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明日の朝から3

何を書きたいのかわからなくなる。ただ自分の欲望を描くようにしたい。

「随分な手荒い歓迎ね。下級生相手に生徒会長がすることなのかしら?」


「あら?むしろ手を抜いてあげたのよ?そうでしょう、フィリア?」


 テレンシアの言葉に私は小さく頷いた。


「この学園は聖女を守るために作られて学園だったのよ?弱さは無知は許されない」


 ひどく冷たい声。軽薄な雰囲気は鳴りを潜めて、厳粛な生徒会長の顔になった。この学園で力が弱いことは場合によっては自身の家族すら立場を危うくする。


 退学ならまだいいほうで、リーナのように敵対派閥に聖印を刻まれたりすれば、己の家族すら危うくなり、敵対派閥の取り込まれて奴隷のような身分に堕とされた。


 そんなことになった者は数多くはいない。でも、貴族の身分すら無くしてしまう場所なのだ。


「国内にも危険な魔物がいる。私たちの領土を狙う各国の勢力もある。だから、私たちは強くあらねばならないのよ」


「それくらいわかっているわ。でもそうね、この学園を侮っていたことは認めるわ」


「知識としては知っているのね。よかったわ、そこまで愚かじゃなくて。いやどちらにしても愚か者ね。さぁ、フィリア。そろそろ見せられる顔に戻ったかしら?貴女達も気をつけなさい。聖印を刻まれてしまえば、二度と元に戻れなくなってしまうわ。この娘のようにね?」


 私を抱きしめて、高価な玩具を見せびらかす子供のようにテレンは笑った。振り返った私は視線を地面に落として俯いた。


「フィリア」

 

 私を呼ぶ声には応えられない。私は、契約が履行される限りテレンの所有物でなければならない。


「いつかその高慢な笑みを歪ませてあげるわよ」

「あら、私はもう卒業よ?一年で貴女にできるかしら?」

「舐めないでくださるかしら?私、負かされたまま終わるほど諦めの良い女じゃないの」


 ヘレンは反省したと表情を引き締めて言う。


 それは少し救いだった。あるゲームのルートでは彼女は、聖印を刻まれてそれを逃れるために魔力を失い貴族でなくなって心折れてしまう。


 主人公によって救われて主人公の侍従としていきていけるが、それでは戦力ならない。ヘレンは血統からいって強く育つ。戦力になる彼女がいなくなられては困る。


「ひとつ聞いていいかしら?」

「あら?シエルさん。なにかしら?」

「そういう貴女には護衛がいないじゃない」

「ふふふ、フィリアがいるじゃない。それに私も強いのよ?万が一はないわ」


 私はテレンシアに抱き寄せられる。顎をあげられて、首に刻まれた印を見せつけられる。


「っつ」


「逃げちゃだめよ。これはあなたが受け入れたことよ」


 三人の視線。特にリーナの表情は崩れて今にも泣きそうだった。


「聖印よ。これがあれば私はこの学園の聖印をつけた娘のところに飛べるの。フィリアなら私が飛ぶ時間を稼ぐことくらいはやってくれるわ」


「ほかにもいるのですね」


「当り前よ。私は侯爵家。むしろ、貴女はいないのかしら?」


「あいにく私は必要としていないわ。貴女のように人を道具とするつもりはないもの」


 ヘレンの応えにテレンシアは私に聞こえる程度の小さく舌打ちをした。


「あら、私を馬鹿にしているの?」


「気にしないでください。私は自分の意思で従っているから」


 小さく溢れたテレンシアの言葉に私が囁くとテレンシアが驚いたようにして視線を向けてくる。目を丸々とさせたあと、彼女は嬉しそうに笑った。


「受け入れてくれているのね」


「まぁ、テレンは嫌いじゃないですから」


 テレンシアを守るように私は杖を構えた。私の意図に気付いたテレンシアがうなずく。


「ただ話をするのを退屈ね」


「リーナ、かかってきて。今の貴女の力を魅せてほしい」


「どうして、フィリアはその人を守るの?」


 私はリーナの問いに応えることなく、杖から氷の柱を放った。リーナは、レイピアを抜いて氷の柱を粉々に切り裂き走るようにして、私のほうへ近づいてくる。


 私は杖を地面に向けて土の刃を生成。振り上げてリーナに向かって振り下ろす。


「あああぁぁあ!」


「やぁああああ!」


 刃と刃が交差する。金属の音が鳴り何度も何度も刃をぶつけあう。リーナは正当な剣術を使う。純粋なその剣舞は、切りあうだけでどんどん研ぎ澄まされている。私と互角、いやそれ以上に戦えるようになっている。


「強くなったね」


「どうして!私は、こんなことのために強くなりたかったわけじゃない!」


 あの出会って間もないころにより強くなった。私は今年で卒業、可能な限りの能力は鍛えてきた。もう既に私と同程度の力をもっている。


 悔しいなぁ、ただの主要なキャラでもないというだけで簡単に追い抜かれていくのだろうか?ゲームのモブキャラもいたが、どれだけ頑張って鍛えても原作キャラに勝てなかった。


 原作キャラに勝てない。そんなのこの世界に生まれてからわかっていた。たった、数年の期間で近接戦闘はもうすでにリーナのほうが上だ。


 汗が零れ落ちる。打ち合うごとに劣勢になっていく。リーナの方が速くなっていく。私の剣、杖の刃が切り飛ばされた。リーナは剣を構えたまま私を見ていた。


「ほんとうに強くなった」


「フィリアが教えてくれたんだよ」


 リーナは嬉しそうに笑った。負けたのに少しうれしかった。数年、ずっと二人で一緒にいた。二人で一緒に鍛錬をした。一緒に強くなった。


「うん、でもね。まだ私は負けてあげられない」


 私は杖を魔力に込める。私の周囲に氷の柱、風の竜巻を生み出す。竜巻が氷の柱を巻き込み礫となる。リーナは竜巻と切り裂きながら、氷の礫をレイピアではじく。


 冷気も交じっている極寒のなかでも決して動きに劣りはない。極寒の風のなかをリーナはかける。


 杖で地面をたたく。地面は揺れてリーナの足場を奪う。地割れ。それも飛んで躱される。


「土蛇!」


 地面から二対の蛇を生み出してリーナを捕えようとするも、蛇は切り裂かれた。背後からの一撃なのに。リーナは私のほうに向かってくる。


「フィリア!」


 リーナは空中で足場を生み出して一直線に私のほうへ飛んでくる。って、飛躍魔法!?それゲームの後半で取得する技でしょ!?。なんでもう覚えているの!?


「ちょっ、うそ!?風の鉄槌!」


 慌てて風の魔法をたたきつけるも切り裂かれた。


「あっ」


 負ける。数秒先だがそれがわかる。でも、負けたくない。ここで負けたら駄目だ。格好が悪いし、示しがつかない。卑怯な手でも勝ちに行く。


「点灯!」


 強烈な光が私とリーナの間で弾けた。リーナの態勢が崩れて、そこに風の鉄槌を落とす。まともに受けて地面に膝をついたリーナの背後で私は杖を向ける。


「終わりだね、リーナ」


「どうして」


 リーナは悔しそうに声をあげる。私の勝ちだ。この結果は偶然の産物。かってリーナと話をした松明代わりの光の魔法を戦闘レベルの使用。まぁ、使い場所によっては味方の妨害になるけど。


 私の必殺技。見せるつもりはなかった、強力な近接戦闘の使い手に一番有効な私の魔法でリーナも知っていたはずだが、まだ対応できないようだ。それは少し朗報でもあった。私が原作でも戦えるレベルでもあるということだから。


 ただ無理に放ったせいか、私の魔力の核が酷んだみたいで全身から痛みを訴えている。少し無茶をしたと思っているし、この勝ちはきっと最後にリーナが手を抜いたのも大きい。私を倒す気ならば、完全に近づく必要はない。


「返してよ!フィリアを!どうしてフィリアを道具としてみている貴女が!」


 息を整えているとリーナがテレンシアのほうへ視線を向けて吠えていた。怒り、ここまで激情を晒しているリーナは、あの事件以来だなと思った。


「返して?この娘は貴女のものじゃなくて、私のものなのよ」


 悲痛な声で叫んだリーナに対して、フィリアは呆れた表情を浮かべる。


「違う、貴女はフィリアを脅したんだ!じゃなきゃ、フィリアが聖印なんて受け入れるわけない!七冠の一人のフィリアが、貴女に屈するわけがない!」


 リーナが私の首の刻印を睨む。この刻印は契約が果たされている限り、刻まれたものは主人の命令がほぼ絶対になる。


 無理やり刻印を解除することも可能だが、二度と魔法が使えない身体になってしまう。刻まれたら最後、奴隷として生きていくしかない。


「フィリア、私のところに来て。今度は私が守るから!」


 リーナの声にわたしは首を横に振ってテレンシアの方へ歩き出す。テレンシアの傍に立つと、絶望したリーナを慰めるようにヘレンがリーナの肩に手を置いていた。


「あれが聖印ならもう契約を解除することは無理よ。聖印は貴族として死ぬまで消えることはないの。でも、なぜフィリアがそんなものに契約したのか?それは教えてくださるかしら?」


 ヘレンの質問にテレンシアは笑顔を浮かべた。ああ、いじめっ子の表情だ。


「フィリア、応えてもいいかしら?」


「わたしは別に、テレンがそれでいいのなら」


「そうね」


 テレンが三人にはっきりと聞こえるように、大きな声で言った。


「リーナ、貴女達を守ること。フィリアの家族を助けること。そしてクイーンズベリー家を支援することよ?」


 テレンシアは楽しそうに言った。


「そう」


 ヘレンは小さくうなずいた後、私の方を見た。私はうなずく。それで多くの人を大切な人を救えるなら、私はどんな立場だって受け入れる。


「貴女はそれでいいの?」


「はい、私はもうテレンに身も心も捧げましたから」


「随分と重い制約ね。例えば、私たちがテレンシアに敵対したらあなたはどうするの?」


「無力化します」


「甘いわね」


「甘くてもです」


 少なくともこの学園内では可能だ。卒業したらどうなるかはわからないけと。でも今は、テレンシアの協力は不可欠だ。


「ほんと、どうして聞いていた通り困った人なのね」


「なにがです?」


「一人で勝手に解決しようとする。誰にも相談もせずに、もっとほかにやりようがあったでしょうに」


 私はヘレンの物言いにいら立つ。どうして、彼女にそんな風に言い切られないといけないのか。護衛もろくおかず、この学校のことすら理解できていない彼女に何かを言われる筋合いはない。ゲームで過ちを犯し、私と同じ立場に堕ちるルートもあるくせに。


「不満そうね?でも、貴女は貴女の立場、状況を何一つ語っていないじゃない?」


「私はこれでよいと思っています。私の心配より、貴女方の心配をしてください」


 私は杖を突きつける。


「私一人でリーナも無力化できました。リーナが今の貴女方の最高戦力であるはずです。言っておきますが、私に近しい強い者達は学園に数多くいるのです」


 そいつらに負けてしまったら即ゲームオーバーになる。恋愛ゲームのくせにバトルで負けたら終わりだったり、この学園は逝かれている。


「そうね、その忠告は受けておくわ。家の方にも頼って護衛も用意する」


 ヘレンの返事はあっさりとしたものだった。すこし拍子抜け、ゲームの世界はもう少し頑固な一面を持っていたと思う。


「それでもし可能ならフィリアを譲ってくださらない?」


「あらそれは冗談かしら?」


「いいえ、本気よ」


 ぴくりとテレンの眉が動く。


「無理ね」


「あら、どうして?。私達もそれなりの条件は出すわ。ただその聖印を、テレンシア様が消して上書きさせてもらえればいいの」


「条件というからには、それなりのものを出せるのかしら?言っておくけど、安く差し上げるつもりはないわ。私はフィリアを評価しているのよ?」


 テレンが私の身体を抱きしめる。身体が密着すれば暑苦しい。特に運動をしたせいか、汗で下着が張りついて気持ち悪い。


「匂いを嗅がないでください」


 すんすんと私の首筋に鼻を当てて音を鳴らすテレンに私は流れようとする。


「あら、いいじゃない。私、貴女の香りは好きよ」


「そういう問題じゃない」


 私が拒絶できないことをいいことにひとしきり堪能したテレンは満足した様子め離れていく。


「リーナ、私はこの人の傍を離れる気はない。だから、貴女は貴女で大切な人を守っていけばいい」


「そんなの嫌だ!だって、フィリアは私や他の人ために聖印を受け入れんだよね?」


「いいの。確かに話はテレンから持ちかけられた。でも、わたしは今の自分を、何一つ後悔していないの」


 私はリーナに向かって今使っていた杖を投げる。私が入学してから鍛えてきた特注の杖だ。


「リーナにあげる。いらないなら売ってくれてもいい」


 魔力を増幅し魔法を制御を助けてくれる私なりに改造した杖。私用に調整しているので新たに再調整する必要があるだろうけど、この杖はこの学園の中でもそうそう見ないほどの性能はあるはず。


 手に取ったリーナはギュッとその杖を抱きしめた。


「もう手加減しないよ」


「もちろん。遠慮はありませんよ、リーナ様」


 私は微笑む。苦しそうな表情であるが、リーナはしかり私を敵として認めてくれた。立場は変わってしまってけれど、少しも後悔はない。


「あら、鐘の音ね。話しすぎたかしら、ふふ、では。お昼頃だから私達はもう学舎に戻るわね。フィリア、エスコートをお願いね」


「はい。テレン」


 テレンに抱き寄せられるのを当然のように受け入れた。魔法陣が展開して私達の周囲を包む。リーナが悲しげな表情で私を見る。


 戦う決意を決めたらしいのだが、まだ未練があるらしい。私が口を開く前に、見せ付けるかの様にテレンが私に口づけをした。


「んっ」


 魔法陣が起動する。視界がぼやけていく。ぼけてよくわからない視界に映るリーナの叫び声が聞こえた気がした。


某配信サイトでエンジェルなビートという某アニメをみた。とても楽しかった。

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