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おーい……

 この文章はヒトには、読むこと自体が苦痛だろう。先に、敵味方識別装置が僕を敵だ、自分の群れの仲間ではない、と判断し、ゆえに僕の言葉はすべて偽りだ、聞いてはならない、と感じているはずだ。人が聞くのは群れ仲間の言葉だけだ。信じるのは理性の仕事ではない。

 僕が書いてきたことが嘘かどうか、多くは確かめられる。参考文献があり、観測・実験・発掘の論文まで追跡できる、同じ内容の本もいくらでもある。推理小説の「私は**社のセールスマンです」と同様、容易に確かめられるから疑わなくていいことだ。だが、決して確かめないだろう。最初から全部偽りだ、悪だ、読むに値しないと、感情が断定したから。人間工学的に地球人に合わないから。

 万が一最後まで読んだのなら、誰であれ……人間とは何だ? 何を前提にするんだ? 何が目的だ?

「我々はどこから来たのか」「我々は何者か」「我々はどこへ行くのか」。

《ビッグバンで宇宙が生じた。太陽の近くを万有引力と慣性により回る、多くは太古の巨星が作った原子が固まった地球表面で、太陽が核融合で放っている高秩序エネルギーで液体になる温度を保っている水を利用し、核酸で情報を記録しさまざまな分子を作りかえる、原子でできた生物が、複製の誤りと適者生存で進化した》

《進化の結果偶然生じた、空気・水・食糧などを必要とする、言葉や道具を用い、理性と感情が混じっている、本来は草原で群れる動物、それが人類……ホモ・サピエンスという生物である。

 今の人類は人口過剰であり、持続不能な量、有限な地球の有限な資源を浪費する文明で、巨大な群れをなし争いながら生活している》

《人類は唯一宇宙に、電波情報と生きたままの大形動物を送れる生物種であり、橋渡し種として地球型の生物を宇宙にはびこらせ子孫を残すことを使命とする。人類が成功しなければ、太陽の寿命と共に地球式の生物は滅びるが、それを避けねばならない》

 この科学による全人類共通の物語が、使命が、《人は原子でできた生物だ。生きふえることで、あり続けることが生命である。だから人にとって、生命・人類の永続が使命・善だ。生命と文化を種にし宇宙に多数飛ばすべきだ》が、間違っているというなら、何が正しい?

 わかってる。《私は特別な、神の子だ。道徳的に完全になり、悪魔を皆殺しにして悪しき本は全部焼き、囚われの姫君を助け、光の玉を取り戻せば世界は楽園になり、みんなが善人になり、私は神になる》って物語のほうが、よっぽど気持ちいいんだろう?

 脳が、何百万年もの先祖たちの暮らしに似た行動を……甘い果実と脂肪したたる焼き肉、富を楽しみ地位を争い、敵と戦い、性・暴力・地位・富・恐怖・神秘体験をたっぷり入れた勧善懲悪の魔法物語を楽しみ、同じ宗教を信じるのを求めてるんだろう? ヒトに合った言葉が真実だと、意識以前の感情が告げ、信じてしまうんだろう? 科学より宗教のほうが、それ以上に日常の視野の狭い世界、常識と習慣のほうがお好きなんだろう?


 選択したほうがすっきりするだろう。何を目的、前提にするのか。優先順位を。

「常識」「今までどおり」「何も考えずに過ごすこと」を目的にして、それに都合のいいことを前提にするなら別にいいさ。だが子供は作るな、少なくとも孫はできないようにしろ。文明崩壊で人肉を食い食われる人生を生きたら気の毒だ。

「別の群れに復讐する」まあ「我が国の勝利」でもいい、言い換えれば正義、それだけが目的だと言うなら止められない。ただし、文明崩壊になったらそれどころじゃない。家が燃えてても将棋をやってるなら好きにしろ。人類が滅んだら国の勝ち負けもない……などと言う奴は非国民だと火あぶりにすればいい。だが、地球が丸いという事実は変わらない。

 宗教が目的だって人を説得するのは無理だな。ホモ・サピエンスは一つの神話で群れをまとめ、他の群れと戦うように進化したんだから。

「生命・人類の存続」を目的とするなら、もう一つ選択してもらおう。人権・人道は? まあこれはどっちでもいい。僕の好みは人権ありだが、ないほうが成功率は高い。


 できることならあるだろう……あぶみを見落としていないか考え、試行錯誤してみろ。極超音速スカイフックやメガフロート、アッケシソウや海水で育つ稲を考えてみろ。海水のほうが淡水よりずっとたくさんある、広大な海のほとんどは肥料不足でろくに光合成をしていない、という事実を見ろ。僕が思いつけないあぶみもいくらでもあるだろう。

 試行錯誤と交換。せっかくたくさんいるヒトの脳を利用する。すべての子を教育する。失業者は、少なくとも数学を学べる若者はエネルギーや宇宙技術の研究をさせればいい。

 一本の木を切らず、木を植え、一人の餓死や拷問虐殺を防ぎ、科学を進める、そのために投票しろ。投票ができなければ、どうすればすべてを破壊せず投票できるようになるか、正義感を満たす失敗例ではなく泥臭い成功例を真似ろ。

 思考停止をしない。救命ボートを積むように最悪の事態を想定する。種籾の缶詰を配れ、本を埋めろ。タンポポが種を多数飛ばすように種を《まく》んだ。

■□■

 僕は「生命・人類の存続」「人権・人道」「科学技術・進歩・解明」という物語が好みだ。群れは目的があれば団結し幸せになれるようだから、人類全体がそれを目的にまとまってくれればいいと思っている……ま、それも、僕も人間だから千年王国願望があるだけだろう。

《ビッグバンでできた宇宙で生物が進化し、その一つである人類が地球というゆりかごから巣立ち宇宙への橋渡し種になり、種を飛ばして子孫を残す》という物語は気に入らないか?

 僕が提唱する目的は明確だ。できれば誰も餓死しない。虐殺拷問がない。言論・思想は自由。科学技術を進歩させ宇宙に出る。宇宙の金属資源で文明を千年後も、万年後も崩壊させない。

 それが無理なら、誰かが生き延びるように。さらにひどければ、生命や人類の創った文化がこの宇宙にあり続けるように。どちらにしても十億年後や万一のため、生命の種を宇宙に《まく》。

 今の人類は化石燃料を主にエネルギーとして、森林地帯を耕地化してから都市化し、砂漠地帯で石油と化石地下水を用いて農業をしている。それに対しあるべき姿は、海に肥料をまいて養殖鎖を浮かべ、砂漠を海水で……エネルギーが進歩すれば淡水化した海水で潅漑し、人口の大半は海や砂漠に移住する。

 それは、少なくとも「政治体制をひっくり返し、全人類が改心し物欲をなくす」ことは求めていないはずだ。

 私利私欲を捨てろ、とは言わない。いや、私欲を捨てろと言うほうが多くの人の耳に届く、人間工学的には優れた言葉のようだが、その結果は頭蓋骨の山だ。いたずらに平等を求める者は、歴史から学べ。

 だからって欲望のままにとも言ってない。熱帯雨林を破壊すればとりかえしのつかない遺伝子情報が失われるし、森林破壊は文明崩壊の元だ。そして格差が激しい社会は宗教でガチガチに縛らなければ不安定だし、多くの中産階級がいる社会は、かつての封建領主には想像もできないほどの富を富者も得られる。

 どちらも間違っている、頭を使え、道徳という感情に振り回されるな、と言っているだけだ。ありのままの、原子ででき飲み食いする動物である人間を、進化心理学を直視しろ、と言っているだけだ。未来の技術は予測できない、人は全知じゃない、この世界は心が善なら絶対に勝利する物語の世界じゃない、と言っているだけだ。科学、考えろ、試行錯誤しろ、一つの籠にすべての卵を入れるなと言っているだけだ。

 それだけなら、虐殺にはならないと思いたい。そうそう、一つの目的に全人類がすべてを捧げろ、とも言わない。あくまで船にとっての救命ボートのコスト程度、無理なく負担できる程度のコストでいい。

 人間工学的に誤っているから誰の耳にも届かないだろうが。人は、自由平等や宗教で集団暴走するか、保守で思考停止しカウチポテトか、どちらかが好きなのだから。

 僕は理性も前衛も伝統も信じていない。高い教育を受けたエリートも哲人も君子も、神秘体験経験者も解放された自然人も、誰もがついていくカリスマも、昔の賢者も、誰もが人間であり愚かだと信じている。伝統は適応している技術水準が違う。正しい針路などない、多産多死のr戦略、試行錯誤が最善だと確信している。

 種を《まく》方針は、前提を問わず通用する。最悪の前提、今後技術は進歩しない、または避けようがない滅亡が近い、そのどちらでも電波で放送し、いろいろカプセルを打ち上げることだけはできる。


 何を選ぶにしても、せめて頭を使ってくれ。群れで思考停止し自分で自分を騙すのはやめろ。前提と目的を考えて選んでくれ。

 ホモ・サピエンスという動物が何を好むかちゃんと理解し、善意で舗装された地獄への道を避ける。理解すれば、罠を避けられるだろう……「今乗ってるこの車は、ハンドルが重くて回しても反応が鈍い上に、いきなりものすごく曲がる」、「自分には緑のカラーコンタクトがはまってて外せない」と自覚していれば、注意して、なんとか運転できるだろう。

 自分を操り、感情を満足させつつ目的のために働くこともできる……実際、広告や、広告による政治は人の財布や票を操ってる。その技術は善悪どっちにも使える。

 わかりやすく描けば、「自分の鼻先に手で持ったニンジンをぶらつかせて走っているケンタウルス」のようになることだ。

 人間は、自分には理性しかないと思っている。だがむしろ、ケンタウルスのように、心の大半は獣だ。鼻先にニンジンをぶら下げれば走る獣。ケンタウルスなのに、鏡には人間の絵を貼りつけて自分を騙しているようなものだ。

 ケンタウルスが、自分は人間だと自分を騙して意志で走っても、疲れたらやめるだろう。だが、自分はケンタウルスだということを受け入れ、自分の鼻先にニンジンをぶら下げれば、馬である下半身はニンジンに釣られて喜んで走る。

 ヒトを理解して、人間に可能な変化をすれば、地球号の舵を切ることはできるだろう。


 科学が教えてくれること……自分自身が原子ででき、進化によってプログラムされていることを直視することを、「自我」というフィクションを構成している物語を書き換えることを恐れるな。科学の威力から目をそむけるな。自分の頭で考え、疑え。試行錯誤を拒むな。人は全知全能じゃない、舵輪を争う暇があったら救命ボートを点検しろ。

 物語が欲しければ、科学がある。意味・価値・使命が欲しければ、滅亡を防ぐという目的がある。

 すべての卵を一つの籠に入れるな。

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