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幸せの後

日が傾き薄暗くなりはじめた森の小屋の中で、夕食を食べ終え出掛ける支度をしているハロルドをイアンはぼんやりと眺めていた


伝説のおっさん『根無しのハロルド』

…その伝説のおっさんが長年連れ添った夫婦のように…イヤそれ以上に生活の一部になっていた、正しくは『なってしまった』

それにこんなに長く他人と過ごす事など今まで無かった


いや…長く感じているだけだ。ハロルドのおっさんと出会って…まだ半年にも満たない


おっさん…時の流れも変えられるのか?


イアンの頭の中のおしゃべりは続く


もし…もしこのまま何事もなかったら…ラルフに何も起きなかったら


このまま…


おっさんとラルフと…


このまま…



「どーしたの?人の顔ジロジロ見て?大丈夫?」


ハロルドの言葉に我に返るイアン

声に出してはいないが、自分の考えていた事が聞こえてしまったのでは!?と思い耳を赤くしながら

「別に…あんたを見ていた訳ではない!考え事をしていただけだ」

そう言って顔を伏せた


「ふ~ん…てっきりあたしに見とれてるのかと思っちゃった」


「おっさんに見とれるか!さっさと出掛けろ」


照れながらもいつものふてぶてしいイアンの言葉にハロルドは笑う


「ほんと生意気な子ね~誰に似たのかしら?」


あんたでは無い



顔を伏せ平常心を取り戻すため他の事を考えようとするも…どうしても『今』を意識してしまう


『幸せの後にはその倍、辛いことがある』

そう思っている彼には

『幸せとは言い難いが微妙な心地よい今』

その今の後に待っている、起きるかどうかわからない、想像しなくてもよい

『不幸』

を想像せずにはいられなかった


いつかは以前のような暮らしに戻る日がくる

その時俺は…


『元の自分に戻れるだろうか?…戻ってしまうのだろうか…』



【イアンはお金が欲しくて俺を殺そうとしたの?】


突然ラルフの言葉が後頭部から目に突き抜けるようによみがえる


同じ質問をハロルドにした時に誤魔化された事をずるいと思ったが…自分も同じように誤魔化した


ハロルドのおっさんの事をずるいと言えない


【何のために人の命を奪うのか】

イアンは再度ハロルドへ問いかけてみた。自分自身に問いかけるように…


「!?まだそんな事言っているの!?あんたもぉ暇ねぇ~…そんな事知ってどうするの?やぁ~ね~」


相変わらずまともに取り合ってくれないハロルドへイアンは詰め寄り正直に心の内を話した


自分もラルフから同じ質問をされた事、そしてその事に答えられなかった事

イヤ…答えられなかったのではない、お金の為とか有名になりたいからとか…そんな事ではなく

ただそれが日常だったから…『生きていくための(すべ)』だったから


「おっさんは…ハロルドのおっさんは…」


聞こえない振りをしていたハロルドだったが背中にイアンの熱い呪われそうな視線を感じ、渋々答えた


「…お金のためよ」


予想通りと言うか…予想通り過ぎて残念と言うか…


少しは違う言葉を期待していたイアンだったが、それでも正直に答えてくれた事が嬉しく


「ハロルドのおっさん…」


「今度は何よ…」



「…イヤらしい奴だな」

そう言ってイアンは首を振って笑った


「!!何よ!人が正直に話したってのにぃ!!きぃーー!」

怒ったハロルドは手当たり次第近くにある物をイアンへ投げつけた


イアンは笑いながら飛んでくる物をことごとく避けてみせ、こう言った


「そんなに怒るな、笑え!」

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