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現場確認だけのつもりだったのに


「ふんっ」


 振り下ろした(くわ)が、まだ固い地面に突き刺さる。

 両手に衝撃が跳ね返ってくる。

 痺れる痛みに僕は顔をしかめた。


 つい先日、新たな王――僕のことだけど――が即位した千年王国リーデルシュタインの王都ミレニアル。国の施策のひとつとして、王都郊外に農地が開拓されているのだけど、進捗がいまいち芳しくないようで。宰相ザイードと聖魔の神剣エンズとの間で、僕が「進捗を改善させる」ことで話がまとまった。まとまってしまった。


 改善施策の状況を確認するために僕は開拓地を訪れているのだった。


「ていっ」


 状況確認をするはずだったのに、素性を隠してやってきためにうっかり日雇いの開拓作業員と間違えられてしまった。なので僕は今こうして鍬を振っているというわけだ。


「まあ耕しながらでも確認はできるからいいけどね」

「口より手ぇ動かせやにいちゃん!」

「はぁい。えいっ」


 監督役が飛ばしてくる檄に返事をしつつ、鍬を振る。

 ちらりと向けた視線の先には、複数のゴーレムの姿があった。


 錬金術師のスキル《ゴーレム製造》を使って僕が創造したのだ。今日はこれの様子を確認に来たのだ。


《ゴーレム製造》とはその名の通り、岩や金属といった無機物に仮初めの命を吹きこみ、意のままに動く人形を創り出すスキルである。


 僕たちの先陣を切る形で、木製のウッドゴーレムと粘土製のクレイゴーレム合わせて20体が荒れた開拓地を掘り起こしてくれている。人の手に余る大岩や切り株の除去に活躍している。そのあとを人が耕していくという寸法。これで農地開拓の作業効率は大幅に改善しているはず。


「いやはや新王様は大した御方だねえ」

「農家の勘所(かんどころ)ってもんを解っておいでだね」


 実際に農夫たちも口々に()のことを褒めてくれている。こう率直に誉め言葉を聞くとむずむずしちゃうな。あはは。褒められるってこういう気分なんだなぁ。


「そ、そんなにすごいんですか、今の王様は」

「そりゃオマエさん、えらいもんだよ新王様は」


 隣で精を出しているおじさんに僕は白々しく問い掛けた。おじさんは汗を流しながらいい笑顔で頷くと、


「あのでっかいゴーレムが一番大変な掘り起こしをぜーんぶやってくれるんだからなあ。俺らは後を追って耕していけばいいだけなんだから楽なもんよ。自分らの手でイチから開拓するのに比べたらこんな他愛もない作業はないわな」

「そ、そうなんですね……」


 思った通りの結果に満足だ。


「オマエさん、根っからの農夫じゃないね?」

「あ、はい。田舎の男爵家の三男です」


 地方の男爵家三男アルス・ヴューラー。コレは僕がいつも使っている偽り(ニセ)の素性なのだった。趣味の城下散策の際、王族であることを隠すためのものだ。今までバレたことがない。僕には王族らしいオーラとか全然ないからバレることはないのだ。ははは。


「せ、生活費稼ぎの日雇い労働ですよ」


 へらっと笑うとおじさんは破顔した。


「ははは! 新王様とは随分な違いだな」

「比べられましても……」

「新王様も第三王子であられたころはてんでからっきしだったそうだがね。どういうわけか王様になられていきなりコレだ。やっぱり王族は王族ってことなのかねえ」


 どういうわけか、ね。

 僕は胸中で苦笑した。

〈王の器〉のおかげなんだよなぁ。

 僕自身は特別何も変わっていない。


「開拓が遅れてるからってゴーレムをこんなに沢山寄越してくれるなんてなあ。ゴーレムだって安くなんかねえだろうに」


 ゴーレムは市場では魔法の品物(マジックアイテム)と同等の扱いになる。本来であれば目玉が飛び出すくらい高価(たか)いものだ。創造(つく)れるのは高位の技能を習得している錬金術師のみというのが高値の理由。


 今回のゴーレム20体に限っては僕が自作したので無料だけど。


「この開拓地だって、僅かな使用料で貸し与えてくれて、五年ばかし続けりゃそっくりそのまま頂けるってんだから新王さまさまよ」


 国土を豊かにしてくれるんだから多少の役得はあっていいと思う。この話をした時に宰相のザイードは渋い顔をしたけど、税収が増えて最終的に国庫が潤えばいいのだ。


「それはやる気が出ますね」

「おうよ」


 おじさんは嬉しそうに頷いた。気分よく土を耕している。

 周囲を見れば皆一様に明るい表情だ。


「オマエさんも貧乏男爵家の三男なら、農家にでもなったらどうだい?」

「い、田舎の男爵家とは言いましたけど、貧乏男爵家とは言ってないですよ」

「違うのかい?」

「違わないですけど!?」


 事実、ヴューラー男爵家はかなり貧しかったりする。


「はっはっは。だったら農家になればいいじゃねえか!」

「そ、それも悪くないかもしれませんね」


 まあ、そうはいかないのだけど、と僕が内心で呟いた時だった。

 遠くの方で、引き裂くような悲鳴と共に声が上がった。


「狼が出たぞ――!!」


 うわぁ、事件発生。

 現場確認、すんなり終了とはいかないみたいだ。


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