2-1話,正義への憧れ(上) : 亜紀編
次は、もう一人の主人公。亜紀のお話になります。
こういう感じで、二つのストーリーを並行に進めようと考えてます。
亜紀side.
子供の頃。私は魔法少女ミリアという、アニメを見ていた。
主人公のみりあが、自分とは無関係な人を、悪い人達から助ける。そんな何処でもある魔法少女のアニメにハマり。そして主人公のみりあに憧れていたのだ。
そして今、高校生になった私は、時々そんな魔法少女のような正義の味方になってみたいと考えていたりする。
もちろん、魔法少女になりたい訳じゃないけど。ただ、困っている人を助けることが出来る。そんなことが出来たらどれだけカッコいいんだろう……なんてよく考えるのだ。
私は『神野亜紀』。
現在私は、幸せの真っ只中である。なぜなら……。
「うへへ……そんな、うさぎさん……私はそんなんじゃ……ありませんよ……」
私は只今、夢の中で不思議な国のアリス中であるからだ。
だけどそれは一つの鐘で、現実へと戻されるのであった。
部屋中に時計のアラーム音が響き渡る。
「ほぇ!? な、なに? うさぎさん?……」
そこはいつも見たことのある部屋である。
「………」
只今、現実への意識覚醒モード起動中……。
(おやすみ……)
起動失敗……。
再び夢へ意識転移……。
「亜紀ちゃん、ご飯だよ」
だが、おばあちゃんの強制起動によって現実の私は目覚めた。
「うーん……おはよう……」
私は目覚めるとそのまま居間へと向かった。
そこには、既に朝食の準備を終えたおばあちゃんがいた。
「おはよう。亜紀ちゃんは高校生になってもう二年目なのに、おねぼすけさんね」
(うっ! おばあちゃんに言われると……なんか頭上がらない……)
「いっ、いーじゃん! 寝る子は育つだよ!」
「はいはい」
朝の始まりはいつもこんな調子だ。でも、こんな生活は私は好きだ。
「あ、美味しそう! いただきまーす!」
私は食卓に並べられた朝食を見て、素直に喜びながら頬張る。
食事を終えると、部屋に戻って、寝癖のある髪は特殊のウォータースプレーで早技直し。髪をお気に入りのゴムバンドで二つ結び、制服へ着替える。その時間、五分! うん!いける!
そして鞄を持ち、そのまま登校する為に自宅を後にする。
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
私とおばあちゃんは挨拶を交わすと、そのまま私は学校へと向かう。
私の家族は、おばあちゃん一人だけだ。
両親は私が子供の頃に、私をおばあちゃんに預けたまま何処かへと居なくなった。
今は何をしているか。そんなことは一切わからない。
おじいちゃんも、最近病気で亡くなって、今では二人っきりで過ごしている。
それでも私は寂しいとは感じない。
私はおばあちゃんと居るだけでも幸せだからだ。
「あっ、美穂だ」
登校中。私の前方に、一番の友達の『秋田美穂』がいる。
(相変わらず元気なさそうだな。よし! 私が元気を注入してやろう)
私はそのまま美穂の方へ走りだす。そして……。
「おはよう! 美穂!」
美穂の背中に気合の張り手をお見舞いする。
(よし! これで元気注入ぅ……っ!?)
美穂が振り向くと、通常よりも怒った表情で睨みつけてくる。
(やばっ! 怒らせちゃった?)
「……ったくお前はよく朝から元気だな……」
その口調で、怒っていないことに気づく。
どうやら、今日は眠気が美穂の表情を濁らしているのだろう。そうとわかれば……。
「美穂が相変わらず元気無いから、気合いを入れたんだよ! ほら、元気よく行こう!」
とりあえず言い返してみた。
まあ、この程度では美穂は怒るわけはないけど、美穂はとにかく愛想良くない。
まるで何もかもつまらないと言っているように、あまり笑わない。
でも、そんなあまり笑わないからこそ、時々見せる笑みが凄く可愛らしいのだ。
「さあさあ、今日もお勉強だ!」
私は自分への気合と、美穂への応援の気持ちを込めて言う。
「本当にお前、勉強する気あるのか?」
美穂はそう呟いたが、私の耳には不都合な言葉は受け流す機能が着いているため、聞こえなかった。
そして私は今日もここ、鳥九第二高校で相変わらずな学校生活を迎えるはずだった。しかし……。
「神野。このままじゃあお前、また二年生だぞ」
私は現在、担任の教師から絶望的な宣告を受けた。
そう、私は非常に成績が悪い。
いや、非常とまではいかないが、少なくとも教師が失望する程に悪いのは確かである。
「ま、待ってください先生! どうか慈悲を!」
私が手を合わせ、頭を下げる。
「まあ、助けてあげなくは無いが……」
先生は頭を人差し指で掻き始める。どうやら考えている様子らしい。
「とりあえず、個人補習でなんとか単位を稼いでみるか……」
私はふと、『個人補習』という言葉に反応する。
そして先生との二人きりの授業風景(?)を思い浮かぶ。
「こ、こじん……ほしゅ……」
「ああ、あまり変な妄想すんなよ……俺、女子高生は対象外だから……」
「なっ!?」
先生の言葉に赤らめる。
だってしょうがないじゃん! 思春期を迎えたばかりだもん! そんな妄想なんてするに決まってるじゃん! なんて自己暗示し始める。と言うかなんだよ、対象外って!!
「顔、膨らんでるぞ」
その先生の一言に私は怒りを覚える。
「わかりましたよ!! 放課後ですよね! 残りますよ!!」
私は怒りを露わにしながら職員室から出て行く。
「全く。先生って、なんで見た目は良いのに、あんなに性格悪いの!」
と、一人で愚痴をこぼしている訳だが、正直言うと、うちの担任は教師の中ではかなり生徒から信頼深い。
今回も、私みたいな落ちこぼれを補習と言う形で助けてくれる。本当は良い先生だ。でも……。
「ああもう! なんかムカつくっ!」
私はそういいながら、自販機のイチゴミルクを買う。
そして、イチゴミルクを自販機の取り出し口から取り出し、そのままお釣りも取り出す。
「あっ……」
しかし、一つの百円玉が手から零れだした。そしてそのまま地面を転がり出す。
すると百円玉はイチゴミルクを買った自販機の下にそのまま入り込んだ。
「うそっ! なんでわざわざ百円玉が落ちちゃうの!」
さらに怒りを覚えながら、潜り込んだ百円玉を探り出す。
「もう! 何処にあるの!」
必死で自販機の下に手を入れて探っている姿は、プライド的に他人には見せられないものだが、幸いこの時は人が通らなかった。と、思う。
そして……。
「あれ?」
百円玉とは違う、何かの感触が手に当たり、そのままその何かを手に取り、自販機の下から外に出す。
「誰かの落し物かな?」
それは、白くて透明に輝く真珠のブレスレットである。
「綺麗……」
私は思わず見惚れている。
「亜紀ぃー!」
急に背中に衝撃が走った(感覚では。今朝、美穂に私がやったような張り手だと思う)。
「うぇ!! な、なに!?」
思わず後ろを振り向く。
その衝撃を与えた犯人が声を掛けてくる。
「おす! 久しぶり!」
髪を後ろに束ね、前髪や横の髪などを掻き分け、動きやすさにこだわった髪型。
そして、特に手を施されていない制服。そのスカートから覗く筋肉質な、だけど女子らしさのある綺麗に整った足。
私はその人物がすぐにわかった。
『天海暁美』。私の同級生で小学校からの幼馴染。
そして今は、ソフトボール部のエースで、一年から既にレギュラー入りという程、優秀なスポーツ少女である。
クラスも別で、放課後は部活三昧な為、暁美とは一ヶ月振りの再開である。
だけど私達には関係なく、いつも通りの喋り方で会話を始める。
「どうだった? 蔵ちゃんの指導タイムは?」
蔵ちゃんとは、内の担任の蔵元先生の事である。
「うーん、補習だってさ……だから今日は居残り」
私は不機嫌な口調で応える。
「そうか、頑張りなよ! なんなら今日は久々に一緒に帰ろうか?」
「うん……そうだね。久しぶりに今日一緒に帰ろうか」
私のそんな不機嫌な態度も、暁美は気にせず、笑顔でそのまま校舎へと歩いて行く。
「うん! じゃあ後で!」
そして、手を振りながら校舎の中へと消えて行く。
私もまだ昼食時間に弁当を食べていない事に気づき、そのまま自分の教室へと走って行く。
ちなみに私の友達の暁美は、高校一年の後半頃。腕を壊し、ピッチャーのマウンドに立てなかった時があった。 その頃の暁美は本当に悲しそうだった……。
でも、二年に上がった頃。奇跡的に腕が治り、また再びピッチャーマウンドに立つことが出来た。それ以降、今までよりも暁美は凄く明るい子になった。
急に腕が治った事は本当に不思議だが、それでも暁美が喜んでいるなら、友達として私はとても嬉しい。
まあ、それは置いといて。
「久しぶりだけど……何か複雑……」
一緒に帰る予定の暁美は、好きな事をする為に学校の放課後を過ごすのだが、私は好きじゃない、むしろ嫌いな勉強の為に放課後を過ごすのだから、素直に喜べない……。
そんな憂鬱な学校生活は流れるように過ぎ、放課後を向かえる。
いや、正直言って放課後の出来事も特に面白い事もなく、生徒と教師との秘密の大人の授業みたいな展開は全く起きず、いつも通りの授業を一人でやらされただけだった為、放課後の補習タイムも省略させていただきます……。
ただこれだけは言っておく……正直今の先生だったらそう言う展開もありだろうなんて別に考えてないんだからね!
と、そんなこんなで補習は終わり。
「ふぅーー! やっと終わったー!」
私は座ったまま、教壇から一番近い席でそのまま背伸びをした。
「今日やったとこ、補習テストで出るからしっかり覚えておけよ」
「はーい……」
一対一の授業であった為、結構頭に入ったが、普段から頭を動かしていない分、かなり辛い。
だが、そんな苦痛の時間を終え。私は今から
幼馴染の友達と有意義な下校時間だ。
「先生ー! さよならーー!」
私はそのまま教室から飛び出していった。
「よし! 補習終了! 暁美はどうしてるかな……」
今日、共に下校する予定の暁美を、校内を歩き回りながら探し出す。
が、なかなか見つからない為、メールで呼び出すことにする。
カバンのポケットから、手のひらに収まる大きさの長方形の薄い機械を取り出すと、その機械の右側面のボタンを人差し指で押す。
すると、ホログラムのように、機械の広い面上に、立体で並ぶメニューのようなものが現れる。
「暁美は、と……あれ? メール届いている?」
次は左手の人差し指でそのホログラムを触りながら操作し始める。
ちなみにこの機械は、現代のケータイである。
世間では『スペースフォン』とも呼ばれ、前に流行っていたスマートフォンを、より未来の技術で進化させた、近未来型のケータイであったのだが、今となっては、当たり前の通信機器である。
そういえば、これを作り出したのは『マジックワーク』だったかな……まあ、詳しくは専門家の人に聞いちゃいなさい。
私はそのまま送られてきたメッセージを確認する。
『ゴメン! 今日先輩と約束していたのすっかり忘れてた!! 今度一緒に帰る時、スイーツを奢るから許してm(_ _)m』
というメッセージである。
(まあ、こういう時もあるよね……)
私は少しだけ寂しさを覚えながら、学校から出て行く。
「はあ……なんと言うか……今日は散々だったな……」
私は溜息をつきながら、夕日で朱く染まった、川原の近くを歩いていた。
そのまま歩いていると、ふとあることを思い出し、制服のスカートのポケットに手を入れる。
「あ、あった!」
手を出して広げると、そこには今日の昼食時間に拾ったブレスレットがあった。
「まあ、こんな綺麗なものを見つけたから、結果オーライかな……」
そのブレスレットに繋がっている、白く輝いた真珠は、夕日の明かりで上品に輝き出す。
私はその美しさに見惚れながら、そのままそれを右手の手首の方へ通す。
「なんか、大人になった感じ……」
先程の寂しさが、少し晴れ。その白く輝く腕輪を眺めながら、歩き出す。
そして、その白き真珠を左手の指で撫で始めたすると……。
「えっ!?……」
その白き真珠は、さらに輝きを増し。それどころかまるで、その真珠自体が太陽を直視するくらいの明かりを放つほどの眩しさを放った。
「わっ! なにっ!?」
思わず目を瞑り。その眩しさから目を守る。
その間、私の頭には混乱の渦が巻いていた。
それからしばらくして光は収まり、普通の真珠の連なったブレスレットへと戻った。
「な……なんだったんだろう……あの光……」
不思議に感じてはいたが、特に変わった事はない為、そのまま帰り道を歩いていく。
(それにしても、身体が軽いなあ。 まるで何も着飾っていない、自分みたいだ……なんちゃって……)
そう思いながら軽やかにステップを踏み、先程よりペースを上げながら歩く。
この時の私は、自分の状況が全くわかっていなかった……。
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