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四天王勉学最弱はクイズを持って制するべし

 さて、唐突ですが我ら(SHINOBI)には五つの守らねばなるまい心得がございます。


 その一。みだりに心を乱すべからず。

 その二。健やかな身体を保つべし。

 その三。常に己を研鑽けんさんすべし。

 その四。堅気パンピーに正体ばれるべからず。

 その五。(SHINOBI)同士の争事ケンカ忍闘ニントウにて決着をつけるべし。


 故に、忍闘を一度挑まれたからには、勝敗決するまで引くことは許されない。それが我らの忍道。


 ちなみに私がなるべく自然な体で電車の彼とお知り合いになろうとしているのは、その四の心得が理由であります。普通の女子高生を擬態する私が印象に残りにくい普通の眼鏡ボーイとお付き合いをせんとするには、私もまた模範的女子高生を擬態したままでなければならないのです。


 たとえこちらが実は既に向こうの個人情報を気持ち悪いほど掴んでいたとしても、それを相手に悟られるわけにはならないのです。


 ああ大変だな忍道。頑張る私は可憐なJK。



 話を戻しまして、爆煙の中、かけられた声におもむろに振り返りますと、あちらに見えますは我が家の屋根に上る御仁。


真香マカ! パパはこの先に進むことを許しません!」


 出たな、愛染家先鋒(四天王勉学最弱)。別名愛染飛尾(トビオ)こと父上パパン


 今日も今日とてお顔が薄い。さすがは元祖忍びの者、実の父上であらせられなければ明日には忘れていそうな立派なかんばぜの持ち主。いや冗談抜きでマジで特徴薄い平均的のっぺり顔なんですよね。


 最近は頭も薄くなってきていますが、健康面は大丈夫ですか。あと土曜日の早朝故かご近所様もまだ静かな現状ですが、家の外でパジャマ姿なのはどうかと思いますよ。パジャマの柄が熊さんなのも正直どうかと思っていますよ。


「真香お前、パパに失礼なこと考えているだろう! 家族なんだから顔を見ていればわかるぞ!」


 失礼しました、父上パパン

 自分、黙っていればクールビューティーですが喋ると幻想殺しと定評のあるJKですゆえ。


 さて忍闘を挑まれたからにはこちらも応戦せねばならないので、おもむろに私服の下に仕込んであったくないを取り出して構えます。


 こんなこともあろうかと、備えあれば憂いなし。

 銃刀法違反? 大丈夫です、(SHINOBI)ですから。


 さて、父上は屋根から飛び降りて……今ちょっと足首グキッて言った気がしますが見なかったことにしてあげましょう、私は模範的くノ一兼愛染家の愛娘ですからね。


 左足を痛そうにさすりながら、熊柄パジャマの父上パパンが主張しますことには。


「他の男に浮気なんて酷いじゃないか! 幼稚園年少組の時、お父さんと結婚するって言ったのに!」

「時効ですよ、父上パパン。娘はいずれ家から巣立っていくものです」

「パパ、許さないもん!」

「ならば仕方ない。諦められるように引導を渡して差し上げましょう」

「やれるものならやってみなさい……」


 たちまち愛染家の庭に降り立った男から立ち上るプレッシャー。熊さん柄のパジャマ着てるくせにトンファー振り回す姿は様になっています、当たり前だねプロだもの。


 愛染家四天王の名は伊達ではありません。

 足首挫いていても元関東最強の(SHINOBI)、私の体術の師範でもあらせられるこの人と真正面からやり合えば、犠牲は避けられぬでしょう。


 ゆえに、相手のフィールドで戦ってなんかやりません。


「時に父上パパン。さぶろくの答えはいくつでしょう?」

「えーと、三が六つだから、ひいふうみい――」

「真香流対父上殺法、鬘矧ぎ(かぶりものパージ)

「あああああああああ!」


 父上パパンの弱点、それは学力。

 そしてほぼ確実に答えを間違えるのに、クイズのノリで問題を与えられると咄嗟に一生懸命考え出してしまう悪癖。


 今回も無事に作動しましたね、そしてその硬直時間の間に、私は素早く瞬歩で相手の間合いに入り込み、そっと父上のふさふさのかぶり物を暴いてしんぜました。


 全国の薄い人達から「なんて残酷な真似を!」と手を振り上げられる幻影が見える。だが私は謝らない。相手の一番弱い所を突くのはくノ一の基本ですゆえ。そもそも娘の初告白を邪魔しようとする大人げない態度がどうかと思います。


「ぐっ……さすが我が娘、きたないさすが(SHINOBI)汚い……だが行かせるわけには行かん、父親の意地というものがあるのだ!」


 しかし父上は心に甚大な損傷を負ったようですが、まだ私とやり合う気概は失っていない模様。

 さすが四天王勉学最弱とは言え愛染家大黒柱、そうやすやすと膝は屈しないと言うことですか。ならば。


「真香流対父上追撃法、鬘渡したんじょうびプレゼント

「あああああああああ!」


 こんなこともあろうかと、肩掛け鞄の中に替えの頭を用意していたのですよ。そう、(SHINOBI)だからね。


 隠していたものを暴かれた上に、優しくフォローまでされて、父上の心が砕け散る音が聞こえる。


「あなたの敗因はただ一つ。禿げの隠し方が雑だったことと、私に面と向かって勝負を挑もうとしたことと、クイズに釣られたことと――」

「割とたくさんあるじゃないか!」

「……まあ、反省するといいんじゃないですか」


 決めぜりふの最中に突っ込みを入れられてしまったので仕方なく雑にまとめ、私は戦いの終幕の言葉を紡ぎます。


忍闘ニントウヘイ


 背後で父上が崩れ落ち、おうおうと号泣する音が聞こえる。


 爽やかに晴れやかな気持ちで初戦を終えることができました花の女子高生は、この勢いを逃すまいと、そのまま愛染家を走り去っていくのでありました。

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