1-2話,空虚な日常(下) : 美穂編
1-1話,空虚な日常(上)の続きです。
どうぞ......。
つばさside.
「みぃーつけた!、新人ちゃんだー」
魔法少女の戦いは私にとって裕福なひと時。
私に敗北した子はみんな泣き叫びながら許しをこう。それを見ただけでたまらない。
三ヶ月前に水色の魔法少女になった私。
最初鏡を見た時に、漫画に出てきそうな妖精の姿をした私。
そして……私に挑んできた他の魔法少女を虐めて喜ぶ私。
その全てが夢のようだった。
そして、今私は……今さっき契約したばかりの魔法少女を狙おうと考えているところ。
いや、どうやって襲うか、考えている所である……。
足に力を込めると、そのまま立っていたコンクリートを蹴って飛び上がった。
「あのお家ね。おじゃましまーす!」
目線の先にいる黒い魔法少女。鏡を見て自分の姿に見とれている。明らかに契約したての魔法少女である。
それを確認して、その魔法少女のいる部屋にそのまま窓を蹴って中へと侵入した。
「っ!?」
黒い魔法少女は明らかに驚いた様子でこちらを見ていた。
「いきなりでごめんなさーい! でも、契約した瞬間から戦いは始まってるんだから、許してね!」
自分の魔法は水。魔法少女は服装の色で属性が決まる。
この子の服は黒メインだから属性は闇。
闇はレベルが上がるとかなりの厄介な相手になる。その前に早めに撃つ。
(なんて、他の魔法少女は考えるけど、別に私は関係ないんだよね)
私はただ新人をおもいっきり虐めたいだけ。相手は力が闇らしいけど、私は心が闇。なんて面白いことを考えてみたり。
「あ、自己紹介はまだだよね? 私は『新藤つばさ(しんどうつばさ)』。さあ、貴方の名前を聞かせて?」
恐怖からなのか、しばらくこの子は黙っていたけど、数秒がたって口を開いた。
「秋田美穂……」
「そうか! 美穂ちゃんかー! よろしくねー! そして、あそぼー!」
レイピアと呼ばれる突きに特化した剣。水色に輝くレイピアを美穂に向かって突く。
しかし、不意打ちにも関わらず美穂はその突きをかわした。
そして、そのレイピアは美穂の部屋にあるクローゼットを突き刺し、抜けなくなる。
(ああもう! めんどくさい!)
自分の武器は自由に出したり消したりが可能な為、一度自分の武器を消すと、再び手のひらに出現させる。
そんな行為に少し苛立ちを覚えるが、再び喜びが生まれる。
「ふふっ、そうだよね、こんな早く勝負が決まっちゃったら面白くないもんね」
すると美穂は部屋から出る扉へと走って飛び出した。
「あれ? 戦わないの? だったら鬼ごっこでもしようかな」
(ゆっくり追い詰めてから、虐めてあげる)
そう思いながら、私はゆっくりと歩き始める……。
そのまま私は家の中を散策し始める。
「ここが美穂ちゃんのお家かー」
どこにでもある普通の家庭だ。
「まあ、こんな普通の子が一番イジメがいがあるんだよねー」
次々部屋を見て回る。
「あ、美穂ちゃん、お風呂に入る前だったのかな? 綺麗になる前に汚してあげるなら問題ないよね」
自分でも理不尽と思えるような一言を呟くと、そのまま風呂場から出て行く。
それから数分……。
「なんかーそろそろ焦れったくなっちゃったなー」
私は左手を前にかざす(詳しくはやや右手前側)。そして何かを引っ張り出すようにそのまま左へと動かす。
「これ、使っちゃおう」
目の前に現れた五枚のカード。そこには様々な魔法が書かれていた。
そのうちの一枚を手に取る。
「イクイップカード、『エネミーコンパス』発動ー」
そのカードは突然消え、そこには球体のガラスが現れる。
「美穂ちゃんはどこかなー?」
そのガラス玉の中には、方位磁石の針のように赤と白の針が向きを変えながら動いている。
そして、ある一点を指して止まった……。
「あれ? 外に行っちゃったのかー、まあ初心者にしてはいい判断だよね」
その一点である玄関に、私はそのまま向かって歩き出す。
そのまま歩きながら再び、五枚のカードから一枚を手に取った。
「でも、外に出ようが私には関係ないけどね」
私は玄関の扉を開いて外に出ると、手に持っているカードを住宅街の路上の中央辺りに投げる。
「フィールドカード、『ラフティンググライド』発動!」
突然、地震が起こる。そして今見ている右方向から響く音が次第に大きくなりつつ聞こえてくる。
「あ、来たきた……美穂ちゃーん! おかえりー!」
その音の正体は、まるで街を呑み込む海のような大量の水である。
「げほっ!げほっ!」
美穂は流れ着くと。その水を飲み込んでしまったのか、むせ返る。
「あれ? 苦しかった? でも、こんなもんじゃないよ」
再びカードを取り出す。
「ハンディカード。『ウォーターバインド』美穂ちゃんに発動ー!」
さっきまで流れてきた水が、次々と美穂の所に集まると、まるでその水が蛇のようにうごめき出し、その水の蛇が美穂の身体を縛っていく。
そして、完全に身動きを封じられた。
「どう? 冷たくて気持ちいいでしょ? でも、今度は気持ちいいでは済ませないよ」
私はレイピアを美穂の左胸にあてる。
「さて、これから拷問しちゃいまーす! でも、安心して、魔法少女は変身している間は肉体的な痛みは柔らげるらしいよ。でも、私がやるのはそういうもんじゃない……」
レイピアを使い、美穂の魔装を胸元から下まで一気に切り裂く。
「拷問は拷問でも、性的な意味だよ。こうやって辱められながら許しをこう。そんな姿を私に見せてくれないかな?」
それを言い終えると、自分が油断していたことに直ぐに気づいた。でもすでに遅かった。
すでに美穂はカードを開いており、そのカードを、身動きの取れない手の代わりに、口を使ってカードを咥えると、そのまま私の顔に投げつける。
「なっ! なに!?」
水に濡れた地面に、カードが落ちる。そして、そのカードからは、まるでブラックホールが出来たように、暗闇が広がり、美穂を縛っていた水の蛇が吸い込まれていく。
「フィールドカード……『闇の清掃者』……」
目の前の少女を見ると、私はこの黒い魔法少女を、見くびっていた事に気づく。
そして、反撃されないよう、美穂から距離を置く。
「へえー、面白いねー。口でカードを使うなんて私も考えていなかったなー」
私は閉まっていたカードを再び開く。
「じゃあいいものを見せてあげる。実は私ね、今までで五人の魔法少女を食べたの」
「食べた?」
初めて黒い少女は私の話に食いついた。
「そう! 魔法少女の戦いには勝者が敗者を好きに出来る権利があるんだけど、でもその中には捕食と呼ばれるのがあってね、負けた魔法少女を自分の魔獣に食べさせることが出来るの」
大体この話を聞いた子は、衝撃を走るものだが、その時、目の前の少女は平然を装っていた。
「そしてその食べた魔法少女の力を半分得る事が出来る」
私は一枚のカードを取り出す。
「これは貴方と同じ闇属性の子からとったカードよ、まだ使った事がないんで、貴方で実験しちゃいまーす!」
すると、カードを前にかざす。
「ハンディカード『ブラックアウト』美穂ちゃんに発動ー!」
すると、美穂の様子に突然違和感を感じる。
まるで別の世界に来たような挙動不審な感じにも似ていた。
「ふふっ! このカードはね、相手の視界を奪う。つまり目が見えなくなっちゃうんだよ。だから私が何処にいるかわからないよね!」
自分の中には、目の前のオモチャをどうやって壊すか考える事に喜びを感じていた。
「さて、これで最後のカード!」
カードを再び一枚取り出し、目の前にかざす。
「イクイップカード。『フロストチェンソー』発動ー!」
突然、レイピアが冷たい光に輝き始める。
「こんなエグいのが出てきちゃうなんて、美穂ちゃんついてなーい!」
目が見えず、恐怖に動けなくなっている少女に、ゆっくりと近づく。
「教えてあげる。このカード、魔法はね。相手の魔力を削っていくの。どういう事かな?」
すると、妖美に輝いたレイピアを美穂の腹部に突き刺す。
「魔力を削るとはこういうことよ。どう? まるで自分の中の何かが少しずつ消えていく。自分が自分じゃなくなっていく感覚……。痛みがあまり感じさせない魔装でも、これを喰らった女の子は悲鳴をあげちゃうんだよね! 」
私は思いっきり笑った。もちろん楽しいからに決まっている。この為に魔法少女をやっていると言ってもいい。
私は好きなのだ。人が苦しむ姿を見る事が……。
「美穂ちゃーん。早く叫んでよ、私に泣き声をきかせ……」
だが、この少女には泣き顏も苦渋の表情も存在しなかった。
「みつけた……」
少女の顔に浮かんだのは、まるで冷たく。だけど何処か無邪気の感じる笑顔だった。
そして……。
「っ!?………」
私のお腹に何かが刺さった。
それが何か理解するのに時間が掛かった。
(なんで……なんで……)
ずっと疑問しか生まれない。ただ、わかったことが二つあった。
一つは、黒い少女の黒い刀が自分のお腹に刺さって、自分は今多大なダメージを負っていること。あと一つは……。
(この子は、普通の女の子じゃない……)
私は、久々に恐怖を味わった。そして、本当の後悔を感じた。
思わず後ろに飛ぼうとしても、黒い少女の剣がまるで逃がさまいように、突き上げて逃げ場を奪う。
「なんで! なんで!……あんた、そんな正気でいるの!?」
今まで普通の暮らしをしていた人間が魔法の刃を喰らって、それでも平然としているどころか、逆に笑っている。それ自体が私には可笑しいとしか感じなかった。
そして黒い少女は空いている左手でカードを広げる。そして一つのカードを取り出す。
「イクイップカード。『制裁の処刑斧
せいさいのしょけいふ
』……発動」
それは死刑の宣告に等しかった。
自分に突き刺さった黒い剣は、突然幅が大きくなり、巨大な、そして歪な模様の斧へと姿を変えた。
「これが……魔法……少女……」
黒い少女は小さく呟き、笑いながら斧を横へ振り抜いた。
「あっ……」
私は力無く倒れた……。
美穂side,
「はぁ……はぁ……」
私の中には、快感しか無かった……。
さっき刺されたお腹。そしてそれを削っていく魔法の氷。
そんな感覚も、今では快感にしか感じなかった。
(なんで……こんなに気持ちいいんだろう……さっき、苦しかったのに……)
だが、同時に戸惑いも感じていた。
ふと我に帰り、目の前の、突然襲ってきた少女に目が入る。
「魔法って……別に人を殺すものじゃないんだね……」
それは、目の前の少女が、まだ上半身と下半身が繋がっている事を確認した時に感じたのだ。
(別に人を殺したい訳じゃない……でも……)
また再び、戦闘が終わった時の快感を感じた。
(楽しい!)
自分でも気づいた。この時自分自身は笑っていたことに……。
ふと、突然目の前にカードが二枚現れた。
「えっ……なにこれ?」
それぞれのカードには、『捕食』と『奴隷』と書かれたカードの二枚だ。
私は一枚目の『捕食』カードを取り出そうとしたとき……。
「お願いします! なんでも言う事を聞きます! 奴隷にもちろんなります! だから……食べないで!」
目の前で倒れていた少女が、動けないのか、這いつくばりながら懇願しはじめる。
「捕食だけは! お願いですから! やめてください!」
力の入らない身体を無理やり起こそうとするも、動かず。仕方なく顔だけをこっちに向けるが。その表情には、人を虐めることに喜びを感じていた人間は消え、ただの哀れな少女になっていた。
私は疑問に感じた。
こういったタイプの人間は本来、人の下につく事は絶対に好まないものだ。
それがここまで奴隷になりたがる事に疑問を覚えた……。
「それは無理……。捕食しなければ、力が強くならない。だから私は、お前を食べる……」
そして、『捕食』のカードを取り出すと、そのまま投げつける。
その瞬間、少女の顔は絶望に染まった。
「ごめん、まだこの戦いについては知らないことが多いから、実験台になってもらう」
そして投げたカードが地面に着くと、巨大な影が現れた。そして、その影の中から巨大な黒い手が現れる。
「っ!?」
さすがに驚いた。カードを使って化物が出てくるなんてわからないからだ。
ふと、冊子の事を思い出した。
(そういえば、魔法少女は一人に一体の魔獣がついているって書いていたっけ……)
考えている内に、影から現れた手の本体が現れる。
体つきが大きい男の身体。牛の顔を被った頭部。左手に持った巨大な斧。
体格は自分の身体の十倍くらいはある。
そんな姿の化物を見て、ふと頭に一つの名前が浮かぶ。
「『ミノタウロス』……これが私の魔獣……』
そして、魔獣『ミノタウロス』は、目の前の少女を見ると、少しずつ近づく。
「いや……お願い……来ないで……」
全く身体が動けないらしく、唯一出来る抵抗の手段が命乞いだけだった。
そして、ミノタウロスは斧を持っていない右手で、落ちているリンゴを拾うように、少女を上から握り、そのまま口の方へと近づけていく。
「いやああああああ!!」
その少女は声を最後まで振り絞りながら叫んだ。これが本当に最後の抵抗だった。
そして、そのままミノタウロスの巨大な口の中へと閉じ込められ、そのまま虚しく、呑み込まれた……。
するとミノタウロスは、役目を終えたかのように、出てきた闇へと消えていった。
私はそれまでの出来事を、ただ唖然と見る事しか出来なかった……。
でも、あの化物が居なくなり、しばらく時間が経つと、自分の現状の幾つかを悟った。
(そうか……敗者の運命は勝者が決める。この魔法少女プロジェクトの戦いは、そういうものなんだ……)
右手に握られた黒い剣を眺める。
(多分、喰われた奴は生きている。冊子には命の保障はするとも書いていた……。でも、喰われる所を見たら……確かに、奴隷の方がマシね……)
戦闘が終わり、ふと安堵すると着ていた魔装が自然と消え、さっきまで着ていた制服の姿へと変わった。
(『屈辱』か『恐怖』……それを選ぶのは勝者って事ね……)
そして、そのまま自分の家へと帰る為に歩き出す。
(これが……魔法少女の戦いか……)
この時の私は、人生で一番生き甲斐を感じたのかもしれない……。
ただ、一つ確かなのは、私はこの時、高校生活の中で一番の笑みを浮かべていたことだった……。
次の話は、もう一人の主人公、亜紀の話......。をする予定です。