やり場のない怒り
屋敷のろうそくがすべて灯り、時折すきま風に小さく揺れていた。
ランドール家の嵐は…………
「こな人でなし!何て強欲な!!恥知らず!」
一層激しさを増していた。
「くっ…!」
《くるくる頭》と言いかけたが、何とか奥の歯で食い止めた。
彼はただの使いの者、そうわかっているはずなのに今のエマには怒りの矛先を彼に向けずにはいられなかった。
そうでもしないと消えない感情が芽生えはじめていた、はじめて感じる父親への不安と失望が。
「せめてあと一年…いや!半年!半年で構かまわないのです!期限を伸ばして頂けるよう伯爵へお願いして頂けないでしょうか!?」
一年でも無理なのに、半年なんて…それでもわずかな望みをかけエマは願った。
その時「私からもお願い申し上げます」
隣に居たヴィッセルがヘンリーへと深々と頭を下た。
エマは心が張り裂けるかと思った
「ヴィッセル様!お顔をお上げ下さい!ヴィッセル様は関係ございません!お願いです、お顔をお上げください!」
必死にヴィッセルの腕にしがみつき何度もお願いした。
そんな二人のやり取りを静かに傍観していたヘンリーだったが
「了解いたしました、旦那様にあと半年待っていただけるかお伝え申し上げておきましょう」
と、なんともあっさり承諾し、すっかり冷えてしまった紅茶を飲み干した。
その時、居間の扉が開きコックのハリーが恐る恐る顔を覗かせた
「お食事が冷めてしまいますが…」
気が付けば、すっかり夕飯時を過ぎていた。