引き分け
ラルフが部屋に入るのを見届け視線を移すイアンの目に灯りが飛び込む
急いで木の陰に身を隠し辺りを伺うと、遠くに小さな灯りがチラついているのが見える
「?…人か?」
時折消えそうになりながらも灯りはこっちへと向かっていた
「見張り?嫌…見張りならもっと大きなタイマツを持っているはずだ、
あれは…ロウソク?ロウソクの灯りだ…」
暗闇から現れたその灯りの正体は意外な人物だった
白い部屋着のドレスを隠すよう暗い色のブランケットを頭から被り、波打つ長い髪は片方に今にもほどけそうなほどやんわりまとめられ、透き通る白い肌はロウソクの灯りでも眩しいほどだった
「…女…?こんな真夜中に女が一人で何を…」
イアンは息を殺し耳を澄ます
凍えそうな息づかいと地面を引きずるドレスの裾の音、その音がほんの数メートル先で止まった
剣柄を握りしめ呼吸を整えるイアン
ソッと覗くと女は顔が確認出来るほど近くにいた
か細いロウソクの炎に浮かび上がる横顔は均等のとれた美しさ、濃いブラウン色であろう瞳はロウソクの灯りで上品な蜂蜜のよう輝き艶めいていた
キリッとした顔立ちにソバカスが甘味を添えている
しばし見とれていたイアンだったが…
『ソバカス…!!…もしかして…これが!これがヴィクトリア!?』
目の前に突如現れたヴィクトリアはイアンの想像よりも若く美しくそして、自分より少し身長が高かった
『…女のクセに…』
ちょっと悔しいイアン
動きを止めたヴィクトリアは一点を見つめる
その視線の先には
『…!ラルフ!?』
彼女の視線の先にはラルフの部屋が
『何を考えている!?やっぱりラルフの命を狙っているのか?』
表情を変えず瞬き一つせずラルフの部屋を見つめるヴィクトリアだったか突然辺りを見回す
「…!」
『バレたか!?』
息を止め少し剣を抜き間合いを取るイアン
その時、庭の方から明るい灯りが
『今度はホントに見張りのようだな…』
森の少し奥へと身を隠すイアン
ヴィクトリアはロウソクの炎を吹き消し元来た道を足早に戻って行く、ただ慌てていた為か、髪を結んでいたリボンが落ちた事にも気づかずに…
「あいつ気がついていないのか!?」
小さくなるヴィクトリアの後ろ姿を見つめ、もしかするとラルフの命を狙った奴かもしれない…そのまま放置すれば…しかし、その現場を見た訳では…
そう頭の中では考えながらもイアンの体はヴィクトリアが落としたリボンへと向かっていた
驚くほど軽い動きは物音一つさせずそれを拾い上げ壁のわずかなくぼみに身を潜める
「ん?今何か動いたか?」
少し小太りな見張りがタイマツを暗闇へ向ける
「イヤ?何も?」
もう1人の見張りが目を凝らし辺りを見回す
「…そうか…最近目が悪くなってきたからなぁ…」
小太りの見張りは目をゴシゴシとこすった
「歳だろ!?」
もう1人がからかうように言うと
「何を!くっ…とっ…」
小太りの男が何か言い返そうとしたその時
「ガサガサ!」
茂みの方で何かが動いた
「だ!誰だ!!」
見張りの2人は腰を引き気味に茂みへと近づいていく
「で!出てぇこいぃ!」
完全に声がビビっている…
勇気を振り絞り見張りの2人は森の中へと入って行く、そんな彼らとは入れ違いに茂みから小さな者が現れた
【兎】だ
イアンは兎と目があった
じっーーと見つめる兎…
「な…何なんだ?」
兎の視線の先には毛皮のマントが…
兎は喋らないが
たぶんこう言っていたのだろう
【ひどい!兎殺し!!】
そのまま兎は小さく飛び跳ねながらもとの茂みへと戻っていった
ホッと息をついたイアンは
「…今日はひとまず引き上げるか…」
リボンをズボンのポケットへねじ込むと見張りとは反対側の森の中へと消えて行った
ただ…
ぶつぶつ【兎】に文句を言いながら
「あいつが騒がなければ見張りはあの場所には行かなかったはずだ!!」
『あの場所』
そう、そこはもともとイアンが隠れていた場所
そうなると、イアンはリボンのお陰で助かった事になる
「…ちくしょう…」
助けたつもりが助けられていた
『リボンに助けられた=ヴィクトリアに助けられた』
その事を否定したいイアンは
「…違う!俺がリボンを拾わなかったらあいつだって!…これは引き分けだ!」
そう自分に言い聞かすのでした
この勝負……ドロー!




