出会い
他の作品が書き終わっていないにも関わらず、別作品を新たに掛け持ちしてしまった罪深い作者です。
「森の館にはね、優しい魔女様がいるんだよ。皆は悪く言うけれど、本当はとっても賢くて、優しくて美しい魔女様がいるんだよ。その魔女様はね......」
言葉の続きは覚えていないけれど、少年の祖母はそう言った。
幼い頃亡くなった少年の祖母。
彼女は幼かった少年、久遠永遠にそう言い続けた。
祖母が亡くなってから永遠の両親は仕事が軌道に乗り、何時もより忙しくなっていき、海外で暮らすようになった。
それの代償であるかのように永遠は一人でいることが多くなり、両親は帰って来なくなった。
それが何年も続くと元から大人びた子供であった永遠は、両親にとって自分はいらない手のかかる存在であると実感するようになった。
永遠が小学校高学年になると一人で生活できるようになったと知った両親は本格的に海外へ移住し、更に仕事に邁進した。
この時にはもう既に永遠は完全に両親を信用しなくなり、ただ自分を産み落とした生物学上の親という存在であると思うほどに成長した。
やることといっても家事と勉強しかなく、永遠の世界は灰色だった。
だから祖母の言葉を忘れていたのだ。
そんな灰色の世界が変わったのは永遠が14歳の時だった。
「なぁ、永遠知ってるか?」
「知らない」
本を読んでいた永遠に話しかけてきたのは近寄り難いとされる永遠に容赦なく話しかけてきた小学校からの永遠にとっての唯一の友達とも言える『裏寺』だった。
「学校の裏に森あるだろ。『千野ヶ森』」
「それが?」
「その森にな、ある噂があんだよ。知りたい?」
「別にいい」
「そう言うなって。実はな、森の奥には古い洋館があって、其処には化け物が住んでるって話だ。気になるだろ?」
「全く」
「いーや、お前なら気になる筈だ。普段から面白いことに飢えていて、なんもない目ぇしてるお前ならな」
「......」
「ま、行くか如何かはお前次第だけどな」
「じゃ、この後俺部活だから」といって裏寺は教室を後にした。
教室に一人残った永遠は一つ大きな溜息を吐いた。
現在時刻、丑三つ時の少し前。
永遠は森の入り口にいた。
裏寺はよく永遠の本質を理解していた。
だからこそ、ああいう言い方をすれば永遠が動くと知っていた。
現に、永遠のスマホのLINEには裏寺から噂の詳細が送られてきていた。
しかもまるで見計らったかのように2時丁度に。
本当に出来た友人を持ったものだと思うが、時々あいつは妖怪サトリではないのかと思う。
森の中を進んで行く。
裏寺によると、森の奥に丑三つ時になると現れる道があるらしい。
どの道かは分からないけど、正しい道を進むと洋館へ辿り着くそうだ。
永遠の感想は「アバウト過ぎるだろう」だ。
ただでさえ別名迷いの森だなんて言われているにも拘らず、正しい道を進め?
巫山戯るな。
しかし、せっかく来たというのに何の結果もなく帰るのは悔しい。
「進むしかない.....か」
そう独り言ち、先へ行く。
そうして何分経っただろうか。
もう時刻は丑三つ時を過ぎたにも拘らず、未だに洋館へ辿り着かない。
それどころか。
「此処何処」
完全に永遠は道に迷っていた。
スマホは圏外で、誰にも連絡が出来ない。
それどころか電池切れ。
モバイルバッテリーはない。
持ってきたものはといえば、スマホと財布とロープ、水筒のみ。
完全に詰んでいた。
如何しようかと思っていた矢先の事だった。
「.............ッ!!!!!」
永遠の身体が浮いていた。
何が起こったのか永遠には分からなかった。
ただ唐突に理解したのは自分が落ちているという事だけだった。
足首が痛む。
草に隠れて崖だと気付かなかったのだ。
こういう時に働く自分の脳が恨めしい。
身体に来る衝撃。
頭が痛い。
落ちた時に打ったんだろう。
意識が朦朧とする。
そんな中で聞き取った何かが此方へ来る音。
動物だろうか。
それにしては軽いと感じる。
「........。.........」
何を言っているのか聞き取れない。
だけど、人であることは間違いないようだ。
朦朧としている意識の中、雲の隙間から差し込む月明かりで、その人の姿が漸く見えた。
白い髪をツインテールにしている真っ赤な瞳の兎みたいな少女。
その可愛さに見惚れる中、永遠は祖母が言っていた言葉の続きを思い出す。
『森の館にはね、優しい魔女様がいるんだよ。皆は悪く言うけれど、本当はとっても賢くて、優しくて美しい魔女様がいるんだよ。その魔女様はね......真っ白な髪に真っ赤な瞳の美しい女の子なんだよ』
「(お祖母ちゃん。美しいじゃなくて、可愛いっていうんだよ......)」
永遠はそう思いながらも、暗い底へと沈んで行った。
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「なんてこともありましたよねぇ」
僕はそう云いながらポットにお湯を注ぐ。
あの後意識を取り戻すと、知らない部屋にいて、其処で森の魔女こと、ヴァンパイアのリズ・メリー・シェリングフォードと出会った。
まぁ、ぶっちゃけて言えば一目惚れだったわけで。
両親が家に帰らず、リズがお人好しなのをいいことに1日の大半をこの屋敷で過ごすことにした。
あれから2年の歳月が経ち、僕は16歳になった。
中学を卒業し、高校生になっても、勿論学校には行っている。
「本当にあの時はどうかしていたと今でも常々思っているわ」
不満を垂らすのは僕が愛してやまないリズ。
「そうお言いなさりますな、リズ様。永遠さんが来て下さったお陰でこの爺の苦労が一気に減っておりますゆえ」
そう答えたのがリズの僕でこの屋敷を管理していた蝙蝠執事のミカリス。
「苦労が減ったかもしれないけど、わたくしの苦労が一気に増えましたわ!?助けてあげたのはよかったけれど、家に居着くし、勝手に部屋は掃除するし。終いには、料理に自分の血を入れるし!」
「初めて貴方の料理食べた時に思いっきり吐いたこと昨日のように思い出して腹が立ちますわ!!それに怖いわ!」とリズは叫ぶ。
人の善意をそんな風に言わないで欲しい。
リズはヴァンパイアなのに人の血を飲まず、ずっと人の料理かサプリを飲んでいる。
たまにトマトジュース。
純潔のヴァンパイアであるリズにとって人の食べ物は趣向品でしかないらしく、主食は人の生き血。
それを抑えるためのサプリを飲んでいて、今ではそっちが主食のようになっているらしい。
「あんなゴミ屋敷に暮らすなんて、幾らヴァンパイアでも身体が悪くなりますよ。それにそんな処に僕は暮らしたくないんで」
「此処はわたくしの家であって、あなたの家ではなくてよ」
「そう言って、実は寂しかったくせに。ミカリスさんから聞きましたよ。独りぼっちが嫌でよく泣いていたって」
「ミーカーリースー!」
「ははは。何年もずっと此処におりますと共通の話題がリズ様以外にありませんでなぁ」
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
「なんでこんな奴ばっかり.....」と机に拳を叩きつけ、うつ伏せになってリズは嘆いているが、無視して紅茶をカップに注ぐ。
紅茶は此処に来てからミカリスさんに教わった。
今ではリズ好みに淹れる事が出来る。
リズの最近のお気に入りは紅茶にラベンダーを二液入れること。
そして今日も僕は真っ赤な液体を一液、ほくそ笑んで彼女の紅茶に入れるんだ。
此処まで読んで下さり、有り難う御座いました。
これからも宜しくお願い致します。