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忍《SHINOBI》の告白は修羅の道と心得たり

 私はマカ。愛染アイゼン真香マカ

 どこにでもいるごく一般的な普通の女子高生ですが、強いて皆と違う所を挙げるとすれば、現代に生きる(SHINOBI)末裔まつえいってところかな。


 そも事の発端は、花も恥じらうどこにでもいる平凡な(を装っている)女子高生が、とある男子をいつの間にかずっと目で追いかけている自分に気がついた所から始まります。


 詰め襟の制服、いわゆる学ランに身を包んだ冴えない彼は、他校の学生のようでした。

 通学時、いつも一緒の電車に乗っていたので、なんとなく顔を覚えるようになっていったのです。


 黒縁フレームがお洒落な眼鏡をしていましたが、目立つ特徴と言えば本当にその程度。

 凡庸な顔立ち、凡庸な姿勢、凡庸な足取り、凡庸な身だしなみ。よくよく観察してみれば、それなりに整っている方だとは思うのですが、とにかく眼鏡以外印象に残らない、たぶん地味の極み。

 エナメルバックを肩にかけ、イヤフォンで英語の勉強をしてぱらぱらとお手製の暗記カードをぱらぱらめくるは、まさに模範的学生の姿。


 ああ本当に、何故でしょう? 他人と彼と、一体何が違うと言うのでしょう?

 気がつけば電車に乗る度に彼の姿を探し、自分も勉強するふりをしながら彼の仕草を盗み見て、胸の内で高鳴る鼓動に人知れず耳を澄ませている私がいた。


 衝動の赴くまま、彼の名前から各種アドレスから住所から家族構成、通学経路、勉強の得意分野苦手分野、直近の期末テストの具体的な成績からご趣味や休日の動向の情報まで差し押さえてようやく、


「あれ? これ(SHINOBI)としては当たり前だけど、一般人としては余裕でアウトな情報把握率じゃない?」


 と思い至り。

 一度意識してしまえば、日に日に沸騰するのがわかります自分の心がトキメキドッキン、ただの模範的女子高生にこのような奇行を取らせる原因につきまして思いを馳せました結果、


「そうか、これが音に聞く初恋というものなのですね」


 との結論に至り。

 ああ花も恥じらうお年頃、箸が転んで大爆笑。そして恋すれば電柱の影から見守るか、玉砕覚悟で告白しに行くのが花の盛りの世の掟でございます。


 折角自分の気持ちに気がついたのだし、これもまた青春、大丈夫砕け散っても私ならいくらでもやり直せるわと決意し、不詳愛染真香、ついに彼にアプローチをかけることを決意した次第であります。



 事前準備や入り用な物の手配も整えましたる本日は土曜日。いつもより早起きをして、念入りに身支度を済ませます。


 容姿しか知らない(という体で話しかけますが、実際には既にあらかたの個人情報は差し押さえ済であります)あの人と、まずはお友達になってアドレスを交換しよう作戦。


 彼は軟式テニス部所属、土曜の午前中は部活で登校していますが、その帰り道はフラフラと遊びながら帰って参りますので、そこを狙いに行きます。


 平日だと、お忙しい学生の予定の合間を縫って自然な演出で絡みに行くのは、他校の生徒にとってハードルが高いしせわしない。しかし休日もまた、休息の時間に充てている事が多いので、邪魔をするのは良心が痛みますし鬱陶しがられる恐れもある。グレーゾーンの土曜日が、告白に最適な日取りであると愚考するのであります。


 あと彼がギリギリ制服を着てうろついている平日か土曜じゃないと見分けられない恐れがある。

 何しろ網膜に焼き付く黒縁眼鏡以外、(SHINOBI)の私すら記憶するのが危うい非常に凡庸な御仁ですゆえ。


 なお模範的男子高生の彼はリア充ウェイ勢とまでは行かずともボッチでもないため、土曜午後の遊びにはご友人を伴っていらっしゃることもよくある。

 けれど安心してください、(SHINOBI)の下調べはばっちりですよ。

 基本は晩ご飯前に帰ってくるべしという家庭の不文律がため、夕方友と別れてから帰宅の途をたどるまでの間に、必ず一人になる時間帯があるのです。


 急な出費、不意の事故もお任せ安心。そう、(SHINOBI)ならね。

 プランはAから始まってYまで揃えてある上、全く予想のつかないアドリブ展開になっても最悪また別の日にやり直せばいいという三十六計逃げるに略(奥の手)が残っているので何が起きても大丈夫です。

 え? なぜプランからZだけ省いたのかって?

 春の天気と乙女の気分です。


 さて、くだらないことを言っている間にいよいよ作戦決行時間が迫ってきた。鏡をチェック致します。


 ショートヘア、セッティングよし。寝癖もなくヘアアイロンによるふんわりカールができあがっているのを確認してから帽子を被ります。

 上半身は薄い色のトップス、下はストライプ柄のガウチョパンツ、足下は機動性と清潔感を意識した白ソックスにお気に入りのスニーカー。


 肩掛け鞄の中身も無事に確認できましたので、張り切って出発して参りましょう!


 ちなみに土曜は我が家の朝ご飯の当番ですので、これも当然セッティング済、書き置きを残して参ります。


 うむ、ここまでは順調だな。


忍闘ニントウカイッ!」


 ――と、思っていたのですが。

 我が一軒家の門を出ました瞬間、唐突に響く爆発音、そして(SHINOBI)同士の開戦を告げる呪文!


 まあ、そうなりますよね。


 (SHINOBI)の初恋には妨害がつきもの、絶対に刺客は送られてくる、もとい自主的にやってくると思っていたので、驚きはありませんよ。むしろ来なかったらどうしようかと思ってた。来てくれなかったら一日公園で素振りも辞さなかった。そのための早起き。


 彼氏作るぐらい好きにさせなさいよ! と思わないでもないですが、これもまた我らが(SHINOBI)の運命、実力でねじ伏せるは我が使命。

 いざ、恋は花戦。たぎれ恋情、満たせよ欲望。


 乙女の夢を成就させるべく、不肖くのいち、推して参ります!

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