000 はじまりの夜
なろうさん初投稿です。よろしくお願いします。
それは、もう半ば自棄になってきた時だった。
「……本当、どこだよ。ここ」
草むらの所々で、鈴を転がしたような澄んだ声音を響かせる虫と、仄かな7色に光る虫が飛ぶ夜だった。
小さな川が虫の光に照らされて、ぼんやりと姿を見せる。水面に映った月が揺らめいていて、俺は何気なく空を見上げた。
散らばった小さな輝きの中、夜空に浮かぶ青銀と赤金の美しい双子月――最初に見たとき、俺は絶望したんだ。
あの日から何日経ったか、10を過ぎたときから曖昧になってしまっていた。冷える夜は身にまとっている襤褸の布をかき集めて、身を縮こめる。日中温かいのが、まだ幸いだろう。
「……なんで、俺がこんな目に」
ポツリと漏れた心の声に、更に絶望が忍び寄ってきて俯いた。
言っても何も変わらない。
悪夢は一向に終わってくれない。
俯いた拍子に小川に自分の顔が映り込む。少年、いやまだ幼児とも呼べる幼い顔だった。
記憶にある自分の顔。だが、かなり幼くなっている。それだけじゃない。黒く薄汚れた手も小さくなっている。
何があったのか、全く分からない。
だが、自分が小さくなったという事だけこの数日で何とか理解した。
それと、嘗て過ごしていた世界ではないことも。
分からないのだ。俺がどうしてここにいるのか。
今まで生きてきた記憶の中の家族や友人の顔が、名前が虫食いのようにポッカリ穴が空いている。今まで過ごしてきた思い出が、点と点で存在していて結び付かない。
最後、あの世界でどう過ごしたのか、靄が掛かってしまっている。
異世界転移?転生?憑依?召喚?それともタイムスリップ?神隠し?
1番良いのは、夢なんだけど。
絶え間なく押し寄せてくる飢餓感に、これが現実だと諭されているようだ。
最初の方こそ草や木の実を食べて凌いでいたが、毒に当たって暫く苦しんだせいか軽くトラウマになってしまった。だが食べないと飢えるので、少しずつ食べている。
現代日本の食が懐かしいが、空腹だとどんな物でも食べられてしまうので、人間の味覚って凄いなと悟った。
だが、次毒に当たって生きている保証はない。
現代日本で生活を送ってきた俺に、サバイバルの能力なんてあるはずがない。
今まで上手く肉食獣らしきものから逃げ切ってきたが、明日はどうなるのか全く分からないのだ。
このまま死にたくない。
生きる目標なんて大層なものは、生憎持ち合わせちゃいないが、だからといって死にたくはない。
現状を打破する術は、持っていないが。
一陣の風が吹いて、俺の髪を揺らした。水辺に生えている草もさらさら、ざわざわと音をたてる。
「ああ、やっと見つけた!」
風が止むと共に聞こえた背後からの声に、肩がビクリと跳ねた。慌てて振り返って、俺は目を見開いた。
「名前、教えて?」
いきなり現れて可愛らしく首を傾げたその姿に、俺はもう一度絶望し、そして、一筋の希望を感じたんだ。
閲覧ありがとうございます。