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大切な仲間2

「なんということでしょうか!まさかの七冠戦が、武芸大会、前日に行われるとは!しかも、七冠。全属性使いのフィリアと因縁のある、クイーンズベリー公爵家のルイーズ様だ!クイーンズベリー公爵家。同門の対決に目を離すことなどできるでしょうか!」


 音響魔法。闘技場の中から響き渡っている。歓声も聞こえてくる。やはりこの国の学生最強の一人を決める戦い。注目度も高いのだろう。


 私はテレンに買ってもらいそれなりに調整した杖を片手に中央に歩いていく。向かいからもルイーズがこちらに向かってくる。その表情は硬く緊張しているようだった。


 まったく、ここにきてこれである。恐慌のバットステータスを受けているのが丸わかりだった。向かい合って私は微笑んだ。


「怖いのですか?」


「怖くなんかないわ!?」


「はぁ。そう見えませんよ」


 私は周囲の声も視線も気にせずルイの手を握る。歓声が強くなるし、実況者がうるさく何か言っている。ルイは隙だらけ逃げることも出来なかったし、目を丸くして私を見ている。私は笑った。


「な、なによ」


「貴女は強い。幼い頃から観ていた私は知っていますよ」


「そんなの知っているわ!」


「ええ、だから何度でも言いますよ。貴女が怖がる度に何度でも」


「わかったから!わかったから手を離して!」


 ルイに言われて私は手を離した。試合ももうすぐ始まる。


 魔法は存分に使える耐久性も幾重に防御魔法が組み込まれ、私の極大魔法では傷一つつかないだろう。私は全力を彼女にぶつけるつもりだ。


「貴女は戦う私だけを見ていればいい。周囲なんて何一つみる必要はないです」


「……そうやって、フィリアはいつも」


「さぁ、間もなく試合の開始です!」


「ルイ、何か言った?」


「ふん、何もないわよ」


 闘技場の中央から離れて、向かい合えば地面を揺るがすような歓声が響く。ああ、やっぱりだめだ。ルイの表情は硬く肩は震えている。とてもまともに戦闘ができる状態じゃない。司会の声も届いているように見えない。


 私は司会の前口上を遮るようにして杖を掲げた。正直、非礼に当たるのだがそうも言ってられない。


 なんとかルイも私のそれに合わせて答礼の杖を掲げる。その手もやはり震えている。どうも余計なことを考えていようだった。


 私は口パクで向かい合うルイにこう伝えた。大丈夫と。そこでやっとルイの表情に少し変化があった。


「試合開始!!!!」


 司会の合図とともに私は風の魔法を構築。弾として射出した。その時間にして一秒もない。


「っつ!!!!」


 ルイは咄嗟に同じ魔法構築して撃ち落とす。反応は悪くないが、デバフはまだかかっているようである。このまま、魔法のコンボを繋げては、ルイが本調子に戻るまでに勝てる。


「このぉ!!!!」


 ルイの反撃が風の魔法弾が飛んでくる。同じく撃ち落とす。数百の弾丸が飛び交う。弾が逸れまたぶつかり渦をつくる。


 戦場の主役は魔法使いだ。とある国の将軍が言ったことがある。遠距離から数百人の人間を吹き飛ばせる、魔法はまさに天災そのものであるので間違いではないし、だれもその言葉を否定しなかった。


 魔力がぶつかり。地面を抉りフィールドの木々を薙ぎ倒す。もっともっと弾を再生する。数千の風の弾が行き交う。それももちろん、ルイに打ち落とされる。拮抗した弾幕の張り合いが続く。うん。目に見えていい試合だ。


「なんという魔力!なんという制御なのか!」


「そうね初級の魔法とはいえ、一人でこれほどの数を操るものはほとんどいないわね」


「会長。やはり二人の力は拮抗しているのでしょうか?」


「さぁ?フィリアは下級魔法のゴリ押ししかできないわけじゃない。フィリアの強みは全ての属性を上級魔法まで完成されたレベルで使えることよ?」


「つまり手を抜いてると?」


「そんなわけはないわ。あれだけの弾幕、貴女は耐えられるかしら?」


「それはその」


「そう無理よ。だだの魔法使いならただの騎士ならこれで試合が終わっているわ。あとはそうね。試合の決め手は、ルイーズ様がどれだけの手札を持っているか?それだけじゃないかしら?」


 しれっと解説席に座って話すテレンの解説に私はそうだと頷く。現にこの催しの主催は、テレンの生徒会となっている。隣で給仕をしているレイアがこっちを見て微笑んでいる。


「よそ見をするなぁ!」

「ええ、そうですね」


 すぐにルイに気づかれて怒られたので魔力の制御に全力をつくす。


 まぁテレンのいう通り、ルイがちゃんと手札をきれるなら私は勝てる可能性が高いわけではないし、ルイが使う奥義はラスボスをワンパンできるほど強力なのだ。それをたまにゲームで低確率で彼女は放つので、彼女の能力は本物なのだ。


 つまり、彼女は真価を発揮すればラスボスすら倒せるのである。それまで違和感がないように時間を稼がないといけない。ルイが冷静に戦いに集中できるように。


 それでもって私がこんな単純な力押ししかできないわけがないので、周囲に魅せてあげよう。


「風の渦よ」


 再生された風の流れを制御し指向性を与えそのままルイにぶつける。風の牙と呼ばれる、風魔法同士がぶつかった時に使われる応用である。


 風の刃がルイに迫り彼女は躱すも風弾の撃ち合いもこちらが押し切って、全弾が止まったルイに全て降り注ぐ。防げきなかったらまともに受ければ死ぬ。それだけの威力はあった。


 それをルイは全て杖を振りかざして弾き飛ばした。一部、私の方に飛んでくるので防いでおく。ルイの魔力が膨れ上がっていく。私はニヤリと笑う。やっとエンジンがかかってきた。身内でこれなら、普通の相手ならもっとかかるのか。ただそれは少し考えようである。


「これはすごいですね」


「ええ、そうね」


 司会が完全に呆れた声をあげる。テレンも同じく驚いていた。ルイの周囲が展開された場所、歪み大地が魔力に震えている。魔力を解放しただけで空間が歪んでいるのである。恐慌デバフが消えたとたんこれである。


「面倒なのよ」


「だからって力でねじ伏せますか?」


「それができる力があるのよ」


 じっとルイの視線が私をつらぬく。


「貴女は違うでしょ?」


「ええ、私がルイと同じように戦えば先に魔力が枯渇すると思います。が」


 また同じように風の弾を生成する。それにルイは苦い顔をした。


「まだ私の方が制御に長けています」


 また風の弾幕をはった。それに防戦一方ながら迎撃するルイ。このまま押す。ひたすら愚直に真っ直ぐと。時折、強引に攻撃が切られるも、距離を取れば私の手数が反撃を許さない。


 さぁ、早く。ルイの全力を。思考を奪って私だけに集中させないと。火が灯る。防戦するルイから多大な魔力が漏れていく。


 魔力の流れがはっきりと読み取れる。だから、ルイの防御の隙をつけるはずなのに、私のその攻撃が通ることはない。


 ぎりぎりながらルイの魔法に止められていく。ルイは順応していく。風の応用も全て読まれていく。今、大技に繋げていけば。


「風の鉄槌」


 轟音とともに地面に大穴が空いた。その中央でルイは笑っていた。彼女は空を飛び私を見下ろす。ああ、やっとわかってくれた。もうすぐ彼女は私より強くなる。


「フィ。それが貴女の全力?」


「まだまだよ、ルイ。私は全ての属性を使えるんだから」


 小技を含め二重詠唱を使えばまだ押せるし戦える。攻めて攻めて攻め切る。火で行動を制限し、水で惑わし、風で牽制し、土で視界を塞ぐ。しかし、それも全部ルイの風に防がれる吹き飛ばされた。


 私の攻勢数十分数時間。正確なわからない。服はお互いにボロボロになって、至る所が傷だらけ。とても貴族なんて言えない姿になっていた。


「早く諦めたらどう?フィの攻撃なんてもう私に通用しないの」


「ルイこそ息も絶え絶えに見えるけど。疲れたでしょ?降参してもいいよ」


「魔力が弱っているのは貴女の方。もう枯渇寸前で何をいうの?」


 ルイは昔のように微笑む。それが懐かしくて、その表情が見えて嬉しくて。この強さがありながら、誰よりも先を怯えていて、それに気づいてあげられなくて独りにさせてしまった。


「最後にしよっか」


「ええそうね。決着はつけないとね」


 私は最後の気力を振り絞ってさらに高く舞い上がる。途中から解説の声も聞こえていなかったけど、テレンの制止する声が聞こえた。ごめんね、と私は最後の力を振り絞って極大魔法を構築する。


 雷が紫電が球体となって輝く。ズキズキと頭も胸も痛い。魔力不足のせいか身体が壊れるような軋むような音がする。


 私の最大の魔法。かって竜と戦った時もこれでトドメを刺した。山に崩し一帯を焼き払った雷系最強の魔法。


「愚かなものに裁きの一撃。ジャッチメント」


 落雷となりて地上にいるルイに撃ち落とす。その閃光を打ち破るように風が吹く。稲妻が爆ぜて強風が私を襲う。


 私は魔力が尽きて姿勢を維持できなくて空から真っ逆さまに落ちていく。杖が壊れて飛空の魔法が維持できない。


 地上が見える。ぼんやりとこのまま死ぬと思いながら目を瞑る。すると身体が誰かに支えられる。瞼を開けるとそこにはテレンがいた。


「全く、貴女は私のものよ。勝手に死ぬなんて許さないわ」


「いいのですか?決闘中ですよ?」


「構わないわ。決着もついていた。お咎めがあっても軽いものよ」


 テレンが地面に舞い降りるとそこにはルイがいた。全力の一撃を完璧に防がれたようである。悔しくもあるし、嬉しくもあった。


 ただルイは顔を蒼白にして私の方へ駆け寄ろうとしてテレンに視線で止められていた。


「さぁ、戦いは終わったわ。敗者はここから退場するとしましょう」


「テレン。これを」


「ありがとう。レイア」


 私の身体が毛布で包まれる。ひどく冷えが身体が暖かいと感じる。


「フィ!私は」


 ルイが叫ぶ。私は微笑んで首を横に振る。今、彼女が語る相手は敵である私ではなくて、実況していた貴族の誰だったかが話をしていた。その様子をちらりと見たテレンが私を抱えたまま歩き出す。


「ありがとうございます。テレン」


「何かしら」


「たくさん迷惑をかけました」


「別にこの程度、どうとでもなるわ。それより体調が戻ったらきりきりと働いてもらうから覚悟しなさいね」


「レイアもごめんね」


「私も気にしていませんよ。貴女は決着をつけた。それだけです。それに私達は大切な仲間なのですから、問題は協力して乗り越えるものでしょ?」


「うん。ありがと」


 レイアに頭を撫でられる。周囲の視線も含めて恥ずかしい。


「少し疲れました」


「おやすみなさい。あとのことは私がどうにかしておくわ」


「ごめんなさい」


「そこはありがとうね?」


「はい。ありがとうございます」


 私はテレンの腕の中に包まれながら瞼を閉じた。こうして私は七冠を失った。でもどこか少し気楽になっていた。七冠でなくなった私に、残っているもの。それはなんだろうと考えながらゆっくりと眠りに落ちた。

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