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邪竜と軟弱者  作者: なが
第1部
5/35

3-1




次の日もグラファイトの元を訪れた。

グラファイトは今日もふてぶてしく地面に伏せていた。


「もう来るな。面倒だ。」


「僕とグラファイトはパートナーなんだ。だから、――――」


「だから何だ。勝手に下等生物が決めた契約など、我は受け入れぬぞ。」


「……」


僕は何も言い返せなかった。


「どうでも良いが。軟弱者の怯える顔を見られればな。」


その時、僕の目の前に尻尾が迫ってくる。

僕は逃げようにも、足を動かした時にはすでに尻尾にぶつかっていたのだ。

僕はそのまま俯せに倒れ込んで、その上にずしりと重たい尻尾が乗っかった。

ただ、尻尾は岩のように硬いわけではなく、ぶにっと柔らかい感触がする。

柔らかいとはいえ、人の体重をはるかに超えた重さに押し潰されて、体中がずきずきと痛んだ。


「もっと、優しくして……」


「駄目だ。もっと痛めつけてやる。お前はなかなか良い顔をするからな。」


グラファイトはさらに尻尾をうねらせて、僕の体を固い地面にぐりぐりと押し込んでくる。


「た、助けて……」


痛みに負けないようにか細く叫んだ。

グラファイトは最後にとどめとして、ぐりぐりと押しつけてから、ようやく解放した。

僕は体を回転させて仰向けになり、肩で息をしながらグラファイトの顔を眺めた。

グラファイトも僕の顔をじっと睨みつけていた。

言葉を何も発さず、というより僕は話す余裕が無かっただけなのだが、妙な時間が流れた。







「何故、毎日此処に来るのだ。いい加減、本当のことを言え。」


グラファイトが沈黙を破った。僕は痛みを耐えつつ、一瞬慌てた。


「どうして、そんな事を――」


「質問に答えろ。何が目的だ。」


怒っているわけではないのだけは分かった。

が、グラファイトの表情を細かく読みとるのは、人間である僕にとっては至難の業だ。

それに、ドラゴンの感情は人間より複雑なのかもしれない。

何度か接してきて、そう思えた。


「その、上手くは言えないけど、……とにかくグラファイトに興味があるんだ。」


僕が顔を上げると、グラファイトは眼を見開いていた。


「こんな邪竜にか。何だ、もっとましな嘘は吐けぬのか。」


「嘘じゃない。」


何となく、これ以上嘘じゃないと言い張っても、分かってくれないと思う。

僕は押し黙った。

グラファイトも押し黙った。








「何故強く主張しないのだ。」


長い沈黙を破ったのは、グラファイトの方だった。


「嘘じゃないって言い張っても、疑うだけだと思ったから。」


グラファイトはただじっと見つめ続けていた。

何を考えているのだろう、僕のことをどう見ているのだろう、僕が“興味がある”のは、そういう点だと思った。


「……嘘ではないようだな。」


ほっと胸を撫で下ろした。分かってくれて良かった、と心の底から思った。


「良かった、分かってくれて。」


僕はグラファイトの顔に近づいて、そして眼の下あたりを撫でた。

するとその刹那グラファイトは身震いをして、すぐに僕を顔で打って突き飛ばす。

僕はそのまま尻餅をついてしまった。

あまりに突然で一瞬の出来事に、痛みは後からやって来た。


「我は!」


その声の大きさに、僕は思わず耳を押さえて歯をくいしばる。

頭を打ち付けたような衝撃ががんがんと残った。

グラファイトは少し間を空け、声量を落として続けた。


「……我は、理解はしたが、断固として認めぬ。下等生物などと共にするのならば、我は死を選んでも良い。」


「人間のこと、何か恨んでるの?」


グラファイトは僅かながらも、確かに狼狽えて顔を歪ませたのを捉えた。


「貴様に話すことはない。帰れ。」


グラファイトはギリリ、と歯ぎしりをした。

僕が口を開いて「嫌だ」言おうとした、その時、


「帰れ!」


更に追い打ちをかけるように、グラファイトは尻尾を地面に叩きつけた。

今までの苛立ちとは明らかに違った。

これ以上は何も話せないだろうと直感した。

とうとう僕は諦めて、一旦グラファイトの元を離れた。

帰る時も建物内に、グラファイトの荒々しい鼻息がずっと反響していた。






「失礼します。」


その足で、長官室に訪れた。

長官は軍の司令官、軍全体を取り仕切る最高責任者である。

長官は奥にある回転椅子にどっかりと座り、紙に何かを書いていた。


「お前は確か……。」


「SD-9のパートナーです。」


「そうだったな、お気の毒に。ところで何か用か。私も暇ではないので。」


「SD-9のことです。」


「どうした、奴に脅されたのか。辞めるのならアルバート教官に直接――」


「違うんです。SD-9は、どうしてあの檻に入れられてるのですか。」


思わず長官の言葉を遮って言った。

しばらく沈黙のあった後に、長官はハハッと馬鹿にするように笑った。


「考えてみたまえ、あんな邪竜が飛び出したら、この国は――」


「そういう事じゃないんです。あの檻に入れられたきっかけを知りたいんです。」


長官は回転椅子に座ったまま一回転した。そして、立ち上がった。


「変わり者とよく言われるか?」


「……話を逸らさないでください。」


全くもって、期待した答えではなかった。

長官は明らかに話をはぐらかしているのが分かった。


「おっと、用事を思い出した。帰ってくれないか。」


そういいながら、長官は扉の方へ歩いていく。


「待ってくだ……」


これで詰め寄ったとしても、帰れと言い続けるだけだろう。

長官は扉を開けた。

言葉を途中で止め、「失礼しました」と言って、部屋をあとにした。

それ以上に何もできなかった。


何を隠しているのだろう、隠すような理由を想像するも、これといって何も考えられなかった。




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