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ブラックマジックマーケット  作者: きんしろこーり
1章:魔法に魅せられた少女達
5/14

3-1話,孤独な熟練者(上) : 美穂編

1話,空虚な日常の続きになります。


美穂side.



 今日は休日。

 本来なら母と買い物に行くか、家でくつろいでいるのどっちかが基本だが、珍しく私は今、一人で町を歩いていた。


 そして目の前には、私と同じか少し年下の少女が私を見て立っている。

「ルーキーはっけーん!よっし、私ついてる!」

 全体的に黄色いヒラヒラのドレスと、黄色い長い杖を持っている少女が立っていた。

「うん。よろしく」

 どうやら相手はすでに戦う準備が出来ているため、こっちも自分の武器を構えた。

「ふーん。随分と冷静ね。じゃあ遠慮なくいくわ!」

 相手が杖を振ると、石の塊のようなものがこっちに飛んでくる。

 私は急いでそれを避けて、反撃のためにカードを開いた......。



 私は二日前。謎のお店にいた仮面の店主から、謎のブレスレットをもらった。そして、そのブレスレットを使い、魔法少女になった......。


 そして私は今、すごく生きることに充実感を感じている。



 私のいる場所は、人通りの多いはずの街中。でもそこには誰一人いない。

 もしかしたら規約に書かれていた『魔法による戦闘は外部への干渉を防ぐために、結界を張らせていただきます』とあるように、魔法少女に変身すると、勝手に結界が張られて、魔法少女の人間しか会うことができないようになっているのだろう。


「うっ、なんで?......あんた、本当に初心者なの!?なんでこんなに強いの!?」

 なんとか勝つことはできた。


 最初に戦った進藤よりは強くないが、敵は経験も能力もこっちより上の相手。勝つのが難しいのは当たり前だった。

 それでも唯一の救いだったのは、魔法少女はレベルが上がっても、ゲームのように攻撃力や防御力などが上がる訳ではないということだ。

 進藤が言っていたように自分の使っている魔獣に敵の魔法少女を喰わせると、その魔法少女の力の半分を得ること。つまりその魔法少女の使っていた魔法カードを一部使えるようになるのだ。

 そしてもう一つ成長するのは、主力武器(メイン)の効果追加。

 例えば、いつも持っている剣が炎を纏ったり、斬った所が凍ったりするみたいな感じで成長していく。といった感じだ。

 ようはレベルが上がっても根本的な強さは変わらず。ただ技が増えただけ。

 だから最近魔法少女なったばかりの私でも、経験者に勝てることができるのだ。



「魔法の使い方を工夫したら、強い相手でも勝てるかも......」

 なんて少し得意げに言って、私は倒れている相手にカードを投げつける。

「イヤだ!もう食べられるのイヤなの!」

 そんな叫ぶ魔法少女を、地面から現れた私の黒い魔獣はお構い無く掴み取り、そのまま口の中へと入れて飲み込んだ。

 そしてその場からすぐに消えた。

 まるでいつも行っているように。機械的に......。



「今日はここまでにしよ......」

 私はそのまま変身を解くと、あまり運動していない、ダルさの残る体をゆっくり動かした。

 変身が解けると魔法の結界も解ける。

 そしてそれと同時に人の通りが急に多くなった。


 まだ外はお昼で、そろそろ夏の暑さが感じ始める季節だ。

 私はゆっくりと街中を歩き始めた。

 今まで人ごみが嫌いだった私だが、今は全く気にしない。

(おなかすいたな......)

 それどころか呑気にお腹も鳴りだした。

 なので近くのハンバーガーショップによった。


 店内はプライベート用の服を着た学生達がたくさんいた。

 たぶん今日は学校が休みだから、みんな休日を有意義に過ごしてるんだろう。

 私も美味しそうなセットメニューを頼んで、そのまま席に座った。

「あれ?もしかして秋田さん?」

 誰かに声をかけられ、振り向いた。

 そこには一昨日にカラオケに誘ってくれたクラスメートだ。

「偶然だね!今日は隣のクラスの子といっしょじゃないんだ」

 どうやら亜紀のことだろう。

「うん。今日はひとり」

「へぇーそうなんだー。ねえ、ここいいかな?」

「どうぞ」

 特に問題はないので、そのまま招いた。

「今日は何してたの?」

「うん?まあちょっと買い物......」

 と嘘をつく。まあ魔法少女をしてました。なんて言えるわけがないからね。

「そっかー、じゃあ私といっしょだー。ねえ、これからいっしょに行かない?良いところ見つけたんだー」

 相変わらずものすごいほど積極的だ。

 まあ受け身の私にとっては嬉しいけどね。


 それから私はその子と休日を満喫していた。

 久しぶりの同級生とプライベートを過ごすことがこんなにも楽しかったのか。と感じた。

 でも今になって思えば、あのときの私はあまり生き甲斐を感じず。ただダラダラと日常を過ごすのが嫌だったのかもしれない。

 だから誰とも心を開かずに、コミュニケーションを最低限に抑えていた。

 でも今なら思う。私はこんなどうでもいい日常に生かされてるのだと、魔法少女になって感じたのだった。



「またね!秋田さん!楽しかったよー」

 手を振ったままクラスメートの子は帰り道を歩いていった。

 私も軽く手を振ると、そのまま私も帰り道を辿る。


 道を歩いていると、ふと思い付いたように、腕に付いた黒いブレスレットをなぞる。

 すると、私の身につけていたプライベート用の服が全てはだけると、そのまま色気のある露出の多い、黒い衣装へと替わったのだった。

 そして魔法少女へとなった私は、そのまま駆け出した。

 誰もいない世界。誰にも邪魔をされず、私は全力で走った。

 魔法少女になると、どんなに走っても息切れすることはないし、超人以上の速さで走り、鳥にでもなれそうなほど高く跳べる。

 そんな人間という肉を解き放ち、心をときはなったような感覚に、私は幸せを感じた。

 もう私を邪魔するやつはいない......。

 なんて考えたとき、私は突然思い出したのだ。


(いる。唯一邪魔できる者が)


 その思いは私の頭の中にある危険信号なのかもしれない。

 そう。すぐ前にいるのだ、私と同じ魔法を使い、そして私の自由を邪魔できる相手が。


「随分楽しそうですわね」


 そこにいたのは、私よりも小柄で、幼さのある少女だ。衣装は全体的に緑色で、森の妖精を連想させる特徴の姿だ。

 私は相手を確認すると、その場で立ち止まる。

「お前も、魔法少女か......」

 私は思わず警戒して、剣を取り出した(正式には手から現れた)。

「切り替えが早くて助かりますわ。初心者はよく戦わずに話し合おうとする人が多いもので......」

 そう言いながら相手も武器を出した。

 薙刀(なぎなた)。というものだろうか、棒の先端に小さな刀を付けたような形の武器だ。

 だがそんなことより私には感じずにはいられない感情があった。

(こいつ......今までの相手とは全然レベルが違う)

 それは私のただの勘なのか、それとも魔法少女としての性質か......。

 いずれにしても相手にここまで『恐怖』を感じたのは初めてだった。

 しかし、その半面『悦び』も感じたのだった。


「それじゃあまずは小手調べ」

 相手は左手を前に出して横に動かす。

 そしてそこにカードが五枚ほど現れると、三枚のカードを取り出した。

「フィールドカード『ロックウォール』発動!三連続ですわ!」

 すると相手の周りに、三角形で囲むように石の壁が下から現れた。

(だいたい私が三人分くらいの高さかな。壁自体も壊せる自信がない)

 私はその壁を回り込んで、様子を見た。

(敵を狙うには上からしかできない。だけどそれは絶対に罠だ)

 私はとりあえずカードを開いて、考える。そして......。

(そっか。上が駄目なら下か)

 私はイクイップカードと呼ばれる種類の、『ロックウェーブ』と呼ばれるカードを手に取った。

 これも魔法の影響なのか、カードを手にした瞬間このカードの使い方を感じ取ることができた。

 そしてその感覚通りに私はカードを、持っている剣に近づける。するとカードは剣に吸い込まれるように消えた。

 私はカードを吸い込んだ剣を地面に付けると、そのまま払うように切り上げた。

 するとまるで大きな地震でもあったような地響きと共に、巨大な尖った岩が地面から次々現れて、それが壁に囲まれた者へと向かっていく。

 そして私の出した岩は三角形に囲んだ壁を壊しながら、敵のいた場所へ突き刺した。

 でもかなりのベテランならこれで終わるはずがない。だから私は構えた。どこから狙われても良いように。

 案の定、敵は石の壁が崩れた影響による砂煙に紛れて、私を狙ってきた。

 私は急いでカードを開こうとした。しかし、その瞬間既に私は罠に引っ掛かったことに気づいた。


 出てこない。私の手札のカードが......。


 とりあえず、私は薙刀を突き刺してくる相手を確認すると、急いで横に避ける。しかし、反応が遅れたため右肩をだいぶ斬られた。

 すると私が身に付けている、右手から腕くらいの長さはある黒い手袋(確かオペラグローブだったかな)は、燃やされて灰になったように消えた。

「貴女のような露出が多い衣装は、あまりダメージを感じませんわね」

 つまらそうに言い放つ。なんだか理不尽だ。

 だがそんなことよりも、カードを使えなくなったこと、これはかなり戦いに不利だ。

「罠を使いカードを防ぐことも一つの手だと教えてあげますわ、ルーキーさん......」

 相手の言葉を聞きつつ、私は自分の負っているダメージを、切られた腕を動かしながら確認する。

(たぶんこの戦いが本物の戦いなら、右腕を無くしていたかもね)

 なんて考えながらため息をつくと、構え直した。 (さっきの言い方から、たぶん相手はこっちが見えていない間に、カードを使ったのだろう。恐らくそれはカードが使えなくなる罠のカード。さらに相手の武器が放っている光の正体......。

さっきのダメージを考えると、攻撃力を底上げするカードを使ったのだろうか。ならばまともにやり合って勝ち目はない)

 私はそう思うと、おもいっきり横に跳んだ。そしてできる限り相手から距離を離す。

「逃げるつもりですの?そんな簡単に逃がすつもりはありませんわ!」

 そう言って相手も距離を詰める。

「逃げるつもりはないよ。私も小手調べ」

 私はそう言いながら、持っている黒い剣を向かってくる相手に投げつけた。

「くっ!」

 驚きながらも相手は体勢を崩してガードに徹した。

 もちろん私の投げた剣は弾かれた。でもこれはただの『(おとり)』。

 私は右手を広げて、剣を握り直すイメージをする。すると投げた剣は再び自分の右手に戻った。

 そして二本目も投げる。

 さすがにこれは想像もつかなかったのだろう。相手は既に攻撃体勢に入っていたせいか、防ぐことはできない。

 そして無防備な胸へと刺さろうとした。しかし、咄嗟の判断で体を横にねじ曲げて避ける。

 そして剣は服をかすった。わずかだがダメージもある。

 私はさらにたたみかけるように。近づき再び剣を手に出現させて斬りかかる。すると私の剣は相手の胸を綺麗に切り裂いた。

「うっ!」

 切った相手はうめき声を一瞬漏らすと、すぐに後ろに退いた。残念ながらダメージは浅かったようだ。

「ふぅ......はぁ。や、やりますわね......」

 ダメージを負った胸をおさえながら、荒々しい息を吐くように言う。

「私も必死だから」

 そう。勝たなければ恐怖の補食の刑にされる。そして相手はかなりの手練れ。これで必死にならない訳がない。


「ふふっ。良いですわね......貴女」

 まるで変身したばっかりの私の表情に似た笑いを、この緑の魔法少女は浮かべた。

「わたくしは『鬼灯夢乃葉(ほおずきゆのは)』。貴女の名前を聞かせてくれませんか?」

「秋田美穂だ」

 私も思わず笑ってしまった。

「ふふっ。よろしくお願いいたしますわ、美穂さん......そして勝たせていただきます!」

 そう言って夢乃葉は向かってきた。

 私は剣を構えながら、もう一度カードを開くか試してみる。しかしまだ開かない......。

 それに反して夢乃葉はカードを開いて何か仕掛けてくる。

 さっきの使い方からして、かなり巧妙な使い方をするかもしれない。

 夢乃葉がカードを薙刀にかざすと、カードは薙刀に吸い込まれた。

「カードを使えないからと言って、手は抜きませんわ!」

 薙刀を振ると、私の方にいくつもの木の弦のようなものが向かってくる。

 私は防ぐことはできないと理解して、すぐに避けた。

 幸い弦は一つの束になって向かって来るため、簡単に避けることができた。しかし、ここで終わらないのがベテランだ。

 私が避けている間に次のカードを用意している。

「さて、これでどうかしら?」

 夢乃葉の持っているカードが消えると、突然足が動かなくなった。

 よく見ると私の足元に、さっき夢乃葉が飛ばしてきた弦と同じものが地面から生えて、両足に巻き付いていた。

「くっ!」

 上半身は動かせるが、カードを使えない私にとっては充分な拘束だ。

 もしもまた弦の塊を撃たれたら。いや、より強いカードを出されれば、私の負けは確実だ。

「ふふっ。安心しても構わないわ。貴女は油断できない注意人物ですもの。いまある最高の力を見せてあげますわ!」

 そう言いながら一枚のカードを手に持って、そのまま自分の武器に付ける。すると、薙刀はまた光り始める。

 その間に、私の足に巻き付いている弦は、徐々に上半身へと上ってくる。どうやらゆっくりと全身を拘束していくようだ。普通の子なら恐怖を感じて必死で抵抗するだろう。

 もちろん私も、持っている剣を弦に突き刺したりして抵抗しているが、全く切れる気がしない。

 そして等々胸辺りまで弦がやってきた。

 私はあえて抵抗をやめて、身を任せた。

 私は弦が自分の顔まで来る一瞬の間に、相手を見た。

 夢乃葉は私を斬る気満々だ。たぶん、この弦ごと私を真っ二つに。果物を包丁で切るように斬るのかもしれない。

 でも、不思議と怖くなかった。

 こんな強い奴にやられるのはある意味良い経験だと思うからだ。

 私は、もうなにも見えない目を閉じて、斬られる覚悟を決めた。


 しばらくして、目の前に光が現れた。

 そして、私の身体全体に一瞬の痛みを感じた。でもそれに増す快感のようなものも感じた。

 どうやら私の想像していたどおりに、夢乃葉はぶった斬ってくれたようだ。

(これが負けることか......なんだか悔しいけど。なかなか良いものだ)

 そんな気持ちを抱いていると、私は突然なにかの希望が見えた気がした。

 なぜだかわからない......。

 でも、今見ている全てがスローモーションに見える。

 その状態で左手を動かす。前に出して、そのまま左へと。

 するとさっきまで出てくれなかった、私のもう一つの力。カード達が出てきた。

(全く......来るのが遅すぎるよ)

 まるで恋人が約束より遅れてやって来たような、そんな怒り半分、嬉しさ半分の気持ちになった。

「さあ、反撃の時間だ」

 私は一枚のカードを取り出して、地面に投げつけた。

「フィールドカード......『ゴートゥー、ヘル』......」

 カードは禍々しい黒色の炎に包まれると、その炎が突然弾けて、黒いドーム状の網みたいなものが広がっていった。



 私たちはそのドームの中に入ったかのように、周りの風景が変わった。

「な!なんですの!?ここ......」

 まるで地獄をそのまま表現したように、木などの植物は全て枯れ。空は夜よりも黒かった。

「闇の世界。この中だと闇の魔法少女と闇のカードは強くなる」

「さらに、回復もいたしますの?」

 私が説明していると、突然の夢乃葉の指摘に思わず動揺してしまった。

でも、私の格好がさっきまで裸同然なほど破れていた所が、治っていた。それを見て判断したのだとわかった。

「うん。これでなんとか命拾いした」

 私は剣を構え直す。

「ふふ、随分な自信ね。今度は完全な敗北を見せてあげますわ」

 夢乃葉も構える。

 私は、少し呼吸を整えて相手に対する敵意を集中させる。

 なんだか自分の手に力を感じた。

「か、カード無しで!?」

 夢乃葉の台詞に疑問を感じたが、よくみると私の剣が黒い炎を纏っていた。

(そうか、これがカードの本当の力)

 私は剣をしっかり握ると。そのまま頭の上に持ち上げる。

「私の力。受けてみて......」

 私は黒い炎を纏った剣を、おもいっきり振った。

 するとその炎は、その場を焼き尽くすように燃え上がり。夢乃葉を包み込んだ。

 見た感じだと絶対に助かるわけがない。私の勝ちだと思った。


 でも、あまり腑に落ちず。私はその瞬間を、ただ呆然と見ていた......。



久々の更新なので、ストーリー構成が崩れないか気をつけて書きました......。

読んでくれるかた。今後もお願いいたします!

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