技能目録(スキルインベントリ)
宰相ザイードが出て行ったあと。
エンズは僕の執務机に飛び乗り「よっこらせ」と腰掛けた。
「こらこら我が主よ、折角我がお膳立てをしてやったというに、なんじゃなそのげんなり顔は」
「エンズがザイードと思いきり対立しちゃうからだよぅ」
僕はザイードに国政について教えて欲しかったのに。
それをいきなり喧嘩腰でこの喋る魔剣ときたら……。
「我が主が侮られたままなのは気に入らんのでな」
そんな理由でかぁ、と思ったら「それに」とエンズは言葉を続けた。
「王たるもの臣下から信頼と忠誠を得なければなるまいよ。見くびられたままでは威厳が損なわれるというものじゃからの」
確かにザイードからの信頼は無さそうだ。でも僕にじゃなくて王国に対する忠誠心は凄くありそう。その点は非常にありがたい。
「信頼と忠誠を勝ち取れってことだよね」
「なぁに、結果を示せば下々《しもじも》の者はおのずと付いてくるじゃろ」
「簡単に言ってくれるよね……」
ザイードの信頼を得るためにエンズが引き出してくれたお題は「農地開拓を進捗させること」だ。
この件について僕は何も知らないわけじゃない。
「王都の郊外に農地を広げるために新規の開拓事業してるんだけど、コレがイマイチ進んでいない理由は、なんとなく見当はついてるよ」
「ほう。というと?」
エンズは僕の発言が意外だったのか、興味ありげに先を促した。
僕はえっとね、と呟き考えを整理しながら、
「開拓するのは開拓民だよね。基本はみんな手作業だから、大きい岩とか切り株とか、そういう邪魔なアレコレをどけるのが大変なんだよ」
「なかなか詳しいではないか。思ったより馬鹿ではないのじゃな?」
エンズ、キミ絶対褒めてないでしょ。
「城下散策のおかげかな。前に知り合った開拓に参加しているおじさんから教えてもらったんだよ」
「なるほどなるほど。どんな下らんことも役に立つこともあるのじゃな」
やっぱりキミ褒めてないよね?
「して我が主よ。その問題、如何にして解決するつもりじゃな?」
「ええっと……、そうだなぁ」
以前この話を聞いた時にはどうしようもなさそうだと、ただ聞き流していた。けれど今の僕には〈王の器〉があるのだ。なにかしら解決する方法はあるはずだ。きっとある。
僕は視界の端にある技能目録を順番に見直していく。膨大な数の職能と技能の中から農地開拓の最適解を探すのだ。
っていうかなんなの《忍術》って。
いつの王様がどういう経緯で上忍とかいう職能を身につけたんだろうか。なんと投擲スキルがレベル最大《MAX》。いつかきっと役に立ってくれることだろう。次だ次。
調教師系も最強。
神獣ヲ使役スル者。神獣とか使役以前に遭遇したくないぞ。テイム系の頂点は《超手懐け》というらしい。これも今回は使わないな。ええと、次。
などと順番にクラスとスキルに目を通していくうちに、
「うん? これならイケるかも」
僕は良さげな技能を見つけたのだった――