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いつかモアイになる日に

作者: みどり
掲載日:2016/02/01

他意はありませぬ。

 「みんなモアイになるんだよ。だから、そんなモアイ、捨てちゃいなよ。」

 そう言うとTは私の部屋の物を車に積み始める。モアイってなんなの?あのハワイにあるやつ?いや、ハワイじゃないか。

 「って、そんなのどうでもいい。なんでモアイになんのよ。」


 「ちょっと、聞いてほしいの。」

 そう言って、Tは話始めた。


 「今、僕たちが聞いているCD、あるじゃん。百年後、僕たちがいなくなって新人類が生まれるとする。その人たちはCDを何だと思うか、ってことなんだよ。」

 「意味がわからないよ。」

 「わかった。なら、そう百年は早すぎた。百壱万年後、人類がいなくなって、ゴキブリ人間が生まれたとする。進化によってね。彼らゴキブリ人間は音楽を聴かない。理由はわからないが音楽を理解しない。音痴の僕みたいにドレミの区別さえつかない。だけど、知性はある。ここまではわかるね。」

 Tはそこまで言って、ペットボトルのお茶をゴクリと飲んだ。

 「うん、まあ、わかるかな。」

 私が答えると、Tはすぐに話を続けた。

 「それで、ある時、彼らゴキブリ人間、略して、GKN48《ゴキブリにんげん48せいき》は古代の遺跡からCDを発見するんだ。」

 Tは鼻を高くして話を切った。

 「えっ、GKN48、アイドルなの?発掘するアイドルってこと?」

 私は慌てて聞いた。

 「いや、そうじゃない。ゴキブリ人間48世紀だ。ゴキブリから進化した知的生命体で48世紀の歴史がある。その長い歴史に基づいた文明の力で発掘調査が行われてCDを発見したんだ。」

 私はなんだかあのグループがかわいそうになった。

 「なにそれ、アイドルを馬鹿にしてんの?」

 「いや、馬鹿にしてないよ。『エッチもしたのにばかっ』って僕も付き合ってた子に言われたことあるし、そういうこと言う子、好きだし。」

 Tはあわてて弁明する。なんだか、かっこよくない。どうせ、Tが遊ばれたんだ。きっとそうだ。

 「あっそう。だけど、すごい進んだ文明なんだね。猫型人間は22世紀だっけ。」

 私は猫型のあいつを思い出した。


 「いや、そうでもない。彼らGKN48にはBCがない。だから、今の人類と同じくらいの文明を築いている頃だ。ともかく、彼らは発見したCDを研究する。すると、一定の周波数が決まったパターンで繰り返されているという事実を突き止める。そこで、GKN48の考古学者は考えた。これは人類の、いや彼らにとっての旧人類の、食事だったのではないかと。旧人類は一定の周波数により体内で音合成を行って、栄養を摂取していたのだろうとね。そして、学者はそれを学会で発表して、めでたくGKN48にとってのモアイが完成するってわけだよ。」

 Tはもう荷物を運ぶ手を止めていた。

 「モアイ、CDがモアイになるってこと?」

 「CDがモアイになるんじゃない。僕たちにとってのモアイがGKN48にとってのCDなんだよ。要するに、そのもの自体の価値は失われ、研究対象や飾りとしての価値しか持たなくなるんだ。音楽の意味が価値が消え去って二度と元には戻らないのさ。これが、僕らの持っているものがいつかモアイになるってことさ。」

 えっへんっ、とTは胸を張った。

 「じゃ、じゃあ、私の本もあなたのパジャマも猫のおもちゃも、みーんなモアイなの?モアイそのものなの?」

 「そのものって。猫のおもちゃってもうガラクタ箱に入ってるし、もうモアイになってるよ。ともかくね、大切だ大切だと囲っていても君がそばを離れた途端、価値がなくなるってことなの。」

 「ふーん。そうだね、よくわかったよ。全部、捨てる。」

 「そう、うん、それがいいよ。」

 「まずはいろいろややこしい説明をしてアイドルグループを馬鹿にするあなたから捨てるわ。」

捨てるのもほどほどに。

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