気苦労は絶えない
ジェラルドは王宮内を歩き回っていた。
探しているのに見つからないのである。
謁見の間も。
執務室にも。
……いったいどこにいらっしゃるのか。
逸る気持ちを押さえながらそれでも足早に廊下を進んでいると、金髪碧眼の姫君に出くわした。
「まあジェラルド、そんなにあわててどうかしたの?」
「これはこれはシャルロット様。ご機嫌麗しく」
「ごきげんよう。こわいお顔をしているわ」
「これは失礼を」
貴顕への応対を心得ているジェラルドは年の功というべき迅速さで笑顔を作った。
「シャルロット様、ひとつお伺いしてもよろしいですかな」
「なにかしら」
「アル王子……失礼、アルベルド陛下をお見かけになりませんでしたか?」
「アル兄さまなら見ましたわ、朝」
朝。随分前の話だ。だが、何も情報が無いよりはよい。
「どちらでご覧になりましたかな?」
急き込んで尋ねるジェラルドに、シャルロットはクスリと笑った。
「朝、いっしょにしょくじをとって、それからすぐにお外へお出かけになりましたわ」
ジェラルドは目元に手を当てて大袈裟に天を仰いだ。
またか。
「またなのですか、陛下。また抜け出したのですか……!」
「かいたくちのしさつに行くとおっしゃっていました。私もいっしょにいきたかったのに連れて行ってくれなかったの! ひどいとおもいません? つるぎのぎしきにも連れて行ってくれなかったのに、またなのですよ!?」
「困ったものですな」
「まったくですわ!」
相槌を打ちながら、シャルロットにまで城を抜け出されなくてよかったと思う。
否、全く全然これっぽっちもよくはないと思い直した。
ジェラルドの気苦労は絶えない。