さまからおれいをいただけるなんて! シャルはさんごくいちのしあわせものですわ!」


 どこでそんなフレーズを覚えてくるんだろうか。あと喜び過ぎ。頬を掻きつつ「大したものはあげられないからね」と、釘を刺しておく。


「こんどぜひ、アル兄さまのごしゅみに同行させてくださいませ!」

「……え。本気で言ってるの?」

「本気と書いてマジなのですわ!」

「うーん。他のことにならないかな?」

「なりません! ぜったいなりませんから!」


 シャルロットは満面の笑顔で首を振った。

 趣味、か。

 困ったな。

 僕の趣味は城下散策だ。城を抜け出し、素性を隠して市井の人たちに紛れる。たったそれだけのことが僕にとってはとても楽しい。

 ただ、


「シャルを連れて抜け出したりしたらじいやと侍女長に殺されかねないんだけど……」

「そこはなんとかうまくとりはからってくださいまし」


 シャルロットは至極簡単に宣った。

 こういうところは大変王族らしい。


「あー……、うーん。ちょっと考えさせてくれ」

「はい! まえむきにごけんとうくださいましね!」


 天使の笑顔には敵わない。

 どうにか機会を作るしかない、かな。


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