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もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな

 さて、軽く彼の様子を遠くから拝見した私の現在地はゲームセンターでございます。


 彼がこちらに入っていったのは確認できたのですが、やはりと言うか、残念ながら友人を伴っていました。


 ちなみに彼はなかなか上手なゲーマーでして、よくあるシューティングゲームでコンティニューなくワンコインで鮮やかに最終ステージまでたどり着く手腕、うーんいつ見ても素晴らしい。


 私はそんな彼の様子をつかず離れず観察するために、隣の百円ショップに陣取っています。


 冷やかしオンリーもちょっと申し訳ない滞在時間になりそうだから、場所代ぐらい出さないといけませんね。何がいいでしょう。お菓子でも買っていって四天王最弱達にばらまくのが最も効率がいいでしょうか。


「待ちなさい、真香マカ


 そんな風に、店内から彼が出てきていないかチラチラ確認しつつも陳列棚を物色していた私は、呼びかけられた言葉に緊張して振り返ります。


 百円ショップに仁王立ちしたるは、エプロンがお似合いのいかにも主婦ですという見た目の――いや外出してるときエプロンぐらい取りましょうよ、キャラ付けなのはわかっていますけど――失礼致しました、ご紹介せねばなりますまい。


 こちらにおわしますは、愛染家裏ボス(今まで全部前座)。我が最大の師、四天王最強にして唯一まともな刺客、愛染笑美子(エミコ)――つまりは我らがご母堂様(ママン)にあらせられます。


 買い物袋手に提げて何の変哲もない私服にエプロンという、美人だけどちょっと謎のコスプレ臭する御仁。

 なお大体ドラマの影響ですので、周期的にコスプレの種類が変わります。今回はエプロンルックですが、先月は確かナース服で先々月は縦ロールのゴスロリでした。割と真剣にやめてほしい。


 これでどの格好をしていても自然と群衆の中に違和感なく溶け込むのですから、四天王(この人一人で)最強(いいんじゃないかな)と子ども達ついでに大黒柱にも恐れられている理由がお察しいただけるかなというところ。


 立っているだけで背景に花が咲き謎の効果音が響き渡る、それなのに他の人は誰も私たち二人に構わない、どころかむしろ避けていく。


 これが超一流の(SHINOBI)のみ会得できるとされる奥義(SHINOBI)ゾーン。無関係な人間達を排除しつつ、ターゲットに威圧感を与える。ここまでできればいつでもどこでも忍闘仕掛け放題ですよ。


 さて、ご母堂様のために色々こちらも準備したわけですが、彼女は今までの四天王最弱達と違って小手先ごまかすような戦法は聞きません。


 どうやって撃退したものかと考える私の前で、不意に威圧感が霧散し、母上はにこりと微笑みます。


真香マカ、お母さんは許しますよ」

「母さん!?」

「あれっ!?」

「お母さんちゃんと防衛して!」


 何気に男性陣の許さない台詞に被せてきている気がするのは、おそらく気のせいではなく今までの茶番も母上の掌なのですよというアピールなのでしょう。


 あとその辺から今まで千切って投げてきた犠牲者達の遠吠えが聞こえてきた気がしますが、あえて無視。


 母上ママンは手提げの中に無造作に手を突っ込みますと、小さなヘアピンを取り出します。


「だってお母さんは真香に届け物しに来ただけだもの。ハイ、やっぱりこれをつけていった方が可愛いと思うのよう」

「ありがとうございます。あとそこの負け犬三匹、大人しく家に帰りなさい」

「真香のバカァ!」

「真香のいけずぅ!」

「姉様ステキ! しゅき!」

「皆、今日はカレーよう」


 おのおの捨て台詞を吐いていたのが、母上の一言で幸せそうな声を上げて大人しく帰って行く。

 さすがご母堂、躾が行き届いていますね。


「だって付き合った後の事を根掘り葉掘り聞いた方がどう考えても楽しいんだもの、ウフフフフフ……」


 ヘアピンを装備している間に聞こえてくるのは、どこか物騒なお母上様の笑い声。


 やはりラスボスは風格が違った。目先だけしか考えられない前座とは視野の広さが違いますね。今回の告白がうまく行こうが失敗しようが、今後一生いじり続けるつもりの容赦ない眼光ですよあれは。


「あんまり遅くなるようなら連絡しなさいねえ。補導される時間帯より前に帰ってくるのよう」


 そんな間延びした台詞を最後に、ご母堂はくるりときびすを返します。


 ほっと一息つく間もなく、私が慌てて彼の現在状況を探りますと――チャンスです! ちょうど彼が一人になったのを確認できました。


 さあ、刺客達も全員追い返して、本日いよいよ大詰め。

 真打ちと参りましょう。

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