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四天王メンタル最弱には精神攻撃を与えるべし

 さて、一人目の刺客を無事返り討ちにできました私は、上機嫌にて眼鏡のあの人に続く道のりを歩みます。


 現在は我が家から離れまして駅に向かうアップダウンの途上。徒歩15分、雨の日ならば鬱陶しいですが、晴れの日ならばそこまで気にならない長さです。

 近いとも遠いとも言いがたい微妙な距離感は、まるで端からだとどう見ても両思いなのにウダウダ片想いの矢印を向け合っているカップルのよう、いやなんでもありませんよハハハうまいこと言えなかった、しかも私これから人生初告白に向かってる途上なんだから縁起でもない。


 コホン。さて気を取り直しまして、一応尾行にも気をつけながら駅のホームにて順調に電車を待つ私の足下に、投げ込まれたるは時代錯誤な矢文――否、手裏剣文!


 ちなみに手裏剣は特殊な素材でできているので万が一人間に当たってもちょっと痛いぐらいで済みますよ、我ら(SHINOBI)は安心安全な社会をお届けしている日本の良心ですゆえ。


 それにしてもあまりに早すぎる妙技、私でなければ見逃してしまいそうですね。

 周囲の堅気パンピーにバレてないのがこれ幸い、素知らぬふりをして拾い上げ、中身を確認してさっと鞄の中に放り込みます。


 わかりやすい果たし状でございました。指定された場所がちょうど電車で向かう先でしたので、目的地まではこのまま土曜日の通行人に紛れて参りましょう。


 (SHINOBI)たるもの、忍闘を行う際にはルールに則らねばなるまいことは先ほど既にお伝えした通りでございます。

 我が父上のようにいきなり飛びかかってもいいのですが、絶対に「忍闘ニントウカイ」の文言を相手に聞こえるように唱えなければならないのが我らが忍道。ですからその性質上、奇襲ってぶっちゃけさほど意味がないどころか、(SHINOBI)同士の戦いの場合特に、仕掛けた方が不利なのですね。


 と言いますのも、例えば忍闘中に堅気パンピーに怪我をさせてしまったり、正体がバレてしまったりした場合、基本的にはその責を負うのは仕掛けた方でございます。申し込まれた方は応じるしかありませんから、周囲に被害が出るのは申し込んだ方の状況判断不足、とみなされるわけですね。

 損害が発生する場合、表の法律に則った対応をした後、該当者に額に朱色の文字で「未熟者」と刻印されます羞恥プレイ、思春期社会人問わず震え上がらせる恐怖の折檻でございます。


 一方で今も申し上げました通り、果たし状を受け取った場合や忍闘を申し込まれた場合、正当な理由がなければ、挑まれた方は直ちに応じなければなりません。

 遅刻欠席する場合は返信義務があり、無断欠席をした場合、勝負を挑まれた(SHINOBI)は問答無用で挑んできた方の(SHINOBI)の要求を呑まねばなりません。そう、(SHINOBI)は礼儀正しいからね。


 まあ、ゆえに仕掛ける側としては、万全の準備をした方が色々と効率が良いわけで、父上のように準備なく真正面から来る方がレアケースなのであります。

 父上はあれで一応かなりの手練れですので、真正面からかかっても勝てる算段がついていたのでしょうけどね。そこはまあ、くノ一として万全の状態で戦わせたりなんかさせませんから。


 それに今時の(SHINOBI)はSNSのスタンプで勝負を申し込みますから、矢文もとい手裏剣文もレアケースではあるのですが。



 そんなこんなで、(SHINOBI)のあれこれについて思いを馳せておりますと、我が足が止まります現場は取り壊される前の廃ビル。都合良く途中下車してすぐの場所にありましたので、さほど移動も嫌ではございません。

 ポケットから取り出して両手に装着しますはグローブ。高まる緊張の中、私は仕掛けられるのを待ちます。


「忍闘・開!」


 気配を感じて立ち止まります私の前に、轟きますは知人の声、巻かれますはまきびしの群れ。

 どうやら拡声器を用いているとみた、自分の居場所を悟らせないためでしょうか。


「許さない、真香! 兄ちゃんと結婚するって言ったのに、他の男に浮気するなんて!」

「言ってませんよ、愛染家次鋒(四天王メンタル最弱)


 ひらりと優雅に飛び立ちました私は、素早く仕込みワイヤーと鉤爪を作動させます。このためのグローブ。そう、(SHINOBI)だからね。

 蝶のように舞い、蜂のように刺す。

 刺したいのですが、今回目標が見つかってないので仕方ないから舞い続けていましょう。大丈夫、(SHINOBI)は毎日タケノコの上を飛んでますから体力はありますよ。


 さて、待ち伏せの理を生かしてか、姿を現す様子がございませんが、これなる天からの声、新たな刺客の正体は、愛染家長男。つまりもうちょっとわかりやすく言うと、愛染宗俊(ムネトシ)こと我が兄上であらせられます。


 大学の単位はどうしたのですかと言いたいところですが、今日は土曜日でしたね暇人が。それと何やら朝聞いたことがあるようなセンテンスをほざいていますが、父上はともかく兄上にはそのような旨口走ったこと一度もないと断言できますよ。


 理由? 妹が初彼作ろうとしている時に矢文で茶々入れしてくる男ですよ、不肖くノ一とてそこまで節穴じゃありません。


「自分より弱い男に屈してはならないのがくノ一の定めだぞ!」

「業界人の話なので堅気には適用されません、あしからず」

「裏切り者オオオオオ!」


 会話の合間にあちらこちらから降ってきます攻撃の数々を、ひらりひらりと右に左にワイヤーアクションを披露して裁いて参ります。堅気パンピーがいないエリアだからね、逆にアクション方面はやりやすいのです。


 しかし、シスコンなんてただの言い訳、本音はこのように兄より優れた妹など存在しない(恋愛経験値的な意味で)理論、要するに私に先んじられるのが悔しくて足を引っ張っていたのですね。


 なんというケツの穴の小ささ。私の心に残っていた最後の良心が討ち死にした音が聞こえました。このような兄に気遣いなど不要、マカは心を鬼に致します。

 ぶらーんと蜘蛛かミジンコよろしく廃ビルの天井から器用につり下がった私は、見えない兄に向けて言って差し上げました。


「悔しかったら早くみーちゃんのメル友から進化しなさい、軟弱ものめが。あ、今ははーちゃんでしたっけ。そういえば先月追いかけ回していたナナミ先輩とやらはどうしました」

「ノオオオオオオオ!」


 愛染家の長男は、誰に似たのか異常に惚れっぽいのです。

 私の兄上ということでルックスはそこまで悪くないのですが、ご覧の通りの豆腐メンタルドヘタレ野郎ですし、惚れっぽいと言うことは彼女ができてもすぐに他の女性に目移りすると言うこと、おかげでデートまでは漕ぎ着けても大体その後手形をもらって父上母上に泣きつくのが恒例行事でございます。


 この圧倒的悪癖がなければ、それなりに名のあるお洒落大学通ってますし勉強成績だって悪くないし顔もそれなりだし、そこそこの優良物件のはずなのですが。


 最新三名の彼女の名前を出しただけで、勝手にハートがバッキバキに折れた音が聞こえる。その時その時は本気で好きだからフラれると真剣にへこむらしいですね。まあ本人の責任が半分以上だと思うのでさほど同情しませんが。


 兄上がうずくまって行動不能になっている間に、私はさっさと彼の居場所を特定しまして、廃ビルの中を仕掛け罠の数々をかいくぐってたどり着き、軽く頭にチョップします。


「忍闘・閉」

「俺が失恋しているのに妹がこんな薄情でいいわけがないー!」


 おいおい泣いて同情を買おうとしているようですが、さっきも言ったが兄よ、悔しかったらはよ長続きする彼女を自分の力で作りなさい。私は先に進みますよ。あと修学旅行で買ってきたお土産の忍者服を着るのはよしなさい、中身は茶髪の典型的チャラ男なんですから本職なのに似非にしか見えませんよ。


 廃ビルを使ったアクションで多少時間を取られてしまいましたが、まだお昼になったばかり。

 泣いている兄を置き去りに、私は昼食と本日のプランを練り直しについて思案を巡らせるのでございました。





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