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歯車

「それで結婚式はいつなの?」

森で見つけた食材を『味見』と言ってはつまみ食いをし調理するハロルド


「…4日後…だったかな…?」

薪を並べていたイアンは額に手を当て考える


「よっ!4日後!?もうすぐじゃない!?なんでそんな大事なこと先に言わないのよ!!」

驚くハロルドの口から食べ物が飛び散る


「口を閉じろ!食べながらしゃべるな!…別に俺達には関係無いことだ、言う必要もないだろ?」


両手で口を覆いながら

「まあ!関係無い訳ないでしょ!坊ちゃんの新しいお母さんなのよ!…!!そうだ!」


突然思い出したようにハロルドは小屋の隅からゴソゴソと何かを持ってきた


「…なんだそれは?」


ハロルドが持ってきた物、それはフォークの先を曲げたような堅い鋭いツメ

そのツメの根元には長いロープが結んであり作品としての完成度は置いといて…誰が見てもハロルドのお手製だとわかるほどオリジナリティに溢れていた


実際彼にとっても自慢の一品らしく「見てて!」と叫ぶと高くツメを放り投げた

ハロルドの手から放たれたツメはロープを引き連れ大きく弧を描き天井のはりにクルッと巻きつく


「どう!?こうやって使うの!」

ドヤ顔のハロルド様


しばし沈黙…


「…いや…そうじゃなく…使い方を聞いているのではない…それをどうしろと…」

嫌な予感からか表情が曇るイアン


「もちろん登るときに使うの!」


「…登るって…どこへ…」


「坊ちゃんの部屋に登るときに使うのよ!もし屋敷内で何かあったら中に入る手段が無いと困るでしょ!?坊ちゃんのお手製ロープは常に出てる訳じゃ無いし!」

人差し指を突き立てイアンに向け熱弁するハロルド


「ハロルドのおっさん…あんた今更……っと言うより…最近その事に気がついた…のか?」

イアン頭がクラクラしてきた


「ぶっーー!なっ!何いってぇるのぉ!!あたしは前々から…」

口を覆った左手の隙間から食べカスを吹き出しながらも必死に否定するハロルドのすぐ側に…


【ドカッッ!!】


自慢の一品が…


落ちてきた


「ひっ!」

飛び跳ねイアンの後ろに隠れるハロルド


自慢の一品…改めて近くで見てみると…【慌てて作りました】感がだだ漏れ


「……助けに行く前に…俺を殺す気か…」


己の生命の危機を感じたイアンはロープをほどき黙々とツメの手直しを始める


「…あたし料理と縫い物は得意なんだけど…そのへんはちょっと…」

イアンの後ろに隠れながら甘えた声を出す気持ちの悪いちっちゃいおっさんハロルドに


「…何か叩くもの…」

手を出すイアン


「はい!!」

小走りに外に出ると小さなハンマーのような物を手に戻ってきたハロルドは片膝をついてイアンへ手渡す


「どうぞイアン様」


ハンマーでツメを叩き時折角度を変え曲がりを微調整する


そうして出来上がったツメは根元に編み結んだロープまでも装飾のように美しい出来映えだった


「まぁ!なんて素敵なの!イアンあなた天才よ!」

ハロルドは180度姿を変えたツメの姿にご機嫌

「これならお屋敷の屋根まで登れる事間違えナス!」


そんなハロルドとは対照的に冷めたイアンはここぞとばかりにこう言った


「…ハロルドのおっさん…今日の当番はおっさんの番だよな…」



「!!うっ!!」

一瞬で笑顔が吹き飛ぶハロルド


はっきり言って行きたくない、面倒くさい…しかしツメを直してもらった、薪もいっぱい運んでもらった…でも行きたくない…でも「行かない」って言ったらきっとこのツメは存在すら無かった事になるかもしれない…それはちょっと困る…


悩みに悩んで出た言葉が


「はい!よろこんで!!」


表情には出ないが心の中ではガッツポーズを取ったイアンだった


結婚式まであと4日


そのカウントダウンと共に


今まで緩やかだった歯車が一気に回り始める


全ての物を巻き込みながら…


始めはゆっくりと


音もなく


回り始める



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