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九州営業部編

大学を卒業してM電機に入社した郷田は本社の宣伝部から上司の不始末のお蔭で左遷の憂き目にあうが、北海道での業績が認められて大阪へ帰れると思っていたが、今度は新たな任地と課題を人事部長から与えられた。

新しい任地である九州営業部へ赴任した郷田に営業部長からの嫌みな一言を受け前途の険しさを実感する。

その日に寮へ案内されて、赴任初日が終わり。次の日オフィスへ出向くと、早かったのか未だ誰も来ていなかった。自分の席でぼんやり考え事をしていると何故か北海道のことが懐かしい感じで想い出された。まだ数日しか経っていないのもかかわらず。先輩や北野さんそして直美ことが懐かしい。郷田が気づくと伊東が出社してきていた。

「おはようございます。昨日はゆっくり休んで、眠れましたか?」

郷田は一瞬で我に返り、

「おはよう、昨日はありがとう。何やかやと片付けてたら遅くなってしまったよ」

「そうでしょうね。自分は妻と一緒ですので、助かっていますが、単身で大変だと思います。」

「へえ、君は若そうだけど、妻帯者かい。立派だね」

「何が立派かわかりませんが。でも共働きですので、家事は分担していますよ。それと自分は26歳です。」

「これからも君にはお世話になると思うので、よろしくね」

「こちらこそ、ご指導を宜しくお願い致します。今日は朝会の後、部長が一緒に営業所を回られるはずです。明日から当分は関連会社、主な代理店を担当の営業所長さん達と挨拶回りの予定だそうです。数日は情報収集ですが、疑辛抱ください」

「辛抱どころか自分の一番に知りたいことだから大いに参考にするよ。楽しみだなあ」

「へえ、流石ですね課長は。やっぱり聞いていた通りの方ですね」

「なんだい、その聞いていたことって。教えてくれないか」

「耳にしたことですので、怒らないでくださいね。」

「勿論だよ」

「何でも、本社の時にエラーをしたけれど、北海道でファインプレーと打点を上げてヒーロになった人、エリート課長で、とにかく頭が切れ、専務や人事部長の信頼が厚いということです」

そんな話をしていると全員が出社して来て、朝礼が始まった。

その後は予定通りにその週を全てを使って、挨拶回りが終了した。挨拶回が終わった翌週の朝会の後、営業部長から呼ばれて会議室へ入って行くと、五十嵐次長と福岡電機の営業所長と住宅建材所長と彼らの部下であるそれぞれの課長が既に座っていた。部長が改めて紹介した後、

「君も知っていると思うが、今度九州にもサービス会社ができることに決まってね。それでその設立準備からオープンまでに必要な工程をここにいる諸君と一緒に君が主担当としてやってやって欲しい。

必要なことは君から彼らに説明してくれたまえ。それから君の部下も全員動員してね」

「わかりました。先ず自分としては、各ルートの問題点があれば聞いておきたいと思いますので。宜しいでしょうか。その上で大まかな計画を立ててからご相談したいと思いますので、後日各営業所を訪ねて打ち合わせさせてください」ということで、解散した。次の日から精力的に営業所を回った。九州は北海道と比べてサービス会社へ待望論が少ないようだ。理由は北海道が1つであるのに対して九州は7県にわかれており、代理店制度も各県単位にテリトリーがあり、どこからでも販売店が修理に行くことが難しい点である。顧客が商品よりサービスを心配して購入することがあまりない。従って、販売店、工務店、その他建築に関する施工業者もメーカーに修理サービスを依頼することも少なく、存在価値を見出していない。むしろ自社の営業活動の邪魔な存在のように捉えているようだ。郷田はルートからの要望を纏めないで、顧客の潜在意識調査を実施することにし、九州地区に強い広告代理店白鴎堂に調査を依頼することに決め、部長の決裁を取り実施した。全県別100世帯対象に面接調査をした。費用と日数はかかったが、潜在的なニーズを把握したいので把握し、やむを得なかった。郷田自ら調査に同行して反応を肌で感じながら調査した。結果はニーズが無いのではなく、現状の販売ルートによる修理に満足はしていないが、昔近所付き合いありも、

仕方なく依頼されている世帯が67%、早くしてくれればどこでも良い21%と合わせれば88%に潜在ニーズがあることが分かった。早速全営業所長を集めて、部長から結果を発表してもらうように、進言した。

「郷田君、やはり君は大したもんだよ。でも、この結果の発表は君がしたまえ。僕は今更のように営業所員、代理店や、チェーン店の悪さを現すような内容は立場上出来ない。寧ろ彼らの今までの苦労に感謝することを言わねば納まりがつかないからね。」

「承知しました。自分が計画した調査ですから、憎まれ役はやらさせて頂きます。」

「それでは、今週の土曜日の休日に午前中営業部の大会議室でやろうか。」

「よろしくお願いします。私としてはサービス会社の設立日程と役割およびチェーン店との役割分担とを纏めて同時に所長会議に図りたいと思っています。」

「良いだろう、その点は君に任せたよ。但し、君の上司と部下にも事前に発表して、当日は手伝いに休日出勤させなさい。」

ということで、郷田は急いで席に戻り、白鴎堂の営業部長と調査の責任者を呼び、主旨を伝えて発表資料の内容をまとめてから、プレゼン資料作成を依頼した。


土曜日は朝から快晴で、準備もあって7時に出社して準備を始めた。部下の面々が8時に五十嵐部長はその直後に集まった。9時には部長をはじめ所長も全員集まった。大会議室は一杯になり緊張感で張りつめていた。部長の挨拶の後次長が進行役となり郷田の発表となった。

「本日は、お休みの中お集まりいただき発表の機会を与えて頂きお礼申し上げます。早速今回の主題である九州営業部にサービス会社設立意図を申し上げます。まず第一は当営業部以外の当社営業部には既にご存知の通り設立されています。そこで営業統括専務よりのご指示でこの度その顧客ニーズを調査したところ、やはり専務のご賢察通り顧客の80%以上の方が望まれていることが分かりました。専務から早急に設立するように指示されたので、これからその概要とスケジュールを発表します。ご質問など討議は発表の後でお聞きしたいと思いますので、宜しくお願いします。・・・・・・全ての発表が終わり全員が休憩で一息入れていると、電機の課長が近づいてきて、

「ご苦労さんです。営業部も大変ですな。無茶なスケジュールで、営業所が賛成とは限らないから」

「何か問題がりますか。あれば遠了なく指摘ください」

嫌な予感の中、後半の質問タイムが始まった。先ず、福岡電機の所長が

「このサービス会社が出来ると売り上げがどれくらい伸びるのか。またそれに伴い、営業所、代理店とチェーン店のサービス会社への負担はどうなるのか?また各ルートで修理の内容や手間のかかり方が違うのに、受付から一律で3日以内の修理完了なんて言えるのか。」他の所長も一斉にその点が問題で、それがクリアにならないと前へ進めないと口を揃えた。

郷田は「皆さんのご懸念は分かりますが、売り上げがいくら上がるかは皆さんの取組み如何んでしょう。ただサービス会社に任せるだけで、修理サービスの事は関知しないのであれば、売り上げに反映しないかもしれません。そこは各営業所の創意工夫が必要です。例えば毎月販売したお店に修理サービスの日を設けてお客様の来店いただく。また毎年恒例サービス相談受付強化月間を設けるチェーン店にサービス会社へ人を出向かせる。そしてその機会を商談に結び付ける。サービスは無料でも商談で成果を上げる。また、顧客が修理に満足をすれば、3日以上かかっても不満は言わないとのデータもアメリカでは90%と高い数値を示しています。」次に、住宅建材ルートの所長が

「今までの説明わ分かったような気がするが、2番目の負担の問題はどうなるのか」

「その点はサービス会社は関連会社として独立採算制のもと運営されます。その人件費や運営費等は修理代金を有償のものは顧客から頂き、無償のものは関連事業部から頂きます。このことは既にあるサービス会社と同じです。従って負担増はありえません。3日以内ルールを打ち出すにあたっては、サービス会社の人員だけで、一部交通の不便な地域がありますので、新たにサービス指定店制度を取りきめ細かい対応をしたいと思っています」直ぐに特品営業所の課長から

「それは、今修理を主な収入源にしている当ルートのチェー店には打撃が大きいが、どうするつもりか?」

「その点は現在のチェーン店様も指定店の認証を獲得頂いて、継続的に仕事をして頂くことを考えています。何か他はございませんか?・・・・・では、スケジュールを発表します。実施目標は来年度4月1日とし

サービス会社は営業部の道路を隔てた向えに建築します。人数50人、指定店は50店、自動車30台でスタートします。広報による記者発表は前日の3月30日、当社の宣伝開始は4月1日からとする予定です。以上何かありましたら、後日でも結構ですので営業部五十嵐次長にください。それでは良ければ今日は解散します」

長い半が終わった。それから部下とともに片づけてから、皆で食事に行った。目づらしく部長も次長共々

一緒だった。明日から始まる目まぐるしさを考えると自分の胸の高まりが抑えれない郷田であった。

翌日から代理店、チェンー店への説明会が各地の営業所主催で行われた。行くところで反対意見が続出した。その代表的な点は➀自分たちの商売の邪魔にならない保証はあるのか。②サービス会社の修理技術の保証はどうするのか。顧客と揉めた時だけ我々に言ってくるのではないか。その大半が疑心暗鬼の上での意見ばかりであった。郷田は全ての質問に真摯に答えた,その上で、改めて営業部長名で全部の意見に返事をまとめて出すことを約束して締めくくった。1か月余りを費やして終えた説明会の後、チェーン店全店に調査票を配布して同意を求めた。結果は代理店の95%、チェーン店の98%で賛同を得た。その結果を部長、所長に報告し、専務には部長から報告し、人事部長から承認も得た。サービス会社建設がはじまった。人事からあたらしく採用するサービス会社社員の募集があり、定員30名のところを500人を超える応募があった。順調に推移したが後は質問の中であった、修理技術力の保証の問題を残すのみとなった。これは採用時に公的資格を所有しているだけでは、メーカーの求める技術と全てが一致しないの厄介であった。そこで事業部の技術者を集めて意見を聞くことにした。大阪へ出張して会議を人事部主催で開き意見を聞いたところ改めて講習会を開いたらどうかとの意見があり、結果としてM電機独自の技術力を認定する研修と試験を受験させることにした。この試みは他の既存のサービス会社からも支持され、全サービス会社対象とすることになった。講師と試験官は事業部が推薦し4月から実施することになった。場所は大阪の事業部がそれぞれの日程により本社の人材育成部門が事務的な対応を引き受けて、スケジュールは事業部並びにサービス会社と調整しながら進めることになった。数日後福岡住建営業所から電話があり代理店の昭和建材から今度のサービス会社の立地予定の土地になん癖をつけに久留米のヤクザが来て困っている。何とかして欲しいとの報告があった。郷田は直接ヤクザの家行き交渉したが向こうは俺の家の近所に建てられたら、商売上困るとの一点張りで埒が明かないままその日は帰社した。あくる日福岡県警察本部に行き相談したら、訴訟をしても相手の要求には応じないで、トラブルの処理は弁護士に任せたらどうかと言われた。直ぐに営業部長から本社の人事に相談したが、出来るだけ大事にしないで、内々に済ませられないかを弁護士を交えて協議するので、少し時間を取るようにすることにして、相手への返事を待たせた。その間は建築施工もストップし完成が遅れることになる。郷田は急遽大阪に出張し、その晩クラブアマルフィへ開店とともに訪れママに連絡してもらった。狙いは以前アマルフィで知り合いになった、神戸の暴力団田岡組の本部長補佐補佐の関本に会う為であった。ママがすぐ連絡してくれてそのアマルフィで逢うことができた。

「郷田さん、久しぶりでんな!どうしたんです、急に。噂でいろいろご活躍は聞いていますで。」

「関本さん、今日はお願いがあってまいりました。実は九州困ったことがりまして。」

「なんですねん。その困ったこととは」

「今建築中の設備に因縁を吹っ掛けられて困っています。」

「何処の、誰だすねん。M電機みたいな大企業にそんな真似さらすんは。」

「久留米の工藤会の角川というにんげんです。」

「ふーん。工藤会のね角川ちゅんですか。よろしおます。2,3日待ってください。話を付けてあげます。但し、多少お金わ掛かるかもしれませんが。内の親分に電話してもらったらおわるでしょうから。まあ今日は久しぶりに飲みましょう。」

それで話は終わり、翌朝郷田は福岡へ帰った。3日後に関本の代理という弁護士が角川を伴って営業へ訪れた。郷田が面会に応じて、応接室へ行くと弁護士が角川に目配せをして、角川が

「先日は大変失礼致しました。どうぞご勘弁ください。あの土地の件は私の関知買いでした。2度と無いようにしますので、今回の事はなかったことにしてください。」

と、言うや否やそそくさと2人で引き上て行った。郷田は見送りながらふうーと胸をなでおろした。席に戻ると早速関本に礼の電話をかけた。

「それは、よろしゅおましたなあ。これからも困ったことが起きたらいつでも言うてください。」

「ところで、お礼はいくらほどしましょうか。」

「親分は要らないとおしゃってますんで、今回は結構です」

「それはいけません。私の一存でお願いしましたので、少しですが100マン程送らせていただきます。

それで宜しくお伝えください。」

電話を切ってホッとした。部長に報告して、次長からお金を受け取り銀行から送金した。勿論、関本の知人の銀行口座であった。建設計画はその後順調に進み地盤が出来その上に建物が建築されて、いよいよ内装作業に掛かていった。もう二度と前回のような、いちゃもんを付けるとこもなかった。が、困った噂が流れていた。それはM電機には関西の大きな暴力団がバックに付いているから安心して作業が出来るというものだった。この話が本社人事に入ったので、早速人事部長が視察を兼ねて福岡へ飛んできた。営業部長と郷田は呼び出されて会議室へ直ぐに行った。人事部長は

「郷田君、君の耳にも入っているだろう事実を話してくれ。」

「わかりました。噂の一部は事実です。但しこの件は私の一存で、兼ねて顔見知りの田岡組の本部長補佐に逢い穏便に収まるように頼みました。決して部長以下他の方は関係ないんです。あくまでも私が困って個人的に頼んだものです。今後の後腐れはないと約束してもらってます。もしご心配をおかけしているなら、一筆書いてもらいますが」

「いいや、それは必要ないよ。今後はそういう時には私にまず相談してほしい。それで、金額のほどはどれだけかね」

「100万です」

「まあそれだけ済んだんだから、良しとしておこう。くれぐれも今回だけだからね。それに今後相手が何かを要求してきたらその時は辞表を出して、当社とは関係のない旨ハッキリさせるように。いいね」

「はい、その通りの責任の取り方をさせて頂きます」

「よろしい。営業部長はその時は宜しく対処してください」

「わかりました。責任をもって私が対応します。」

暫く、サービス会社の人事のことやら、雑談をして人事部長は大阪へ向けて帰った。その後、サービス会社の落成記念式に来られてもこの話はされなかった。

3月30日に広報が地元のテレビ局、新聞社向けに招待して事前オープンした。

4月1日に一般向けにオープンした。新聞、テレビの報道のお蔭で来場者が2000人を超えた。県の関係者や市の関係者にも招待状を出し事前オープンに招いておいたので於いたので、当日も再度来られる人も多く社長以下関係者も大変満足だった様子であった。郷田は専務に呼ばれてお褒めの言葉を頂いた。その折に専務から「君の手腕はなかなかのものだね。これからも我が社のために頑張ってくれたまえ。まだまだやってもらわなければいけない課題が一杯あるからね。今度は東京でどうかね。私が常駐しているから、君の手腕を大いに発揮できると思うよ」

「東京に私のようなものが役立つようなことがありましょうか。優秀な人材が多くいる東京です、私なんかはこの福岡までが限界かと」

「何を言っているんだね、君は自信を持ってくればいいよ。課題は沢山用意しているから」

「わかりました。専務のもとで頑張りたいと思います。よろしくお願いします」

「よし、じゃあこっちの仕事は後任をすぐに派遣するので、5月1日には着任するように段取りをつけてくれあちらの君の当分の相談役は東京営業部の部長としておくから」

「すいませんが、こちらで私が残している課題が多くて一年間時間をくださいませんか」

「なんだね、その課題とは」

「サービス会社の運営には慣れていない人が多いので、私が1年で軌道に乗せたいと思っていたものですから、ぜひお聞き入れください。お願いします」

「まあ良いだろう。今回は君の検討へのご褒美としておこうか」

「ご無理を聞いて頂きありがとうございます」

後1年を残し郷田がすべきことは多く、止まっている暇わなかった。大阪の家族に取り合えず報告するため休暇をもらい帰った。家族と会い妻に九州の事や1年後の東京転勤の事を話し、了解を得てとんぼ返りで翌朝には九州のオフィスで仕事をしていた。郷田は専務からサービス会社の人事に関わるように支持されていたので、社長候補の名前を人事部長に電話で聞いた。

「まだ本人にしか言っていないが建材事業部の営業企画部長に内定している。それから補佐として九州電機営業所の所長に副社長兼営業部長を引き受けてもらう予定だよ。何か不都合があるかね」

「いいえ、私がどうのこうの言える立場にから、お任せするだけです。今後の他の役職について新社長と打ち合わせて良いでしょうか。」

「構わないだろう。彼の方にも今日電話で伝えておくよ。宜しく彼をリードしてやってくれ」

「リードなんておこがましいですが、全力でサポートします。ではこれで、失礼します」

電話を終えてから人材育成研修担当部長に連絡をした。その結果サービス会社の新研修サービス会社の研修制度について、2つの点で了承された。1つはサービス会社独自に採用した社員には彼ら用に職階別研修と任用制度が必要。電機よりの派遣社員は従来通り当社の制度を適用する。もう1つは職能制度としてサービス技術認定制度を導入する。承認者は各担当事業部の事業部長とする。講師は事業部の技術担当部署から派遣する。この研修制度の運営窓口は本社のサービス部に担当してもらう。これらを決めてから、営業部長に報告し了承を得た。翌日は本社サービス部長に連絡して挨拶をして担当部門のお願いをした。改めて5月の連休明けに大阪で人事部、人材開発部、サービス部と各事業部のサービス部長そしてサービス会社代表と一同会いして会議を開いてほしい旨伝えて主催をお願いした。部長は了承してから

「君とはその前に一度会っておきたいが、どうかね、来れるかね。」

「わかりました。今月の21日で良いでしょうか。出来れば午後にお願いできますか」

「ありがとう待っているよ。午後2時に当部の会議室で。その時に研修担当者を集合させておきます」

郷田は21日には人材育成部門に寄るべく、直ぐ人材育成部長にアポイントを取っておいた。

翌日は建材事業部大川営業企画部長のに電話して、

「おめでとうございます。九州営業部の郷田と申します。今後は宜しくご指導ください」

「君か。専務に要らないことを吹き込んで、しんどい仕事を押し付けてきたのは。私は個人的には大変迷惑に思っているよ。忘れないで欲しい」

「私は部長を推薦した覚えはありませんが、そうお聞きでしたら、お許しください」

「は、は、は、冗談だよ。君も僕もサラリーマンなんだから、これは元々覚悟の上だからね。気にしないでくれ。それよりこちらこそよろしく頼むよ。君の指導に期待しているよ」

「ありがとうございます。早速ですが5月の連休明けに関係者の皆様に集合して頂き、本社サービス部長主催の会議を行いたいと思いますのでよろしくお願いします」

「それはどういう主旨の会議かね。」

「最初ですから、顔合わせがメインで今後のスケジュールとサービス会社から各事業部や本社部門へのお願いと又その逆に事業部門や本社部門からのサービス会社に今後期待する点がメイン議題になります」

「分かったが、君も勿論出席するんだろうね」

「はい、勿論です」

「その前に一度君と逢いたいね。どうかね」

「21日に本社部門に挨拶に回りますが、その日で良いでしょうか。2時から予定していますが」

「じゃ、終わってから僕の所へ寄ってくれるかね。」

「わかりました。多分5時近くになると思いますが、必ず顔を出します」

電話を終えて少ししてから、来客を告げられた。お客は大通の吉村だった。

「いやあ、ひさしぶりだね、吉村さんは今どちらですか」

「本当にご無沙汰でした。私はまだ大阪で相変わらずの仕事です」

と言って、名刺を出したので、郷田も交換した。名刺には営業部長の役職があり

「偉くなられたんですね」

「とんでもないです。役職名だけが付いただけですよ。中身は依然として変わりませんよ」

「今日はまたどうして」

「特にこれといった用事があるわけでは無かったのですが、近くまで出張で来ましたもので、お寄りしただけです。懐かしくてね。」

「それはありがとう。今晩でもちょっと行きますか」

「いいですね。何時に何処でお待ちしましょうか」

「じゃ、7時に中洲の料理屋喜三郎で逢いましょう。場所は中洲の入り口あたりにネオンが看板が出てますから分かると思います。」

「それでは、今晩お会いしましょう」

と出て行った。

素早く仕事を片づけながら、何故今頃になって吉村がやって来たのかを不思議に思い想像しながら、7時に近づいたので、急いでオフィスを出た。喜三郎に入ると吉村は来ていた。

「やあ、こちらですよ」

「お待たせ。先にやっていてくれれば良かったのに」

「とんでもない。ほんの少ししか待っていませんから」

注文を取りに来た仲居さんに、郷田が適当に料理とビールを注文した。ビールがきて乾杯をしてから、

「ところで、私に何か要件があったんじゃありませんか?」

「わかりますか。実は森田さんに頼まれましてね。他でもないのですが、森田さんが今勤めている会社を変わりたいので、職の世話をしてほしい旨の伝言を頼まれました。あの人も良く言えるなあとお断りしたんですが。以前の付き合いで脅かされました。仕方なく郷田さんに話に来たというわけです。」

「それがなぜ、私なのです。他の会社でも取り敢えず紹介すればよかったんじゃ。」

「それは、森田さんが郷田さんの評判を何処かで聞いて指名してきたんですよ。D電機の関連会社にと」

「なんと、節操のない。あの人らしい。でもハッキリとお断りします。私はもう二度と関わりたくありませんと言っておいてください。」

「そりゃそうでしょうね。私も言ったんですが、家内からのお願いだと言ってくれと言われましてね」

「僕の弱点をついてるつもりなんでしょうが、以前のお人好しじゃないと返事しておいてください。その話はこれくらいで、さあ飲みましょう。

その話は打ち切られ、しばらく昔話をして喜三郎を出た。スナックに寄ってから駅で別れた。郷田は腹が立て煮えくり返っていた。今更何を元上司づらが出来るのか。思わず路上に向かって、唾を吐いていた。寮に返っても興奮状態が収まらず、ウィスキーを思い切り飲んで寝た。

朝起きて頭痛がした。冷静に考えると馬鹿みたいであった。森田と自分は赤の他人だ、なのに頭痛がするほど飲むなんてと郷田は反省して席に着いた。途端に電話が鳴り取ると、吉村であった。昨晩の例の電話であった。電話を切ると営業部長が呼んでいるとの伝言があった。急いで行くと21日の件についての質問であった。主旨を伝えると、

「分かった。その件は良いが、5月の連休明けに大阪でサービス部主催の会議があるそあるそうだが、私は参加しなくて良いのかな。」

「いいえ、その件は今日他の案件と一緒にご相談させていただこうと思っていました」

「そうか、他の案件てなんだね。」

「それは、サービス会社の人事の件です。社長と副社長は決まっているようですが、他の内勤者や修理部門の課長列が未だのようなので、部長の考えをお聞きしたくて」

「その件か、君の考えを聞きたいな」

「出来れば、経理、人事の長は部長にお任せします。修理部門につては事業部のサービス部門または技術部門から転勤して貰うことを考えてますが」

「それで良いんじゃないかなあ。その線で君が進めてくれ。それから21日の件は君に一任するよ」

「ありがとうございます。21日に大阪へ代理で行かせていただきます」

話すべき根回しを終えて、席に戻ってから、最後に人事の最後の詰めの為関係営業所を回った。その結果は上々でサービス会社の実務の主要な管理職を決めることの賛同を得た。21日に本社を訪れて、人事部長に人事の最終了承を得て、人材育成部との技術認定制度の大まかなスケジュールと内容も了解された。その後建材事業部の大川を訪ねた。大川は待ちかねたように、


「待ってたよ。早速で悪いがそこまでちょっと付き合ってくれ」

と言い、玄関まで出て、待てせていたタクシーに乗り込んだ。タクシーは大阪市内の北新地へ出て降りた。

雑居ビル内の割烹吉野に二人は入った。小上がりに通された。予約していたように、酒と料理が運ばれてきた。先ずは乾杯し

「どうかね、ここは。ここなら君も話しやすく、本音が聞けると思ってね」

「落ち着く良いところですね。ただ、そんなに気を使わないでください。私は本音でしか話せない話下手ですから」

「そうかい。評判とは違うね。君はなかなかのやり手だと聞いていたよ。まあ、いいじゃないか、そんなことより、君はサービス会社何をさせたくて、私は何故指名されたのかを教えてくれるかね」

「私には部長が指名された点は分かりませんが、ただ専務のご意向のような気がしますが。サービス会社への私の個人的な見解は北海道で色んなお客さの要望をお聞きして、サービス会社の使命が第1に素早い対応第2に修理技術であると分かったことです。これは九州の顧客調査でも同じでした。それまでは、事業部門サービス会社、営業所も同じで修理の技術力中心の考え方のようでしたので、変えなきゃM電機の将来が危うくなるのではと考えサービス会社の設立に積極的に関わりました」

「専務の件は心当たりがあるよ。それから君のサービス会社への期待する点も同感だね。私も以前からそう思っていたよ。これでスッキリした。さあ、今夜は飲もう。君は単身赴任で、家が大阪だね。今晩はこちらで泊まるんだろう」

「ええ、そうさせてもらいます。でもよくご存じで」

「当然だろう、私にとって君は気になる存在だからね。私も単身で行きたいと思っているんだが、寮はどうかね?」

「快適ですよ。朝晩の食事も希望で付きますし、まあ、家族がいない寂しさはありますが」

「それじゃ、私も寮にするよ。内の人事に言っておけば良いんだろう?」

「そうです。来られたら歓迎しますよ」

と二人で再度関お会いした。後は雑談をしてから、場所を変えて2軒回ってから、共にタクシーを呼んで帰った。久しぶりに自宅に帰った郷田を妻が待っていた。息子の進学の相談があった。郷田は5月の連休に帰るのでそれまで考えさせてくれ頼んでで寝た。

翌日は早朝に飛行機で九州へへ帰った郷田は営業部長に大阪での打ち合わせの報告をした。

その後10日ほどが慌ただしく過ぎ去って、いよいよ、連休に入り妻との約束通り息子の進学について妻の意見通りにするようにした。連休が明けてすぐに開かれた第1回サービス会議で郷田の人事案が了承された。各関連部門よりのサービス会社への要望は概ね顧客へのスムーズな対応、

運営予算の早期提示と修理費用の算定及び節減が殆どであった。それに対してサービス会社からは早急に提示するので、人事面と費用の支援よろしくお願いするという返事があり了解された。本社サービス部からは特に事業部門に対して、サービス会社への毎月の運営助成費を現在他の全国のサービス会社への費用含めてに直しをしますとの通達がされた。この点については事業部から反対が出て一次紛糾したが、人事が仲裁して、後日その問題は全国のサービス会社の責任者を集めて打ち合わせてはということで終えることが出来た。サービス会社の仮事務所が営業部ビルから少し離れた福岡郊外の倉庫跡地にオープンした。社員全員が揃って5月21日に業務を開始した。手狭ながら業務は順調に出来ている。顧客からの問い合わせも多く、修理の件数も一日100件を超えてまずまずであった。チェーン店の反応も良く、代理店からはお礼の電話が営業部へも毎日掛かってきていた。東京の専務からも代理店の社長からのお礼の電話が掛かて来て、進めて大いに満足していると営業部長に連絡が入っているらしい。郷田は満足していた。そんな状態で年末を迎えた暮れのある日、大川社長から電話があり、12月の25日の夕刻から東洋ホテルで結成半年たったので全社員傘下の忘年会を兼ねて、決起大会を開くので営業部も出来るだけ参加して欲しいとの電話をもらった。

「それでは、営業部長以下次長と主任も行かせてもらうように調整します。主な営業所長や事業部にも声を掛けてくださいますか」

「勿論、そうしておくよ。君の方から専務にもその旨了承を取っておいてくれ」

「ええ!私からですか?社長が掛けられた方が良いのでは」

「わっかているが、今回は君の方が良さそうらしい。と言うのも先日専務が電話で君からの連絡が少ないとこぼしておられたからね。そうしなさい」

「そうですか、それはお知らせ頂いてありがとうございます。早速連絡します」

電話を切って専務あてに電話した。専務は機嫌よく出席OKの返事をくれた。

当日がやってきた。その日の業務を終えて、夕刻に部長以下4名一緒に東洋ホテルへ向かった。

ホテルに着くと受付に社長と副社長が出迎えてくれた。暫くは招待者への挨拶回りをしていると専務が到着した。部長以下サービス会社の幹部も出迎えにロビーに急いだ。専務が軽く手を挙げて会釈した。全員が一礼して披露の部屋に入って、式典が始まった。サービス会社社長が登壇して挨拶があり、続いて専務が来賓代表で紹介された。専務の話は短く、サービス会社の発展を慰労し、関係者へお礼を述べたあっさりしたものだった。続いて副社長による乾杯の音頭があり全員で乾杯した。その後食事会が進み、途中に得意先の代理店会会長など多くの祝辞があった。郷田は専務に参加して頂いたお礼を言いに行った。専務は郷田に指で隅っこを指して行こうと誘った。

「君はいつから東京へ来れるかね。少し早いが年明けには早々に着任できるようにしたまえ」

「専務、私にはもう少しだけやらねばならない仕事がんこっているんですが。技術認定の具体的な中身が未だ詰められていません。年明けに人材育成部門、事業部門と2,3回打ち合わせれば片付くと思います。ですから、2月1日までお待ち願えないでしょうか」

「私も君の着任を急がねばならない状況が出来たんだよ。とにかく1月の15日までに片づけて、20日に東京へ来なさい。人事部長に辞令を出すように言ってあるからね。」

「そんなに急ぐんですか。何か私が早く着任しなけれすったふばならない事情が有るのでしょうか。もし差し支えなければ教えて頂けないでしょうか?」

「これはまだ一部の関係者しか知らしていないが、年明けに大幅な組織の改編がある。今の8営業部を9にする。新営業部は関東営業部として、若林君に担当させることが内定している。ところがそれに対応するスタッフがいないので、東京と一部を兼務させようと思っている。だから君にはそれまでに着任して両営業部の要として期待する任務があるんだよ。分かったかね。君の九州での仕事を最後までキチンと仕上げたい

気持ちもわかるが、事の重大性は分かるだろう。後は人材育成と本社サービス部長に一任しなさい」

「すいませんでした。我がまま言いまして。おっしゃる通りに年明けの20日には着任します」

「頼んだよ。それから君の部下は東京営業部の企画室に5名いる。室長は宮越君だ。君は昇任して次長職としてきてもらう。後は人事部長の連絡を待って、住居などは相談してくれ。関東営業部も東京営業部のオフィスと同じフロアーに置くことにしている」

「ご配慮ありがとうございます」

「なんの、これきし。楽しみに待っているよ」

それで話が終わり専務は直ぐにホテルを後にして東京へ帰った。

部長とサービス会社社長が心配そうに近づいてきて、

声をそろえて「何かあったのかい」と心配してくれた。


「専務から、東京への転勤を早めるからそつもりで準備し、引継ぎをするように厳命されました。」

「君のお蔭でサービス会社の立ち上げは上手くいったが、人材育成の関係のサービス技術認定制度はどうなんだ」と部長が聞いたので、大川社長が

「そちらもほぼ中心部は決まっているので、後は任せてもらって大丈夫だと思います。しかし郷田君としては最後まで自分の手で完成させたかったでしょう」

「まあ、その点は社長とサービス部長、人材育成に任せて早く赴任した方が君の将来の為にも良いんじゃないかな。専務の対面もあるだろうから」

「ええ、私も専務の事考えたらこれ以上の我儘は許されないと思います。後は社長にと五十嵐さんに引き継いで東京へ行きたいと思います」

「それでいいよ。五十嵐君には僕の方から支持しておくから、年明けから引き継ぎ作業に掛かりなさい。」

「ありがとうございます。そうさせて頂きます」

それで話は打ち切りパーテイに戻った。

暮れはサービス会社の関係は特になく過ぎた。年末に大阪へ来帰省して家族と一緒にのんびりと過ごした。

初詣に参拝して帰りに家族に20日からの転勤の事を話した。子供たちは一緒に行くことを嫌だと言った。その理由は学校を変わると友達がいなくなるからという単純なものだった。妻はこれからの子供たちの進学に備えて東京も良いのではと考えたようだが、子供たちの考えを聞いてあきらめたらしい。結局のところ又単身赴任ということで話は落ち着いた。荷物は九州の寮から東京の1DKのマンスリーマンションに運ぶことにして、春休みかゴールデンウイークには東京へ遊びに来るように言って家族とあくる日に別れ九州へ帰った。4日の初出に顔を合わせてから、翌日の新幹線で大阪へ行き、あくる日に人事部と人材育成に顔を出し技術認定の打ち合わせをして、研修日程や認定すべきコースの設定、資格の段階を3級から1級とするなどの細部の詰めをした。その足で人事と人材育成部門と一緒に、本社サービス部長を訪ねて検討結果を報告して、了解を得た。関連事業部門へはサービス部が、営業所へは九州営業部がそれぞれ知らせる旨の約束をして最後に自分の転勤の件を話した。すでに知っていたようで驚きもせずに頑張ってくださいと、激励された。その後は九州に返って、部長に報告をした。18日までにサービス会社の社長以下幹部に挨拶をしに回ったり、現状の問題点がないかを確認した。特には無かったので、17日中に五十嵐次長にや小池主任、伊東、早田両名に引継ぎと短い期間であったがお礼を言った。18日の夕刻から送別会が部長主催で開かれた。予想外にサービス会社幹部をはじめ福岡の営業所所長や課長までが参加していた。部長の挨拶の後、郷田がお礼を兼ねて別れの挨拶をした。電報が15通も代理店、チェーン店の社長から届いて郷田は驚いたと同時に涙ぐんだ。散会して寮への帰りのタクシーの中で

「自分は恵まれているなあ」と思わずつぶやいていた。

19日は飛行機で東京へ向かうべく福岡空港で搭乗待ちをしていたら、伊東君が早田さんとやって来て、花束を渡されてうれしいやら恥ずかしいやらで、お礼もそこそこに乗り込んだ。飛行機が離陸して福岡の街並みが見え、小さくなる窓を向いて、今度はいよいよ自分の真価を問われる東京かと身震いをした。


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