自己紹介2脊椎動物・ヒトの生理
地表の脊椎動物は、全体で見れば一本の太い筒構造をとる。その筒の中央部の四隅から、運動のための多関節棒が突き出ている。
一般にその筒の中心線の「前後」に非対称構造、左右にほぼ対称、重力……上下非対称。昆虫やミミズの体節構造や、ヒトデの五方向構造と比較して考えると面白い。特定の方向、前方に移動することを好む。
前後双方に胴体の延長があり、前方に周辺情報収集・判断・自己制御・食べる筒の入れる開口部・空気の出し入れなどが集中しており、後ろに食べる筒の出す開口部、水を出す開口部などがある。
体内には固い棒や板がたくさん見られ、それがつながりあっている。短い筒が縦につながったのが、左右中心線の上部に通っている。
外界の情報としては、まず表面全体が力・周囲の温度を探知する。単細胞微生物でも、周囲の分子・温度を探知して運動することが多くある。地表の大型動物にとって他に重要なのが、空気に混じる微小分子=匂い、特定波長帯の電磁波=光、大気の圧力波=音、体内に入れた食物や水の分子分析=味。自分自身の体がどんな形をしているか、また電磁場そのものや熱を探知する器官が発達している動物もある。
入れる開口部の前端は、多くは高硬度の部品を高い圧力で接させ、双方を動かすことにより、食べる対象の生物を破壊する。それから筒のなかに入れる。その筒の壁から、いくつかの貫通していない管が体内に伸び、分岐してとてつもない表面積をなしている。それがほかの生物の体である分子を単純な分子に切り離す、特殊な分子を含む水を出している。それで切り離された単純な分子は、上述の体内で循環する液を流す管に入り、体内の細胞に運ばれる。その毒を処理する器官もある。その管には多数の微生物が生活しており、それも重要な役割を果たす。最後に、その微生物や処理しきれなかった分子の集まりを、もう一方の開口部から出す……糞と呼ぶ。
空気の出し入れは、こういうことだ。大型の体で多量の大気中の酸素を体内に入れ、二酸化炭素を出すために、複雑に分岐してとてつもなく表面積を増やした貫通しない穴がある。
それは体内で完結する、水を主とした液が一方向に循環する管に、こちらも分岐してとてつもない表面積で接しており、その液が体内で酸素と二酸化炭素を運ぶ。
また、体内の水を制御し、主に窒素の単純な分子を水に混ぜて出す……尿と呼ぶ……大気と交流するのと同様複雑に分岐し莫大な表面積をもつ、貫通していない管がある。
その、繰り返し分岐させ莫大な表面積を得ることが、二乗三乗則の制約を逃れて大型化する方法だ。それは植物も用いている。
貫通していない管は、生物の本質である自己増殖のためにももうひとつある。同じ種が特定の遺伝子の違いなどで雌雄に分かれ、雌が体内に大型の、貫通していない管を設けている。そこに雄が、自分の貫通していない管器官の一部から、単細胞で情報分子が大半である、一部微生物のように自分で活動できる細胞を注入し、それが雌の情報分子と共生微生物を含む細胞と結合し、二つの情報分子をランダムに混ぜ、最初から細胞の自己増殖を始める。その自己増殖した細胞が、同じ情報分子をもちながら別々の機能を持つよう分化しつつつながりを保ち、うまく両親に似る小さい動物になれれば雌の貫通していない穴から出る。
体内ではいくつかの、海水に多く溶けている造岩金属原子と二酸化炭素の固い化合物で固い棒や板をいくつか作り、それに支えられている。その棒と棒は自由度を制限された関節でつながっている。情報収集・制御・体各部への命令をする器官もあり、主要部は固く守られている。
ヒト、「ホモ・サピエンス」はその……多細胞・脊椎動物の一つで、陸上に暮らす。
遠い祖先は、日光の奪い合いで高くなった植物の上で生活する動物。現在はほかの多くの動物と違い、食物を出す側の二本の運動棒だけで体を支えて筒全体を地面から垂直に立てる。胴体の後ろ延長の多関節棒が体内の痕跡程度。
それにより、普通の脊椎動物の「下」がヒトにとって「前」、「前[頭]」が「上[頭]」。左右は同じだが。
きわめて不自然な構造。人間の知識から見れば「橋を強引に垂直に引き起こし、それをビルとして集合住宅にする」ようなものだ。配管や交通ごと。むちゃくちゃだ。
しかも子……自己増殖した複製生物、体内での、雌雄双方の情報を混ぜて新しく作り直した同種小生物を、雌の体内でかなり大きくしてから出す。体内の骨が、二本の運動棒だけで全重量を支えるために複雑に入り組んでいる中を、だ。しかもただでさえ困難なのに、頭部……胴体の一端が出す段階で極度に大きい。さらに、それですらヒトの子はまだ未熟で、まともに行動できるまでとんでもない時間をかけて、特に頭部とその中の情報処理器官を大きくする。
有袋類か恐竜の延長なら楽だった。有袋類は、体表部に袋を作って、ごく小さく産んだ子をその袋の中で育てる。また恐竜やその延長の空飛ぶ動物は、固い殻に覆われた比較的小さい子を産む。なぜ有胎盤哺乳類という、もっとも不適な動物から進化したんだ……ふざけた話なんだ。客観的に見たらお笑いぐさですらある、祖先から数えて膨大な雌や子を殺してきた悲劇の集まりなんだが。
ヒトは子を産む数が少ない。
多くの、それも多様な子孫を作りばらまくことが、生物が絶滅せず子孫を残し続けるこつだ。「一つの籠にすべての卵を入れるな」……固い殻に半ば液状の子を包んで産む動物がいる。その卵はいい食物になるが、高いところから落とし大きな力を加えると割れる。たくさん、一度に運ぶと楽だが、その一度で転んだらすべてを失う。何度かに分ければ、移動に余計な時間とエネルギーを使うが、そのどれかで転んでも割れる卵は一部ですみ、無事な卵が残る。また少しずつ違えば、環境が変化したり、ある分子構造を攻撃する生物に襲われても、適応したどれかが生き延びる。
多くの生物は子の数が非常に多い。多数産んで、どれか一つでも生き残れば種が保たれる、r戦略と呼ばれる。
逆に大型動物は、極度に大きい子を少なく産んで大切に育てるK戦略がよく見られる。ヒトはそのもっとも極端なものの一つだ。
子の数がきわめて少なく妊娠期間が長いのにまだ未熟児、雌の出産時死亡率が高い。それが、ヒトという生物の最大の特徴だ。
その上に、外界の情報を分析し、行動を決め、体に命じる器官が極度に大きい。それは重量の割に膨大な酸素と食糧を費やし、膨大な熱を出す。
消化管の短さも異常だ。一般に脊椎動物は、体長よりずっと長い消化管を、体内で複雑に折りたたんで収納している。それによって長い長さ、広い表面積で効率よく食物の分子を断ち、体内に吸収する。自分の糞を食うこともしない、消化管で微生物に分解させて食えば合理的で、それを選ぶ動物も多いのに。
移動に使っていない、上[普通の脊椎動物にとっては前]足が進化によって小さくならず、末端を変型させて木の枝に、多方向から力をかけて体を固定する能力を保っている。
また、比較的似かよい、進化的にも近い多くの大型脊椎動物と違い、体表を覆う固くきわめて細い棒が少なく短い。また体表から体液の一部……おもに水を出し、その水が気体になって大気に混じるときに膨大な熱を奪うので、それで体を冷やす。その「細い棒」=毛が少ないことは、体表の毛にしがみついて体液を吸う虫の類を寄せつけないメリットもある。
温度が高く水が豊富な環境で長距離移動し、きわめて質の高い食糧を食べる動物だ。
そして特筆すべき構造が、群れ生活における情報交換・飛び道具の使用だ。
多数の、同種の、多くは繁殖におけるつながりがある大型動物が集まって群れを作り、集団で行動する動物は多くある。小型の昆虫にもあり、生殖すら制御した巨大な群れで、とてつもなく繁栄してもいる。
人類は、特に群れ内の個体識別・情報交換に優れている。
まず、体表……特に頭部[胴体最上部]の形を識別し、変化させることでも多くの情報をやりとりする。
そして、最も重要なのが「声」だ。体内の、大気を出し入れする貫通していない管は、体内の筋肉により圧力をかけたり抜いたりする。大気は高く積み重なり大気圧となっているので、体内で圧力を変化させれば大気が出入りする。その時に、管の一部を変型させ狭くすると、強い圧力と不均等で高速の気流が、波の方程式に従う圧力の変化……振動を起こす。
大気や水の振動は、動物にとって力・分子そのもの・電磁波に並ぶ、重要な情報だ。その情報感知器で振動を感知すれば、情報をほかの個体に伝えることができたわけだ。
ヒトは、その発信機能が発達している……大きなコストも払って。食物を体に入れる筒と、大気を出し入れする筒が、絡まって中でつながっているんだ。当然、食べたものが大気側に入って死ぬ事故も多くある。
だが、その複雑さから、多様な大気圧力振動……音波を出すことができる。
虫や、空を飛ぶ動物や、人間に近い動物も多くはそれを使う。中にはその反射で物の位置や形をとらえる動物もいる。
しかし人類は、まるで原子が集まり分子になり、分子が集まって物体になるように……また細胞が集まって大型生物になるように、特定の圧力波の短いパターンでできた「素」を識別し、時間順に並べて、その並んだ全体を記憶し、識別するだけの情報処理能力がある。巨大な脳を進化させ膨大な酸素と栄養で駆動させて。
特定の順序で「素」を並べる。これがヒトの、「言語」の本質だ。「言語」自体はデジタル情報だが、波長そのものの違い、波の大きさにより、同じデジタルデータでも別の情報を含めることができる。「素」の集まりは、事実上無限の組み合わせになるし、現実には存在しないものを描写できさえする。
さらに、言語で数を認識・処理することで、より複雑で抽象的な思考をし、それを伝達できる。
また、音の強弱・波長などを使い、特に同じパターンのくり返しによる表現……音楽も、ヒトは得意とする。鳥もそれをよく使う。
さらに後には、声による言語を、別の物体の表面に特定の模様を刻むことで表現できるようにもなった……それができないヒトも多くいるが、声による言語はヒトは例外なく使う。耳が聞こえない子は単独では言語を使えないが、そんな子を集めたら勝手に身ぶりを言語化した実例がある。遺伝子に深く刻まれた行動だ。
ただし注意してほしいのは、個体それぞれに独立した脳があり、それぞれが考え感じ判断する。
集団で一つの生物のように行動する群れ動物を見て、人間はつい群れ全体を擬人化するが、実は個々が隣の個体に合わせる、比較的単純なプログラムに従うだけで群れが行動することができる。人間もそうだ。
動物は、外界の情報を得、その情報によって運動する。その結果として、多量の他生物や水を食べ、酸素を出し入れし、同種異性の動物とうまく接して体内の自己増殖システムを動かす=子を作り、雌がその子をうまく産み、その子がうまく育ってまた繁殖した……それができたのが種として残り、存在し続ける。それを「成功」といってもいい。
まあ、その成功の基準は植物も、微生物でも同じだ。
動物の場合、その成功は、外界の情報を得て、それに適切な行動を行ったことが肝要だ。
学習できないほど小さい動物は、多数の子を産んで運がいい……生来その場に合ったプログラムがされている、も含め……者だけが生長し再繁殖できる、しかない。
長い進化によって複雑な動きができる小動物も多くいる。ヒトが似たことをするには長期間学ばなければならない。しかし、生来定まった情報入力に対する行動では、周囲の環境が変わったら通用しない。そうなれば滅びるか、膨大な子を産み親と違いがあるわずかな子が適した行動をし、その変化が積み重なり進化するかしかない。
学習の基本は、「過去を記憶する」「過去の記憶と現在得た情報を照らし合わせ、生存・繁殖に資した行動をくり返し、反した行動を繰り返さない」だ。
ヒトの体構造は、もう一つきわめて特異な行動を可能にしている。体の外にある別の物体に、高い速度を与えて、特定の方向に「飛ばす」行動だ。
体内物質を飛ばすドクハキコブラやスズメバチ、ヘッピリムシ、スカンクもいるし、糸を投げるクモもいる。水を吹き出すテッポウウオもいる。人類だけではない、といっても、人類の大型さ・言語で統合された緊密な群れ行動で、違う質が生じていると言える。
上述のように、ヒトは他の二足歩行動物のように上[普通の動物では前]足が退化せず、末端の変型によって樹上で枝に自分を固定する構造を保っている。
それで、岩石や木材など硬く重い物を「持った」まま、長い上足……腕を、胴体につながる端を固定し回転させることで、末端が高い速度になる。その高い速度のまま末端の変型で「放す」と、持たれていた物体は接線方向に高速で、慣性により飛びつづけ、地球の重力に引かれ大気の抵抗で減速して地面にぶつかり止まる。
それまでの、高速の物体が他の生物にぶつかると、その高速の質量がきわめて短い時間で減速し、エネルギーを解放してぶつかられた生物を破壊し、動かず食べられる状態にする。
さらに人類は、その投げる物に複雑な構造を持たせたり、腕を延長することも覚えた。
腕末端は、ひとつながりではなく各五本に分岐し、枝を握るだけでなく非常に細かい作業もこなす。重要なのが、その一本が他の四本と向き合っていること。それによって大きな力で枝を握れる。反面、下[普通の動物では後]足はすべての指が同じ方向を向き、安定した二足歩行ができる。