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ジジィの思い

さっきまで小さな椅子に窮屈そうに座り幽霊のようだったウィリアムとは思えないほど彼の目は生き生きとしていた


「ちょっと!なんであたしなの!?次の奴にしなさいよ!説教なら次来る奴にしてちょうだい!あたしは『卑怯者の嘘つきの弱虫ハロルド』で結構ですから!」

枕に顔をうずめハロルドは悲痛な声を上げる


「おいおい!ワシは『嘘つき』と『弱虫』は言ったが『卑怯者』と言った覚えはないぞ!」



「……」



「訂正しなさい」



「…そこ…大事?」


変なところにこだわるウィリアムに言葉を失うハロルド


その後ハロルドが何度も彼を説得するも


「嫌だ!お前に決めたんだ!」

まるで譲らない


「もしあたしが殺しを止めても、ど~せまた他の人があたしと同じ事を繰り返すだけ!だから止める意味なんてなぁ~いの!」

何とか分かってもらおうとハロルドは身振り手振りを交えて全身で訴えるが…


「…分かっておる…分かっておる…だがワシはなりたいのだよ、お前の【キッカケ】に…お前の人生の【お前が変わるキッカケ】にワシはなりたいんだ」


「!!イヤだ!あんた!あたの守護天使にでもなるつもり!?」

ハロルドは驚きの余りベットからずり落ちる


「今すぐでなくて良いのだよ!いずれお前さんも年を取る…その時に人の命を奪ってきた事を少しでも後悔しておったら…このジジィを思い出し考え変わって欲しいのだ。そして変わる事に躊躇しているお前の肩を押す【キッカケ】にワシはなりたいのだよ」

眉間に深いシワを寄せウィリアムは少し上目遣いでハロルドを見る


「そんな事してあんたに何の得があるって~の!?ってか!その上目遣いやめて!」



少し笑ったウィリアムはゆっくりと目を閉じ何かを思い出すように話しはじめる


「…ワシは…ひとりになってこの広い屋敷でずっーと後悔し苦しんだ…変わるチャンスを逃したんだと…ところがそこにお前が現れた!!これは神がくれた最後のチャンス!このチャンスを逃したらワシは死んでも死にきれない!」


心の奥底に溜まって干からび色あせていた思いは堰を切ったように次々と溢れ出す


「本当は…出来ることなら昔の自分に言いたい『馬鹿な事はよせ』と。そして変わるキッカケを見つけ肩を押してやりたいのだ…昔の自分の肩を押してくれる人がいたら…少しは幸せになっていただろうかと最近しみじみ思うのだ…ハロルドさんよ」

ウィリアムはやせ細り枝のような指で目頭を押さえる



「笑わせないでよ!?昔のあんたの肩を押す?そんな末恐ろしい事誰も出来ないわよ。若き日の強欲のウィリアムは変わらない…変わる気もなかったくせに!皆に恐れられた男は自分が世界の中心だと思っていた哀れな奴よ」

ハロルドは相変わらずズバズバ辛口で切りまくる


大きな体を小さく折りたたみウィリアムはうなだれ

「…その通り…昔のワシはアホたれの馬鹿たれのくそったれだ」


「…いや…あたしそこまで言って無いし…」

ハロルド苦笑い


「…だから…だからせめて誰か一人でも…その人の為に何かをしてやれたら…そしたら…」


「そしたら?」



ウィリアムは大きな瞳を潤ませながら

「そしたら…死んだ妻や息子それに追い出した使用人達も…許してくれるのでは…そう思えて仕方ないのだよ…」


完全に懺悔状態


「やめて!懺悔なら教会でやって!許す!許す!あたしが許す!今までの事全部許すから!明日から楽しく生きて行きなさい!?ね?」

そう言うとハロルドは適当に金目の物を2、3個持って終わらそうとベットから起き上がる



「カランッ」



「なに?」

ハロルドが振り返ると床にグラスが落ちていた

ウィリアムの手から滑り落ちたグラスだ


「ちょっとやだ!じぃさん!しっかりして!」

慌ててウィリアムに駆け寄る



「寝るならベットで寝なさいよ!!」


ジジィ酒に飲まれ寝る


「ちょっと!ちょ…!」

ウィリアムの体を揺するハロルドの手に彼のくぼんだ瞳から溢れ出した涙が落ちる


「ナニ?ちょっと泣いてるの!?」

突然の事に動揺するハロルド


ゆっくりと目を開けたウィリアムは


「…何十年も…命を…狙われ続け…剣を握りしめ…このくたびれた椅子で…座ったまま寝るのが当たり前になった…何十年もだ…」

時折落ちかけながらも話し続ける


「…枕に頭を預け…天井を仰ぎ…真っ白な…シーツ…手足を…伸ばし…ゆっくりと息をし…眠りにつく…ワシの…長年の………夢…」



「寝るのが夢って!?それならほらあたしが見張っててあげるから!今その夢叶えなさいよ!」

ハロルドは何とかウィリアムを持ち上げようとしたが痩せた老人とは言え大男、小さな彼には抱える事さえ出来ずにいた


「…ははっ!…その…ベットに…ワシがベットに…寝るときは…ワシが……死ぬ時だよ……」

ウィリアムは涙で濡れた瞳をゆっくりと閉じた



「ちょっと!気持ち悪いこと言わないで!あたしさっきまでそのベットに居たのよ!?ちょっと!起きなさいよ!じぃさん!」


「……」

ウィリアム【眠】


「…勘弁してよぉ~…あたしは帰るからね!あんたの世話してるほど暇じゃないから!じゃぁお元気で!」


そう言うとハロルドはテーブルの上に置いてあった貴重品をまとめ時々ウィリアムに目をやりながら部屋を出る


閉める扉の隙間からウィリアムに向かって

「あたしを恨まないでね、言っておくけど自業自得なんだからね」

そう言って静かに閉めた


屋敷の外に出ると

「さむっ!」

ハロルドは寒さに身を縮めた


ウィリアムが包んだ貴重品は重く、お金に変えるとかなりな額になりそうな物ばかりだ


「まったく!嫌になるわ!」


ハロルドは何度も何度もそう言って背中を丸め早足で歩いた


少しでも早く屋敷から遠ざかるように


「まったく!嫌になるわ!まったく!」




ウィリアムは長い手足を投げ出し小さな椅子で大きな体を窮屈そうに押し込み眠る


何年もそうしてきた


だけど今夜は少し違った


窮屈さは変わらないが体には手触りの良い毛布が掛けられ部屋の暖炉には火が入り程よい温度に保たれていた


そして



部屋の隅の長椅子に


小さく縮こまって眠るハロルドが居た


時々小動物のように震えながら


小さく小さく縮こまって眠っていた


若き日の小さく可愛らしいハロルド


その寝姿は



【萌!】

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