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002 隣国の皇子様

「……っと、つまり、世界協会は世界最大の国家連合組織を束ねる最高機関だ。国同士助け合うという理念の下、世界平和、生活水準向上等々を目標に活動している」




瞼が閉じそうになる度に、動かない頭をふるふると横に振って黒板の内容をノートに写していく。

世界史の授業だが、もう分かりきった事を習うのは、意外と苦痛だなと入学してから思い知った。



さっきの休憩時間、友達を作ろうと言ったくせにノープランというか、何時の間にか自然と出来てたから、意識的に友達作る方法が分からない。


詰んでるだろ、俺。

4年あるんだし、なるようになれとしか言い様がないんだが……。



このままいくと4年間友達作れないアルはどうなんだろうかと前を見ると、既に机の上に伏せて沈没していた。先生の話を全く聞いていないのが丸分かりだ。




“世界協会”俗称を“ギルド”と呼ばれている組織は、数々の国家を束ねる国家連合組織の最高機関で、その歴史はだいぶ古い。


元は労働者達の団体だったのが、何が起きたか今では強大な力を持つ魔物退治から薬草等の採集、更には屋根の修理に虫退治、犬の散歩まで何でもこなす何でも屋になっている。

本当に何が起きたか不思議であるが、その辺りはいくら調べても情報が出てこないので歴史の闇に葬り去られたヤバい内容であることは間違いないだろう。



ギルドは世界各国に散らばっており、ギルドに所属する人々は“冒険者”と一般的に称されている。

ちょっとしたアルバイト感覚、臨時収入を求めてギルドを利用する冒険者もいれば、昔から憧れて本職にする人もいる。


退職金やボーナス等は無いが、自分のやりたいときに自由に依頼を受けたり、実力だけで財産を築く事が出来るのにつられて冒険者登録する人が多い。まあ運営側としては、働き手が多いに越したことはないけど。



魔物との戦いという危険で死亡率の高い職業だが、それでも冒険者の数が減らないのは其れだけが理由じゃない。


俺達が暮らすレーベン大陸のほぼ中央に位置するセントラル王国内に世界協会本部が置かれている。他のギルドと区別を付けるために本部は“ジュピター”と呼ばれているが、世界協会自体が“ジュピター”のようなものだ。


ちなみに“ジュピター”は伝説上の生き物の名前から取ったんだと。そんな惑星があった気がしたんだが、調べても存在しないので前の世の事かもしれない。



話が逸れた。



“ジュピター”は世界協会が所有している最強軍隊。

10部隊、5、600人程度しかいないが、並みの冒険者とは違う、常識から突き抜けた“異端”ばかりが集う場所。

勇者一行の魔導師、聖女、召喚術師と称されている人達がまだまともな範囲内にいる程、“ジュピター”の個人個人は化け物並みに強いのだ。


それに憧れて冒険者になる人も勿論いる。最強だのヒーローだの強い人になりたいという願望は、男の子なら1度は抱いたはずだ。

ただ、並大抵でない努力の末に“ジュピター”に入れる冒険者は一握り程度しかいない。




まあ、今の世界史の授業を要約すると100近くの国々が集まる広大なレーベン大陸が今平和なのは、世界協会が所有する“ジュピター”を恐れて各国が大人しいからだ。

部隊長一人だけで一国を滅ぼす事が出来ると言われている奴等を、相手にしたいと思う奴はいないだろう。


まあ、部隊長一人だけでっていうのは若干ハッタリが混じってて、出来る人もいるけど、出来ない人もいる。出来ない人も半壊くらいは出来るから、脅威にはかわりないが。



“ジュピター”だけでこんななのに、世界協会は国家連合組織だから、連合国家も敵に回すことになる。よっぽど狂っていない限り、誰も負け戦等したくはないはずだ。




と言うことを柔らかく上手くブラックな所は簿かして、歴史で起こった大事件を交えながら、話しているのが今日の内容。


そんなこんなで、水面下では国々は火花を散らしあっているが、表面上は世界平和が守られている。




じゃあ何で当時14歳だった俺達が、魔王討伐に駆り出されたかと言うと、国民の支持を集める為と外国に舐められないよう戦力を見せつける為のパフォーマンスなのだ。


勇者が建国したと言われているフォルスフォード王家と公爵家は、勇者達の末裔。ならば、勇者として各地を回って、厄介な魔物退治やら、盗賊退治やらして人気でも集めるか、王国民の話題にもなるし、という腹黒鬼畜第二王子が考え出して俺達を向かわせた。

第二王子は病弱で王城から出られないと王国民は思っているので、第三王子に白羽の矢が立ったわけである。第二王子ピンピンしてるんだけど、多忙な人だからな……。




「はい、じゃあ次の所をアル。読め」


先生から名前を呼ばれ、アルは机に突っ伏していた頭をのろのろと上げる。

俺も考え事から、我に返った。


寝ていたから当てたのだろう、世界史の年若い男の先生はアルが答えられないのを期待しているように感じる。

まあ、答えられないよな、爆睡していたら。



「フォルス暦2118年、ラストル公国で締結された世界協会児童教育推進条約により、世界協会規律第98条が制定された。これによりフォルスフォード王立魔武術学園、ラストル学園、セントラル王国魔法学校、フェンダルク都立剣術学校、国立ルグドゥヌム技術学校、聖エイレイテュリア学園、バルドル神聖国立総合学園、カルキス武術学校、ジゼルグ国際文化学校、アンスリウム国立学校の計10校が世界協会の管理下に置かれ――」


開かれてさえいなかった教科書を数ページ捲ったアルは、スラスラと書かれている事を読み上げる。


まあ、どう見たって爆睡していたようにしか見えなかったけど、こんな大勢の前で意識飛ばしていられるようだったらアルはとっくの昔に死んでるはずだ。


暗殺者なんて日常茶飯事レベルだから、爆睡なんて昔から出来ない。

悔しそうな教師を視界の隅に捉え、相手が悪かったな御愁傷様と内心手を合わせておいた。




未だ教科書を読み続けているアルから目を逸らし、窓から見える澄み渡るような青空を見上げる。

段々気温が上がっていく割に、風はまだ冷たい春。


頬を撫でるように通りすぎていく風が気持ちよくて、目を細めた。



俺がこの世界に来て、もう10年か――。



前の世界は前世と呼ぶべきかは分からない。記憶は虫食いのように曖昧な部分が沢山あって、崩壊した過去の思い出の中では、10代後半まで過ごしていた気がする。

ただ分かっているのは、ここは魔法というものが存在する世界で、俺は気付いたら5才児程度の体型で王都近くの森の中にいたということだけ。



突然記憶を思い出した訳ではなさそうだし、憑依したという事でもなさそうだ。あくまで憶測だけど。

後、10年以上前にこの世界で生活をしていた記憶はない。それにこの世界の両親も分からない。

異世界に転移したのか、転生したのか。調べて分かったのは、この世界に異世界召喚はないということだけ。


この世界を示す名前は存在しない。嘗て暮らしていた世界と同じで。

だが、前の世界から見るとここは剣と魔法の世界という、空想の世界に当てはまるのだろう。



今から思うと、師匠がこの世界に来たばかりの俺を見つけて引き取ってくれたのは、幸運だった。

そして師匠に鍛え上げられて、人類最強の一角として数えられている。



最初はチートとやらに期待した。しかし世界は上手く出来ていて、最強じみた能力は持っていたのだが、肝心の俺には使いこなす才能が無かったのだ。

世界の理を曲げるのは出来ないんだと悟った瞬間だった。


だが、それでも能力の一部を使える俺は規格外に変わりない。お陰様でエリートコースまっしぐらで、この年にして一生遊んで暮らせるだけの金はある。

立派とは言えないが、稼げる職業に就いて、金にも余裕がある。アラサー男が次に可愛い嫁さんが欲しいと思うのは、自然な筈だ。


だが、悲しいかな。アラサーと言ってもそれは精神年齢のみで、外見は15歳。15歳が可愛い嫁さん欲しいなんて言った日には、ただのヤりたい盛りのガキと思われるのは間違いない。



それに内定段階だが、一応アルの双子の妹が俺の婚約者になっている。相手は勿論15歳。ぱっと見お似合いの15歳同士だが、倫理観からどうしても恋愛対象に入らない。


それに俺はロリコンじゃない。


15歳が15歳に世間的にロリコンは不味いし、まず俺はロリコンじゃないから婚約無かったことにして好きな奴の所に嫁げなんて言える筈もない。外見年齢と精神年齢のギャップに頭を悩ませながら、取り敢えず第三王女には好きな奴出来たら婚約無かったことにするからと伝えておいた。


顔を合わせる度に、何故か殺されかけるので婚約破棄する日は近いと思っている。


……あれ、俺女子から相当嫌われてないか?


気付きたくなかった現実を気付かなかった事にして、俺の周りの女子って、攻撃的な奴ばっかだよなぁと捉え方を変えておいた。




「ヨル、ヨル」


後ろの席から小声で呼ぶ声が聞こえて、教師が黒板に向かっているのを確認してから振り向く。



艶やかな赤紫色の髪を片耳に掛けながら、琥珀色の瞳をキラキラと輝かせた見るからにチャラそうな甘い顔立ちの少年が小さな紙を渡してきた。


何かよっぽど良いことでもあったのだろうか。

二つ折りにされた紙を受け取り、前を向いてコッソリ開く。


《授業中隠れて手紙のやり取りするのが男子学生の醍醐味なんだってー!あとじゃれあったり、抱き合ったり手を繋いだりするのが学生っぽいらしいよー?って、聞いたんだけどこれマジ?》


嫉妬も起きない位の綺麗な字を見た瞬間、頭を抱えた。コイツもアルと同じだったと今更ながらに思い出す。

親友だし、幼馴染みだし、仲良いし、信頼もしている。だが、順応性がカンストしているので大して気にしていなかった。完全な盲点だった。



マーシャル・フェンダー、本名マーシャル・フェンダルクは、隣国フェンダルク皇国の第七皇子であり、勇者一行では正体不明の吟遊詩人と称されている。

吟遊詩人とは名ばかりで、実際は槍を振り回す戦闘狂。隣国の皇子なのにフォルスフォード国王の命令通りに学園に通っている女誑しで、元魔王の兄だったりする。

そして、俺達と一緒の境遇で育った幼馴染みだ。



一先ず、この目の前にある紙の問題から処理しよう。

隠れて手紙のやり取りをするのは、女子中学生みたいだが男子もやらないことはない……はず。

じゃれあうのは、普通のことの……はず。


……駄目だ。学生時代こんな事やったとか、細かいことが全く思い出せない。

精神年齢アラサーなのに、普通に抵抗なく学園通える自分には驚いたけど、中身と外見がちぐはぐ過ぎて倫理観までちぐはぐになっている気がする。


アル達みたいな幼馴染みが周りに居たから、若干つられて子供っぽくなっているのか……?




それはともかくとして、紙に書かれている内容に関しては、ここまではいい。一応許容範囲だ。


その次からの内容は、何なんだ?

抱き合ったり、手を繋いだりって女子はともかく、男子でやるのは正直ちょっといやかなりというか絶対無理。


野郎と抱き合うとか一体何の拷問だ。


一抹の不安を感じながら、机上に転がしていたペンを手に取った。


《前の二つはともかく、抱き合ったり、手を繋いだりはねぇよ。誰に聞いたんだ?》


渡して直ぐに帰ってきた紙に目をやると、一言だけ簡潔に書かれていた。


《ジェラール》


その言葉を脳が理解すると共に、手の中にあった紙がグシャリと音をたててシワシワになる。師匠じゃなかっただけまだマシか?いやでも、

あんっの、腐男子め……!!マーシャルに何教えてんだ!?

閲覧ありがとうございます。



ジェラールの登場はかなり後になる予定。名前だけちょくちょく出てきます笑

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