012 心配性の友人
生温い俺の返事に、フィリップはややつり気味の菫色の瞳に鋭い光を灯した。
「どうでも良い前置きはいい。本題に入るぞ」
何か用があるんだろうなぁと思っていたんだけど、貴族ってスッゴク長い前置きの後に本題言うから、本題までもうちょっと時間が掛かるかなぁと予想していたが外れた。
まあ、前置きが長くなればなるほど、無駄な時間を使うしな。
「単刀直入に聞くが……、ヨル、君は大丈夫なのか?」
「え?何が?寝不足のこと?一応栄養ドリンク飲んだけど、今日は早寝を心掛けるよ」
単刀直入どころか主語すらも省かれた問いの内容に、先程の会話の流れがまだ続いているのか?と思いつつ答えたが、フィリップに溜め息をつかれた。何故だ。
「噂だ。君は一体何をした?」
「噂?また何か起きたのか?」
「ヨル・イトウがルディアナ様から制裁を受けたんだと、そしてヨル・イトウに関わると就職先を無くすという話が広まっている」
「制裁って……」
ルディのあれは制裁……じゃなくて、ただの私刑といった感じだし、顔合わせる度にあんな風になるし。
全く、ルディも俺を連れ出すから、変なやつらにネタ提供しちゃってるじゃん。慌ててたんだろうけど。
まあ、2つ目はあながち間違いじゃないけどな。
“下手に”関わると就職先無くすよな。俺、有能だし、周りの大人達に結構可愛がられてるし。俺自身もそこそこ権利持ってるし。
昨日の朝に起きた出来事なのに、中々広がっているらしい。就職先が無くなるってのは、王女から敵視されてるって事を暗に伝えてるのかねぇ?俺をボッチにしようとしたいのか。
まだ入学して間もないというのに、面倒だなぁ。やだやだ、俺何もやってねぇのに。
げんなりしていると、フィリップが酷く伝えにくそうに言葉を詰まらせながら、俺に告げた。
「その……就職先に困ったら、僕の所に来れば良い。騎士位の職は与えられる」
……え?
「もしかして、俺を心配してくれてる?」
恐る恐る尋ねると、途端にフィリップはカァッと茹でたタコみたいに顔を真っ赤にした。
「べ、別に君は煩くてクラスでそこそこ目立ってて、視界に入るというだけで、ちょっと気にし……そんなに気にしていなかったが、妖精が君の事をいい人だって耳元で囁くから、確かにいい人そうだし話してみたいとか友達になってみたいとか別にそんなこと思ってないんだからな!」
ツンかデレかどっちかにしろよ。支離滅裂すぎるだろ。
「うん。つまり要約すると、俺を少し気にしてたけど妖精が俺の事いい人って言ってたから友達になりたい……って話でオーケ?」
「す、好きに捉えろ!」
プイッとそっぽを向いたフィリップに、俺はクスリと少し笑った。良い奴じゃんこいつ。
「何がおかしい!?」
「いやー、王女様から制裁とか言われてる俺と仲良くしたいとか、フィリップ物好きだなぁって思って」
「妖精は心が綺麗な人を好くからな。そして妖精は素直だ。嘘は付かない。その妖精が君の事をいい人だってわざわざ僕に囁いたんだ。気にならない方がおかしいだろう」
「なるほどねぇ」
妖精も精霊も心が綺麗で純粋な人を好む。妖精が力を付けたのが精霊だから、本質はほぼ変わらない。
俺って妖精と精霊どっちもから好かれるけど、別に心が綺麗かどうかって問われたら、否と即答出来る。
何で好かれてるのかさっぱり分からん。
妖精と精霊の外見差はないが、精霊になると実体をもてるようになり、妖精術師、精霊術師の才能がない人にも姿を見せる事が出来る。
でも妖精も精霊も気まぐれで、才能がなくても気に入った人間にべったりくっついたり、悪戯したりする。
そこまで思い出して、俺は顎を触った。
妖精が囁いた……ねぇ。
「フィリップは妖精術師なの?」
「いや、才能があると言われただけだ。それと学力で特待生になったんだ。他はそこそこだ」
トントンと指先でローブに付いている金の金具を示す。才能があるだけで、術の発動は出来ないのか……。
初めてフィリップを見た時、周りに妖精が飛んでいるのが見えた。だが、フィリップは見えていないようだったのだ。
だって、妖精はフィリップの目の前で変顔したり、手を振ったり、おしりペンペンしていたからな……。見えていたら確実に目障りだっただろう。
ほんの少しだけ、目を凝らしてジッとフィリップを見る。
うっすらと、掻き消えてしまいそうな赤色の靄がフィリップを取り巻いている。
「な、なんだ?」
フィリップの事がよっぽど気に入っているんだろう。妖精の中でも、中の中くらいの力しか無いが、少ない力でフィリップを守るように包む位だ。
だが、肝心の本体は何処にいる?
探ったが、微弱な妖精の力は感じない。でも中位の力を持つ妖精では離れたまま、力を使い続けるという芸当は出来ない筈だ。意思を持った力だけの実体を持たない妖精だと、下手したら消えてしまう。
魔力を探知する精度も、寝不足の影響で落ちてるしなぁ。
「おい!どうした!?」
フィリップに肩を掴まれて大きな声で呼ばれてから、我に返った。心配そうなフィリップと、疑問の表情を浮かべる子分達、アルは少し険しい顔をしている。
いけない、思考にのめり込んでしまった。
顎を触っていた手を離して、慌てて笑みを浮かべる。
「いやぁ、ちょっとびっくりしてさぁ!妖精が囁くなんてそれすげぇ事だよな――――っ!?そういうことか!」
フィリップが俺から手を離して身を引いた瞬間、魔力が2重にブレたのを感じて俺は声を上げた。
ビクリと反応したフィリップの胸の辺りからヒョコリと顔だけ覗かせた妖精は、キョトンと俺を見る。
「何だいきなり!?びっくりするじゃないか!」
「ごめんごめん。なるほど、居ないと思ったらそんなとこにいたのかぁ。ほら、おいで」
手のひらを差し出すと、フィリップの胸から抜け出して俺の指先に触れる。赤い短髪に赤い瞳、好奇心の強そうな感じの半ズボンにシャツらしきものを着た5歳位の男の子。
妖精なので力がまだ安定していないらしく、時折輪郭が揺らいでいた。
「うん、中級中位の火の妖精だな。フィリップに相当なついてて、ずっと一緒にいるみたい」
俺の指にじゃれてくる可愛らしい妖精に、思わず笑みがこぼれる。
精霊もだけど、みんな愛くるしい子供の姿をしてるからついつい遊んであげたくなるんだよなぁ。
「ヨル」
「ん?」
名を呼ばれて顔を上げると、何とも言えない微妙な表情をしているアルと、
「君は、見えるのか?」
目を見開いたフィリップがいた。
冷や水を浴びせられた様に頭が冷えていく。状況を思い出して、やっと冷静になった。
……あ、やっちゃった?
タイトル変更しました。
プロローグらしきものを第一部として割り込み投稿しております。
閲覧ありがとうございます。続きは明後日投稿します。




