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情報収集


 狼を撃退した後、開拓地のみんなは休憩を取ることになった。

 ひとまず危機も去って一息入れたいのが人情ってものだ。炊き出しなんかもはじまって、みんなの顔に徐々に笑顔が戻ってきている。人的な被害もほぼなかったしよかったよかった。


「本当に! 本当に、ありがとうございましたっ!」

「い、いえ、あの、そんな、気にしないでください。た、たまたま居合わせただけなので」

「身を挺して命を救っていただきましたし、足の治療まで」

「そ、そんなのは大したことじゃないですから……」


 僕はというと、唯一の人的被害(治療済み)の女の子にめちゃくちゃ御礼を言われているところなのだった。


「せめてお名前だけでも」

「な、名乗るほどの者じゃないんですけど……。ヴューラー男爵家の三男でアルスと言います」


 誠に申し訳ないが堂々と偽名を名乗らせてもらった。スラスラ出てくるのはいつもこの設定(肩書き)を使っているからだ。まさか王族――しかも今は国王――であることをカミングアウトするわけにはいかない。実際に名乗ったところで信じてもらえないだろうし、下手をすると「こんなところに国王陛下がいるわけあるか!」なんて厄介極まりない展開になるかもしれない。


「アルス様……!」

「さ、様は要らないかなあ」


 女の子は目をキラキラさせて俺の名を口にしたりしているのでどうにも気まずい。


「と、ところでちょっと聞いてもいいですか?」


 苦笑いを浮かべつつ、俺は情報収集を開始する。

 ゴーレムを投入してせっかく進捗を良くしたのに狼に邪魔をされてそれをほったらかしというわけにはいかない。なんとかするための糸口くらいは掴んでおきたい。


「こ、この辺りって今日みたいに狼が襲ってくるなんてこと、多いんですか?」

「先代国王様の御代みよから魔物討伐はなされてましたから、滅多にありませんでした。ただ……、最近ちらほら遠目に見かけるようになってきてて」

「……最近というと?」

「新王様が即位されたくらいから、でしょうか。それで今日とうとう襲ってきた、っていう感じです」

「へ、へえぇ……。なるほど。なるほどですねー……」


 僕が即位してから、ね。


「どうかなさいましたか?」


 女の子が訝しんでいる。

 僕は暗い顔になりかけていたのを表情筋を引き締めて笑顔を作った。


「いえいえ、気にしないでください。ありがとうございます」


 御礼を伝えて、女の子と別れた。

 開拓地を歩きながら考える。


 狼の襲撃に、少々作為的なものを感じたのだ。考えすぎだろうかどうだろうか。開拓の邪魔をして得をする者とか、開拓が失敗して欲しい者とか。もっと言えば僕に失脚してほしい者。そんな者がいて何か仕掛けてきている可能性もあるのか? 僕の即位後に狼が増えているというところがいかにも怪しい。 


 まあ実際の所、狼の襲撃が作為によるものであろうがなかろうが、このまま野放しにしたままではどれだけゴーレムが頑張っても耕す人の気分は落ち着かないだろう。開拓のペースは落ちるだろうし、いつか狼の被害を受ける人だって出てくるだろう。


 個人的な都合を言えば、宰相ザイードに開拓の成果を示す必要もある。

 諸々考えると、あまり時間はかけてはいられない。

 派手に動いて目立つのもまずい気がする。


 なら、地味に目立たずこっそりと行くしかない。


 ――僕は技能目録(スキルインベントリ)から「クラス:野伏(レンジャー)」を有効化アクティベートした。 



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