004 魔法の使い方
この世界には魔力という不思議な力がある。ただ、その魔力の使い方には幾つもの方法があって、様々な姿に形をかえる。
武術で言うと、剣士や拳闘士、槍使いに大鎌使い等が居るように、魔術にも魔導師、魔術師、精霊術師、妖精術師、召喚術師、降霊術師等が居る。
魔力は属性というものを帯びているらしい。
火、水、雷、風、土、光、闇の基本七属性に加え、基本七属性の上位属性に、使い手がほとんど居ない特殊属性があったり、未だ確認されてない属性や効果不明の属性も数えるととんでもない数になる。
人間は平均して1〜2属性しか持っておらず、その属性を帯びた魔力を呪文と呼ばれる不思議な言葉を詠唱してから魔法に変える。
この方法を用いるのが魔導師である。
直ぐに修得出来る為、冒険者等の戦闘系を生業とする人々の中で一番人口が多く、物凄いスピードで研究が進んでいる。
魔導師と名前が似ている魔術師は、魔方陣という技術を媒体として魔法を発動させる。
こちらは歴史が古いらしいが、一々魔術チョークと呼ばれる道具等に魔力を流し込みながら、魔方陣を書いて詠唱しなければならない。だが、持っている属性によらず、魔方陣に書かれている数式と文字式によって多種多様な属性と魔法を扱えるし、新たに開発することも出来る。
ただし、発動までの時間や手間を考えると戦闘向きではなく、魔導具という魔法陣が刻まれている道具を作る技術職の括りに入っている。
少数ではあるが、魔術チョークも詠唱も使わずに魔方陣を使用できる戦闘職の魔術師もいるが。
精霊術師、妖精術師、召喚術師、降霊術師等については才能がないと出来ない。
精霊術師は精霊の力と自身の魔力で魔法を発動させる人々の事であり、妖精術師も似たような職業だ。
大抵の精霊術師は、精霊の下位種族である妖精の力も使えるので妖精術師とも名乗れる。
召喚術師は、知能の高い魔獣を使い魔として使役出来る職業だ。強い召喚術師になると、何体もの魔獣を魔力を使って同時に呼び出せる。味方にいると心強い。
降霊術師は、神をその身に宿し、神託を告げる人々なので神官一族に多い。
ちなみに俺は魔術師であり、精霊術師だ。魔術師である師匠の影響で戦闘出来る魔術師に鍛え上げられたが、まず魔導師の才能が無かった。
まあ、魔術師の方がオリジナルの魔法や既存の魔法をカスタマイズしやすいし、使える種類が豊富だ。
修得するにはかなりの労力が必要だったが、慣れたら使い勝手がとても良いので気に入っている。
精霊術も使いやすいし、暗部からの命令だって風の精霊であるルルーが調べてくれるだろう。非常に楽な仕事だ。
食堂に着き、魔力で動く券売機に金色の学生証を翳す。日替わり定食を頼んで受け取った後、食堂内を見渡すと数人と目が合った。
やっぱり目立つよなぁ。このローブ。
通常、一年生を示す黒に近いエンジ色のローブには、銀の留め具と校章が付いている。
だが、数少ない特待生となるとローブの袖に2本の金色のラインが入る。留め具も金色。
目立つことこの上ない。
特待生どころか学生レベルの枠組みに入っていないから当たり前なのだが、同じ特待生のアルとマーシャル、ロイドと居るとどうしても注目をされる。1週間で大分緩和されたし、俺も大分慣れたが。
アルとマーシャルが並んでいるのを見つけ、そちらの方法へ向かう。俺の存在に気付いたマーシャルが手を振ってきた。
「わりぃ、待たせた」
「いんやー、さっき食べ始めたとこ」
ニコニコ笑って俺を迎えるマーシャルの隣に腰を下ろすと、向かいからチッと舌打ちが聞こえた。
見るまでもなく、魔力探知に秀でている俺はそこに誰がいるのか理解していたが、一応正面を向く。
…………親の仇でも見るかのように、般若みたいに顔を歪ませたミランダがいました。
って、めっちゃ怖えぇぇぇ!
何これ何で舌打ちされて睨まれてんの!?
俺幼馴染みの隣に座っただけなんだけど!
「あんたの顔見たらご飯が不味くなった」
「食欲が無くなりましたわ」
「何その特殊効果!?」
ミランダとイザベラのあんまりな物言いに、溜め息をつきそうになったが、抑えて日替わりメニューのパンを手に取る。
ミランダは近くの国の侯爵家、イザベラはフォルスフォードの侯爵家のご令嬢なのに一体どんな教育を受けてきたのやら。イザベラの祖父であるサンディル侯爵家当主は、苦労人の良いお爺ちゃんなんだけどなぁ。
まあ、それはどうでもいい。
それよりも先に解決しないといけない事がある。
「珍しい組み合わせだな?」
両手に花状態のロイドの向かいには、マーシャルとアル。
普段の食堂では、俺はアルとマーシャルの3人で昼食を取っている。時々マーシャルは女の子との約束とやらで抜けるが。
俺の疑問に答えたのは、歩く恋愛フラグ乱立機ことロイドだった。
「ああ、俺が誘ったんだよ」
誘うなよ。
ニコリと優しい微笑みを浮かべるロイドに内心毒づく。
両側にいる二人がロイドの笑みにノックアウトされている事にも気付かない鈍感野郎と、大事な幼馴染みを仲良くさせる訳にはいかない。やはり、友達は選ぶべきだ。
「あ、でもヨルは誘ってない」
「酷い!」
実に良い顔でサラリと告げたロイドに悔しがっている振りをしておく。このまま4年間過ごしたら、演技力カンストしそうだな。
「そーいや、次の時間って何だっけー?」
「魔導実技だよ。ついに実践っぽくなってきたな!」
はしゃぐロイドの言葉に馬鹿馬鹿しい思考から、ハッと我に返った。
基本的には魔法を使う際、魔力を消費する。
基本的には、だが。
世の中には、反則的に魔力を消費せずに特別な魔法を使える人がいる。
常人より多い魔力を持つ高魔力者の中に、先天的、後天的に開花する固有魔能力によって魔力を消費せずに魔法を使うことが出来るのだ。本当に反則みたいな能力だが、開花する人は滅多にいない。
まあ、個有魔能力の中でも魔力消費が必要な例外もあるし、固有魔能力の能力は十人十色だ。母数自体が少ないから、個有魔能力については詳しく解明されていない。
個有魔能力の中には、耳が良くなる【聴覚強化】や目が良く見える【視覚強化】、気配を探ることが出来る【気配探知】等、1つしか持てないのが普通だが、極々稀に複数個持つ人もいる。
1つでも十分反則なのに、複数個持っていたら人外通達されたと言っても過言じゃない。
俺とアル、マーシャルにジェラールが“異端”なのは、この固有魔能力が特殊過ぎるせいだ。マーシャルを除く俺達は、魔導が使えないのだ。
だから、俺とアルは学園で魔法を使わずに武術のみで過ごすつもりでいるし、属性別魔導授業では魔力の少ない特別組に居るので、完全別行動だ。
「マーシャルって絶対魔導の成績上位5位には入れるだろ?」
「えー、どーだろ?皆の実力が分かんないしねー」
コーンスープをスプーンで掬っていると、ロイドがマーシャルに何やら言っているのが聞こえる。
マーシャルがどれだけ手加減しているのか分からないが、全員揃う魔導実技は学生レベルが知れる良い機会だ。魔導の授業は初めてだし、楽しみだなぁ。
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