いつかモアイになる日に
他意はありませぬ。
「みんなモアイになるんだよ。だから、そんなモアイ、捨てちゃいなよ。」
そう言うとTは私の部屋の物を車に積み始める。モアイってなんなの?あのハワイにあるやつ?いや、ハワイじゃないか。
「って、そんなのどうでもいい。なんでモアイになんのよ。」
「ちょっと、聞いてほしいの。」
そう言って、Tは話始めた。
「今、僕たちが聞いているCD、あるじゃん。百年後、僕たちがいなくなって新人類が生まれるとする。その人たちはCDを何だと思うか、ってことなんだよ。」
「意味がわからないよ。」
「わかった。なら、そう百年は早すぎた。百壱万年後、人類がいなくなって、ゴキブリ人間が生まれたとする。進化によってね。彼らゴキブリ人間は音楽を聴かない。理由はわからないが音楽を理解しない。音痴の僕みたいにドレミの区別さえつかない。だけど、知性はある。ここまではわかるね。」
Tはそこまで言って、ペットボトルのお茶をゴクリと飲んだ。
「うん、まあ、わかるかな。」
私が答えると、Tはすぐに話を続けた。
「それで、ある時、彼らゴキブリ人間、略して、GKN48《ゴキブリにんげん48せいき》は古代の遺跡からCDを発見するんだ。」
Tは鼻を高くして話を切った。
「えっ、GKN48、アイドルなの?発掘するアイドルってこと?」
私は慌てて聞いた。
「いや、そうじゃない。ゴキブリ人間48世紀だ。ゴキブリから進化した知的生命体で48世紀の歴史がある。その長い歴史に基づいた文明の力で発掘調査が行われてCDを発見したんだ。」
私はなんだかあのグループがかわいそうになった。
「なにそれ、アイドルを馬鹿にしてんの?」
「いや、馬鹿にしてないよ。『エッチもしたのにばかっ』って僕も付き合ってた子に言われたことあるし、そういうこと言う子、好きだし。」
Tはあわてて弁明する。なんだか、かっこよくない。どうせ、Tが遊ばれたんだ。きっとそうだ。
「あっそう。だけど、すごい進んだ文明なんだね。猫型人間は22世紀だっけ。」
私は猫型のあいつを思い出した。
「いや、そうでもない。彼らGKN48にはBCがない。だから、今の人類と同じくらいの文明を築いている頃だ。ともかく、彼らは発見したCDを研究する。すると、一定の周波数が決まったパターンで繰り返されているという事実を突き止める。そこで、GKN48の考古学者は考えた。これは人類の、いや彼らにとっての旧人類の、食事だったのではないかと。旧人類は一定の周波数により体内で音合成を行って、栄養を摂取していたのだろうとね。そして、学者はそれを学会で発表して、めでたくGKN48にとってのモアイが完成するってわけだよ。」
Tはもう荷物を運ぶ手を止めていた。
「モアイ、CDがモアイになるってこと?」
「CDがモアイになるんじゃない。僕たちにとってのモアイがGKN48にとってのCDなんだよ。要するに、そのもの自体の価値は失われ、研究対象や飾りとしての価値しか持たなくなるんだ。音楽の意味が価値が消え去って二度と元には戻らないのさ。これが、僕らの持っているものがいつかモアイになるってことさ。」
えっへんっ、とTは胸を張った。
「じゃ、じゃあ、私の本もあなたのパジャマも猫のおもちゃも、みーんなモアイなの?モアイそのものなの?」
「そのものって。猫のおもちゃってもうガラクタ箱に入ってるし、もうモアイになってるよ。ともかくね、大切だ大切だと囲っていても君がそばを離れた途端、価値がなくなるってことなの。」
「ふーん。そうだね、よくわかったよ。全部、捨てる。」
「そう、うん、それがいいよ。」
「まずはいろいろややこしい説明をしてアイドルグループを馬鹿にするあなたから捨てるわ。」
捨てるのもほどほどに。




