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011 王子様の腕輪

「アル、ヤバい。俺もう駄目。落ちる、今日絶対寝落ちする」


ぐらんぐらんする頭を横に振って眠気を飛ばそうとしたが、逆に気持ちが悪くなって机に伏せる。

今日は早めに登校したので、教室内の人はまばらだ。


「夜番か……。今日は俺達が当番なんだが、ヨルを見てると明日がキツそうだな」

「いや、ちょっと調べる事があって徹夜した。あと、教師の職務怠慢についての報告書書いてた。少しでも仮眠を取れば良かったかなぁ」


身体の疲れを少しだけ癒す効果の治癒魔法があるが、気休めでしかない。寝不足は寝るのが一番である。寝なくても大丈夫だという便利なものは存在しない。


治癒魔法は病気と致命傷には効かない。怪我なら使い手次第で、酷くても元通りになる可能性はある。

だから、この世界の死亡原因は病気が主だ。治癒魔法が発達していなかった頃は、怪我が元で死ぬこともあったらしい。

最近は医学や魔術医学、創魔薬学が発達してきて若い者の死亡率自体が低くなっている。




革製の焦げ茶色の学校指定鞄から、レモン色の液体が入った小瓶を取り出す。蓋を開けて、一気に中身を飲み干した。


「それ眠気が覚める栄養ドリンクか?」

「うん。今話題だからって勧められて買ってみたんけど、甘いような、辛いような、酸っぱいような、苦いような味がする」

「不味そうだな……」

「いいや、意外とうめぇよ」


空いた小瓶に蓋をして、鞄に仕舞う。

「感想からして不味そうなんだがな……」と中性的で秀麗な面差しを歪めるアルは、左腕を机に立てて頬杖をついた。

その拍子に、ローブの袖から淡い金色が見える。


「アル」

「なんだ?」


キョトンと大きな瞳を瞬かせたアルの左腕を強引に掴む。そしてローブの袖を捲った。


「あ、ちょ、おい!」


慌てたように声を上げたアルに、俺はニンマリと笑って姿を見せた物を指さした。


「アルくぅん?これは一体なにかなぁ?」


キラキラと光を反射する紫色の石が付いた、淡い金色の腕輪をアルは大事そうに俺の目から隠す。


俺が見たら穢れるみたいな扱いされてないか?



「こ、これは別にそういうものでは」

「うん、そういう誤魔化しは要らないから」


腕輪自体はなんて事ない、装飾品のように見える魔導具だ。いや、多分相当高価なものなんだろうけど、問題はそこじゃない。



淡い金色と紫色、この2つが重要で、アルの好きな女の子、勇者一行の聖女様の髪と瞳の色なのだ。



カアァァと沸騰するように顔を真っ赤に染め上げたアルは、キョロキョロと落ち着かない様に目を泳がせる。

分かりやすい反応をしてしまった為、誤魔化しきれないと早々に悟ったアルは、深い溜め息をついた。


「国に帰ってきたら、1日予定を空けて、王都に遊びに行こうって旅の途中で約束してたんだ。遊びに行ったときにお互い買った」

「おい、俺が睡眠時間削って仕事してた間、お前はリア充してたのかよ……」

「ヨル、すまんな。あと忙しいのは分かるが、ちゃんとルディの相手もしてやってくれ。暇だからナイフ投げでもしようかと遊びに誘われたぞ」

「なにその過激な遊び」


ナイフ投げとか王女のやることじゃないだろ。


「んで、どっちが勝ったのさ?」

「引き分けだったな。昔からお互い無傷で勝負が着かないんだ。近衛騎士が3人軽傷だった」

「へぇ、引き分けかぁ……あれ?」


近衛騎士が怪我するってどういう事?お互い無傷って?


「……ナイフ投げって的に当てるやつだよな?」

「当たり前だ。的に当てて、怪我をさせないと意味がないだろう?」

「待て待て、怪我!?的って何!?」

「ルディに決まっているだろう?近衛騎士はうろちょろするから、流れ弾に当たって自爆した。魔導師に治してもらっていたぞ」


ガチでバイオレンスな遊びだった!!この双子って殺し合いする程仲悪いの!?

そして近衛騎士は絶対止めようとしただけだよな!?


暇があったら、ルディの王子様探しを手伝おう。そんなバイオレンスで傍迷惑な遊びの犠牲者を出すわけにはいかない。

ルディが素直に俺の誘いに乗るかは分からないが。



「ってか、フィリアとくっついてたら報告しろよな。俺達ずっと応援してたのにぃ」


ジェラールみたいに頬を膨らませて見せると、キモいと言われた。酷い……。


「フィリアとはそんな関係じゃない……まだ」

「は!?お互いの髪と瞳の色した腕輪交換したんだろ!?」

「あ、ああ……」

「向こうも付けてくれてんだよな?」

「まあ……な」


真っ赤な頬を誤魔化すようにかくアルは、チラリと同じクラスにいる聖女ことフィリアを見る。

客観的に見たら両想いにしか見えないってか、旅の途中でよくピンクの空気だしてたんだけどこいつら。何でまだくっつかないの。




不意に此方へ真っ直ぐ近付いてくる魔力が3つあって、俺は口をつぐんだ。


際どい会話をよくするが、話し声は小声で、辺りに内容を聞かれないようにするのが俺達の常識だ。

第二王子が開発した画期的で高性能な魔導具も使っているので、全く聞かれる心配はない。


「おい、ヨル……だったか?」


俺達の机に影が射す。声が降ってきたので見上げると、眉をぎゅっと寄せた菫色の髪の少年、フィリップが子分を従えて立っていた。


「おはよう」

「おぉ!おはよフィリップ!ねぇ、俺今日寝不足だから超テンション上がってる!」

「おはよう。ヨルの場合は何時もテンション高いイメージがあるけどな。寝不足って何してたんだ?」


元々テンション高い人間じゃないです。エリーたんと魔法陣を見る時以外は。


「ちょっと本読んでた!」

「全く……どうせ下らない漫画や雑誌だろう?子供は夜更かしするべきじゃない。ちゃんと寝たまえ」


子供が子供に何言ってんだという突っ込みは、胸の内に留めておいた。「はーい」と素直に返事をしながら、“たまえ”っていう台詞はフィリップがやるから様になるんだろうなぁと下らない事を考える。



あー、1日徹夜するんじゃなかった。眠くて眠くて仕方がない。昨日の夜中はジェラールの協力を得るために仕事を手伝ったしなぁ。

仕事中に18禁のBL本がジェラールの本棚から出てきて、問答無用でその場で焼却処分にしておいた。15歳の教育によろしくない。普通のエロ本だったら、コッソリ回収してただなんて言わない、ぜ、絶対に。教師と生徒のシチュエーションが良いとか、贅沢は言わない。



調べても出てこなかった魔法陣については、ジェラールも調べて欲しいと頼んでおいた。

魔法陣とフォルスフォード史について片っ端から書物を読み広げていって、最終的には6人が座れるテーブルを書物の山で埋め尽くしたが、何の収穫も得られなかった。

というか、あそこの書物の魔法陣関係の書はほぼ全て読破している。最近入ったものはまだ読んでないけど。



フォルスフォード王国立魔武術学園だから、フォルスフォード王城内にある図書館なら何か分かるかもしれない。禁書の閲覧は、アルを連れていけばなんとかなるだろう。アルが駄目なら第二王子に頼み込むつもりだ。あの人から大量に仕事を押し付けられそうだが、完全無欠の第二王子なら問題ないだろう。

長いので3話に分けています。

次回の更新は明後日です。それと同時にサブタイトル付ける予定です。タイトルもそれに応じて少し変えます。でもFreedomは変えません。


閲覧ありがとうございます。

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