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001 元勇者の王子様

第一部

どんなに古いお伽噺や童話でも、正義のヒーローである勇者達は害悪である魔王を打ち負かす。


“ハッピーエンド”


響きはとても素敵だが、勿論それには色々なパターンがある。

お伽噺や童話ではハッピーエンドで全てが終わるが、現実はそう甘くはない。



その先にだって、元勇者なりの波瀾万丈な人生があるはずだ。



これもその内の1つ、自国の危機を救った元勇者の仲間として、コレはねぇだろと俺は軽く現実逃避していた。




1か月程前、勇者一行が約1年間の旅を終え、故郷であるフォルスフォード王国首都フォルスに凱旋した。勇者一行のリーダー的存在である第三王子を始め、聖女、騎士、魔導師、召喚術師、吟遊詩人と称された目麗しい6人に王国民の熱は未だ冷めない。


そんな6人に国王は何を思ったのか、王立フォルスフォード魔武術学園高等部に通えとの予想外の非常に有り難くないお言葉だった。


いや、確かに学園に通う年齢なんだけど、今更何を学ぶの?


騎士である俺を含む6人の胸中に浮かんだのは、共通の疑問。

王族と大貴族のみで構成されたこのパーティーは、産まれた時から家庭教師が付けられているのが常識。むしろ、国民より将来のためにガリガリ勉強しているので頭は良いはずだ。


それでも他国から王公貴族の子弟がわざわざ通いに来る王立魔武術学園は有名で、卒業するとステータスになるし、将来的な人脈の礎を作る為等に殆どの貴族が通うんだったなと思い出し、納得したのだ。




――納得、したんだが、国王陛下から思い出したように付け加えられたのは、第三王子のアルフリードとその近衛騎士である俺の変装と“ただの”王国民として通学するようにとの指示だったのだ。


大仕事から休む間もなく、陛下の意図が全く分からない命令に、学ぶことのない全寮制魔武術学園に変装までしての通学。

全然乗り気でもないこの状況に加えて、


「貴方ごときがロイド様にお近づきになれると思っていらっしゃいますの!?」

「本当に目障りだわ!さっさと消えてよ!」


罵声を浴びせられたら登校拒否したくなるよな?


溜め息をつきたいのを我慢しながら、目の前にいるクルクル巻いた銀髪にややつり上がった緑眼の気の強そうな美少女イザベラ・サンディルと、ボブカットの黒髪に丸い桃色の瞳をした凛々しそうな美少女ミランダ・フランチェスを見上げる。


どちらも10人が見たら10人振り返る位の容姿なのに、今ではなまはげも裸足で逃げ出す程の形相をしていた。二人共貴族のお嬢様の筈だが、そんな顔をして良いんだろうか。


顔が整ってる分、怒ったら凄みが増すような気がするなんて思いながら、ドン引いたのを顔に出さなかった自分よくやったと誉める。


だが次の瞬間、何処からか俺に向かって飛んできた視線に顔が少し強張った。少しの間で視線は無くなったが、俺の変化に彼女達は目敏く気が付いたらしい。


「何よその顔。文句でもあるの?」

「言えるものなら言ってみなさい」


理不尽な言い掛かりに言い返してもキリがないのは経験済みだ。悲しい事に。

埒があかないので、俺は胸に渦巻く数多の単語を飲み込んでヘラリと笑った。


「いや、俺とロイドって席隣だし、友達だから仕方なくね?」

「貴方みたいな低俗な輩と高潔なロイド様が!?笑わせないで下さいまし」

「友達だなんて図々しいわ!あんたは路傍の石がお似合いよ!」


俺の言葉を聞いた二人が更にごちゃごちゃ言い募って来たので、これでも大貴族の子息なんだけど……なんて考えながら、件の右隣の席の奴に笑って声を掛ける。


「なぁなぁ、ロイド。俺達友達だよな!」


今まで我関せずといった体で、机上の教科書を真面目に読んでいたロイドは柔らかそうな薄緑色の髪を揺らして顔を上げた。

少年から青年に変わる狭間の面差しは、あらゆる人を惹き付けるイケメンであり、歩いただけで恋愛フラグを乱立するというムカつく野郎だ。


そして新入生代表も務めた優等生くんは、やや垂れている髪と同色の瞳に俺を映すと楽しそうに細めて、一言。


「いや、違うよ」

「ほら、ロイドも言ってるじゃん。俺達友だち……ってええええ!?何で否定すんの!?」


お願いだからそこ否定すんなよ!お前が否定したら、二人の化けも……荒々しい表情をした美少女達に暴言吐かれて、俺の精神ガリガリ削られるんだって!!


「当たり前ですわ。このゴミが」

「廃棄するべきよね」


ロイドに同調する様に追い打ちをかけてくる二人に「調子のってすみませんでしたぁっ!」と頭を下げておく。

この方法が一番穏便に済むことも俺は既に知っている。


俺が謝ったのに気を良くして、ロイドの周りにキャピキャピと侍りに行った美少女二人を見届けてから小さく息を吐いた。



最初は席が隣という事もあり、勇者一行以外で友達を作っても不利益はないだろうとロイドに目を付けた。

そこそこ仲良くするつもりで話していると、ロイドファンなのかロイドハーレムかは分からないが、逆に俺がイザベラとミランダに目を付けられた。


利益か不利益かについての見通しが甘かったと、反省したのは言うまでもない。

というか、こんなんで俺達が仲の良いグループだとクラスメイト達から思われているのが理解できない。どう良いように捉えても、一方的に当て馬扱いで虐げられているといった風にしか見えないのに。



反省すべき点はもう1つある。

学園に通うと決まった時、親しみやすいキャラ作りでもしたらどうか、という人類最強の称号を背負う師匠のアドバイスを鵜呑みにしちゃいけなかった。

学園なんて久しぶりだったから、すっかり忘れていた。


これが俗に言う高校デビューというやつか。


「お調子者が良いと思うよ」と優しい声音でニッコリと爽やかに微笑んだその裏で、あの人は一体何を考えていたのか……。想像もしたくない。きっとろくな事じゃない。


お調子者になれと言われたが、本当は突っ込みの方だし、世話焼き兄さんとか、面倒くさがり屋とか、年の割に冷めてるとか勇者仲間や大人から言われてるし、無理があるよなコレ……。



早くも入学1週間で、お調子者キャラを演じるのに限界を感じてるんだけど。


「ヨル、お前は上手くやっている方だと思うぞ」

「アル……」


長い付き合いで俺の考えている事が分かるのか、前の席に座るアルが心配そうに顔を覗き込んでくる。


いつものキラキラと神々しく輝く金の髪と意思の強い光を放つ広大な空のような碧眼は、今はどちらもくすんだ灰色に変わっている。

アル――本名、アルフリード・フォルスフォード。

先の勇者一行のリーダーを務めたフォルスフォード王国第三王子であり、俺が忠誠を誓う唯一無二の主……という事になっている。


その実、幼馴染みで親友。


俺の表情を視界に捉えたアルは、中性的で秀麗な面差しをクシャリと歪めて俯く。サラサラしたアルの髪が顔のほとんどを隠したが、次の瞬間意を決したように不敵に笑って面を上げた。


「俺はまだ自分からクラスメイト話し掛けられてないからな」

「ボッチみたいなことドヤ顔で言ってんじゃねえよ!!」


入学してから1週間。

アルなりのフォローだって分かるけど、それは中々ヤバイぞ……。

立場上、同い年に接することがあまり無かったのもあるが、性格が積極的に人と関わるタイプじゃない。人見知りではないが、親しい人以外は一線を置いて接しているのだ。


稀に例外はあるが、不思議なことに金髪碧眼はフォルスフォード王国では王家にしか表れない。

只でさえ第三王子という面倒な立ち位置なのに、勇者という肩書きまで加わったアルは、王国内で有名な商会の名前を借りてアル・シルヴェスターと名乗り、変装して学園に通っている。


学園に通う期間は4年。


4年後には、どう足掻いてもアルフリード・フォルスフォードに戻らなくちゃいけない。



ロイド達の事は鬱陶しくて登校拒否したくなるし、国王陛下の思惑も分からないし、納得出来なかったけど、この1週間考えてこれは絶好のチャンスだと閃いたんだ。


幼馴染みだからこそ、知っている。

幼い頃、学校に通う同い年位の子供を見て、酷く寂しそうにしていたアルを。

普通の同い年と同じ様に過ごしたいと思っているのに、色んな人に迷惑を掛けるとそれを誰にも言わずに我慢して諦めていたのも。


“アルに自由になってもらいたい。”


同情なんかじゃない。憤りだった。幼くても、聡明でなければならなかったアルを見て、可哀想だと、なんで小さな子供が我が儘1つ漏らさずに、こんな暗くて馬鹿らしい大人達の陰謀ばかりの世界しか知らないんだって。



辛いことも、悲しいことも、楽しいことも、嬉しいことも沢山あったけれど、自由だけがなかったアルに教えたかったんだ。

ずっとずっと昔、俺が何処にでもいるただの男子高校生だった頃に見た、一度きりの青春を。


だから、友達作りに躓いてもらっちゃ困る。


アルにも俺以外に親友がいるが、俺達じゃ駄目。


養子とはいえ俺は王家に次ぐ公爵家の三男であり、勇者一行の一人、第三王女の婚約者、更には第三王子近衛騎士等々大層な肩書きを幾つか持っている。

基本的に王城に居ない第三王子なので、第三王子近衛騎士団なんぞ必要なく、名乗っているのは俺だけなんだけど。



アル自身もだが、周りにいる親友達は15歳にしては重すぎる肩書き、責任を背負っている。


俺達は神童と呼ばれているが、実際は常識からかけ離れすぎている“異端”。

物心付く前から過酷な環境に居るから、それが当たり前だと信じきっている。


もしかしたら、狭い籠の中に囚われ続けている方が幸せかもしれない。

でも、折角手に入れた“自由”。


眺めて欲しい。

今までと違う見方でこの広い世界を。


体験して欲しい。

俺が嘗て過ごした下らない事ばかりの、輝いていた青春を。


俺の雰囲気が変わった事に訝しむアルを、真剣な眼差しで見据えた。


「アル」


大事な親友の幸せの為なら、俺は何だって協力するつもりだ。


「友達、作ろうか」




多分ここから、俺達の期限と制限付きの自由な学園生活が、下らなくて愛しい青春が、

幕を開けたんだ――。

閲覧ありがとうございます。

スペースの空け方が分からないガラケー、一文字目が詰まっています。

すみません……。

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