自己紹介1
自己紹介?
見回すが、暗いわけでもないのに何も見えない。肉体に不快感は感じられない。
とにかく自己紹介をしなければならない? 誰に……何に? 自己紹介を求めているのは誰だ? 何だ?
炭素ベースでない異星人だったら? 二十四次元のゲログベチャな怪物だったら? 剣と魔法世界の魔術師だったら? 時空やエネルギーなどの概念を絶した形容できない存在だったら? 神や天使や悪魔だったら?
相手は日本語と数学と論理はわかる、と。それを信じるしかないか。
そうだな、相手が誰だかわからないんだから、僕にできるのは、せいぜい「多次元宇宙探索船であちこち探検していたら新しく生物のいる惑星がある宇宙を発見したので、そこの知的生物について詳しく報告する」かのように描くぐらいのことだ。その報告には、僕の、後述する人類としてのさまざまな見方の偏りがたくさん入っていることを前提として読んでほしい。
〇多次元宇宙探索船の報告
新しいところに到達した。センサー類の多くが故障し、たまたま見つけて観察した「地球人」とやらが知っている程度のことしかわからない。送れるのも地球人の言語だけだ。
ここの物理について報告する。ここにある、「地球人」の認識対象はすべて、数学で表現される物理法則どおりの挙動をするようだ。
小さいスケールでは確率が支配し、ある程度より短い時間・空間が意味を持たず、この宇宙の普遍定数の一つの整数倍が本質に入る。
かなり大きくなると実数四つ組の集合で近似できる。時空の曲率はほぼゼロ、よって四つの直角で交わる直線座標系で表現できる。そのうちの一つ……「時間」と呼ばれる……が別の役割を果たし、一方のみに進み逆行できないし、その進行につれて、大きいスケールで無秩序が増す法則がある。特別な方向などがなく、どの位置・変化具合などで観測しても、物理法則は変わらない。
また、「時間」につれて他の三つ、「空間」内の「物」などが「変化」することがあり、その「変化」する「物」が「地球人」の主な認識対象だ。
これはやや大きいスケールで作られたものの見方だが、四次元時空の各点には、知られている限り「いくつかの力場と呼ばれる方向性のある量」と、「物」がある。
「物」は小さいスケールで見ると、すべて「波」と「粒子」の二重性を持ち、確率と整数倍に支配される「なにか」の集まりだ。波は周期に関わる数学でよく近似される。粒子は座標内の位置と時間の関数で近似され、移動しても位置以外は変化しない。変な話だが、「波」も「粒子」も、「なにか」が大量に集まって確率が均された、大きい物を大きいのが観察した挙動に近似される数学構造でしかない。それが何で小さい世界に出てくるのかはわからない。
力場は重力・電力と磁力・弱い力・強い力と呼ばれる四種類が知られている。
重力は極端に弱く、時空そのものの曲率としても表現できる。その力に反応する「物」には「質量」があるとされ、その質量は、「物」相互の位置が時間につれて変化する……「運動」と呼ばれる……んだが、力場が「物」に作用することで「運動」が変わることに関わる。また特定の「波」かつ「粒子」も関わる。引力のみであり、斥力が知られていない。逆二乗則に従う。またその重力は二つの質量物の質量とその距離のみで定まり、その定数はこの宇宙の普遍定数だ。
逆二乗則は幾何学的には三次元位置座標空間において、ある点から等距離の球表面の一部の、面積と距離の関係だ。
電力と磁力は本質的に同じで、重力同様逆二乗則に従う。電は電荷と呼ばれる、正負双方の値を持つ「物」が存在し、その「物」どうしが波でも粒子でもある「なにか」の交換によって力を及ぼし合う。電荷の正負が同じだと距離を離す方向、違えば近くする方向に力を出す。
波として、電磁場の性質として電場が変化すれば磁場となりまた磁場が変化すれば電場となり、その振動が時空を伝わるとも表現できる。その式から、その[三次元]位置変化の時間微分=速度も決まり、その速度はこの時空の最高速度と一致する普遍定数だ。
電磁気力の方向と大きさは、二つの「物」の電荷と相互の位置関係で決まる。それは一方の「物」が周囲に「場」を作り、その「場」に「物」が力を受けるとも表現できる。電荷には正負、ある値の三分の一が知られている限り究極的な基本単位。
磁は電に似ているが、単一の磁荷をもつ「物」が見つかっておらず、多数の「なにか」が集まった大きな「物」が空間的な拡がりの中で一端は正、もう一端は負の磁場を出す。
弱い力・強い力はごく小さいスケールでしか働かない。
後述する「人類」は、主に電磁波=光と反応する「物」を認識する。観測可能宇宙全体の重力源・エネルギーの大半は、電磁波では観測できない正体不明の代物だ。「人類」の知はごく限られている。
また重要な不変量がある。力場において、力場に反応するある物がその力場の力により、時間につれた位置の変化を起こすことがある。その位置の変化と質量から出る数値と、力場上の位置と質量から出る数値の合計は不変量となる。
他にもその不変量と同値な量はあちこちに出る。それどころか、光速を基準に考えれば質量そのものもその不変量と同値であり、「エネルギー」と呼ばれる。
波は波長が短いとエネルギーが増す。
エネルギーは無秩序増大則と関わりがある。エネルギーそのものは減らないが、あり方が変化するときには常に、より無秩序になる。そのことを考えれば情報もまた、エネルギー・質量と等価だ。
大きいスケールに関わる重要な物理法則として、上述の光速以上の速度は禁じられていること、どんな位置・位置の時間変化があっても物理法則は変化せず、光の速度はどの立場で観測しても変わらないことがある。それにより、全時空を統べている特別な時間や空間の測り方が存在せず、どこを基準にしてもいいことがわかる。
また中間のスケールでの近似として、質量物の位置の時間当たり変化率は力をかけられない限り変わらない、変化させるための力は変化率の変化率と質量に比例する、力は二つの質量物を結ぶ直線上で互いに同じ強さで働く、という法則を用いると多くの「物」の動きがわかりやすくなる。
「物」の基本粒子として、各六つのクオーク・レプトン・ニュートリノがあり、それぞれ電荷・質量、そしてスピンと呼ばれる量がある。すべての基本粒子には反粒子があり、反粒子と接すると質量をエネルギーに転換し、多くは電磁場振動・粒子となる。反粒子はほとんど性質が変わらないが、いくつかの物理法則に微妙な差があり、たとえば電子は一方の電荷をもつものが圧倒的に多い。
クオークは三つずつ強い力で集まり、単独観測が不可能。ニュートリノは弱い力に関係し、質量もごく小さいので観測が難しい。
クオークが三つ集まった、決まった電荷を持つ陽子と呼ばれる「なにか」・陽子が電荷を失ったような中性子という「なにか」、それに陽子とは逆の電荷のレプトンである電子が特異な形で集まった「物」が、「人間」の主な認識対象だ。陽子・中性子・電子が同じ数だと大体は安定する。陽子と中性子が強い力で集まり、その周囲に電子が波として特定の確率的なありかたを維持する。陽子や中性子の集まりに質量の大部分が集中し、大きさで見ると電子軌道に比べとてつもなく小さい。電子は内側から段ごとに特定の数入ることができる。その集まり全体を「原子」と呼び、それが「物」の基本単位だ。
それ以外のレプトンもあるし、クオークが集まったのも陽子だけではない。
原子の種類はその原理上自然数全部つまり無限だが、安定しうるのは少ない数だけで、ある程度以上だと崩壊しやすくなる。
原子どうしは、電子を共有したりしてくっつくことがある。その原子の集団が「物」を構成している。くっつき方や陽子の数から、ふらふらする電子がある金属とかいろいろある。そのくっつき方などは主に陽子数に依存するため、中性子の数だけ違うということもある。
陽子・中性子・電子に個性はない。三つとも同数の原子は、電子の状態の違いがあることはあるが同じ物だ。電子と陽子の数が同じなら、同じくっつき方をする。すべての陽子数・電子数が一致している原子でできた分子は、ほぼ同じ性質だ。同じ分子が同じように集まった物は、同じ性質を示す。
原子は光を反射したり散乱したり、特定の波長の光を吸収して分子のつながりを変えたり電子の軌道を変えたり色々する。
巨視的には原子の集まりは特徴を変えないものに見えるが、原子単位でみれは常に周囲と原子の入れ替えをしているし、熱や電子、電磁波のやりとりもしているし、内部で電子が動きまわることもある。
時空全体がどうなっているか、少し観測してみた。
現在の時間では、空間そのものは広く、微妙な揺らぎ以外均一だ。その中に、やや不均一に物質が分布し、その周囲を電磁波で観測できない重力源が覆っている。空間全体が拡大しており、遠距離にある物ほど互いに高速で離れている。どの距離だとどの速度になるか、それもこの宇宙の普遍定数といえる。
それを時間の、無秩序が増える方向の逆側にたどると、時空ぐるみ物全部が一点に圧縮されていたと考えられる。その状態から時空が拡大し、物がばらまかれ、統一されていた力が分かれたようだ。あらゆる方向から観測できる弱い電磁波がその証拠だ。
地球人にとって観測しやすい物の多くは、かなりの量が集まって重力で圧縮され、陽子が少ない原子核がぶつかってより陽子が多い原子核になる現象が常に起きている。それは膨大なエネルギーを出し、そのエネルギーは原子の無秩序な運動となり、その運動がまた電磁波を出すため、強い電磁波や高速の粒子を長期間出す。その膨大な質量により、強い重力源ともなっている。
その近くには、たくさんの物が重力で集まった、ただし原子核の変化に必要なほど空間あたりたくさんあり高速でぶつかり合うことがない程度の塊も多くある。
その一つが、今観測している「人類=地球人」がいる「地球」だ。
そこには割と陽子数が多い原子が多くある。単純に時空が広がるだけでは、陽子や中性子がくっついて陽子数が多い原子核を作るのに必要な力はないはずだが、前に大きな塊があって、その中で上述のように原子核がぶつかって陽子数が多い原子もできる。さらに……要するに陽子数が少ない原子しか核融合しない、その結果陽子数が多いから質量だけはあってエネルギーを出さない原子がたまるせいで、質量で自壊し大きなエネルギーを短い時間で出す。それが陽子数が多い原子核もたくさん作ってばらまく。
そのあと、そういうのが集まって新しい核融合する塊と、その周囲で重力によって近づきたがってるけど、上記の「時間当たりの位置変化を変えたがらない」ことから、まあ大きい塊の近くで楕円軌道を保つのがずっと続いてる塊がある、ってわけだ。
ちなみに、重力は互いに引き合う力だが、この場合は核融合してる塊のほうが圧倒的に重いので、地球だけが軌道に縛られているように見える。そうして地球は決まった軌道を回り、核融合のエネルギーからくる膨大な電磁波などを浴び続けている。
陽子数が多い原子は同じ体積でも質量が大きくなり、それが高いエネルギーを持って混じり合っていると、重力により強く反応するため、長い時間で見れば球形の中心側に移動する。その中には電磁気力との独特な反応がある元素も多くあり、そのため磁力を周囲に出している。
集まった物の重力で押し下げられているそれは上から順に、原子すら構造を半ば失い高速で飛び交う極端に希薄な、陽子数の小さい元素。それからある程度、重力が決める上下の、上に積み重なる原子のぶつかり合う力で押され、頻繁に衝突して、二つの同じ原子が繋がって安定した、気体と呼ばれる状態のものが、大半は二種類、そして多くの別の物と混じっている。
その下は、原子が規則的に集まってあまり変型しなくなった固体や、かなりきつく固められてはいるが自由に形を変える液体が広がっている。その液体を構成している「水」という物質が、これからの話の主役だ。
そこから下は、より陽子数が多い元素が多くなり、体積あたりの質量が大きく、さらに陽子数が多い元素が自然に崩壊するため本来なら高速で飛ぶようなエネルギーを一つ一つの原子が持っている……その状態は高温高圧と呼ばれる。
その高温高圧と動いていることが、強い電磁場となっている。
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今話題にする地球という塊は、太陽との距離や気体の働きなどのため、水が液体であるという、かなり制限された温度・圧力にある。といっても自転している軸の両極では太陽の光に角度がつき、弱まるので受ける熱より宇宙に電磁波で放たれる熱のほうが大きく、水は固体になっている。
その水が液体になってまもなく、奇妙な原子でできた物が見られるようになった。
本質は「自己増殖」。はっきりと内部と外部に分かれており、周辺からいろいろな原子の集まりを内部に入れて原子の組み合わせを変えて出すことを繰り返し、そのうちに二つに分裂し、その両方がまた周辺から原子の集まりを入れて変えて出しながら大きくなり、どちらも分裂する前と区別がつかないものとなる。
その、物質の出し入れも、その表面でエネルギーを用いて制御し、ある物質の濃度は周囲より高かったり低かったりする。
言うまでもなく、それは秩序・情報は減っていくという熱力学第二法則に、根底から違反しているように見える存在だ。だがそれは、周辺から多くの「秩序の高い」原子の集まりを入れて、より秩序の低いつながり方にして出しているから、全体で見れば違反していない。ちょうど、核融合する塊が周囲に比べ著しく温度が高いのと似たようなものだ……高い秩序の存在が、より広い範囲で見れば全体の秩序をより急速に低めている。
それはあっというまに、その地球という塊のかなり奥まではびこり、大気の組成すら変えているほどだ。酸素という、水を構成する原子の一つが二つつながった気体が地球気体部の主成分なのだが、それは他の元素と反応しやすいから、本来不自然だ。
そうなったのは、酸素を使って原子のつながりの変化を加速し、さらに太陽から来る電磁波という大量の高秩序エネルギーを活用できるようになったためだ。
そうそう、その自己増殖するへんなものは、変わる。自己増殖を繰り返しているとき、たまに間違えるんだ。そして、間違ったものが増えてしまうことがある。また増えるのを繰り返すのは指数関数だから、あっというまにとんでもない数になる。どれだけ地球の表面が広く、液体の水や日光がたくさんあっても、あっというまにいっぱいになる。だから、増えたものの大半は、大きくなって増えることができない。それによって膨大な試行錯誤を常に行い、多様に自らを変えて、進化し多様性を増していく。
自分以外の、その「生物」を解体して構成している物質を吸って変えて出す生き方をする生物も多い。
その自己増殖自体が、内部のデジタル記号……四つの主要分子、仮に1234……まあACGTだが、たとえそれぞれの名前を書いても、正しい原子の組み合わせを描写してない以上意味がないし、角度も含めて原子のつながり方全体を描写したらえらく長くなる。
その四つは梯子のような構造をとる。縦方向には好きにつながれるが、横棒としては1と2、3と4だけがつながり、3と2・1と4はつながらない。1と2の組、3と4の組がいくらでもつながっていくので、実質無限のデジタル記録装置になっている。それを二つの梯子の縦棒に分割しても情報が損なわれず、それぞれの1が2、2が1、3が4、4が3とまたくっつくことで二つの同じ情報を持つ梯子ができあがり、自己増殖が完結される。
それと、そのデジタル情報の組み合わせが、窒素を含むきわめて多様性の高い分子と対応し、その分子がさらにいろいろな分子を作ったり、自分は変化せず別の原子のつながり方の変化が起きる確率を増したりすることで、膨大な分子からなる部品も作る。
生物は、外界の状態に応じて自らの形を変えたり決まった分子を出したりする、刺激に対する応答を行う。さらに、外の電磁波や化学物質濃度などを観測し、それで外界の情報を得て、それに応じて自分の体の形を変化させ、その力が周囲の環境と力の相互作用をした結果位置を変えるものもある。
その過酷な状態で、かなり長い時間……核融合する塊が形成されて核融合を始め、陽子一つだけの原子を消費し尽くして陽子二つ以上の原子の核融合から肥大し、最終的に冷え固まるまでの膨大な時間の三割近く……してから、複数の「生物」の、同じ情報を持つ単位が集まり、中の情報が同じなのに形を変えて別々の機能を果たし、結果的に大きな、それ自体が自己増殖する生物になるという変なことをするのが出た。ああ、その前から、二つの生物単位がくっついて情報を交換することで、複製間違いより早く情報を多様化させるのもあった。
大きい生物もすべて、一つ一つが微生物で、同じ情報分子をひとそろいもつ、それでいて形や機能が多様な細胞が多数集まってできている。その細胞は切り離されると普通は長時間生きられないが、必要な分子を与え続ければ生きつづけられるし、ある程度自己増殖もできる。だが、同様な多細胞生物の個体を生みだすことができるのは、極度に分化した特殊な細胞だけだ。これは地球の生命を理解するのに極めて重要なことだ。
なぜ一つの細胞が大きくならないか。そこに、生命にとって最も根本的な法則がある。三次元実数空間では、相似は等しくない。物が相似を保って大きさを変えると、大きさがn倍なら表面積・断面積はn[指数/2]倍、体積……同じ素材であれば質量はn[指数/3]倍となる。大きくなると、体積に対する表面積が減る。特に膜表面で外界と区別され、外界と物質をやり取りする細胞にとって、それは致命的だ。だから単細胞で巨大な生物はできない。
他にも、その二乗三乗則はさまざまな形で出てくる。
その前の、生物による地表全体の重要な変化が、日光のエネルギーを用いて水と、酸素と炭素の化合物から生命の部品となる分子を作り、遊離酸素を放出する生命形態の登場だ。
遊離酸素は酸素二つがくっつくが、それでもかなり反応性が高く、多くの生命にとって有害だし、あらゆる金属元素と結合して水に溶けなくする。その結果、海水の成分も大きく変わり、酸化金属が固体に加わる。また、その酸素二つの分子を利用して化学反応を急速に進め、活発に活動する生物も多く登場した。
それら生物が地球表面を広く覆い、多くの物質を用い、高秩序エネルギー源として太陽光や地球内部から放出される物質を消費し続けている。多くの生物が身を護るのにカルシウムと炭素などや、珪素などを結合させた硬い物質を用い、その死体が積もることで、地表の固体の相当部分のもとともなっている。地球の少し深いところに埋まり、炭素や炭化水素の塊になってしまった生物遺骸も多量にある。
それを長期間続けられるのは、地球がかなり多くの条件を偶然満たしているからだ。水という物質が液体である、狭い温度……原子の固有運動の平均速度……が、太陽との距離・真円に近い軌道、また表面を薄く覆う気体の組成などで保たれていること。太陽自体が非常に安定していること、など。
生物は、地球表面に重力で引かれてへばりついている膨大な液体水から、液体水がない固体部分にも広く分布している。
そのさまざまな生物の挙動はそれ自体興味深いが、中に、「異常な増殖」「電波情報の送受信」「宇宙空間への行動拡大」をしている、やや大型・陸上生活・自らを変型させて移動する・同種が群れをなす多細胞生物がある。
といっても、どれも大きく見れば別の生物がしているとも言える。可視光を放つ生物は多数あるし、地球の外を漂っている岩の欠片が地球を作っていく時のように激突した時、地球の破片とともに多数の単細胞生物は宇宙に飛びだす。地球表面を構成する固体を利用して巨大な巣を作る生物も、別の生物の繁殖を制御して食糧を得る生物も多くある。
話題にしている生物、人類は周囲の物質を、素材として組み合わせたり変化させたりして用い、さまざまな機能を拡張する行動を行っている。また食物としている生物の繁殖を制御すること、大気の酸素と生物を構成する分子の高温になる発熱化合を用いる、相互の情報交換が濃密であるなどが特徴だろうか。
とはいえ、本質的には「他の生物すべてを食い尽くして異常増殖し、自滅しつつある奇妙な生物」でしかない。
動かず日光の高秩序エネルギーを用いて水と空気の成分を生物分子に変換する生物群を、上記の酸素との発熱化合に用いてより高い熱、高秩序のエネルギーとした。さらに地球表面の奥に溜まっていた、さまざまな生物遺骸を利用し始めてから、より大きな高秩序エネルギーを使えるようになり、そのサイズの割に極端な数に増えた。その過程で、地球陸上の広範囲を生命が非常に少ない状態にしている。次の高秩序エネルギーがなければ、増えすぎているので個体数を減らすだけだ。
恒星間の距離を超えて電波情報を送受信したり、移動したりするのはこの宇宙で得られる物の性質・地球の重力の強さ・人類の寿命などから困難。また地球周辺には、近隣の恒星系も含め、そのような形で電波情報を送受信している存在は検出できない。
まあ、そのように奇妙に秩序の高いものがある宇宙、といえばいいだろう。それも大きく見れば秩序が無秩序になる過程の、ついででしかないのだが。
要するに何かが起きて、大きな秩序が生じ、一定の時間の矢に沿って秩序が失われているタイプの時空の一つだ。