明日の朝から2
身体の気怠さとぼんやりと思考の回らない頭。そばに感じる人肌の温もりと知らない心地よい花の香り。
うっすらと瞼を開ける。洒落た天幕付きのベット。おそらくここは自分の部屋ではない。いったいどこなのだろう?と身を起こそうする。
「んっ」
手に柔らかい感触。隣から声が聞こえた。絹と思えるような金色の髪が私の腕を包んでいる。さらさらとした水のような透き通るような肌触りで気持ちよさすらある。
「あれ?」
身を起こして確認するとテレンシアが裸で私にしがみついていた。私は彼女の腕を解いて昨日ことを思い出す。
「あ、うぅ」
ぼんっと顔が燃え上がるように熱くなった。昨日のお昼からのことを思い出して私は顔を手で覆った。やってしまった。やられてしまった。
ほのかに匂うテレンシアの香りから、触れた肌の感触が脳裏から想起させられる。彼女の手が私の全身を撫でて、私は彼女から逃れるように身を捩っていた。
ずっと、ずっと絡み合っていた。身体に彼女がつけた跡がいくつも残っていてそれが夢ではないこともわかっている。
「今、もしかしてお昼?私、もしかして一日中していたの?」
「ええ、そうです。フィリア様、いえフィリア」
「だ、誰?」
私が振り返るとテレンシアの片腕である生徒副会長のレイアがいた。彼女は、私とテレンシアが裸なのを一切気にした様子はなく、私に濡れた布を当てて拭っていく。
「今、湯の準備をしていますから」
「えっと、あ、ありがと」
「構いません。もう貴女が私達の仲間であると、テレンから聞いていますから」
レイアは微笑むと私の身体を丁寧に拭っていく。彼女の手つきは慣れていて早い。気持ち良さすら感じられる。
「いいの?私みたいなのがテレンシアの傍にいて」
「テレンと二人で決めたことですから」
レイアはふんわりとお淑やかに笑った。二人は完成された主従関係。どの作品のゲームでもこの二人はどんなエンディングでも、仲を違えることはなかった。
その二人の信頼しあった関係が今の私には羨ましい。レイアは、空いた片手でテレンの頭を撫でて起こす。テレンは嫌々と身を捩った。
仲の良いその光景に瀟洒な従者のレイアと威厳あるテレンシアの二人が、子供らしく見えてどこか可笑しかった。
「む、何かおかしいですか?」
「いや、私と違って凄いなぁと思っただけ」
テレンシアは正しく仲間を守れる力と信頼があって、レイアはその信頼に応えるだけの想いと殉じれる覚悟があった。そのどちらもなく仲間を裏切っていった私と大きな違いが二人にはあった。
「フィリアは立場が悪かっただけです。むしろ、貴女は主人を守ろうとした。もし、リーナ様の件が無理に為されていたら、きっと私たちは黙っていられなかった。貴族間でより大きな対立が起きたことでしょう」
「それでも、もっとやりようはあったと思うんだ。リーナの立場をより悪くして家族の立場すらも悪くなってしまったから」
今も周囲はわたしをそう見てる。それは正しく間違ってはいない。
「悔やんでいるのですか?」
「ううん、後悔はないんだ」
ただ謝りたい。もう話すことはできないだろうけれど謝ってやり直したい。また一緒に笑い合いたい。元の関係戻れたらどれだけいいことかと願っている。
「でもそれも過去のことです」
「へ?ひゃあ」
レイアは濡れた布をベットのそばに置いて、俯いた私を押し倒した。
「な、なにを」
「なにとは?もうテレンが貴女を味わったのですから、私も少し味見と思って」
「まって、意味がわからないから!」
私はレイアの腕の中でもがくも抜け出せない。騎士の適性はレイアは頭抜けて高く、私は魔法に特化しているから力勝負は勝てない。
「離して」
「あまり暴れないでください。テレンが起きてしまいます」
「起こそうとしていたでしょ!むしろ、早く身支度をさせて!」
「せっかく裸の貴女がベットにいるのに、何もしないでは勿体無いではありませんか」
「あ、ちょっと、せっかく拭ったのに!ひゃぁ舐めないで」
「ふふ、大丈夫。言ったでしょう?お湯も準備できていると」
「そういう意味なの!?」
淫らに笑うレイアに私の表情は凍りつく。ああ、この世界が百合ゲームであったことを思い出す。ゲームはR15であったのでそういう描写はすべてカットされたが、好感度が高くなった相手といたす場面はほんのすこしだけ描かれている。
「くっ、この」
「逃しませんよ?」
彼女の拘束から逃れようともがく。でもその抵抗をレイアは笑顔でものともしない。レイアの唇がゆっくと私の頬に触れた。
「んっ、やだぁ」
「抵抗が弱っていますよ?」
抵抗してなんとかなるならやっているよ!と、私は叫びたい。それにもう逃げ道なんてない。これからはこの二人とずっと一緒なのだ。
「もうお願いだから、これ以上は耐えられない」
「大丈夫です。優しくしますから」
「あら、なにをしているの、レイア?」
「あ、残念。目が覚めた?テレン」
「ええ、貴女のおかげでしっかりと目が覚めたわ」
私の後ろからレイアの頬に手を当てたテレンシアは微笑み、同じくレイアも微笑んでゆっくりとベットから降りる。
「はぁ、助かった」
拘束が開放されたことに一安心して肩の力を抜く。二日連続で襲われてたまらない。
「主人のものに手を出すなんて、強欲な従者ね」
「テレンのものは私のもの。私のものはテレンのものってテレンが言ったのじゃない。それに拒絶はされなかったもの」
「え?」
二人の視線が私に向く。え、だって今の私の立場で拒絶していいの?え?もしかして私は受けいれている?本当に嫌なのか?二人に触れられる気持ち悪さはない?
違う。違う。誰でもいいわけじゃない。だって、私は。
「大丈夫?フィリア?」
「あ、はい。助かりました、テレンっんっ」
倒れそうになって背後にいるテレンシア抱き止められて、振り返るとキスをされた。彼女の舌がわたしの中へと侵入してくる。
拒絶しようにも彼女は蛇のようではするり私の反抗を巧みに受け流す。五秒、十秒とたってテレンは満足したのか、唇を離した。
「ちょっ、なんで?!なにをするのですか!?」
「なにって朝の挨拶よ?」
「こんなキスが挨拶であってたまるものですか!」
なんだこの卑猥な主従。主人が主人なら従者も従者である。だいたい人を一日中好き勝手に遊んでおいて、朝からこんなことをするなんてあり得ない。私とリーナもルイーズももっと慎ましい頬にする程度しかした事がない。
「ふふ、レイアの相手をしていたら体力も必要なのよ」
「テレン。貴女が私を毎日玩具のようにして遊ぶのにそれはないわ」
「そんなこと聞いていません!」
私の突っ込みに微笑む二人に戦慄する。え、なにこれ。これが普通なの?もしかして私が間違っているの?
「毎朝、こんな事をしてるの?」
「「ええ、もちろんよ」」
二人揃って頷く。もしかしてこれを私は毎朝、付き合わされるのだろうか。いや、気持ちは良いけどこれは違う。友人関係や協力関係、いや。私は二人の所有物なのか。
「そんな顔をしないで。私は貴女の身体だけじゃなくて、心の方も欲しいの。私は強欲だから欲しいと思ったものは絶対に手に入れるわ」
違う。私が恐れているのは二人に与えられる快楽に堕落してしまいそうで、二人を心から受け入れてしまうことで、本当に裏切ってしまうのが怖いんだ
「さぁ、今日は仕事があります。すこし気合をいれましょう」
震えるわたしの肩を抱いてテレンは私を立ち上がらせる。手が正面にいたレイアに包まれる。彼女は微笑んでいた。
「さぁ、二人とも湯浴みを手伝いなさい」
「はい。では行きましょうフィリア。テレンの弱点を教えてあげるわ」
「あら、なら私はレイアの弱点を教えようかしら?大丈夫よ。フィリア、約束は決して破らないから。だから、私に貴女の身を任せて欲しいわ」
テレンが私の耳元で囁く。レイアと視線があった。彼女は微笑む。怖い。けど、信じよう。ゲームでは二人は笑顔で嘘を吐くような人ではない。打算でここにいる私を求めてくれている。だから。
「手を出さないのなら喜んで手伝います」
すこし淡々と返した。いやなもの嫌なのである。
「あら、嫌かしら?」
「嫌です」
テレンは気にした様子はなかった。レイアがテレンに服を着せ始める。チラリとレイアを見ればウインクされた。
「でも、私は辞めるつもりはないわ」
「ええ、わかってましたとも」
「さぁ、楽しみましょう?」
私もレイアに服を着せて貰い、二人に手を引かれて歩き出す。もちろん行く先は学生寮のお風呂であって。私は二人によって身体をきれいに丹念に洗われた。こってり、しっぽりと。
「はぁ」
お風呂から上がり二人から解放された私は、二対一で攻められた私はテレンに与えられた部屋で休んでいた。
鏡を見てそして私は首に残る首輪の跡をなぞる。洗っても落ちない、癒えることもないテレンシアから刻まれた跡。
これは貴族として死ぬまで消えることのない、建国した聖女の呪い、聖女を守るための鎖であり聖印とよばれる隷属の契約の証。
かってこの世界、この大陸が魔の者によって支配されていた頃、それを打ち張り国を作った四人の英雄がいた。その英雄の一人が私の住む国の礎になった聖女アルフレア。
その聖女の血はすでに何千年の時を経て、多くのものへと残された。聖女の血を特別にしないという、聖女の願いにより、貴族の全てが血を引いている。
多くの貴族が聖女の力を使える可能性がある。私も聖女の力の一部を使うことができる。けれどまだ発現していない聖女の力があった。
完全治癒という魔法である。その力はあらゆる病気を治し。呪いを払う魔法。それを使えるようなったのがゲームの主人公の姉、リーナだった。
聖女の魔法。それもまだ誰も発現していないもの。それだけで価値があって、全てを癒す力は聖女がいなくなってからすべての国民が望んだ力でもあった。
ただの貴族には過ぎる力を得たリーナにはまだ幸運が舞い込んでくる。さらにリーナの領内には莫大な量の資源鉱山が発見されたのだ。
己の血統も領土も一気に価値があがったリーナをどの貴族も放っておくことがなかった。皆がリーナを狙っていた。リーナの保護に動けるような力のある、リーナの派閥の貴族はこの学園にはいなかった。リーナを見捨てたのだ。自分たちの保身と嫉妬によって。
リーナを狙った侯爵家。彼女は、面と向かって逆らうことができなかった。むしろ、優しいリーナの性格を利用してその見捨てはずの友すら利用した。
そうすれば、純粋なリーナは勝手に罠にかかった。そしてその彼女に聖印を施すことは簡単だった。聖印さえつけてしまえば、逆らうことは難しい。
それこそ仲間に手を出すことにも戸惑わなくなる程度には、心も身体も歪めることになる。聖印の一番恐ろしいのは、主人からの命令にすら快楽を得てしまい、その人間の人格そのものを歪めてしまうことだ。
それを私はわかっていて受け入れた。テレンシアは約束は絶対に守ってくれるという信頼はあったから、その危険性を考慮してもこれには意味があった。そう派閥争いにおいては。
「さぁ、かかってきて」
テレンの従者になってから十日経ち、私はリーナ達と向かい合っていた。全学年合同の実戦形式の授業に出てリーナ達、主人公達と対峙していた。
「どうしてフィリア様」
「姉様、今は倒す敵です。構えてください」
「シエル、でも私」
主人公は容赦なくレイピアを私に突きつける。女の子でありながらその表情はとても凛々しく格好いい。
なびく銀色の髪。騎士甲冑がまさに誇り高き剣の姫と呼ばれるのもわかる。そして彼女もリーナと同じ力を秘めている。そして、二人を固める者達も優秀だ。
「でも、なめられたものね。たった一人で勝てると思っているの?」
「もちろんですよ。ヘレン様。ヘレン・ル・ルージュ様。私はまだ雛鳥である貴女方に負けわけにはいかないの」
その一人主人公の保護者にして四公爵の一人娘、ヘレンである。腰まで伸びた黄金色の髪から、私よりも質の良い魔力が漏れている。
「魔力の制御すらまだ覚束ないのですか?これは期待はずれですね」
「はぁ?」
「所詮貴族落ちです。ヘレン様お下がりください」
ヘレンの護衛に選ばれたのだろう有象無象の一年生達が盾になろうと前に出てくる。ただ彼らが何人いようと無駄なことだった。
「風よ」
「みんな下がって!」
リーナが気付いて叫ぶももう遅い。手に魔力を集めて、突風を生み出す。護衛の者達吹き飛ばさされて地面に叩きつけられた。
残るのはリーナとシエル、それとヘレンだけだ。ここにリーナ以外の上級生はいない。どれだけ才ある者たちであろうが、まだ芽も出ていない種でしかない。
今は束になってかかってこられても簡単に払い除けれる。戦意がないリーナを除いて、簡単に選別すらできる。
仲間が傷つけられてもリーナの戦意はまだない。それに少し苛立つ。私はいま、貴女の敵なのに彼女は私を敵とすらみてすらいない。だからこそ印には意味を持ってくれる。
「ヘレン様」
「なにかしら?」
瞬く間にリーナとシエルだけになった事に動揺しているようであったが、ヘレンは直ぐに表情を元に戻す。弱みを見せないその姿は主として悪くない。
「今の貴女達は、私一人で倒せるほど弱い」
「ええ、悔しいけどそのようね」
苛立ちの声。反論しないだけ、状況は分かっているらしい。私は周囲に防音の結界を張る。
「なぜ、上級生の護衛がいないのです?公爵家の貴女なら、学園にいる貴女の派閥を集めることくらい簡単にできたでしょう?」
「無理よ。リーナを見捨てたのよ?仲間を見捨てた彼女達を私は信用しないわ」
「だから一年生だけ固めたのですか?」
「ええ、そうよ」
なるほどこれは原作以上にひどい。少なくともゲームでは、使えそうな上級生が幾人かはいたのだ。例としてあげるならヴィクトリアやその親友達だ。彼らが揃えば私も本気で戦う必要があった。
だがまだそれだけならいい。リーナとシエルの事を考えて呼べないのも理解は出来る。この場にルージュ家派閥の有力者が誰一人いないのはおかしい。リーナが生きているから余計に上級性への信頼がなくなっているのか。それとも、まさかだが。
「ルージュ候と仲違いでもしました?」
苦々しく口籠り何も言い返してこないヘレンに私はため息を吐いた。
「ああ、愚かですね。それでこんな場所でこんなにも簡単に負けてしまう」
「ヘレンを馬鹿にするな!」
悲しそうに耐えるヘレン、逆転にシエルが私に向かって気持ちのいい敵意を向けてくる。ゲームと同じ主人公とヘレンは幼少の頃から親友で、リーナもヘレンと深く関わっている。二人の仲が良好で安心した。
「黙りなさい。今、貴女がヘレン様を守れるのですか?」
「そ、それは」
シエルも実力差を理解しているようで、強く何も言えないようだった。この場で唯一、私に対抗できそうな人がいる。彼女は何もしないで静観しているだけ。
「なにより、リーナ」
びくりとリーナは私の方を見る。捨てられた子犬のような表情。まだ立ち直れていない様子だけど、私は彼女を睨みつける。
「なぜ、全力で来ないのです?貴女が私の力を伝え戦えばこんなことにならないはずです」
「そ、それは」
葛藤した様子でリーナは俯く。
「私が恩人だからですか?それだけの理由で家族や大切なものを捨てるのですか?」
「違う、私は」
「違いません。ここで私がヘレン様を狙う刺客であれば、全滅しているの?わかっている?」
そう言ってから、私は治療薬をシエルとリーナの方は投げた。重症ではないが護衛達も傷つけたまま寝かせておくもの忍びない。
リーナとシエル、いやここにいるすべての人間が治療魔法を使えるが、今は魔力を戦闘魔法を使うために訓練するべきだ。この後の彼女たちの経験値を余計なものに奪うわけにはいかない。
リーナとシエルが視線を合わせた後、シエルが倒れている護衛に治療薬を使う。なぜか、リーナの表情が和らいでうれしそうだった。
「それは、うん。そうだね。で、あの」
「フィリアでいい。私はもう貴族位もない、立場も貴女の方が上なの」
「あ、うん!そのフィリアは忠告に来てくれたの?」
「へ?」
違う。私は決別のために彼らと闘いにきただけだ。だから、そんな嬉しそうな顔をしないで。
「違う、私は貴女達がこの場でどこよりも弱いから」
「教えてくれたんだよね。私のようにならないように」
「だから、違うって言ってるの」
「いいえ、違わないわ。だって、誰も本当に傷つけていないもの」
リーナの言葉に今度は私が何も言い返せなかった。それを見てリーナは嬉しそうに微笑む。
「大丈夫、今度は私が守るから」
「何を言っているの?私は貴女達のことなんか気にしてない」
ヘレン様までもが微笑ましそうな顔をしている。シエルもどこか呆れた視線を私の方へ向けている。違う、私は彼らの敵なのだ。入学式の日のことを忘れたのか。
すこし空気が弛緩したそのタイミングで魔法陣が私の後ろに現れる。
「終わったかしら?フィリア」
テレンシアが転移魔法を使い飛んできた。聖印から生み出された魔法陣だから警戒する必要もないけど、私と向かい合っていた三人は表情を引き締める。
タイミングとしては完璧だったから、きっと監視していたのだろう。
「未だですが、なぜ来たのですか?」
「ふふ、様子を見に来たくなったの。貴女は手加減したのね?私は全員を打ちのめすようにと言ったのだけど」
テレンシアが私の首を撫でる。契約の刻印が怪しく光った。聖印の効果が発動して私の全身が強制的に幸福で包まれる。
聖印の力の一つで相手の体の感度を引き上げられて、体が敏感になりテレンに肌に触れられてだけで身体が心地よくなる。
「別に全力でやる必要もないと感じただけです」
「そう、じゃ私自ら手を下してあげようかしら」
「それはだめ!」
ゲームでテレンと交戦すると、何かしらの選択肢があってそれに間違えると敵対ルートに入る。もし、今回の主人公達が選択肢を間違えてしまったら、テレンから協力が得られにくくなる。
「冗談よ。でも、これでは駄目ね。もっと徹底的に力の差を示してほしかったわ。いうことを聞かない娘には罰をあたえないとね?」
さらに聖印があわく光って身体が熱い。テレンシアが私の首筋をなでる。ぴりっと電気が全身に走り、私は崩れるようにしてテレンシアのほうへ倒れた。
「はっ、はっ」
「あら、刺激が強すぎたかしら」
「もうやめてください」
「そうね。この続きは私の部屋にしましょうか」
私が快楽に溺れながら睨みつけても意に介していないテレンは三人のほうへ視線を向けた。テレンに抱きしめ支えられて背を向けているから三人の様子はわからない。ただ振り返りたくなかった。きゅっと、テレンの手を握ると。
「さて、すこし話をしましょうか」
テレンはふわりと笑顔をみせた。